極道の男に恋をした夜

micha

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陽だまりの檻

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翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日が、ひまりのまぶたを叩いた。
「……ん……。あ、ヤクザの人!」
飛び起きたひまりが見たのは、血のついたシャツを羽織り、壁に手をついて立ち上がろうとしている厳の背中だった。
傷口から再び血が滲んでいる。
「待ってください! まだ動いちゃダメです!」
「……世話になったな。ここから先は俺の問題だ」
厳は振り返りもせず、玄関へと向かう。その足取りは危うく、今にも崩れ落ちそうだ。
昨夜の冷徹な威圧感は鳴りを潜め、代わりに死を覚悟したような、静かで冷たい決意が漂っていた。
「ダメだってば! 外にはまだ、怖い人たちがいるかもしれないんでしょ?」
「だからだよ。ここに居りゃ、次はテメェが殺される」
厳の低い声が狭い玄関に響く。彼はひまりを突き放すように、ドアノブに手をかけた。
けれど、ひまりは自分の体でドアを塞ぐようにして立ちはだかった。
「……殺されるとか、そんなの分かりません。でも、今あなたを帰したら、あなたが死んじゃうことだけは分かります!」
「どけ、ひまり。……俺を誰だと思ってる」
「九条 厳(くじょう げん)さん。……昨夜、私を傷つけなかった人です」
ひまりは、自分でも驚くほどの力で厳のジャケットの袖をギュッと掴んだ。
見上げれば、厳の瞳が戸惑ったように揺れている。
「……バカが。後悔しても知らねえぞ」
深い溜息とともに、厳は観念したように力を抜いた。
そのままズルズルと玄関に座り込む。大きな体が、ひまりの小さな部屋に再び居座った瞬間だった。
「……腹が減った。何かねえのか」
「えっ? あ……あ、あります! 卵焼きとかでいいですか?」
ついさっきまで命のやり取りをしていたような空気が、ひまりの間の抜けた返事とともに一変した。
厳は呆れたように鼻を鳴らすと、痛む脇腹を押さえながら、狭いソファに深々と体を預けた。
「……卵焼き、甘くしろよ。……俺は、辛いのは嫌いだ」
裏社会の怪物・九条厳と、お人好しの女子大生・ひまり。
絶対に交わるはずのなかった二人の、奇妙で危険な同居生活が幕を開けた。
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