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第34話 疑う役目は、偉い人に向かない
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第34話 疑う役目は、偉い人に向かない
制度がうまく回っているとき、
誰が一番「疑う役」に向いていないか。
答えは簡単だ。
――偉い人。
肩書きがある人。
決裁権がある人。
責任を負ってきた人。
そういう人ほど、
「今まで正しかった」という前提を
手放しにくい。
だから私は、
別の場所を探した。
午前中。
文官部門の若手を数名、
小さな会議室に集めた。
議題はひとつ。
「最近の判断、
本当に“楽になった”?」
全員が、少し戸惑う。
「楽、ですけど……」
「不満は?」
「いえ、
不満というより……」
一人が、言葉を探しながら続けた。
「間違えにくくなった分、
考えなくなった気がします」
それだ。
「それ、
悪いと思う?」
私は、問い返す。
「……分かりません」
「正直でいい」
私は、頷いた。
「だから、
それを確かめる役が必要」
彼らは、
互いの顔を見る。
「偉い人がやると、
“決定”になる」
「でも君たちがやるなら、
“確認”で済む」
静かな沈黙。
「やることは簡単」
私は、紙を一枚置いた。
「判断基準通りに処理された案件を、
わざと疑う」
「間違い探しじゃない」
「“なぜこの判断でよかったか”を
もう一度書く」
一人が、
恐る恐る聞いた。
「……それ、
嫌われませんか」
「嫌われる」
私は、即答した。
「でもね」
一拍置く。
「嫌われない確認は、
役に立たない」
午後。
宰相に、この案を伝えた。
「……若手に?」
「うん」
宰相は、
少し考え込む。
「反発が出るのでは」
「出るよ」
私は、平然と言う。
「でも、
反発が出るってことは、
当たり前に切り込めてる」
宰相は、
苦笑した。
「……あなたは、
本当に人の使い方が
独特だ」
「使ってないよ」
私は、首を振る。
「余白を渡してるだけ」
夕方。
王太子ステルヴィオが、
いつもの場所に現れた。
「……聞いた」
「早いね」
「“疑う役”を
若手に任せるって」
「うん」
「……怖くないのか」
「怖いよ」
私は、正直に答える。
「でも、
偉い人が疑うと、
制度が止まる」
「若手が疑えば?」
「制度が、
鍛えられる」
王太子は、
静かに息を吐いた。
「父上なら、
嫌がりそうだ」
「嫌がる」
「でも?」
「止めない」
私は、断言する。
「今の父王は、
“止める理由”を
持ってない」
夜。
私は、今日の記録を閉じた。
疑う役目は、
権力を持つ人には
向かない。
なぜなら、
疑いがそのまま
命令になるから。
だから――
疑いを、
立場の軽いところに置く。
それが、
制度を長生きさせる
一番の方法だ。
「さて」
私は、椅子に深く腰掛ける。
「これで、
“油断フェーズ”は
抜けられるかな」
安定とは、
何もしないことじゃない。
壊れないように、
揺らし続けること。
この国は今、
そのやり方を
覚え始めていた。
制度がうまく回っているとき、
誰が一番「疑う役」に向いていないか。
答えは簡単だ。
――偉い人。
肩書きがある人。
決裁権がある人。
責任を負ってきた人。
そういう人ほど、
「今まで正しかった」という前提を
手放しにくい。
だから私は、
別の場所を探した。
午前中。
文官部門の若手を数名、
小さな会議室に集めた。
議題はひとつ。
「最近の判断、
本当に“楽になった”?」
全員が、少し戸惑う。
「楽、ですけど……」
「不満は?」
「いえ、
不満というより……」
一人が、言葉を探しながら続けた。
「間違えにくくなった分、
考えなくなった気がします」
それだ。
「それ、
悪いと思う?」
私は、問い返す。
「……分かりません」
「正直でいい」
私は、頷いた。
「だから、
それを確かめる役が必要」
彼らは、
互いの顔を見る。
「偉い人がやると、
“決定”になる」
「でも君たちがやるなら、
“確認”で済む」
静かな沈黙。
「やることは簡単」
私は、紙を一枚置いた。
「判断基準通りに処理された案件を、
わざと疑う」
「間違い探しじゃない」
「“なぜこの判断でよかったか”を
もう一度書く」
一人が、
恐る恐る聞いた。
「……それ、
嫌われませんか」
「嫌われる」
私は、即答した。
「でもね」
一拍置く。
「嫌われない確認は、
役に立たない」
午後。
宰相に、この案を伝えた。
「……若手に?」
「うん」
宰相は、
少し考え込む。
「反発が出るのでは」
「出るよ」
私は、平然と言う。
「でも、
反発が出るってことは、
当たり前に切り込めてる」
宰相は、
苦笑した。
「……あなたは、
本当に人の使い方が
独特だ」
「使ってないよ」
私は、首を振る。
「余白を渡してるだけ」
夕方。
王太子ステルヴィオが、
いつもの場所に現れた。
「……聞いた」
「早いね」
「“疑う役”を
若手に任せるって」
「うん」
「……怖くないのか」
「怖いよ」
私は、正直に答える。
「でも、
偉い人が疑うと、
制度が止まる」
「若手が疑えば?」
「制度が、
鍛えられる」
王太子は、
静かに息を吐いた。
「父上なら、
嫌がりそうだ」
「嫌がる」
「でも?」
「止めない」
私は、断言する。
「今の父王は、
“止める理由”を
持ってない」
夜。
私は、今日の記録を閉じた。
疑う役目は、
権力を持つ人には
向かない。
なぜなら、
疑いがそのまま
命令になるから。
だから――
疑いを、
立場の軽いところに置く。
それが、
制度を長生きさせる
一番の方法だ。
「さて」
私は、椅子に深く腰掛ける。
「これで、
“油断フェーズ”は
抜けられるかな」
安定とは、
何もしないことじゃない。
壊れないように、
揺らし続けること。
この国は今、
そのやり方を
覚え始めていた。
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