婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第28話 責任を持った人から、顔つきが変わる

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第28話 責任を持った人から、顔つきが変わる

 

 署名制度が始まって、一週間。

 王宮は――
 驚くほど、静かだった。

 混乱もない。
 怒号もない。
 誰かが責任を押しつけ合う声も、聞こえない。

「……これ、
 成功してるって言っていいよね」

 私は、朝の報告書をめくりながら呟いた。

 判断基準。
 対応内容。
 署名。

 どれも、淡々としている。
 淡々としているのに――
 以前より、動きが早い。

 午前中。
 医務局の副長が、定例報告に来た。

「聖女様」

「どう?」

「……正直に言います」

 彼は、少しだけ迷ってから続けた。

「現場の空気が、
 変わりました」

「いい意味で?」

「はい」

 即答だった。

「今までは、
 “間違えたらどうしよう”
 という不安がありました」

「今は?」

「“自分が決める”という前提がある」

 私は、静かに頷いた。

「責任が、
 外に逃げなくなったんだ」

「はい」

 副長は、少しだけ笑った。

「……不思議ですね。
 怖いはずなのに、
 動きやすい」

「分かる」

 私は、即答する。

「曖昧な怖さより、
 はっきりした怖さの方が、
 人は対処できる」

 午後。
 廊下で、以前は目を逸らしていた文官とすれ違った。

 彼は、軽く会釈をしてきた。

 その表情が――
 前と違う。

 怯えでも、
 媚びでもない。

 覚悟の顔。

「……あの人、
 前はもっと、
 影が薄かったよね」

 隣を歩く侍女が、
 小声で言う。

「今は?」

「……ちゃんと、
 そこにいる感じ」

 私は、少しだけ笑った。

 夕方。
 王太子ステルヴィオが、
 例の場所に現れた。

「……最近、
 父上の機嫌がいい」

「へえ」

「不機嫌じゃない、
 という意味で」

「それ、
 王宮的には大事件だよ」

 彼は、苦笑した。

「署名制度の報告を、
 全部読んでいるらしい」

「読める量になったからね」

「前は?」

「曖昧すぎて、
 読む意味がなかった」

 王太子は、
 しばらく考えてから言った。

「……父上が言っていた」

「“誰が決めたか分かると、
 怒るより先に、
 理由を聞きたくなる”と」

「いい傾向」

 私は、頷いた。

「怒鳴るより、
 聞く方が楽だって
 気づいたんだよ」

 王太子は、
 少しだけ遠くを見る。

「……王権って、
 もっと威圧的なものだと
 思っていた」

「それも一面」

 私は、淡々と答える。

「でも、
 責任が見えると、
 威圧はいらなくなる」

「信頼で回る部分が、
 増えるから」

 夜。
 私は、自室で今日の報告書を閉じた。

 数字は安定。
 現場は落ち着き。
 混乱なし。

 そして何より――
 顔つきが違う。

 責任を持たされた人は、
 潰れるか、
 育つか。

 今のところ、
 育っている。

「さて」

 私は、背伸びをする。

「これで、
 “戻したい派”は
 本当に居場所がなくなったかな」

 曖昧な力に守られていた人は、
 もう隠れられない。

 でも――
 責任を引き受けた人は、
 ちゃんと立っている。

 それが分かっただけで、
 この改革は
 十分すぎる成果だ。

 安定したサブスク生活は、
 気づけば――
 国そのものの、
 安定装置になり始めていた。
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