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第2章 悪事の企み ― 托卵の真相
セクション4 「バルコニーの密談」
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セクション4 「バルコニーの密談」
舞曲が一段落し、帝国皇帝ジークフリードは軽く手を上げて音楽を止めさせた。
そのまま彼はファミマリアを伴い、大広間の片隅にあるバルコニーへと歩み出る。
夜風がひんやりと頬を撫で、遠くの街灯りが宝石のように瞬いている。
華やかな舞踏会の喧騒が背後に遠ざかり、二人きりの静謐な空間が広がった。
「……辺境の令嬢と、こうして並んで星を眺めるとはな」
ジークフリードは低く笑った。その声は落ち着いていたが、瞳には熱のようなものが宿っている。
ファミマリアは月明かりを受け、静かにその横顔を見返した。
そして、ためらいなく言葉を紡ぐ。
「皇帝陛下。……一つ、ご相談がございますの」
その真剣な声音に、ジークフリードは眉を上げた。
「ほう? この場で相談とは……。さては舞踏会より戦場を選ぶ女か」
ファミマリアは涼やかに微笑む。
「ええ、女にとって舞踏会は戦場。……ならば、戦士として言わせていただきますわ」
彼女は一歩、皇帝に近づき――その瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「陛下。……私と、そして我がローソン領を、手に入れるおつもりはございませんか?」
――一瞬。
ジークフリードは言葉を失った。
帝国皇帝が、辺境の娘の言葉に動揺するなど、誰が想像できただろう。
だが彼女の瞳は冗談を言っているものではなかった。
そこには冷徹な計算と、領民を守らんとする強靭な意志が宿っていた。
「……大胆な申し出だな」
ジークフリードは静かに言葉を返す。
「王国の王子に婚約を破棄されたその舌で、今度は帝国の皇帝に婚約を迫ると? ――策略に聞こえて仕方ない」
ファミマリアは扇子を開き、唇を隠して微笑んだ。
「まさか。わたくしはただの、かわいそうな被害者ですわ。……殿下の“真実の愛”とやらに裏切られた、哀れな令嬢」
その声には皮肉が混じっている。
しかしジークフリードは笑い、逆に興味を深めたようだった。
「被害者とやらを、私が救済してよいと?」
「もちろんでございます」
ファミマリアは即答した。
「ついでに、我が領も救済していただければなお幸いですわ」
その即答に、皇帝は思わず吹き出した。
「ははは……実に面白い。令嬢、あなたは底なしだな」
しかしすぐに真顔に戻り、彼は首を振る。
「だが、領地を手に入れるのはさすがに性急だ。帝国と王国の均衡を崩すことになる。……そこまで踏み込めば、戦争は避けられまい」
ファミマリアは頷いた。
「承知しておりますわ。だからこそ、今すぐではなく――“いずれ”。
機を見ていただければ、それで結構です」
ジークフリードは深く息を吐き、彼女を見つめた。
月明かりに照らされたファミマリアの横顔は、冷たくも美しい。
哀れな被害者を装いながら、誰よりもしたたかに未来を切り拓こうとする令嬢。
「……まったく。あなたが本当に被害者だったのか、それとも最初からすべてを仕組んでいたのか……勘繰りたくなる」
ファミマリアは微笑んだ。
「さあ、どうでしょう。少なくとも、わたくしは今も“哀れな婚約破棄された娘”でございますのよ」
その言葉に、ジークフリードは再び笑みを浮かべた。
「よかろう。――ならば、そのかわいそうな令嬢を、私が救おう」
その瞬間、二人の間にひそやかな同盟が結ばれた。
王子に捨てられた令嬢と、帝国の若き皇帝。
その結びつきは、やがて王国の命運を揺るがすことになる。
夜風が二人の間を通り抜け、バルコニーに残された静寂を包み込む。
