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第2章 悪事の企み ― 托卵の真相
セクション3 「帝国舞踏会」
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セクション3 「帝国舞踏会」
帝国の都。王国とは比べものにならないほどの広さを誇る宮廷の大広間は、まるで神殿のような荘厳さで満ちていた。
天井は高く、無数のシャンデリアが夜空の星のように煌めき、壁には黄金の装飾と鮮やかなタペストリーが飾られている。
帝国の力、その豊かさと栄華を誇示する場――それが帝国舞踏会だった。
各地の諸侯や大臣、さらには外国の使節までもが招かれ、華やかなドレスや軍装があふれかえる。
その中で、ひときわ注目を集めた人物がいた。
――ファミマリア・ド・ローソン。
漆黒のシルクに銀糸を走らせたドレスは、帝国の宮廷でも異彩を放つ。
闇夜に浮かぶ月光のごとく、冷たくも気高いその姿は、一瞬で視線をさらっていった。
彼女が歩を進めるたび、ざわめきが広がる。
「……あれが、王子に捨てられた辺境伯令嬢か」
「哀れな娘かと思えば……まるで女王のようだ」
「いや、むしろ哀れどころか……あの気迫は恐ろしいほどだ」
囁きは憐憫から畏怖へと変わっていく。
ファミマリアはその全てを無視し、ただ凛とした足取りで進んだ。
目指す先は、この場の中心――帝国皇帝、ジークフリード・ローエングラム。
若き皇帝は、黄金の髪を持ち、深い蒼の瞳を湛えて玉座に座していた。
その姿はまさしく帝国の威光を体現する存在。
しかし、その瞳がファミマリアをとらえた瞬間、彼の表情がわずかに動いた。
「……これは、これは」
皇帝はゆるやかに立ち上がり、彼女へと歩み寄る。
その声は、低く、しかし場にいた誰もが聞き逃さぬほど通るものだった。
「珍しいお方がいらっしゃった。
その美しき令嬢のお噂はかねてより耳にしておりました。
幾度も招待状をお送りしましたが……こうしてようやくお目にかかれたこと、まこと光栄です」
大広間の空気が張り詰める。
帝国皇帝が一人の娘にこれほどの言葉を向けることは、極めて異例だった。
ファミマリアは優雅に裾をつまみ、一礼した。
その所作には一片の淀みもない。
「これは皇帝陛下。
不敬をお許しくださいませ。……わたくしのような辺境の小娘が参上すれば、お目汚しになるのではと愚考し、今まで辞退申し上げておりました」
その言葉に、場が静まり返った。
まるで鋭い剣戟が交わされた後のような緊張感。
だが、皇帝ジークフリードは笑った。
朗らかに、しかしその瞳には強い興味が宿っている。
「お目汚し、だと? いや……むしろ、宮廷が華やかさを増した。
辺境の令嬢と侮る者もいよう。だが……あなたはただの小娘ではないと、私は確信しました」
囁きが広間に広がる。
「皇帝が……一人の令嬢をここまで……」
「ただ者ではない……」
ファミマリアは涼やかに微笑み、返す。
「光栄にございます。……ですが、わたくしはただ、家を背負う身に過ぎません」
その言葉に、皇帝の瞳が細められる。
まるで「もっと語れ」と促すように。
やがて舞踏会の楽が鳴り、皇帝自らが手を差し伸べた。
「ローソン令嬢。……一曲、お相手願えますか?」
広間はどよめきに包まれた。
帝国皇帝と踊るなど、外交上の重大な意味を持つ行為。
誰もが息を呑み、その瞬間を見守る。
ファミマリアは一拍置き、そして優雅にその手を取った。
「……喜んで」
二人が舞い踊る。
漆黒と黄金の衣が交錯し、宮廷の空気は一気に熱を帯びた。
その光景は、まるで帝国と辺境領の未来を象徴するかのようだった。
帝国の都。王国とは比べものにならないほどの広さを誇る宮廷の大広間は、まるで神殿のような荘厳さで満ちていた。
天井は高く、無数のシャンデリアが夜空の星のように煌めき、壁には黄金の装飾と鮮やかなタペストリーが飾られている。
帝国の力、その豊かさと栄華を誇示する場――それが帝国舞踏会だった。
各地の諸侯や大臣、さらには外国の使節までもが招かれ、華やかなドレスや軍装があふれかえる。
その中で、ひときわ注目を集めた人物がいた。
――ファミマリア・ド・ローソン。
漆黒のシルクに銀糸を走らせたドレスは、帝国の宮廷でも異彩を放つ。
闇夜に浮かぶ月光のごとく、冷たくも気高いその姿は、一瞬で視線をさらっていった。
彼女が歩を進めるたび、ざわめきが広がる。
「……あれが、王子に捨てられた辺境伯令嬢か」
「哀れな娘かと思えば……まるで女王のようだ」
「いや、むしろ哀れどころか……あの気迫は恐ろしいほどだ」
囁きは憐憫から畏怖へと変わっていく。
ファミマリアはその全てを無視し、ただ凛とした足取りで進んだ。
目指す先は、この場の中心――帝国皇帝、ジークフリード・ローエングラム。
若き皇帝は、黄金の髪を持ち、深い蒼の瞳を湛えて玉座に座していた。
その姿はまさしく帝国の威光を体現する存在。
しかし、その瞳がファミマリアをとらえた瞬間、彼の表情がわずかに動いた。
「……これは、これは」
皇帝はゆるやかに立ち上がり、彼女へと歩み寄る。
その声は、低く、しかし場にいた誰もが聞き逃さぬほど通るものだった。
「珍しいお方がいらっしゃった。
その美しき令嬢のお噂はかねてより耳にしておりました。
幾度も招待状をお送りしましたが……こうしてようやくお目にかかれたこと、まこと光栄です」
大広間の空気が張り詰める。
帝国皇帝が一人の娘にこれほどの言葉を向けることは、極めて異例だった。
ファミマリアは優雅に裾をつまみ、一礼した。
その所作には一片の淀みもない。
「これは皇帝陛下。
不敬をお許しくださいませ。……わたくしのような辺境の小娘が参上すれば、お目汚しになるのではと愚考し、今まで辞退申し上げておりました」
その言葉に、場が静まり返った。
まるで鋭い剣戟が交わされた後のような緊張感。
だが、皇帝ジークフリードは笑った。
朗らかに、しかしその瞳には強い興味が宿っている。
「お目汚し、だと? いや……むしろ、宮廷が華やかさを増した。
辺境の令嬢と侮る者もいよう。だが……あなたはただの小娘ではないと、私は確信しました」
囁きが広間に広がる。
「皇帝が……一人の令嬢をここまで……」
「ただ者ではない……」
ファミマリアは涼やかに微笑み、返す。
「光栄にございます。……ですが、わたくしはただ、家を背負う身に過ぎません」
その言葉に、皇帝の瞳が細められる。
まるで「もっと語れ」と促すように。
やがて舞踏会の楽が鳴り、皇帝自らが手を差し伸べた。
「ローソン令嬢。……一曲、お相手願えますか?」
広間はどよめきに包まれた。
帝国皇帝と踊るなど、外交上の重大な意味を持つ行為。
誰もが息を呑み、その瞬間を見守る。
ファミマリアは一拍置き、そして優雅にその手を取った。
「……喜んで」
二人が舞い踊る。
漆黒と黄金の衣が交錯し、宮廷の空気は一気に熱を帯びた。
その光景は、まるで帝国と辺境領の未来を象徴するかのようだった。
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