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1巻
1-3
「それで、どうするのですか?」
「どうとは?」
「すぐ死ぬような所には送ってないようですし、彼、人族の寿命に収まらないでしょ?」
「どういう意味ですか?」
わかっていないセレスティナに、ガイストはため息をつく。
そして、再び真剣な顔で言う。
「セレスティナ様、まさか自分の送った世界の特性、忘れてませんか?」
「特性?」
「セレスティーダは魔力が高ければ高いほど寿命が延びる世界です。彼、レベル1でもそこそこのレベルのエルフと同等の魔力を保持していますよ?」
「あっ!!」
しまった、という顔をするセレスティナ。
「……忘れてたんですね」
「彼に詫びて、スキルを与えるのに集中しすぎていましたわ」
「まあ、いくつもの世界を管理してると、多忙すぎて抜けることもあるでしょう」
「ど、どうしましょう?」
困惑するセレスティナに、ガイストは提案する。
「セレスティナ様は、手が空いたときだけ、セレスティーダの様子を見られたらよろしいかと。あとは私が見ますので」
「お願いします」
こうして、ガイストがノートの見守りを買って出たのだが……
第1章 領都ファスティ
5 いろいろ確認しよう
「ここがセレスティーダか……」
俺はそう言って周囲を見渡す。周りには何の変哲もない木々が立っており、特に異世界らしい様子もない。
確認はしていないが、俺の見た目は多少若返っているらしい。
そういえば、体が随分と軽い。メタボ気味の体形だったはずだが、女神様が健康的な体形にしてくれたようだ。
服装はこの世界の住人に合わせて変わっていた。変な腰巻きが付いているのが気になるが……まあ良いだろう。
ヴォルフが尋ねてくる。
『主よ、これからどうするのだ?』
俺は何をすべきか考え、返答する。
「とりあえずは……いろいろ確認しようと思う」
『確認か?』
『何の確認~?』
声を揃えて聞いてきたヴォルフとマナに、俺は答える。
「俺は、この世界のことも、ここの常識も、俺が持つスキルの使い勝手も、お前達の能力もわからない。だからまず把握しておきたいんだ」
二体とも納得してくれた。
俺はヴォルフに尋ねる。
「まずヴォルフに聞くけど、大きさって変えられるのか?」
『ある程度は可能だ』
「最小サイズと最大サイズを教えてくれ」
『最小一メートル五十センチくらいで、最大でおよそ二十メートルくらいだな。一番動きやすいのが今の大きさだ』
「二十メートル!?」
驚く俺に、ヴォルフは平然と言う。
『ドラゴンと戦うには、それくらいの大きさにならんとな?』
いやまあ、そうなのかもしれないが……
とりあえずヴォルフには、小さくなってもらうことにする。
「ヴォルフ。悪いが、今の半分くらいの大きさになってくれるか?」
『造作もないが、なぜだ?』
「街に入るには大きすぎると思うんだ。珍しがって人が寄ってくるかもしれんからな」
俺が理由を説明すると、ヴォルフは急に凄む。
『我に刃を向ける者がいるというなら、受けて立つぞ?』
俺は頭を抱える。
「いや、いきなり女神様の手を煩わすようなことになるわ!」
『そんなものなのか?』
何もわかっていなそうなヴォルフ。
俺はマナに向かって言う。
「おーい、マナさん。ヴォルフの教育を頼んでいいか?」
『契約にはないけど、主に迷惑かけてるみたいだから、教えることにするよ~』
ひとまず安心できた俺は二体に、これからの基本方針を伝えた。
・人には、できるだけ迷惑をかけない
・俺達に被害が出そうなときは撃退するが、その判断は俺がする
・セレスティーダならではの美味い物を食べる
・そのための収入源の確保をする
・旅をしながら、人との交流を楽しむ
「――今のところはこんなところだな。わかったか? ヴォルフ、マナ?」
二体とも頷く。
『承知した』
『わかったよ~』
受け入れてくれたことだし、次の確認をするとしようかな。
俺はマナに声をかける。
「マナは、基本的に人に見えないんだよな?」
『そうよ~。ついでに言っておくけど、主の補助がメインなので、戦闘能力もほぼないよ~』
「それは……そういうふうに女神様に制限されてると思ったら良いのか?」
『そうよ~』
