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第二部《転生者VS転生者》編
第105話【開戦前夜】
しおりを挟むガイロス帝国の主要貴族たちに対し、皇都マグナ・ドミナへの招集命令が下された。
アレサンドにある勇者の館の前で、出発を前にしたスルトはアラム男爵とスイレンに向き合っていた。
「アラム男爵、スイレンさん。私が不在の間、すみませんがよろしくお願いします」
「承知しました。しかし、異例の早さですね。モルドラス侵攻は来年かと考えておりましたが」
アラムは真剣な面持ちで応じる。
「まだオーレリアとの戦争が終わって半年も経っていないですしね。陛下はやはり魔王を意識しているのかもしれません」
「魔王ですか……。しかし、陛下と勇者様ならば必ずや勝利されると信じております」
アラムの言葉に、傍らのスイレンも同意を示すように頷いた。そして、彼女は問いかける。
「スルト様、このような状況ですがイゾルデ様とは予定通り婚約されるのでしょうか?」
「はい。昨日、手紙が来ましたがまだ皇都に滞在されているそうなのでご両親にも正式に伝えてきます。お披露目はリーン様と相談かな」
「承知しました。イゾルデ様は領地に戻られるのですか?」
「そうですね、多分そうなると思います」
スルトが答えると、スイレンは少し考えるような仕草を見せてから言った。
「それでは正式なご結婚は年が明けてから、ですね。もちろん戦況にもよると思いますが」
「スルト様のお力なら年内に勝利されてお戻りになられるでしょう」
アラムの力強い言葉に、スイレンも頷く。
「そうなるように頑張ってきます。それではいってきます!」
スルトは元気よく言うと、馬車に乗り込んだ。
* * *
皇宮の広間には帝国の主要貴族が一堂に会し、重々しい雰囲気の中で軍議が開かれていた。玉座に座るドミニスは、列席する者たちを見回してから口火を切った。
「皆、よく集まってくれた。すでに準備を進めてもらっているが、近日中にモルドラス都市国家に宣戦布告する」
広間がどよめくが、それはすぐに静まり返り、全員が固唾を飲んで次の言葉を待った。
「本来であれば年内の収穫を待ってから来年、とすべきだが魔王が西進してくる可能性がある以上、モルドラスを速やかに支配下に置く」
魔王の名が出た瞬間、全員の表情に緊張が走る。
「ただ、どうしても支障が出るというなら辞退してもらっても構わない」
辞退という言葉に再びざわめきが広がり、貴族たちは互いに顔を見合わせた。
「その代わり、モルドラスからの戦勝金の分配や占領後の領地割譲では当然外れてもらう。貴公らはすでにオーレリアの戦勝金で相当に潤っているだろうからこの意味はわかるだろう。なぁ、ポラン侯爵?」
「はい、正直に申し上げましてこれほど帝国、そして我々に利益をもたらすのかと驚いております。オーレリアの各都市を治めるにも貴族の人手が足りないぐらいです」
ポランが冗談めかして言うと、緊張していた室内に安堵の混じった笑い声が上がった。
「それは結構なことだ。ただ、すまないがポラン侯爵は今回の戦いからは外れてオーレリアの統治に専念してほしい」
「承知しました。次の機会に備えて万全の統治体制を整えます」
ポランが一礼する。静かにやり取りを聞いていたシューメル侯爵が、一歩前へと進み出た。
「畏れながら陛下、今回の戦いは私に指揮をお任せ頂けませんか?」
「ほう。ポラン侯爵に触発されたのか? それとも貴公はモルドラスが欲しいのか?」
「両方にございます、陛下。ただ、私欲は否定いたしませんが、なによりも信仰のため、そして陛下のために命を賭して働く所存です」
「はは、正直だな。では貴公に任せる」
「ありがとうございます!」
シューメル侯爵は、感極まった様子で深々と頭を下げた。ドミニスが続ける。
「今回の戦争はオーレリアの戦奴を有効活用してくれ。そして私も前線に出る。私とスルトでさっさと片付けるとしよう」
皇帝親征の宣言に、室内は再び大きくどよめいた。ドミニスの視線を受けたスルトは、力強く頷いてみせる。
