スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

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第96話 夏祭り③

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 僕も月上さんも女子高生だけど、2人とも祭りの経験が無いからまるで小学生のように目に入る屋台に片っ端から突撃していった。

 焼きそば、イカ焼き、焼きとうもろこし。りんご飴、綿あめ、チョコバナナ。金魚すくい、千本つり……食べて飲んで遊び尽くした。お腹はもうパンパンだ。

 月上さんは終始無表情だったけど、ちょっぴり、ほんの少しだけ、最初よりも歩く速度が上がっていた気がする。次へ次へと言わんばかりに。

 楽しんでくれてる……のかな。

「あれ、やりたい」

 月上さんが指さしたのは射的の屋台だ。
 エラく気合が入っていて、3店舗分は場所を取ってる。

「いいですよ! やりましょう!」

 僕の得意分野! アピールチャンス!

「な、並んでますね……」

 祭りの名物なのかな。客が多い。10分近くは待ちそうだ。

「……」
「……」

 祭りに来て初めて、ゆっくりと喋る時間が取れた。

(聞いてみようかな……あのことについて)

 実は月上さんに聞きたいことがある。
 ずっと気になっていたことがある。
 今がチャンスだ。聞いてみよう。

「つ、月上さん。あのですね……その、初ログインで月に転送されたのって僕だけじゃないんですよね?」
「うん。あなた以外にも2人いる。初心者だと気づかない内に倒してしまった人もいるかもしれないけど」
「その……残りの2人について、教えて頂けませんか?」

 月に召喚されるのは月上さんを倒せる素質を持つ者のみ。
 つまり、僕のライバルになる人たちだ。

「教えない」
「え!?」

 あ、あっさり断られてしまった!?

「な、なぜです!?」
「あなただけに教えるのは不公平だから」

 不公平か……言いたいことはわかる。その2人を教えて貰ったら、僕は2人を調べる。もしもどこかで突発的に戦うことになった時、僕だけが相手を知っている状態になる……実力が拮抗しているなら、情報の差が勝敗を分けてしまう。

「でも……片方のヒントはあげる。あの人は、公平とか不公平とか別に気にしないだろうから」

 ヒント……?

「2人の内、1人にはもうあなたは会っている
「え……?」
「私達の番来た。やろう。射的」
「は、はい!」

 すでに会ってる……?

(こ、候補が多すぎてわからない……!?)

 シーナさん? ツバサさん? 六仙さん? ニコさん、クレナイさん、レンさん、ラビちゃん……ざっと考えただけでも7人。絞り切れない……。

(ええい! 今は射的に集中だ!)

 うっ……背中に視線……。

(視線……苦手だ。でも、前よりはまだ大丈夫。月上さんが隣にいるから。月上さんが自信をくれたから……!)

 射的のルールは単純。3発のコルク弾で、景品を棚から落としたらゲットというもの。連続で2回までプレイしていいそうだ。
 僕も月上さんも2プレイずつやって、どっちも全弾命中だった。僕らはその景品の1つであるお面を頭に飾って、人気のない公園で休憩する。

 僕と月上さんは木造りのベンチに座る。

「やっぱり、銃の扱いは上手いね」

 座るなり、月上さんが褒めてきた。さっきの射的のことを言ってるんだと思うけど、

「つ、月上さんも全弾命中だったじゃないですか」

 月上さんは首を横に振る。

「全部当たったけど、棚から落とせたのは3つだけ。でもあなたは、全部棚から落とすことに成功していた。見ただけで商品の重心を完全に把握して、その上で重心を崩せる急所を特定し、的確に撃った。寸分の狂いも無い完璧な射撃、私には真似できない」

 どこか嬉しそうに月上さんは言う。

 月上さんは完璧な人だ。なんでもできる。だからこそ、自分ではできないことをされると嬉しいのかもしれない。普通、完璧主義の人は自分にできないスキルを見ると嫉妬したりするものだと思うけど、月上さんは逆だ。常に自分より何か1つでも優秀な人間を求めている。

「たしかに、射撃には多少の自信はあります。けれど……まだまだです」

 僕の脳裏に浮かぶのはあのヒューマノイド。月上さんのコピーだ。

「……言うか迷いましたけど、僕……月上さんの能力をコピーしたヒューマノイドに負けたのです。月上さんより……遥かに弱いコピーに……」

 あんな劣化品に……!

「そうなんだ。それはショックだね。偽物に負けるようじゃ、本物に勝てるはずがない」
「うっ! ……仰る通りです」
「それに気分が良くないね。自分のコピーを勝手に作られるというのは」

 月上さんは立ち上がり、正面から僕の目を覗き込んでくる。

「……早く倒して欲しいな。あなたに」

 そう言って、頬に手を添えてくる。
 暑さを忘れてしまいそうなくらい、冷たい手だ。

「も、もちろんです! それに関してはハイ! お任せください!」
「それと……もう1つ、気分の良くないことがある」

 月上さんはそう言うとスマホを操作し、ある画像を見せてきた。

「ぶはっ!?」

 それは――とある狙撃手が、とある怪盗とキスをしている画像だ。

「別に、あなたが誰かとキスをすることは自由だけど……」
「違うんです! これは無理やりです! それにバーチャル世界の事なんで、ノーカウントです!」

 な、なんでこんな必死に弁解してるんだろう?
 思ったけど、僕と月上さんってどんな関係だ? 知り合い? 友達? 間違っても恋人ではないし……でも気分は浮気を問い詰められる夫だ。

「キスは初めて?」
「は、はい。でもさっきも言った通り、バーチャルなのでノーカウントです!」
「じゃあ、リアルではまだしたことないんだ」
「はい! もちろ――」

 ひたいに、柔い感触が当たる。

(え……?)

 少し、温かい。指先と違って、夏の暑さを帯びた唇。
 バーチャルの世界とではやはり違う……生身の人間の唇からは、呼吸を感じるんだ。

「リアルの初めては、私のモノだね。唇じゃないけど」

 月上さんは無表情のまま立ち上がり、僕に背を向ける。
 近くの河川敷の辺りで花火が上がる。花火が空を照らした時、月上さんも僅かに照らされた。後ろ姿だけど、月上さんの耳の色がハッキリ見えた。決して赤くはなっておらず、白いまま。無色のままだった。それが意味することは、きっと――

「ウチで預かってる着替えは後で送るから。その浴衣はあげる。また来年も……一緒に祭り、行きたいな」

 月上さんは最後に1度だけ、僕の方を見た。
 呆ける僕の顔を眺めて、ちょっぴり頬を緩めると、そのまま公園を出て行った。

 僕はそれから30分の間、微動だにできなかった。
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