いざとなったら多少は戦えるってことかな。まあ、そういう場面があればヴォルフがいるし、問題ないだろう。
別の質問をする。
「あと聞きたいのは、俺は身分証を持ってないけど、街には入れるのか?」
すると、マナは目を見開いた。
『あっ! ごめんなさい~。真っ先に言ってねって女神様に強くお願いされてたんだ。女神様が、お金を【アイテムボックス】に入れたって言ってたよ~。そのお金で街に入れるし、入ったらどこかのギルドでギルド証を作れば、それが身分証代わりになるよ~』
なるほど、【アイテムボックス】か。
さっそく試してみようとしたが――出し方がわからない。
「マナ、【アイテムボックス】の使い方を教えてくれるか?」
『えっと……【アイテムボックス】って念じると、中に入ってる物が頭の中に浮かんでくるの。今度は、それを出そうと考えれば出てくると思うよ』
よくわからないが、やってみることにする。
マナに言われたように念じてみると、イメージが浮かんできた。
【アイテムボックス】
・金貨 × 10
・銀貨 × 30
・銅貨 × 100
とりあえず出したり入れたりを繰り返して、感覚を慣らす。
ちなみにマナによると、一般的な四人家族で一月の支出が金貨五枚とのことだ。
一応、手元には金貨十枚あるから、二、三か月くらいは持つんじゃないかな。ヴォルフがいるから何とも言えんが。
まあ、しばらくはやっていけそうだし、ギルドに登録して収入源を探すとするか。
俺はヴォルフとマナに話しかける。
「今は、こんなところかな。俺の戦闘力の確認は……あとで大丈夫だろう。ヴォルフに倒してもらえば良いだろうし」
『我はそれで良いぞ。この辺の魔物ならば、今の主でも余裕だがな』
「そうか。でも、今日のところはヴォルフに任せるよ。何せ、数時間前まで戦いとは縁のない世界にいたんだから」
『承知した。向かってくる魔物は、我が確実に屠ろう。あとな、この辺にはいないだろうが、悪意を持つ人の場合はどうするのだ?』
なるほど、人が襲ってくる場合もあるのか。
「……そういう奴もいるんだよな。そのときは、俺のスキル【鑑定】を使って判断するよ」
『承知した』
俺はマナに尋ねる。
「マナ、【鑑定】は対象をよく見たら発動するのかな?」
『そうですよ~。練習のためにやってみましょうか。じゃあ、この辺を見てみてください~』
マナに言われたのでやってみる。
雑草、雑草、雑草、雑草、雑草、雑草、雑草
雑草、薬草、雑草、雑草、雑草、雑草、雑草
……ん?
雑草に紛れて薬草がなかったか?
さらによく見てみると、やはり薬草だった。
・薬草 ×1
ポーションの材料になる。採取する際は、
途中で折れないように、根ごと引っこ抜くように注意する。
えーと、ポーションの材料になるのか。
根っこから折らないようにすると良いらしいから、その通りに採取する。
その様子を見ていたマナが言う。
『【鑑定】スキルの使い方がわかったようですね~』
俺はやや不安を感じつつも頷く。
「たぶん大丈夫だろう……」
6 街に向かおう
ともかく、最低限の確認を終えたな。
でも、【アイテムボックス】がどれだけレアなのかわからないな。マナに確認しても良いけど、変に目立つのは間違いないだろう。
そんなわけで俺は、多少の金をポケットに入れておいた。
「そろそろ街に向かうとするかな。お前達、街では声を出さずに念話で頼むぞ」
ちなみに、念話というのは従魔術で使える魔法の一つだ。二体を従魔にする前から念話で話していた気もするけど、まあその辺は良いだろう。
『主~、街はこっち方向だよ~』
マナが俺とヴォルフを先導するように飛んでいく。
「マナ、道案内を頼むな」
『任せといて~』
それから三時間ほど歩き、大きな壁が見える所までやって来た。その三時間の間に二度ほど狼に襲われたが、ヴォルフが一瞬で倒してくれていた。
壁の近くまで行く。
近くで見ると、相当の高さだった。
「高いなー」と見上げつつ、街に入るための順番待ちに並ぶ。
すると、俺とヴォルフを見た門番が慌てて詰め所に入っていく。しばらくして、少し立派な鎧を着た人が出てきた。
兵士にいろいろ指示してるっぽいな。
なんて観察していると、兵士とおそらく隊長(?)が近づいてくる。隊長らしきその人物は腰の武器に手を当て、すぐにでも抜けるようにしていた。
