婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第30話 切られなかった人が、初めて味方になる

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第30話 切られなかった人が、初めて味方になる

 

 数字が出てしまったあと、
 王宮の空気は一段階、落ち着いた。

 責任を持てなかった人は、
 逃げるか、立て直すかを迫られ。
 そして――
 意外なことに、切られた人はいなかった。

「……これは、
 想定外だったな」

 宰相が、報告書を閉じながらぽつりと言った。

「もっと、
 首が飛ぶと思っていました」

「うん」

 私は、あっさり頷く。

「私も」

 でも現実は違った。

 判断が遅れた責任者は、
 配置換え。
 補佐をつける。
 判断権限を段階的に分ける。

 ――全部、“調整”。

「……国王陛下が、
 はっきりおっしゃいました」

 宰相は、静かに続ける。

「“制度が機能しているなら、
 人を切る必要はない”と」

 私は、少しだけ目を細めた。

「それ、
 だいぶ変わったね」

「はい」

 宰相は、苦笑する。

「以前なら、
 誰かを生贄にして
 終わらせていた」

「でも今は?」

「原因が、
 制度でも聖女でもなく、
 “判断の場所”だと
 分かっている」

 私は、ゆっくり息を吐いた。

 ――ここまで来たか。

 午後。
 例の“数字が悪かった部局”の元責任者が、
 私のもとを訪ねてきた。

 今は、補佐の立場。

「……聖女殿」

「どう?」

「正直に言います」

 彼は、少し照れたように言った。

「……楽です」

「でしょ」

 私は、即答する。

「責任を
 一人で抱えなくていい」

「はい」

 彼は、深く頷いた。

「そして……
 恥ずかしい話ですが」

「うん」

「あなたが、
 私を切らなかった理由が、
 ようやく分かりました」

「理由?」

「逃げなかったから、
 ですよね」

 私は、肩をすくめた。

「逃げなかった人は、
 まだ使える」

「……それを、
 “使い捨てない”と
 知ったとき」

 彼は、まっすぐ私を見た。

「初めて、
 味方になれると思いました」

 その言葉は、
 少し重かった。

 夜。
 王太子ステルヴィオが、
 いつもの場所に現れた。

「……父上が言っていた」

「何て?」

「“反対していた連中より、
 失敗した連中の方が、
 信用できる”と」

 私は、少しだけ笑った。

「失敗は、
 数字になる」

「でも、
 反対は感情だけだ」

「そう」

 私は、静かに答える。

「感情は、
 都合で変わる」

「数字は、
 嘘をつかない」

 王太子は、しばらく黙ってから言った。

「……君、
 国を変えた自覚は?」

「ない」

 即答だった。

「生活を守っただけ」

「結果として?」

「国が、
 守りやすくなっただけ」

 王太子は、
 小さく息を吐いた。

「……一番厄介だな」

「褒め言葉?」

「もちろん」

 窓の外。
 王宮の灯りは、
 以前よりも落ち着いて見えた。

 怒鳴る人はいない。
 怯える人もいない。

 代わりに――
 残った人が、前を向いている。

「さて」

 私は、軽く背伸びをする。

「これで、
 反対派は“完全に孤立”かな」

 声を上げても切られない。
 失敗しても捨てられない。

 その現実を知ったとき、
 人は初めて――
 立場ではなく、
 中身で味方になる。

 安定したサブスク生活は、
 いつの間にか――
 “恐怖で縛らない国”を
 作る基盤になっていた。

 ここまで来たなら、
 もう崩れない。

 次に崩れるとしたら――
 古い価値観の方だ。
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