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第一部《魔王VS勇者》編
第4話【魔王山田、空を飛ぶ】
しおりを挟む山田は室内でふわふわと宙に浮いていた。
ファンタジー世界で習得した《フライ》の魔法――その効果を試すため、何度も上下左右にゆるく動いている。
(これ最高だなぁ……飛んじゃってるよ、俺……)
軽く天井スレスレまで上昇しては、またゆっくり降下する。
(酔わないな、これも補正か……あ、でも魔力使ってるんだよな?……今度、ずっと浮いてたらどれくらいで倦怠感が来るか検証してみるか)
「お呼びでしょうか、魔王様」
サイリスが静かに部屋へと入ってきた。
「尋問を頼んだのに、いきなり呼びつけてすまない。急ぎで聞きたいことがあってな」
「尋問でしたら、すでに終わっております」
山田は少し考えてから言った。
「……さっきのは芝居か。優秀だな」
サイリスは深く頭を下げた。
「恐縮です。尋問内容をお伝えしますか?」
「いや、勇者について知りたい。詳しいと聞いている」
「皆が持っている情報と、大差はございません」
山田はじっとサイリスを見つめる。
「……つまらん駆け引きは好きじゃない。要求はなんだ?」
沈黙の後、サイリスは膝をついた。
「魔王様にお願いがございます」
「なんだ? 言ってみろ」
「魔王様の魔力を、ほんの少しで構いません。譲渡していただけないでしょうか」
(譲渡? なんだそれ……)
「……自分が何を言ってるのか、理解してるんだろうな?」
「はい、もしご気分を害されたのでしたらいかなる処罰も受ける覚悟でございます」
(軽く脅して探ってみたけどあんまり意味なかったな……)
「目的は?」
「“魔の深淵”を」
(もし譲った途端に魔王化してクーデター起こされたらゲーム終了だな……)
「譲渡したら、すべて情報を出すんだな?」
「もちろんでございます」
山田はしばし黙り、跪くサイリスを見る。
彼女は微動だにせず、山田の答えを待っていた。
「……やり方は?」
「私の額に、手を」
山田は無言で手をかざす。
(譲渡、譲渡……ちょびっとだけ、1滴……)
「う、ああああああっ!!」
直後、サイリスが絶叫し、床にうずくまった。
(なんだ!? 失敗したのか? 倦怠感もないし、ほんの少しでイメージしたのに)
しばらくして様子が落ち着くと、サイリスは起き上がり、歓喜の笑みを浮かべた。
「魔王様、ありがとうございます。 今まで感じたことのない強大な魔力を感じます」
「それはよかった。 なにか変わったことは?」
「恐らく、魔力量が大幅に増えて新たに魔法が習得可能になったかと」
(ふーん、これいいな。報酬として使えそうだ)
「じゃあ早速だが、先代のように勇者は俺を倒しに来ると思うか?」
「魔王様は人類にとって最大の脅威ですので、間違いなく来るかと」
「スペックは?」
「近接戦闘は敵なし、多種多様な魔法はどれも強大。加えて、今代の勇者は遠距離砲撃も可能です。そして最大の脅威は“魔王様が勇者に対して力を発揮できないこと”です」
「……俺が?」
「はい。強大な力を有していた先代魔王様も勇者に対してだけは力を発揮できず、敗北されたそうです」
(対魔王特化の勇者補正かよ……クソゲーじゃねーか)
「その勇者、今、空飛んできたら大ピンチじゃないか?」
「人間は《フライ》を習得できません。勇者も同様です」
(おお、それは最高の情報だな。習得して正解だった。飛行兵も山ほど増やさないと)
「サイリス、俺の直属になる気はないか? 近衛兵団のトップとか」
サイリスが驚いて目を見開く。
「優秀な人材は近くに置きたい。まだ会ってないが兵団トップはお前より優秀か?」
「……凡庸な男です」
「ははっ。働き次第では追加で魔力を譲渡するぞ」
サイリスの目が輝く。
「是非お受けしたいと存じます!」
「決まりだな。第2軍は使える奴に引き継いでくれ。尋問結果は幹部全員と共有する」
* * *
会議室に幹部全員が集まっていた。緊張感が漂う中、山田が口を開く。
「まず言っておく。このままだと魔族は滅ぶ。そのつもりで話を聞くように」
会議室がざわつく。ガイアが立ち上がる。
「どういうことですか? 魔王様がいらっしゃるのに……」
「あれだけ“魔王誕生”を見せびらかしたんだ。次はあれ以上の大軍が来るぞ」
「で、ですが魔王様のお力があれば――」
「あの障壁を見ただろ? 次は万全の対策で来るぞ、俺が封じられて突破されたら魔族は全滅だ」
「それは……」
「さて、まずは魔王近衛兵団を“魔王親衛隊”に改名して俺の直属にする。サイリスをトップに据える。異論は認めない」
会議室がどよめく。
「サイリス、第2軍から偵察・情報管理・工作向きの部隊を選抜し、親衛隊に組み込め」
「承知しました」
「後任は?」
女性の魔族が一歩前に出た。やや硬い動きで敬礼をし、真っすぐに山田を見据える。
「ギギと申します。全力で努めさせていただきます」
山田が頷く。
「サイリス、尋問結果の報告を」
「はい、尋問した全員が魔王様の降臨を確定事項として認識していました。又、ヘラン方面の連合軍がほぼ全て動員されたようです。」
「やはりなんらかの方法で知ったんだろうな。ネイ、伝言は敵軍に届けたか?」
「はい、派遣した者も生きたまま戻ってまいりました」
「そうか、交渉したいと言ってきたらなるべくダラダラ長引かせろ。次に、セラ」
「は、はいっ!」
「《フライ》の習得は何人まで可能だ?」
「特に制限はございません、魔王様」
「ギギ、第2軍で習得可能な者全員に覚えさせろ」
「恐れながら、他の魔法を習得できなくなる者が多く、ためらう者も多いかと……」
「これは命令だ。ためらう奴には魔族が滅んで家族が全員死ぬのとどっちがマシかと言え」
「承知しました」
「習得できた者は第3軍へ。ネイ、サイリスとの連携を密にしてくれ」
「はっ、承知しました!」
山田は一呼吸入れるとガイアを見る。
「ガイア、第1軍には重要な任務を与える。サイリスから勇者の情報を聞いてヤツが出てきたときの対策を考えろ」
「ははっ! 承りました!」
サイリスも静かに頷く。
「今後の戦略方針を伝える。第1軍と第2軍は、前線の要塞防衛に専念しろ」
「承知しました」とガイアとギギが声を揃える。
「第3軍については後ほど指示するが、敵の兵站を叩く」
「了解いたしました」とネイが応じる。
「ダリス、第4軍は機動的に動けるか?」
「もちろんです。何なりと」
「敵軍とはち合わせないようにしながら、人間の村を回って襲撃し、畑を焼いてこい」
会議室が静まり返る。
「そ、それはどういう……?」とダリス。
「言った通りだ。無抵抗の人間は殺さず、捕虜として捕らえてこい。焼く前に、食料は全部奪え。返事は?」
「……承知しました」
「以上だ。全力で当たれ」
全員が一斉に立ち上がり、声を揃えて応えた。
「はっ!」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】
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