「それでしたら私の仕事は指揮をしているフリだけになってしまいますな!」
シューメルが豪快に笑いながら言うと、釣られるように全員が笑い声を上げた。軍議は、活気に満ちた空気の中で幕を閉じた。
* * *
その後、スルトはイゾルデの両親に正式に婚約を申し込み、イゾルデと共にリーンを訪れた。開戦が目前に迫る中、皇宮にて急遽婚約発表のパーティーが催される運びとなった。
煌びやかなパーティー会場で一通りの挨拶を終えたスルトとイゾルデは、喧騒を避けてテラスへと出ていた。夜風が心地よく吹き抜ける。
「やっと一息つけた。みんな話が長すぎて。あ、すみません。でも婚約したんだからこういう話しても大丈夫ですよね?」
「もちろんです、スルト様」
イゾルデはクスクスと笑った。
「これからは二人のときは”様”はやめませんか? もちろん無理にとは言いませんが」
「わかりました。それでは……スルトさん」
二人は顔を見合わせて笑い合った。
「もうまもなく出立されるのですよね? 寂しくなります」
「自分も寂しいです。でも手紙は必ず出します。ところで、本当に領地に戻られるんですか?」
「はい。リーン様は皇都に留まるなら手配して頂けるとのことでしたが、ご負担をおかけするのは申し訳ないので」
「そうですね。ではなるべく早く戻って迎えに行きますね」
「その日が待ち遠しいです。ずっとお待ちしています」
二人が穏やかな時間を過ごしていると、静かにリーンが歩み寄ってきた。
「少しスルト様をお借りしても?」
「もちろんです、リーン様」
イゾルデは優雅に一礼すると、スルトに微笑みかけてから広間の方へと戻っていった。
(うっ……直接話すのは初めてかも……)
スルトが密かに身構えていると、リーンが口を開く。
「スルト様は私とお話するのは嫌ですか? そのような顔をされると少し傷ついてしまいます」
「えっ?! そんな顔してました? すみません!」
スルトが慌ててしきりに頭を下げると、リーンは柔らかく微笑んだ。
「冗談です。スルト様も今後は帝国有数の貴族としてイゾルデさんを守ってあげてください」
「はい。頑張ります」
「少し私の話をしてもよろしいですか?」
「もちろんです」
(なんだろう。聞かない方がいい気もする)
リーンは夜景を見つめながら静かに語り始めた。
「私は元々侯爵家の娘でした。先帝の頃に父は派閥争いに敗れ、爵位を剥奪され、領地も追われ、奴隷のような生活をしていました」
(超重い話来た。どうしよう)
「母は心労で倒れて亡くなり、後を追うように父も兄も妹も皆死んでしまいました。私も諦めかけた頃、幸運にもドミニス陛下に拾い上げていただいたのです」
「そう……だったんですね」
「その後、先帝の崩御もあり、ドミニス陛下はあっという間に頂点まで上り詰めました」
(今なら確信できるけど、絶対暗殺だよね)
「その過程でかつての政敵や私を悪しざまに言った者たちは全員排除されました。こうして地に堕ちた私の魂は救われたのです」
「えっと、その……」
「その後、ドミニス陛下が女神アリアに選ばれし者だと知って納得しました。まさに神の救済ですね」
リーンが陶酔したように微笑むと、スルトは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
「すみません、少し話が飛躍してしまいました。実はイゾルデさんに対して陰で悪く言う者が多いのです。彼女からお聞きになりましたか?」
「は、はい! 自分が彼女を絶対に守ってみせます」
「頼もしいです。スルト様は神の代理人ですからきっと陛下と同じように彼女を救ってくれますね」
「はい、任せてください!」
(ん、あれ? 同じように……? あの人のやり方って片っ端から斬るスタイルでは?)
リーンは満足そうに笑みを浮かべると、スルトを促して広間へと戻っていった。
* * *
それから程なくして、ガイロス帝国はモルドラス都市国家に対し、正式に宣戦布告を行った。
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