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第一部《魔王VS勇者》編
第81話【ライエル王、息子を鍛える】
しおりを挟む「うっ……」
カシウスが目を開けると、石の壁に囲まれた薄暗い部屋の床に倒れていた。
「久しいな。カシウス」
「ち、父上!」
慌てて起き上がる息子に、ライエル王は淡々と告げる。
「あまり時間もないので早速始めるとしよう」
そう言って木剣を投げ渡した。
「こ、これは……? ここはどこです?」
問い終わる間もなく、木剣が容赦なく肩口に叩きつけられる。カシウスは呻き声を上げて崩れた。
「がっ……な、なにを……」
「早く剣を取るのだ。カシウス」
必死に剣を握ると、すぐさま次の一撃が襲いかかる。
「ぐっ……父上! やめてください! 一体どうされたのです!」
悲鳴のような声も虚しく、木剣は止まらない。カシウスは打ち据えられ、やがて地に倒れ込んだ。
「弱い。また後で来る。お主ら、カシウスに回復を」
ライエル王の言葉に兵士たちが駆け寄り、《ヒール》を唱える。
入口にレイラが姿を現した。出て行こうとする父に話しかけると、地面に座り込むカシウスへと歩み寄る。
「早速倒されてしまったんですね」
「レ、レイラ……」
怯えを宿した瞳が妹を見上げる。
「お父様はお強いでしょう? お兄様がいなくなってから、毎朝鍛錬しているんですよ」
「一体父上になにが・・・」
「ふふ。悪い人を日々懲らしめているんです。お兄様も真剣にやらないと本当に死んでしまいますよ」
言葉を探すも、カシウスの喉は詰まり声が出ない。
「3日後に今後のことを伝えに来ますので、頑張ってくださいね」
「ま、待ってくれ・・・」
伸ばした手は空を切る。レイラは振り返らず、部屋を後にした。
再びライエル王が入ってくる。父の影が、息子に重くのしかかった。
* * *
「おはよう。カシウス。早速、昨日の続きを……ん?」
部屋に入ったライエル王の視線の先で、カシウスがよろめきながらも木剣を構えていた。
「ほう」
短い声と共に、剣が激しく打ち込まれる。受け止めることもままならず、やがてカシウスは地に崩れ落ち、荒い息を吐いた。
「カシウス。情けないとは思わんのか?」
「う……」
「お主がコソコソ隠れていた間に、お主の妹は必死にもがき、今では立派に国の顔になっておる」
沈黙を貫く息子に、さらに言葉を重ねる。
「レイラが望むなら儂は王の座も喜んで譲るつもりだ」
「くっ……ではなぜ……」
「山田殿がお主に機会を与えてくれたのだよ。本当に寛大なお方よ」
「機会……?」
「話は終わりだ。少しは兄らしい姿を見せてみろ」
* * *
三日後。
「おはようございます。お父様、お兄様」
姿を見せたレイラが丁寧に挨拶をする。ライエル王はその顔色を見て、心配そうに眉をひそめた。
「おはよう、レイラ。もう少しゆっくり眠った方がよいのではないか? 連日働き詰めだろう」
「そうもいきません。前線からの報告ではすでに国境を抜けて要塞に向けて進軍中とのことですし」
「そうか。ファーレンも長くはもつまい。受け入れ準備を急がねばな」
ファーレンと聞いて、カシウスが怪訝そうに顔を上げた。
「カシウスよ。そなたがファーレン王国の王になるのだ」
「ファーレン? なにを……」
「何を呆けた顔をしている。ちゃんと聞いておるのか?」
呆れを含んだライエル王の声音に、レイラが横から静かに言葉を添える。
「お父様。お兄様は何も知らないのです。順を追って説明しますね」
レイラは魔軍がファーレン王国を攻めていること、占領後の統治方針を語っていった。
「私が……王……? 魔王が私を……」
「もちろんそなたがふさわしいかどうか、いずれ山田殿が直々に試されるだろう」
「鍛錬とは別に講義も受けて頂きます。ジーナスにお願いしていますので、早速午後からお願いします」
「わ、わかった……」
