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第二部《転生者VS転生者》編
第119話【勇者スルト、北部に向かう】
しおりを挟むアレサンド郊外。静寂に包まれた墓地の奥深くに、その屋敷はひっそりと佇んでいる。
闇に紛れて活動する組織”レイヴンズ”の拠点で、主であるスルトと、彼に忠誠を誓うアドリアンたちが集結していた。
スルトが短く切り出す。
「それじゃアドリアン、留守中のことは頼むよ」
アドリアンは深く頭を垂れた。
「承知しました。我々の命に代えましても夫人をお守りします。直接の護衛は衛兵団から出してもらいます」
「連絡は密にするけど、さっさと片付けてくるよ」
「御武運を」
アドリアンの力強い言葉を背に、スルトは拠点を後にした。
* * *
別の日。場所は変わって、アレサンド中心部。
活気ある大通りに面したカフェの最上階にある一室は”フェアリーズ”の拠点として機能している。スルトはフェアベルたちとテーブルを囲んでいた。
「サロンの開設準備はどう? 間に合いそうなら初日に自分も出るよ」
スルトの言葉に、フェアベルが手元の資料を確認しながら答える。
「ありがとうございます。すでに招待状も送付済みですのでお願いしてもよろしいですか?」
「了解。あと細かいお願いだけど、あまり神格化しすぎると逆に孤独になるかもしれないから交友関係も気を配ってもらえる?」
妻の立場を案じるスルトに、フェアベルは頷いた。
「はい。奥様は社交的な方ですので大丈夫だと思いますけれど」
「まぁ一応ね。フェアベルも買い物とかお茶とか誘ってあげて」
その過保護とも取れる気遣いに、同席していた他の女性がくすりと笑って口を挟んだ。
「これほど愛されて奥様は幸せですね。羨ましいです」
「はは。フェアベル、アレサンドが安定したらゾディアンにも巣を広げる方向で考えておいて」
フェアベルは真摯な眼差しを向けた。
「承知しました。スルト様が不在になるのでしばらく様子を見ますが、準備は進めますね」
* * *
そして、出発の日がやってきた。
屋敷の居間には、イゾルデを中心に、アラム子爵、スイレン、そして使用人たちが集まっていた。旅装を整えたスルトが、皆を見渡して切り出す。
「それでは名残惜しいですがそろそろ行きますね」
スルトが言うと、アラムが一歩進み出て深々と頭を下げた。
「はい。御武運をお祈りしております」
続いて、スイレンが気遣わしげな表情で言葉を続ける。
「北部は冬になると大変厳しいと聞きますので体調にはお気をつけ下さい」
「はい。ありがとうございます。館とアレサンドのこと頼みます」
主の出立を前に、部屋には重苦しい沈黙が漂う。その空気を払拭するように、スルトはあえて明るい声を出した。
「帰ってきたらイゾルデさんと新婚旅行に行きますが、領内が落ち着いたら次はみんなで旅行に行きましょう」
その提案を聞いて、イゾルデを含め、全員の表情がパッと明るくなる。アラムが顔をほころばせて応じた。
「それはとても楽しみです。それまで皆で一丸となって働きますので」
スルトは満足そうに頷くと、席を立ち上がった。館の入口まで来ると、見送りに来たイゾルデが足を止めて言った。
「本当に行ってしまうんですね。お帰りをお待ちしています。毎日手紙も書きますから」
そう言って、彼女はたまらずといった様子でスルトの胸に飛び込む。スルトは受け止めながら苦笑した。
「イゾルデさん、みんな見てますよ」
「構いません。ここが私の居場所です」
スルトは優しく、力強くイゾルデを抱きしめる。互いの温もりを確かめ合うようにしばらく静止し、やがてスルトはゆっくりと腕を離した。
「それでは、行ってきます!」
* * *
スルトは皇都に立ち寄り、ドミニスへの報告を済ませると、そのまま休むことなくモルドラスへと向かった。
ソイルタウンにある領主館に到着すると、既に準備を整えていたシューメル侯爵が出迎え、中へと案内した。
「お待ちしておりました。スルト様」
「ありがとうございます。軍の方はいかがですか」
「いつでも出られるように待機させています」
万全の態勢との報告に、スルトは頷くと少し冗談混じりに言った。
「承知しました。それでは預かりますね。なるべく無傷でお返しできるように頑張ります」
「ご配慮ありがとうございます。ですが思う存分、使ってやって下さい」
* * *
北部へ向かいながらスルトは馬上で思案にふけっていた。 風が頬を撫でる中、思考はこれからの戦いと、その先の未来へと巡る。
(さっさと片付けて1日でも早く帰らないと。新婚旅行もあるし、子どもだってできるかもしれない)
(せっかくアレサンドも盤石になりつつあるんだ。いい加減、異世界ライフ満喫したい)
(北部を叩けば魔軍とぶつかる可能性はあるけど、魔王国って大陸南東みたいだし北部はどう頑張っても手薄になる)
(恐らく中央のファーレン王国で魔王とぶつかることになる。北部を押さえれば北と西から侵攻できるな)
(いくら魔王でも勇者とあの化け物じみた皇帝の2人が相手じゃ厳しいだろう。同郷とはいえ退場してもらおう)
(魔王倒したらミッションクリアってことで女神様から報酬もらえるかな。でも今更別の異世界ってのも微妙)
(でもなぁ、この世界にいるとあの皇帝が世界征服するまで延々今回みたいな出張が続きそう)
(正直邪魔だよね。世界征服なんてどうでもいいし。いっそ自分が皇帝になるとか)
(倒せるかなぁ。いや、そもそも過大評価しすぎじゃないか? いくら強くてもただの人間、勇者に勝てるわけがない)
(なんかこれまでなんとなく流されてやってきたけど魔王倒したらちゃんと考えよう。イゾルデさんのためにも)
漠然とした野心を胸に秘めつつ、スルトは決心したように前を見据えた。
軍はレモア共和国との国境を越え、いよいよ北部への侵攻を開始した。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:Surtr】
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