魔王山田、誠実に異世界を征服する

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第二部《転生者VS転生者》編

第103話【勇者スルト、領地を活性化させる】

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ガイロス帝国の街アレサンドと周辺一帯を勇者スルトが治め始めたという報せは、瞬く間に帝国中を駆け巡った。その結果、アレサンドの街はかつてないほどの熱狂的な熱気に包まれていた。

大通りには、最後尾が視界に入らないほどの大行列が続き、その人の波はすべて領主の館――通称“勇者の館”へと向かっていた。

老若男女を問わず、様々な声がスルトに投げかけられる。

「勇者様! 本物ですよね?! すごいすごい!」
「おわっ、握力強いですね。遠くから来ていただいてありがとうございます」

「スルト様、戦場を共にできたことは永遠に私の誇りです」
「ありがとうございます。また一緒に戦いましょう」

「私の信仰を永遠に女神様と勇者様に捧げます」
「あなたの信仰は女神様も見守っていますよ」

「勇者さまー! 遊んでー!」
「はは、後でみんな集めて遊ぶか」

彼が一人ひとりに丁寧に言葉を返し、握手を交わしていると、その日の受付時間が終了した。館の入口の扉が閉じられると、外に並んでいた人々からは悲鳴にも似た抗議の声が上がった。アラム男爵は、扉を背にしたスルトを労うように声をかけた。

「スルト様、お疲れ様です。それにしても勇者様の人気は想像以上で連日大変な騒ぎですな」

スルトは少し疲れた様子を見せながらも苦笑した。

「言い出したのは自分ですけど、日に日に行列が増えてて並んでいる人にはちょっと申し訳ない気が」

「アレサンドの宿屋はどこも満室のようで感謝状も何通か届いております。“勇者の街”として移住を希望する者も増えているそうです」

二人が話を続けていると、館の管理を担うスイレンが近づいてきた。

「スルト様、昼食の用意ができております」

「ありがとうございます。皆さんが作ってくれる食事はどれも美味しいので毎回楽しみです」

スイレンは嬉しそうに笑顔になった。彼らの様子を見ながら、アラムが口を開いた。

「スルト様、午後は教会に向かわれるのでしたね?」

「はい、アラムさんと相談した支援の件を伝えてきます。あ、そういえば例の件はなんとかなりそうですか?」

「もちろんです。大急ぎで別館の内装を整えております」

「今後賓客が増えるかもしれないので、別館は特に豪華にして頂けると助かります」

「承知しました。彼女と相談して進めます」

三人は話をしながら食堂へと移動した。

 * * *

スルトが教会に入っていくと、アレサンドの教会の責任者となったメリアと、助祭のキリエが出迎えた。

奥に進んでいく途中、通りがかりの信者が次々とスルトに向かって熱心な祈りを捧げる。その眼差しは、彼をただの領主ではなく、神の代理人として見ていた。

(この様子を撮影して女神様に送信すれば残業の励みになるかもしれない。いや女神様のLIVE配信の方が……うん、台無しになりそう)

三人が椅子に座ると、スルトは早速、教会への支援について二人に説明した。

「それほどの金額を……本当によろしいのでしょうか」

メリアは驚きを隠せない様子だった。

「もちろんです。いつもお世話になっていますし、遠慮なく受け取ってください」

「本当にありがとうございます。必ず有効に活用させて頂きます」

メリアが深くお礼を言うと、キリエも続いて頭を下げる。

「あ、そうだ。これも渡さないと」

スルトは懐から金貨が入った袋を取り出し、テーブルに載せた。

「以前借りたお金、返しておきますね」

返済は不要だと固辞するメリアに対し、スルトは無理矢理それを押し付ける。しばらく三者で雑談を交わしていると、キリエがなにかを決意したかのように真剣な表情で居住まいを正した。

「あの……アレサンドの領主であり、子爵でもあるスルト様に、折り入って……ご相談が……」

「急にかしこまってどうしたんです?」

スルトが問うと、キリエは顔を上げ、毅然とした態度で言った。

「奴隷の身分について……スルト様のお力でなんとかできないでしょうか」

「キリエさん」

メリアが咎めるように注意したが、スルトはそれを制した。

「いや、構わないですよ。キリエさんの意見を聞かせてください」

「ありがとうございます。以前お伝えしましたが、ここアレサンドでも奴隷の売買が日常的に行われています。奴隷として売られた人の末路は……」

キリエは言葉を詰まらせ、顔を歪めてそのまま俯いてしまう。その様子を見てメリアが引き取った。

「神聖国としてもなんとか解決できないかと長い間模索してきて、やはり相当な時間がかかると半ばあきらめていたのです」

「んん? 解決したような言い方ですね?」

「実は、ライエル王国も深刻な状況だったのですが、魔王占領後に全員が解放され、売買に関わっていた貴族は全員処刑されました」

「え?」

「新たに支配下となったファーレン王国でも、即位したカシウス王による浄化政策が続いていると現地の教会から報告が来ているそうです」

「えー……」

(極悪非道な魔王どころか正義のヒーローじゃん。どういうことなんです、女神様? 倒さない方がいいんじゃ)

