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その男、劇薬につき
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狭いワンルームのアパートに、不釣り合いなほどの威圧感が充満していた。
「……っ、よし。これで全部……かな」
ひまりは震える手で、救急箱の包帯を切り終えた。
床に座らせた厳のシャツをはだけさせ、脇腹の深い傷を処置する。布を浸すたびに洗面器の水が赤く染まっていくのを見て、ひまりは何度も吐き気を飲み込んだ。
当の厳は、麻酔もなしに傷を縫われるような痛みに耐えているはずなのに、表情ひとつ変えない。ただ、獣のような鋭い眼光で、自分の世話を焼くひまりをじっと観察していた。
「……おい」
「ひゃいっ!」
突然声をかけられ、ひまりは変な声を上げて飛び上がった。
「お前、バカか。……俺が誰だか分かってんのか」
「え……あ、はい。多分、その……ヤクザ、さんですよね」
「分かってて入れたのか。……ガキが。俺の連れだと思われりゃ、お前の命もねえぞ」
厳(げん)の声は低く、地を這うような重圧があった。
しかし、ひまりは包帯を巻く手を止めなかった。それどころか、少しだけ眉を下げて、厳の顔を覗き込む。
「だって、そのままにしておけなかったんです。……それに」
「それに?」
「……そんなに怖い顔してるのに、さっきから一度も、私のこと傷つけようとしてないから」
厳の瞳が、わずかに揺れた。
今まで彼に向けられてきたのは、恐怖か、憎悪か、あるいは打算に満ちた媚びだけだった。こんな風に真っ直ぐな、陽だまりのような瞳で自分を見る人間など、この街のどこにもいなかった。
「……名前は」
「ひまり、です」
「ひまり……。ハッ、ヘドが出るほど眩しい名前だな」
厳は自嘲気味に笑うと、ひまりの手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。
抗えない力。視界が反転し、ひまりは彼の胸の中に閉じ込められる形になる。
「いいか、ひまり。一度踏み込めば、二度と普通の日常には戻れねえぞ」
耳元で囁かれる熱い吐息。
恐怖のはずなのに、なぜか心臓がうるさいほどに脈打つのを、ひまりは感じていた。
「……っ、よし。これで全部……かな」
ひまりは震える手で、救急箱の包帯を切り終えた。
床に座らせた厳のシャツをはだけさせ、脇腹の深い傷を処置する。布を浸すたびに洗面器の水が赤く染まっていくのを見て、ひまりは何度も吐き気を飲み込んだ。
当の厳は、麻酔もなしに傷を縫われるような痛みに耐えているはずなのに、表情ひとつ変えない。ただ、獣のような鋭い眼光で、自分の世話を焼くひまりをじっと観察していた。
「……おい」
「ひゃいっ!」
突然声をかけられ、ひまりは変な声を上げて飛び上がった。
「お前、バカか。……俺が誰だか分かってんのか」
「え……あ、はい。多分、その……ヤクザ、さんですよね」
「分かってて入れたのか。……ガキが。俺の連れだと思われりゃ、お前の命もねえぞ」
厳(げん)の声は低く、地を這うような重圧があった。
しかし、ひまりは包帯を巻く手を止めなかった。それどころか、少しだけ眉を下げて、厳の顔を覗き込む。
「だって、そのままにしておけなかったんです。……それに」
「それに?」
「……そんなに怖い顔してるのに、さっきから一度も、私のこと傷つけようとしてないから」
厳の瞳が、わずかに揺れた。
今まで彼に向けられてきたのは、恐怖か、憎悪か、あるいは打算に満ちた媚びだけだった。こんな風に真っ直ぐな、陽だまりのような瞳で自分を見る人間など、この街のどこにもいなかった。
「……名前は」
「ひまり、です」
「ひまり……。ハッ、ヘドが出るほど眩しい名前だな」
厳は自嘲気味に笑うと、ひまりの手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。
抗えない力。視界が反転し、ひまりは彼の胸の中に閉じ込められる形になる。
「いいか、ひまり。一度踏み込めば、二度と普通の日常には戻れねえぞ」
耳元で囁かれる熱い吐息。
恐怖のはずなのに、なぜか心臓がうるさいほどに脈打つのを、ひまりは感じていた。
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