スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

文字の大きさ
66 / 113

第66話 プライド

しおりを挟む
 食事と歯磨きとトイレを終え、僕はまたインフェニティ・スペースの世界に戻ってきた。

「おはよう。準備はいいかい?」

 カプセルベッドから起きると、すぐさまイヴさんがそう尋ねてきた。

「はい。元気満々ですっ!」
「そりゃ結構。準備は整ってる。行こうぜ」

 イヴさんは新しいタバコを手に取り、また咥える。イヴさんの席にある灰皿は吸殻で埋まっており、如何に彼女が落ち着かなかったかわかる。

 そりゃそうか。もう瀬戸際だもんね。今回の運搬は絶対に成功させないとならない。

「ほれ」

 イヴさんは成長する狙撃銃――スタークを僕に投げる。僕はスタークをキャッチする。

「先払いだ。使ってくれ」
「いいんですか?」
「少しでもお前さんには強い状態で居て欲しいからな。まだ未熟な銃とはいえ、お前さんが持ってるライフルよかは性能いいだろ?」

 数値を見た感じ、射程は今使っている方が上だけど、威力はこっちが上だ。使い勝手も。

「はい」
「なら使ってくれ」
「あ、ありがとうございます!」

 僕とイヴさんは表に出てトラックに乗り込む。

「一応共有しておくけど、荷物はTW式ガトリング砲にTW式対物ライフル、他銃火器21点と鉱石200kgだ」
(やっぱりあのガトリング砲は積み荷だったんだなぁ)
「目的地はここから16km先にあるナドラ研究所だ。この研究所のオーナーのナドラさんがお得意さんでな、どれだけ失敗してもあたしを見限らず依頼をくれる」

 イヴさんはエンジンを掛け、トラックを走らせる。現実のトラックに比べ倍以上に速い。

「盗賊についても聞いていいですか?」
「すまん。盗賊についてはよくわかっていない。わかっているのは常に20人規模で動き、全員が頭のてっぺんからひざ下まである砂色のマントを装備している」

 砂色のマント?

「もしかして、ダストミラージュですか」
「その通り。砂に溶け込み姿を消し、奇襲を仕掛けてくる。盗賊団の名前も、そのメンバーの顔も名前も何一つわからない」
「了解です。イヴさん、フレンドコードを交換しておきましょう」
「おう」

 僕らは手早く互いをフレンド登録する。

「では僕は荷台の上に居ます。会話はフレンド通話でしましょう」
「いいのか? 結構揺れるぞ」
「構いません。助手席だと身動きが取りづらくて敵襲に備えにくいですし、それに視野も狭い。荷台の上の方が色々と都合がいいのです」

 あと……情けない話、イヴさんが近くに居ると緊張で本気を出せない。

「そりゃ確かにな。わかった」

 僕は扉を開け、外に飛び出し、スラスターを使って荷台の上に上がる。

(街の外。ここが、オケアノスの砂漠)

 ジョリーロジャーを出て、大砂漠に出る。

「うわぁ……!」

 照り輝く太陽ディフューザー。空を覆う青空! 雲1つない。
 砂原ではあるが、まったく砂しかないわけではない。山もあるし、遠くには樹海のような緑の地も見える。結構遠いけどピラミッドもある。

 景色に見惚れそうになるけど、気を抜いちゃいけない。
 
 荷台の上から周囲を注意深く観察する。

(ダストミラージュを使ってるならレーダーは頼りにならないな)

 砂上ではステルス性が2.5倍になり、更に砂の上で3秒いると砂に溶け込み姿を消す。
 1度砂の惑星でダストミラージュの透明化機能を試したけど、完全に姿が透明になっていた。けれど、見分け方もある。姿も影も無いけど足跡はきっちり残っているし、砂が風に乗っているこういう場所だとスペースガールが居るその部分だけ砂が綺麗に避けていて違和感がある。注視すればわかる。

(なんか僕、砂漠にばかりいる気がするなぁ……)

 別にいいけどね。暑くないし。

『シキ、聞こえるか?』

 イヴさんからのフレンド通話だ。

「はい。大丈夫です」
『いま取引先のナドラさんから通話が来てる。会話に参加する必要はないが一応お前さんも話を耳に入れておいてくれ』
「わかりました」

 ピ。という効果音の後、知らない女性の声が耳に入ってきた。

YAヤー! イヴちゃん、今は荷物を運んでいる最中かな?』

 軽快な大人の女性の声。

『はいナドラさん。滞りなく運搬中です。もう40分ほどで着くでしょう』
『そりゃ結構。こっちは安心して待っていていいんだね?』
『もちろんです。運搬屋のプライドにかけて、荷物は届けます』
『うんうん。私は君のそういう誇り高いところを信頼しているんだ。コーヒーを淹れて待っているよ。イヴちゃん』
『はい。すっ飛ばして行きます!』