突如、隊長(?)が声を荒らげる。
「おい貴様、何しにここへ来た! その魔狼は何のつもりだ!」
俺は驚きつつも、正直に答える。
「この子は俺の従魔で、ギルドに従魔登録しに来ました。あと生活のため、俺自身もギルドに登録するつもりです」
隊長(?)は近づき、さらに詰め寄ってくる。
「どこから来たんだ!?」
その辺の設定を考えてなかったので、マナに念話で聞く。
『マナ、この場合、どうすればいいんだ?』
『「迷い人」と答えれば良いと思う~』
俺は言われたままに、隊長(?)に伝える。
「どこからと言われれば、迷い人ですかね?」
隊長(?)は表情を曇らせたものの、慌てて口を開く。
「いくつか質問するからついてこい!」
俺は困惑しつつも、大人しくついていくことにした。
◇
やって来たのは、門の横にある詰め所である。ヴォルフは中に入らずに、建物の外で待っていてもらった。
隊長(?)が厳しい表情で言う。
「それでは質問する」
「はい」
「この街の名前は?」
「知りません」
「この国の名前は?」
「知りません」
「この世界の名前は?」
「セレスティーダですよね?」
「この世界の通貨の名称は?」
「知りません」
「通貨の種類は?」
「俺が知っているのは、金貨、銀貨、銅貨です」
「この付近で出る魔物の種類は?」
「知りません」
周囲にいる他の兵士達が、「嘘をつくな」とか「その辺の子供でも知っているぞ」とかいろいろ言ってくる。
だが、わからないものはわからない。
隊長(?)が二つの水晶を用意してきた。
一方の水晶に触るよう言ってきたので、その通りに触ってみる。
明るくはなるが、何も起こらない。
これに何の意味あるの? と思っていると、隊長(?)が眉根を寄せつつ言う。
「……嘘は、ついてないようだな」
続いて、もう一方の水晶に触るよう促してきた。さっそく触れてみると、今度は金色っぽく光った。
周囲の兵士達と隊長(?)が目を見開く。
俺が内心、「何かまずいことでもあったのか……」と不安になっていると、隊長(?)が口を開いた。
「本当に迷い人か……」
俺は、眉間に皺を寄せて考え込む隊長(?)に尋ねる。
「あの、これは何ですか?」
「ああ、最初のは『真贋の水晶』と言い、次のは『魂の水晶』だ」
名前から察するに、俺が先に触ったほうは、真実を言っているか嘘をついているかを調べる水晶なんだろうな。
ただ、もう一方のほうはよくわからない。
魂? 心? を見られる水晶なのか?
いっそ聞いてみるか。
「それで、その水晶で何がわかるのですか?」
相変わらず考え込んでいた隊長(?)が答える。
「これらは魔道具なんだ。先に触ってもらったほうでは、嘘を見抜ける。次に触れてもらった水晶では、犯罪の有無とこの世界の住人か調べられる。もし犯罪歴があった場合は、さらに別の魔道具を使うことになるが……その必要はないようだな」
「……それで、俺はこの後どうすれば良いのですか?」
俺が嫌な予感を覚えつつ尋ねると、隊長(?)が言う。
「すまないが、従魔登録をしてギルド証を手に入れたら、領主に会ってもらうことになる。それまで、私が付き添うことになるが、了承してほしい」
異世界最初の街に来て早々に領主と会うハメになるとは……面倒なことになってしまったな。
とりあえず、気になってることを確認しとくか。
「えっと……いくつか質問があります。あなたは隊長で良いのですか?」
「ああ。第二衛兵隊、隊長のマークだ。第二衛兵隊はこうして門を守っているが、第一衛兵隊は街中を守っている。今さらだが、さっきは急に怒鳴ってしまって悪かったな」
気にしてなかったが、隊長は謝ってきた。
「いや、別に大丈夫です。俺に付き添うとのことですが、隊長がこの場所を離れても大丈夫なのですか?」
「問題ない。ここには副隊長もいるしな」
何となくだが、マークと名乗ったこの隊長は信頼できそうだ。
いろいろと面倒そうだが、トラブルを避けるためにも彼に従うのが良いかもしれない。
俺はそう考え、マーク隊長に向かって言う。
「じゃあ、従魔登録する場所と、俺がギルドに登録できる場所に連れてってください」
「わかった。ちなみにだが、従魔は従魔ギルドで登録し、体のどこかにギルド証を着けてもらうことになるからな。それであなたのほうは、商業ギルドか冒険者ギルドに登録してもらうことになる」
