遠くの彼女からのバレンタイン~引っ越してからも続く幼馴染のバレンタインプレゼント~

倉橋敦司

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ゆかりが引っ越した後

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 引っ越してすぐ、ゆかりからメール。

 <元気だから心配しないで!>

 べつに心配してません。
 自分のことはほとんど書かずに、

 <いじめられてないか?><ちゃんと勉強してるか?><吹奏楽の練習、サボってないか?><期末勉強してるか><メール送れ>

 上から目線。超が十ついても足りない不愉快な内容。
 意地悪くニッと笑って、上から目線で僕を見つめる。
 いつもの表情を思い出した。
 毎日、近況をたずねるメールが送られてくる。
 無視してたら、ある晩、スマホが鳴った。電源切ってわざと出なかった。
 すぐにスマホの番号もアドレスも変えた。
 胸がスッキリした。
 そうしたら今度は手紙が送られてきた。封筒が分厚い。
 パソコンに打って、A4の紙にプリントしたのが十枚。
 勝手に電話番号やアドレスを変えたって激怒。
 でも目の前にいなきゃ、どうにもできないよね。
 
 <今度、会ったら覚悟しとくんだよ>
 
 もう会う機会なんてあるでしょうか。アハハハハ。
 僕、鼻で笑った。
 長々、怒りの文章が続いた後はいつもの通り。
 僕の近況を詳しく尋ねるものだった。
 返事なんか出さなかった。



 三年に進級。
 僕への手紙って一週間に一度。二学期の中頃まで送られてきた。
 夏休みに送られてきたときは、

 <ネットで見たけど、吹奏楽の大会の結果は残念だった!お疲れ!>

とか、

 <夏休みどう過ごすの?><受験勉強やってる?しっかり勉強して>

って余計なお世話なことが延々書かれてた
 毎度毎度同じように、返事がないって怒り、電話番号教えろと脅し文句が書いてあった。
 ホッとしたのは、

 <夏休みに会いに来て>

ってなかったこと。
 書いてあっても行かないけど・・・
 ゆかりの「呪縛」から逃れ、それなりに友だちも増えて気軽に話せる女子の友だちもできた。
 夏休みは、そんな友だちと一緒に過ごすんだ。
 二学期の期末テストの頃になると、ゆかりからの手紙も届かなくなった。
 やっとつかんだ平穏な日々
 さすがにゆかりもあきらめたんだろう。
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