スルトの内心をよそに、メリアは言葉を続けた。

「あくまで強大な力を持つ魔王だからこそ実現したのだと思います。ただ、キリエさんはその話を聞いて、同じように人知を超えた力を持つ勇者様ならなにか方法が、と」

「なるほど」

(うん、自分には絶対無理。強権発動で制度改革しながら支配地を発展させてるとか相当頭回る奴なんだな、魔王って)

キリエが期待を込めて尋ねた。

「それで……いかがでしょうか」

「うーん……とりあえず現状を整理すると、制度そのものはドミニス陛下が認めてる、というかむしろ推進してると。自分も貴族になっちゃったから解放すると……爵位剥奪されて処刑、もしくは奴隷にされそう」

「それは……」

キリエは言葉を失う。スルトは思考を巡らせる。

「となるとドミニス陛下に相談するしかない、かな? でも相談どころか言い出しただけで……」

「スルト様!」

メリアが強引にスルトの言葉を遮った。驚いたスルトとキリエがメリアを見る。

「こちらから言い出した話で大変申し訳ないのですが、先ほどまでの話は全て忘れて頂けないでしょうか。お願いします。この通りです」

そう言って、メリアは深く頭を下げる。その声音には強い焦燥が滲んでいた。

「え、いや……えっと……」

スルトは気まずくなって言った。

「メリアさん、顔を上げてください。他意がないのはわかっていますから。自分も軽はずみなことを言いました」

「スルト様……ありがとうございます」

「ちょうどアラム男爵と、ポラン侯爵から引き継いだ奴隷の人たちの待遇について相談していたので、お話は参考にさせて頂きます」

メリアが何も言わず再び頭を下げると、有無を言わさぬ彼女の態度に押されてキリエも頭を下げた。

 * * *

ある日、スルトがスイレンと館の改修についてあれこれと相談を進めていると、アラム男爵が慌ただしく歩いてきた。

「スルト様、お話が」

「どうしました?」

「実は、モルドラス都市国家からやってきた商人が珍しい品があると売り込みにきておりまして」

「なんだろう、宝石とかですか?」

「それが……勇者様専用の書物だと申しているのです」

スルトとスイレンが顔を見合わせる。スイレンが即座に懸念を示した。

「怪しい商人は追い払うべきではないでしょうか。最近、皆スルト様と取引しようと必死ですし」

「不老不死の薬を売りに来た人もいましたね。ただ……ちょっと気になるので会ってみます」

「承知しました」

応接室でスルト達が待っていると、使用人に案内された商人が入ってきた。落ち着いた様子のその男は深々と頭を下げた。

「初めまして、勇者様。私はサトウと申します」

(ん……? サトウ……?)

スルトは内心で聞き慣れた名前に違和感を覚える。しばらく形式的なやりとりが続いた後、サトウは丁寧に布に包まれた書物を取り出した。何の変哲もない、古びた一冊の書物がテーブルに置かれる。

「これがその書物ですか? 勇者様、危険な細工があるかもしれませんので、私が先に開いてみます」

警戒するアラムが書物を開いた。スルトも手にとってページをめくっていくと、その拍子に、何かがはらりと床に落ちた。それは、一枚の紙片だった。

それを拾い上げたアラムは、紙片に印字された文字を見て怪訝そうな顔をする。

「なんですか、これは。このような文字は見たことがない。新大陸のものか?」

「まさにそれが代々の勇者様の中でも極一部の方のみ解読できると言われているものです」

「貸してもらっていいですか?」

スルトは紙片を受け取り、文字を見て―――目を見開いた。

サトウは穏やかな口調で続けた。

「正直に申しまして、売っていい品かどうか悩んでおりまして。もしよろしければ今回はお近付きの印としてお収めください」

「よろしいのですか?」

アラムが尋ねると、サトウは笑顔で答えた。

「はい。他にも珍しい品を揃えておりますので、もしご興味がございましたら市場の露店でお声がけください」

部屋から出ていこうとするサトウを、スルトが呼び止めた。

「すみません。ひとつ質問してもいいですか?」

「もちろんです」


「そばとうどん、どっちが好きですか?」


室内に沈黙が漂う。アラムとスイレンは不思議そうに首を傾げた。サトウも同じく怪訝な様子で言った。

「大変申し訳ないのですが、そういった品についての知識がなく……」

「あ、すみません。この前、別の商人の方から聞いたので知ってるかなって。呼び止めてすみません」

サトウは改めて一礼すると部屋を退出した。

(あの反応は多分本当に知らないっぽい。ということは……サトウは偽名か。本当にこういうことに頭の回る奴なんだな)

スルトの手に握られた紙片には、”元の世界の文字”でこう書かれていた。


”もしこれが読めるなら一度話をしないか?”


【Invocation Protocol: ARIA/Target:Surtr】
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