「複数のギルドに登録するのは可能ですかね?」
商人として生きるのも、冒険者として生きるのも、どちらも良いかもなと思っていたので聞いてみた。
「一応可能だが、その分、金はかかるぞ」
「お金は、たぶん足りると思います」
「いくら持ってるんだ?」
「金貨十枚、銀貨三十枚、銅貨百枚ですね」
俺が正直に言うと、マーク隊長は頷いて言う。
「まあ、それだけあれば大丈夫だな」
マーク隊長によると、通貨の名称は「ダル」のようだ。
ダル硬貨は、価値の低い順に、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨となっており、それぞれの価値は次のようになっているとのこと。
鉄貨一枚 1ダル
銅貨一枚 100ダル
銀貨一枚 1000ダル
金貨一枚 1万ダル
大金貨一枚 10万ダル
白金貨一枚 100万ダル
大白金貨一枚 1000万ダル
なお、白金貨以上は国家間などの大商いでしか使われず、庶民が目にすることはないという。
俺は、詳しく教えてくれたマーク隊長に礼を言う。
「いろいろ教えていただき、ありがとうございした。あと、領主様に会うのは確定ですか?」
偉い人に会うのはやっぱり嫌なので、改めて確認してみた。
マーク隊長は俺のそんな気持ちを察し、残念そうに告げる。
「……確定だ。迷い人の扱いは、そうするように決まっているのでな」
「面倒事が起こる気しかしないのですが」
「諦めてくれ。それをしないと、国の危機になりかねん」
「……はぁ、仕方ないか」
マーク隊長に言われた通り、ここは諦めて従うことにするか。しかし国の危機とは、随分と大げさだな。
気を取り直すようにマーク隊長が言う。
「では、さっそくで申し訳ないが、登録しに行くことにしよう」
「わかりました」
俺とマーク隊長は詰め所から出た。
それからヴォルフを連れ、門をくぐって街に入る。
俺の前には、異世界で初めて目にする街並みが広がっていた。女神様も言っていたが、確かに昔の欧州の街並みのようだった。
7 従魔ギルド
マーク隊長がふと思いついたように聞いてくる。
「そういえば、名前を聞いてなかったな」
俺も名乗ってないのを思い出し、即座に返答する。
「ノート・ミストランドと言います」
「ノートか。じゃあこれからはそう呼ばせてもらう。ところで、名前に家名が付いているが、貴族なのか?」
「いえ。俺がいた所では、家名を持つのが普通でした」
「……そうか。まさか、そのまま登録するつもりか?」
含みを持たせて問うマーク隊長に、俺は尋ねる。
「まずいことでもありますか?」
マーク隊長はため息交じりに答える。
「まあ、まずいというか、トラブルに巻き込まれる可能性があるな。ノートが家名持ちだとバレれば、貴族が圧力をかけてくるかもしれん」
それは随分と面倒くさいな。
「ちょっと避けたいですね。登録の際に名前だけでもできますか?」
「可能だ。むしろ、そうしたほうがいい」
「じゃあ、名前だけにします。それでは行きましょうか」
「ああ、わかった。こちらだ」
案内されるまま、俺はマーク隊長の後ろをついて歩く。
「どうとは?」
「すぐ死ぬような所には送ってないようですし、彼、人族の寿命に収まらないでしょ?」
「どういう意味ですか?」
わかっていないセレスティナに、ガイストはため息をつく。
そして、再び真剣な顔で言う。
「セレスティナ様、まさか自分の送った世界の特性、忘れてませんか?」
「特性?」
「セレスティーダは魔力が高ければ高いほど寿命が延びる世界です。彼、レベル1でもそこそこのレベルのエルフと同等の魔力を保持していますよ?」
「あっ!!」
しまった、という顔をするセレスティナ。
「……忘れてたんですね」
「彼に詫びて、スキルを与えるのに集中しすぎていましたわ」
「まあ、いくつもの世界を管理してると、多忙すぎて抜けることもあるでしょう」
「ど、どうしましょう?」
困惑するセレスティナに、ガイストは提案する。
「セレスティナ様は、手が空いたときだけ、セレスティーダの様子を見られたらよろしいかと。あとは私が見ますので」
「お願いします」
こうして、ガイストがノートの見守りを買って出たのだが……