 通話が切れる。

「良い人そうですね」
『ついでに物好きさ。こんな失敗続きのボンクラドライバーを信じているんだからな。あの人の期待だけは裏切れない……絶対に、コイツらは届ける』

 イヴさんの声からは強い意志を感じる。

「はい。届けましょう絶対。そのためにもまず――ハンドルを右に切ってください」
『なに?』

 僕はスナイパーライフル『スターク』を構えて、正面500m地点に向かって撃つ。レーザー弾は伸びていき、虚空にその場所を撃ち抜く。すると、レーザー弾が通った空間が歪み、胸に穴を空けたスペースガールが現れ、爆発した。

『うおっ!?』

 イヴさんがハンドルを右に切り、トラックは右折する。

(風景に溶け込むと言っても完璧じゃない。どうしても僅かな歪みは出る)

 砂漠のあちこちからスペースガールが現れた。スペースガールは全員ダストミラージュを被っており、しかも全員が右腕を銃に改造していた。

「それじゃスペースガールじゃなくて、スペースパイレーツですよ!」

 どのスペースガールも距離がある。いくらスラスターをフル回転させても、このトラックの速度には追いつけまい。しかしここで予想外の展開が起きる。スペースガールの集団の近くにある砂山の1つが砕け散り、中から大量のバイクが飛び出してきたのだ。

(バイク!? しかも、ひとりでに動いている。自律型か!?)

 スペースガール達はバイクに乗り込み、トラックを追ってくる。
 僕はライフルでスペースガールを狙うが、上手く躱されてしまう。

(良い反応……だけどなんだ、違和感がある。全員、回避の動作が似ている気がする)

 とにかく状況が悪い。

(足はバイクの方が上、このままじゃじきに……)
『ちくしょう……』

 悔しそうな声が通信の先から聞こえる。

『またかよ……なんであたしばっかり……!』
「イヴさん……」
『リアルじゃ中古車も買えねぇ安月給、レンタカーもこの小さい体じゃ操りがたいモンばかり。大好きな運転を、思う存分できるのはここだけなんだよ。そんなあたしの……小さな幸せを……どうして奪うんだクソ野郎……!』

 バン! とハンドルを叩いたような音が響く。

(僕と同じだ。ゲームの中でしかできないことを、ただ楽しみたいだけ。不自由な現実に耐えるために、自由なゲームで生きがいを積んでいるだけ。それを邪魔するなんて……許せない)

 そう簡単に諦められるものか。
 このライフル欲しさじゃない。ゲームを心から楽しんでいる、イヴさんのために……!

「イヴさん。あなたはそのまま目的地に向かってください」
『シキ……!?』
運搬屋あなたのプライドにかけて、ハンドルを動かしてください。僕も狙撃手ぼくのプライドにかけて、障害を狙い撃ちます」

 通信の先から小さな笑い声が聞こえる。

『ああ、そうだな。そうするさ! だけどどうする! いくらお前さんでもあの数とスピードは――』
「あります。一手だけ、状況をひっくり返す手が」
『なに!?』

 僕は荷台の中へ目を向ける。

「……最高に心躍る一手です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

無表情ドールマスター

けんはる
ファンタジー
無表情少女香月 ゆずが姉に誘われて始めたVRMMO〈Only Fantasy〉で十天聖の一人に選ばれてしまうが そんなことは関係なく自由に行動していく物語 良ければ 誤字・脱字があれば指摘してください 感想もあれば嬉しいです 小説を書こうでも書いてます

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

兄貴のお嫁さんは異世界のセクシー・エルフ! 巨乳の兄嫁にひと目惚れ!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ファンタジー
夏休み前、友朗は祖父の屋敷の留守を預かっていた。 その屋敷に兄貴と共に兄嫁が現れた。シェリーと言う名の巨乳の美少女エルフだった。 友朗はシェリーにひと目惚れしたが、もちろん兄嫁だ。好きだと告白する事は出来ない。 兄貴とシェリーが仲良くしているのを見ると友朗は嫉妬心が芽生えた。 そして兄貴が事故に遭い、両足を骨折し入院してしまった。 当分の間、友朗はセクシー・エルフのシェリーとふたりっきりで暮らすことになった。

処理中です...