魔王山田、誠実に異世界を征服する

nexustide400

文字の大きさ
106 / 115
第二部《転生者VS転生者》編

第104話【勇者スルト、客をもてなす】

しおりを挟む

アレサンドの街の中心部に位置する”勇者の館”の前で馬車が停まった。中から二人の貴族が降り立ち、優雅な仕草で一礼した。

「勇者様。お初にお目にかかります。ロイエンと申します。こちらが妻のローレルです」

「お待ちしてました。ロイエン男爵、ローレル夫人」

続いて、艶やかな装いの女性が馬車から姿を現す。

「この度はご招待ありがとうございます、スルト様」

「お久しぶりです。皇都から遠路はるばるありがとうございます。イゾルデさん」

スルトはそう言って三人を館の中へと案内した。歩きながら、彼はイゾルデに話しかける。

「今日は一段と素敵ですね」

「ありがとうございます。ずっとこの日を楽しみにしていたんです」

応接室に足を踏み入れると、三人は思わず感嘆の声を漏らした。ロイエン男爵が口を開く。

「さすが勇者様の館ですね。皇都で陛下に貸して頂いている別邸のようです。自領の私達の館は大きいばかりで……」

「お父様!」

イゾルデが嗜めるようにそう言った。

全員がソファに腰を下ろすと、スイレンが淹れたての紅茶を運んでくる。

「皆さん長旅でお疲れかと思いますので、ゆっくりなさってください。この近くに来客専用の別館も整えていますので是非そちらでお泊まりください」

「おぉ、それは大変ありがたい。厚かましいお願いですが、数日間滞在してもよろしいでしょうか。私の領地の有力商会がアレサンドに出店予定で下見などできたらと」

「もちろん、構いません。商会も大歓迎です。こちらのアラム男爵と相談してください」

スルトが紹介すると、傍らに控えていたアラム男爵が静かに会釈した。次にローレル夫人が口を開く。

「ご配慮ありがとうございます、スルト様。いずれ娘と同じ館になって欲しいと思っていますけど……いかがでしょうか?」

「お母様?!」

イゾルデが慌てた様子で声を上げる。

「あはは。でも……はい、もちろんそうなれたらと思って今回も招待させて頂きました」

スルトのあまりに素直な返答に、その場にいた全員が固まった。イゾルデも驚きを隠せない表情でスルトを見つめる。

「尋ねた私が少し面食らってしまいました。娘に聞いた通り、スルト様は本当に素敵な方ですね」

ローレル夫人がそう言うと、ロイエン男爵が言葉を継いだ。

「スルト様が皇都におられた時から娘は毎日のようにあなたの話ばかりで、今回のお話も大喜びだったのです」

「お父様!」

「でもドミニス陛下とリーン様に目をかけて頂いて、今度は勇者様だなんて。イゾルデがご迷惑になっていないか私は心配で心配で」

「もうっ! スルト様、館を案内して頂けませんか?」

「え? は、はい」

イゾルデの勢いに気圧されるようにスルトは答え、彼女と共に部屋を後にした。

 * * *

「本当にすみません。両親はいつもあの調子で」

「はは、明るいご両親ですね」

「勢いで部屋を出てしまいましたが、改めて案内をお願いできますか?」

「もちろんです。じゃあ、行きましょうか」

スルトはイゾルデの手を取って階段を上がり、アレサンドの街が一望できるテラスへと出た。

「わぁ……」

イゾルデは広がる街の景色に目を輝かせた。

「少しずつ活気も出てきて、市場も露店が増えてきたんです。明日、街を案内しますね」

「ありがとうございます。とても楽しみです」

しばらく二人で景色を眺めていたが、イゾルデが呟くように言った。

「あの……先ほどおっしゃったことですが……」

「はい、自分は本気です」

「スルト様……」

イゾルデはスルトを見つめた。

「でも焦らずゆっくりイゾルデさんと仲良くなりたいかなって……どうかしましたか?」

何か迷いを秘めたような表情で俯く彼女を見て、スルトは尋ねた。

「あの、後ほど少しお時間を頂けませんか? お話しないといけないことが」

「あ、はい。じゃあ、夕食の後でいかがですか?」

「ありがとうございます。それでは一度両親のところに戻って荷解きなど済ませてきますね」

イゾルデはいつもの笑顔に戻り、スルトと共にテラスを後にした。

(なんだろう……実は婚約者がいる、とか? 貴族の作法とかさっぱりだし貴族令嬢モノみたいなのは嫌だなぁ)

 * * *

ロイエン男爵夫妻らとの夕食を終え、スルトとイゾルデは談話室のソファに並んで座っていた。

「実は……スルト様に最初に声をかけたのはリーン様に勧められたからなんです」

「え? そうなんですか?」

(婚約者じゃなかった。しかし突然リーンさんが出てきたな)

