極道の男に恋をした夜

micha

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離さないための

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「……厳さん、ごめんなさい。私、ただ、怖くなって足が止まっちゃって……」
玄関先に辿り着いたものの、厳に腕を掴まれたままのひまりは、消え入りそうな声で謝った。厳の横顔は、彫刻のように硬く、冷たい。
「……黙ってろ」
厳は一言だけ吐き捨てると、ひまりを自分の正面に向かせた。
周囲には、何が起きたのかと様子を伺う松岡や宇佐美、そして大勢の組員たちが控えている。その視線が痛いほど突き刺さる。
「若、ひまり様をお部屋へご案内しましょうか」
宇佐美が静かに歩み寄るが、厳はそれを手制した。
「……いや。こいつは、俺が連れて行く」
次の瞬間、ひまりの視界が大きく揺れた。
「っ、え……!?」
厳の太い腕が、ひまりの背中と膝裏を強引に掬い上げる。衆人環視の中、ひまりは軽々と抱き上げられていた。
「厳さん!? 自分で歩けます、下ろしてください! みんな見てるし……!」
「歩かせた結果がさっきの遭難だ。二度目はねえ」
厳はひまりの抗議を完全に無視し、彼女を胸の中に閉じ込めるように強く抱きしめた。
まだ熱が完全には下がっていないはずなのに、その腕は岩のように揺るぎない。
広い廊下を歩くたび、すれ違う組員たちが驚きで目を見開き、慌てて頭を下げる。
「お、お疲れ様ですッ!」
「……若、あんなに甘々だったか……?」というヒソヒソ声が背後から聞こえてくるが、厳の耳には届いていないようだった。
「……厳さん、恥ずかしいよ……」
ひまりは顔を真っ赤にして、厳の胸元に顔を埋めた。
すると、厳がひまりの耳元で、低く掠れた声で囁いた。
「恥ずかしがってる暇があるなら、俺に捕まってろ。……お前がどっかに行かねえように、こうして運んでやるって言ってんだ」
その声には、先ほどまでの怒りとは違う、切実な熱が混じっていた。
ひまりは思わず、厳の首に腕を回す。
辿り着いたのは、二階の最奥にある重厚な扉の前。
そこは、若頭である厳の私室だった。
厳はひまりを抱えたまま部屋に入ると、足で静かにドアを閉めた。
外の世界を遮断した、二人きりの空間。
ここから、ひまりの「九条組での生活」が、本当の意味で始まることになる。
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