だがその沈黙は、決して弱き者のものではない。
むしろ、次の戦いの始まりを告げる、緊張に満ちた静寂であった。
舞曲が一段落し、帝国皇帝ジークフリードは軽く手を上げて音楽を止めさせた。
そのまま彼はファミマリアを伴い、大広間の片隅にあるバルコニーへと歩み出る。
夜風がひんやりと頬を撫で、遠くの街灯りが宝石のように瞬いている。
華やかな舞踏会の喧騒が背後に遠ざかり、二人きりの静謐な空間が広がった。
「……辺境の令嬢と、こうして並んで星を眺めるとはな」
ジークフリードは低く笑った。その声は落ち着いていたが、瞳には熱のようなものが宿っている。
ファミマリアは月明かりを受け、静かにその横顔を見返した。
そして、ためらいなく言葉を紡ぐ。
「皇帝陛下。……一つ、ご相談がございますの」
その真剣な声音に、ジークフリードは眉を上げた。
「ほう? この場で相談とは……。さては舞踏会より戦場を選ぶ女か」
ファミマリアは涼やかに微笑む。
「ええ、女にとって舞踏会は戦場。……ならば、戦士として言わせていただきますわ」
彼女は一歩、皇帝に近づき――その瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「陛下。……私と、そして我がローソン領を、手に入れるおつもりはございませんか?」
――一瞬。
ジークフリードは言葉を失った。
帝国皇帝が、辺境の娘の言葉に動揺するなど、誰が想像できただろう。
だが彼女の瞳は冗談を言っているものではなかった。
そこには冷徹な計算と、領民を守らんとする強靭な意志が宿っていた。
「……大胆な申し出だな」
ジークフリードは静かに言葉を返す。
「王国の王子に婚約を破棄されたその舌で、今度は帝国の皇帝に婚約を迫ると? ――策略に聞こえて仕方ない」
ファミマリアは扇子を開き、唇を隠して微笑んだ。
「まさか。わたくしはただの、かわいそうな被害者ですわ。……殿下の“真実の愛”とやらに裏切られた、哀れな令嬢」
その声には皮肉が混じっている。
しかしジークフリードは笑い、逆に興味を深めたようだった。
「被害者とやらを、私が救済してよいと?」
「もちろんでございます」
ファミマリアは即答した。
「ついでに、我が領も救済していただければなお幸いですわ」
その即答に、皇帝は思わず吹き出した。
「ははは……実に面白い。令嬢、あなたは底なしだな」
しかしすぐに真顔に戻り、彼は首を振る。
「だが、領地を手に入れるのはさすがに性急だ。帝国と王国の均衡を崩すことになる。……そこまで踏み込めば、戦争は避けられまい」
ファミマリアは頷いた。
「承知しておりますわ。だからこそ、今すぐではなく――“いずれ”。
機を見ていただければ、それで結構です」
ジークフリードは深く息を吐き、彼女を見つめた。
月明かりに照らされたファミマリアの横顔は、冷たくも美しい。
哀れな被害者を装いながら、誰よりもしたたかに未来を切り拓こうとする令嬢。
「……まったく。あなたが本当に被害者だったのか、それとも最初からすべてを仕組んでいたのか……勘繰りたくなる」
ファミマリアは微笑んだ。
「さあ、どうでしょう。少なくとも、わたくしは今も“哀れな婚約破棄された娘”でございますのよ」
その言葉に、ジークフリードは再び笑みを浮かべた。
「よかろう。――ならば、そのかわいそうな令嬢を、私が救おう」
その瞬間、二人の間にひそやかな同盟が結ばれた。
王子に捨てられた令嬢と、帝国の若き皇帝。
その結びつきは、やがて王国の命運を揺るがすことになる。
夜風が二人の間を通り抜け、バルコニーに残された静寂を包み込む。
だがその沈黙は、決して弱き者のものではない。
むしろ、次の戦いの始まりを告げる、緊張に満ちた静寂であった。
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