「――あ、言い忘れていました。王家は残した方が都合がいいので、お兄様はどなたかと婚姻を結んでくださいね」
「え? ちょっ……」
「未婚の方はセリーナ様とシンシア様かな? でも選抜次第……山田様は能力重視ですし、別れさせてもいいかな……」
「レ、レイラ……?」
「お相手は私が決めますのでお願いしますね」
レイラがカシウスを見て微笑む。
「う……わかった。頼む」
レイラが出て行くと残された部屋に静けさが戻る。呆然とする息子へ、ライエル王がゆっくりと語りかけた。
「カシウスよ。お主が己の不幸を嘆き、いつまでも下を向いているとレイラの負担は増す一方だ」
黙したまま耳を傾けるカシウスに、なお続ける。
「私もレイラも、そなたならできると思ったから心を鬼にして連れ戻したのだ。奮起してみせよ」
カシウスはゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばすと深く息を吸い込んだ。落ちていた木剣を拾い上げ、構え直す。
「父上、お願いします」
その瞳には、わずかに光が戻っていた。
* * *
一か月後。
王城の執務室に、ライエル王、レイラ王女、カシウス王子、参謀長ジーナス、そして魔軍の軍団長ガイアと副軍団長ジーグが顔を揃えていた。
重々しい空気の中、ガイアが口を開く。
「早速ですが、魔王様がファーレン王国の首都サンロックを制圧されました」
報告に全員が息を呑む。
「さすがは山田殿。これほど早く勝利されるとは」
感嘆の声を漏らすライエル王に、ガイアが視線を送った。
「魔王様から貴殿らに伝達が来ています。ジーグ副長、詳細を」
促され、ジーグが一歩前に出る。
「はっ! まず首都サンロックから想定以上の大量の移住希望者が向かっているとのことです」
「移住希望者の受け入れ状況は?」
ガイアが確認すると、レイラが答えた。
「順調に進んでいますが、これから一気に来るということですね。ジーナス、フーシアの状況はいかがですか?」
「それだけの数となると正直厳しいかもしれません。王都での受け入れも検討すべきかと」
「そうですね」レイラは考え込んだ。
「しかし、それほど多くの民が来ているのにはなにか理由が?」
ライエル王の問いに、ガイアが静かに答える。
「魔王様の作戦の結果ではありますが、それ以上にファーレン王家は降伏せず、民に刃を向けたとのことです」
思いがけない言葉に一同が息をのむ。
「まさか……バルロック王が……」
ライエル王が呟くと、レイラも険しい表情を浮かべた。
「ジーグ副長、続きを」
「はい。次に王家の人間を予定通りこちらに向かわせているとのことです。尚、バルロック王とソフィア王妃については魔王様が処分を決められるそうです」
「承知しました」ライエル王は重く頷いた。
「ただ、八人は全員歩かせているので、こちらに到着するのは少し先になるとのことです」
「徒歩……恐らくそれも含めて人物を見極めろという魔王様のご指示でしょうね」
レイラの言葉に皆が納得の色を見せる。
「そうだな。カシウスよ、いよいよお主が魔王様に貢献するときが来たのだ。しっかり準備するように」
静かに聞いていたカシウスは、父に名を呼ばれ慌てて顔を上げた。
「は、はい! もちろんです!」
「さて、最後にノルン共和国の首都スノーランをサイリス総督が攻め落としたという報告も来ています」
ガイアの言葉に、場がどよめいた。
「この短期間で魔王様とお二人で国を二つ落とされたんですね。凄まじいです……」レイラが感嘆する。
「以前から魔王様がおっしゃっていましたが、ライエル王国は人類国家の中心になっていきますので貴殿らの働きに一層期待しています」
ガイアが言葉を締めると、その場にいた全員が力強く頷いた。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】
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