婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

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第33話 当たり前になると、人は油断する

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第33話 当たり前になると、人は油断する

 

 安定というものは、
 人を安心させる。

 そして同時に――
 油断させる。

 最近の王宮は、
 本当に穏やかだった。

 怒号は消え、
 責任の押しつけ合いもなく、
 会議は予定通り終わる。

「……平和すぎない?」

 私は、自室で書類を整理しながら呟いた。

 問題は起きていない。
 数字も安定。
 現場も落ち着いている。

 だからこそ、
 少しだけ嫌な予感がした。

 午前中。
 文官部門から届いた報告書に、
 私はふと手を止めた。

「……ん?」

 内容は、特に問題ない。
 判断基準通り。
 処理も迅速。

 ただ――
 確認欄が、少し雑。

 署名はある。
 形式も整っている。

 でも、
 “なぜそう判断したか”の記述が、薄い。

「……慣れてきたな」

 それ自体は、悪いことじゃない。

 でも、
 慣れは、
 思考を省略させる。

 昼過ぎ。
 医務局の副長を呼んだ。

「最近、
 判断、早くなったね」

「はい」

 彼は、少し誇らしげに頷いた。

「現場も、
 基準に慣れてきました」

「いいことだよ」

 私は、即座に肯定する。

「ただね」

 一拍置く。

「理由を書くの、
 少し雑になってない?」

 副長の表情が、
 一瞬だけ固まった。

「……そう、
 見えましたか」

「見える」

 私は、穏やかに続ける。

「間違ってない。
 でも、
 考えた痕跡が薄い」

「それは……
 慣れで」

「うん」

 私は、頷いた。

「慣れは、
 味方にも敵にもなる」

 副長は、
 静かに頭を下げた。

「改善します」

「叱ってるわけじゃないよ」

 私は、すぐに付け加える。

「当たり前になると、
 油断する」

「それを、
 今のうちに
 確認してるだけ」

 夕方。
 王太子ステルヴィオが、
 いつもの場所に現れた。

「……最近、
 君の顔が
 少し険しい」

「平和だからね」

「それが理由?」

「うん」

 私は、即答する。

「安定すると、
 確認が減る」

「確認が減ると?」

「崩れる」

 王太子は、
 しばらく考えてから言った。

「……父上も、
 似たようなことを
 言っていた」

「何て?」

「“うまく回り始めた制度は、
 一番危ない”と」

「正解」

 私は、頷く。

「失敗してるときは、
 全員が真剣」

「成功してるときは、
 油断する」

 王太子は、
 苦笑した。

「じゃあ、
 どうする?」

「簡単」

 私は、指を鳴らす。

「確認を、
 仕組みにする」

「人に任せない」

「当たり前を、
 疑う役割を作る」

「……君?」

「やらない」

 即答だった。

「私がやると、
 特別になる」

「特別は、
 長く続かない」

 王太子は、
 目を丸くする。

「……なるほど」

「仕組みが回ってる今しか、
 できないことだよ」

 夜。
 私は、今日の記録をまとめる。

 成功は、
 次の失敗の種を
 必ず含んでいる。

 だから――
 成功しているうちに、
 疑う仕組みを入れる。

 それができるかどうかで、
 本当の安定が決まる。

「さて」

 私は、ペンを置いた。

「次は、
 “当たり前を疑う役”を
 どう組み込むか」

 安定したサブスク生活は、
 もう完成形じゃない。

 完成したと思った瞬間に、
 崩れ始める。

 この国が、
 その罠に落ちないかどうか。

 それは――
 今、油断に気づけるかに
 かかっていた。
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