スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

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第85話 約束の時

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「ななな、なんですかコレはぁ!?」

 甲板に上がったイヴさんから新聞を受け取り読む。

「『摩天楼の上の密会』!? 『ラビリンスの愛人』!? 『ラビリンスの狙いはトライアドではなくこの娘』!?」

 イヴさんはにやけ面でタバコを吹かし、

「ラビリンスはダークヒーローだからな。民衆はアイツが盗みに失敗したと認めたくないのさ。そんで、盗みに行ったのはトライアドではなく、お前の唇ってことにしたんだなぁ。かなり無理やりだけどよ」

 無理やり過ぎるよ!

「しかしお前……あたしと別れた後こんなことしてたのか。つれないなぁ。ラビリンスと恋人だったんならあたしに言ってくれてもいいだろうに」
「恋人じゃないですよっ!」

 ていうかキスしている時の僕の顔、目見開いて、顔真っ赤で、みっともない……! 

「!?」

 なんだ? いま、遥か天空の先から怒気どきを感じた!
 ま、まさか……。

「……イヴさん、あの……さすがにですけど、月にまで新聞は届かないですよね~?」
「そりゃ届かねぇさ」
「ですよね~」
「でもこれ、ネット記事にもなってるぞ。ネット記事なら月にも届くんじゃないか?」
「……」

 まさか、見てないよね? 月上さん見てないよね?

「ふ~ん、いいねいいね♪ よく撮れてるじゃん」
「どこがですか!」
「ん? あ、確かにシキちゃんちょっとアホ面~」

 いつの間にか、彼女は僕の後ろにいて、僕の手の新聞を覗き見ていた。

「千尋ちゃ――ふあっ!?」
「ぬは~! 昔と一緒で頬っぺたもっちもち~」

 千尋ちゃんは僕の頬っぺたを引っ張って遊ぶ。

「ていっ!」

 僕は手を振り払い、千尋ちゃんから距離を取る。

(G-AGE!)

 G-AGEを手に取ろうとするが、

(しまった! 武器全部食堂に置きっぱなしだ!)

 千尋ちゃんはラビリンスの姿ではなく、普通の格好。ウサ耳の付いた白のパーカーと赤いミニスカートだ。ラビリンスの時の髪色はピンクメイン、サブカラーでブルーって感じだったけど、今はブルーメインでピンクがサブカラーって感じで配色が変わっている。

「おいおいどうした、なんで臨戦態勢に入ってんだ? コイツと何かあったのか?」
「その女の子はラビリンスです……」
「えぇ!? マジで!?」

 イヴさんはシステムメニューを開いて名前を確認しようとする。

「無駄だよ。当然、プレイヤーネームは隠してる」

 プレイヤーネームはプレイヤーの任意で隠すことができる。怪盗が名前を表示するわけがない。

「……」
「警戒解いてよシキちゃん。今日はラビリンスとして来たわけじゃないの。話したいことがあってさ」
「ちひ――えっと」

 リアルネームである『千尋』という名を呼ぶのはマナー違反だよね。かと言って『ラビリンス』と呼ぶのも……。

「ラビでいいよ」
「ら、ラビちゃん。どんな話かな?」
「私の目的をさ、君にも知ってほしいなって思ってね」

 宝を盗むこと、その行為自体が目的じゃないのかな?

「盗みのスリルを味わうために盗賊やってるんじゃないのか?」
「それも一興。ただ楽しむためだけに盗む時もある。だけど今回、トライアドを狙った事にはちゃんと理由がある。詳しい話は外じゃやだなー。中入れてよ」

 僕とイヴさんは顔を合わせる。イヴさんは『仕方ないだろ』って感じに肩を竦める。僕は頷き、中へラビちゃんを案内する。

「ところでさ、君もめっちゃ可愛いね。ロリっ子好き~。私と一緒にお風呂入らない? 体洗ってあげちゃうよ♪」
「お前さん、免許は持ってるのか? 自動車免許」
「持ってないけど。ていうか取れる歳じゃないし」
「免許取ってから出直せ小娘。車転がせねぇ奴があたしを口説くな」
「え~? ぶーぶー!」

 千尋ちゃん……怪盗らしく女好きになっちゃった……。

(ていうか僕にキスしたクセにさ、すぐにイヴさんナンパするとか……なんか……モヤっとする……!)

 この胸のムカムカは一体……!

「ここで話そう」

 食堂で足を止め、食卓につく。

「ズバリ、私の目的は伝説になること!」

 席につくなりそう言い放つラビちゃん。僕とイヴさんは同時に小さくため息を漏らした。

「もうお前さんは十分伝説じゃないか?」
「まだまだ足りないよ。ねぇねぇお二人さん、伝説になるためにはどうすればいいと思う?」

 また妙な質問を……この奔放な感じ、変わらないなぁ。

「∞アーツを手に入れりゃ伝説になれるだろ」
「それはそうだけど、私が目指しているのは∞アーツじゃないんだな~。武器で有名になるってダサいじゃん。他には何も思いつかない?」
「何かを成すというより、単純にこのゲームで1番強くなれば伝説になれるんじゃないかな?」
「正解! さっすがシキちゃん! その答えが欲しかった。私はね、最強の称号が欲しいんだよ。そのためには越えなくちゃならないでっかい山がある」
「……白い流星か」
「せいっかい!」

 月上さんは最強のプレイヤー。確かに倒したら伝説だ。

「馬鹿かお前。それこそ∞アーツが必須だろうが」

 月上さん、もとい白い流星は∞アーツの『GodAccel』を所持している。アレは強力だ。強すぎる。∞アーツが無ければ同じ土俵にすら立てない。

「それがねぇ、∞アーツが無くても勝てるルートがあるんだよ」

 僕はオークション時、進行役のお姉さんの言っていたことを思い返す。

「トライアド……3つ揃えると揃えた者に力を与える宝珠……」
「ピンポンピンポン! またまた大正解! トライアドはね、3つ揃えると短い時間だけど∞アーツに匹敵する力を持てるらしいんだよね~。それを使って、私は白い流星を仕留める!」
「もしかして、ラビちゃんすでに……」
「うん。トライアドを2つ持ってる。片方は王道のルートで、もう片方は邪道のルートで手に入れた。あとはこの国にある最後の1つを奪えば3つ揃うってわけ」

 ラビちゃんは強い。でもラビちゃんがトライアドを使った所で、月上さんが負けるとは思わない……けれど、

(可能性は0じゃない。ラビちゃんなら、もしかしたら……)

 僕以外の誰かに月上さんが倒される?
 そんなの……絶対に嫌だ。

「ねぇシキちゃん。今こそ、約束を果たす時だよ」
「え?」

 ラビちゃんは右手を差し出してくる。

「私と組もうよ! 一緒にトライアドを揃えて、最強のプレイヤー……白い流星を倒そうよ!」

――『わたしは大怪盗になるから、レイちゃんは最高のガンマンになってよ! わたしがルパンで、レイちゃんが次元大介になるの!』

 いつかの約束が、頭を過る。

「ラビちゃん……」
「一緒に伝説になろう! シキちゃん!」
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