「はい」

「話が見えないんですが、なにか問題が?」

「その……最初から全てお話します。私の父は男爵ですが辺境の貴族なんです」

スルトは静かに耳を傾けた。

「いつもあの調子なので領地を増やす野心もなかったのですが、以前たまたま家族全員が招待されたパーティーでリーン様に声をかけて頂いて……」

「なるほど」

「それからなにからなにまで手を尽くしてくださり、社交界でも私の名前が知られるようになったんです」

「陛下が社交界で注目の的だって言ってましたもんね」

スルトがそう言うと、イゾルデは少し気恥ずかしそうな表情を浮かべた。

「でも……やはり他の貴族家からは疎まれているんです。陰では田舎者だと言われています」

「そんなことを言う奴が。見苦しい嫉妬ですね」

イゾルデが微かに驚いた表情を見せる。

「そんな折に勇者様が帝国に来られて、すぐに陛下にとって最も大事な臣下となったのを見て……リーン様が私にスルト様と親交を深めて、その……婚約を、と」

「なるほど。先ほどまでのお話だと勇者の権威があれば諸々解決すると。でも勇者だけど子爵だからポラン侯爵なんかに比べると全然足りないんじゃ。足りそうですか?」

淡々と語るスルトを見て、イゾルデは困惑した様子で尋ねる。

「あの……スルト様はこのような話をお聞きになってお怒りになられないのですか? 私がそのような目的で近付いたと」

「怒る? イゾルデさんみたいな良い人なら大歓迎ですよ」

(でも確かに元の世界で自分に金と地位があったら絶対警戒してた気がする。こっちだとなんか爵位も財産も現実味がないからかなぁ)

「スルト様はドミニス陛下とどこか似ていますね。あの方も……あ、すみません」

「いえ。でもどうしてそんな話を? 話してくれたのは嬉しいですけど仮に自分が怒って白紙になったらリーン様が怒るんじゃ」

イゾルデは顔を上げ、続けた。

「それが……リーン様がスルト様にこの話を伝えるように、と」

「えっ?!」

(やっぱりあの人ちょっとおかしい!)

「スルト様なら必ず理解して頂けると。それに私から話せばその……信頼してもらえる、と」

「それ言っちゃったら意味ないんじゃ……話をまとめると、婚約すればイゾルデさんへの陰口が減って、リーン様も満足ってことですね?」

「え……ま、まぁそういうこと……になりますね。よろしいのですか?」

「はい。皇都で伝えるタイミングを逃してしまいましたが、自分はイゾルデさんが好きですから」

スルトのまっすぐな言葉にイゾルデは一瞬目を見開き、それから彼を見つめて言った。

「ありがとうございます。私も……お慕いしています。これは本心です」

しばらくの間、二人は見つめ合っていたが、やがてスルトが気恥ずかしそうに口を開く。

「でもちょっと意外ですね。リーン様って物静かなのに貴族の権力争いとかするんですね」

「ふふ、勇者様でも勘違いされることはあるんですね。リーン様が全ての貴族を掌握されているんです」

「そうなんだ……えっ?! 陛下ではなく?」

スルトが驚きの声を上げた。

「はい。リーン様は人の心を見抜く天賦の才をお持ちなんです。それに陛下はあまりそういったことに興味を持たれないので」

「んんん? でもドミニス陛下は今まで貴族とか粛清しまくってるって噂で聞いたけど」

スルトがそう言うと、イゾルデは意味深な笑みを浮かべる。

「えーっ! あの人やっぱりこわっ! あっ、心の声が出ちゃった!」

「聞かなかったことにしておきますね」

イゾルデは思わず苦笑した。

そのまま二人は、和やかに婚約の相談や明日の案内の計画を話し続けた。

 * * *

次の日の早朝。

商人たちが開店の準備に追われ始めた市場の喧騒の中に、スルトの姿があった。目深にフードを被り、古びた書物を並べている露店へと近づく。

「サトウさん」

声をかけると、サトウはスルトに気付き、何も言わずに背を向けて歩き出した。その背中を追って、スルトも路地裏の小さな建物へと足を踏み入れる。

奥の部屋に通されると、待っていた一人の男性が椅子から立ち上がった。

「お待ちしておりました」

「伝言は受け取ったよ。あんたは?」

「名も所属もないただの仲介人でございます」

「そっか。悪いけど、まだあんた達も依頼主も信用してないんだ」

「なるほど。それでは依頼主からの伝言をお伝えします。 ”もし手紙が読めたのなら対立よりも対話を選びたい” 以上です」

(どうしたものかなぁ……そもそも魔王と和解してお互い楽しく暮らす、なんて女神様が許してくれるんだろうか)

「なるほど。じゃあ依頼主にこれだけ伝えてくれ。 ”対話したいならモルドラスはあきらめろ” と」

「承知しました。必ず伝えます」

「返事が来たら連絡してくれ」

立ち去ろうとするスルトを男が引き留める。

「少々お待ちを。依頼主から預かっている品がございます」

スルトが怪訝な顔を向ける中、男はテーブルの上に一つの箱と、書類の束を置いた。

「これは……新聞か? こっちは……」

(靴……? 女性用か?)

「これを渡せと?」

「はい」

スルトは何も言わず、箱と新聞の束を抱えると、足早に建物から出ていった。


【Invocation Protocol: ARIA/Target:Surtr】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...