第1章 領都ファスティ
5 いろいろ確認しよう
「ここがセレスティーダか……」
俺はそう言って周囲を見渡す。周りには何の変哲もない木々が立っており、特に異世界らしい様子もない。
確認はしていないが、俺の見た目は多少若返っているらしい。
そういえば、体が随分と軽い。メタボ気味の体形だったはずだが、女神様が健康的な体形にしてくれたようだ。
服装はこの世界の住人に合わせて変わっていた。変な腰巻きが付いているのが気になるが……まあ良いだろう。
ヴォルフが尋ねてくる。
『主よ、これからどうするのだ?』
俺は何をすべきか考え、返答する。
「とりあえずは……いろいろ確認しようと思う」
『確認か?』
『何の確認~?』
声を揃えて聞いてきたヴォルフとマナに、俺は答える。
「俺は、この世界のことも、ここの常識も、俺が持つスキルの使い勝手も、お前達の能力もわからない。だからまず把握しておきたいんだ」
二体とも納得してくれた。
俺はヴォルフに尋ねる。
「まずヴォルフに聞くけど、大きさって変えられるのか?」
『ある程度は可能だ』
「最小サイズと最大サイズを教えてくれ」
『最小一メートル五十センチくらいで、最大でおよそ二十メートルくらいだな。一番動きやすいのが今の大きさだ』
「二十メートル!?」
驚く俺に、ヴォルフは平然と言う。
『ドラゴンと戦うには、それくらいの大きさにならんとな?』
いやまあ、そうなのかもしれないが……
とりあえずヴォルフには、小さくなってもらうことにする。
「ヴォルフ。悪いが、今の半分くらいの大きさになってくれるか?」
『造作もないが、なぜだ?』
「街に入るには大きすぎると思うんだ。珍しがって人が寄ってくるかもしれんからな」
俺が理由を説明すると、ヴォルフは急に凄む。
『我に刃を向ける者がいるというなら、受けて立つぞ?』
俺は頭を抱える。
「いや、いきなり女神様の手を煩わすようなことになるわ!」
『そんなものなのか?』
何もわかっていなそうなヴォルフ。
俺はマナに向かって言う。
「おーい、マナさん。ヴォルフの教育を頼んでいいか?」
『契約にはないけど、主に迷惑かけてるみたいだから、教えることにするよ~』
ひとまず安心できた俺は二体に、これからの基本方針を伝えた。
・人には、できるだけ迷惑をかけない
・俺達に被害が出そうなときは撃退するが、その判断は俺がする
・セレスティーダならではの美味い物を食べる
・そのための収入源の確保をする
・旅をしながら、人との交流を楽しむ
「――今のところはこんなところだな。わかったか? ヴォルフ、マナ?」
二体とも頷く。
『承知した』
『わかったよ~』
受け入れてくれたことだし、次の確認をするとしようかな。
俺はマナに声をかける。
「マナは、基本的に人に見えないんだよな?」
『そうよ~。ついでに言っておくけど、主の補助がメインなので、戦闘能力もほぼないよ~』
「それは……そういうふうに女神様に制限されてると思ったら良いのか?」
『そうよ~』
いざとなったら多少は戦えるってことかな。まあ、そういう場面があればヴォルフがいるし、問題ないだろう。
別の質問をする。
「あと聞きたいのは、俺は身分証を持ってないけど、街には入れるのか?」
すると、マナは目を見開いた。
『あっ! ごめんなさい~。真っ先に言ってねって女神様に強くお願いされてたんだ。女神様が、お金を【アイテムボックス】に入れたって言ってたよ~。そのお金で街に入れるし、入ったらどこかのギルドでギルド証を作れば、それが身分証代わりになるよ~』
なるほど、【アイテムボックス】か。
さっそく試してみようとしたが――出し方がわからない。
「マナ、【アイテムボックス】の使い方を教えてくれるか?」
『えっと……【アイテムボックス】って念じると、中に入ってる物が頭の中に浮かんでくるの。今度は、それを出そうと考えれば出てくると思うよ』
よくわからないが、やってみることにする。
マナに言われたように念じてみると、イメージが浮かんできた。
【アイテムボックス】
・金貨 × 10
・銀貨 × 30
・銅貨 × 100
とりあえず出したり入れたりを繰り返して、感覚を慣らす。
ちなみにマナによると、一般的な四人家族で一月の支出が金貨五枚とのことだ。
一応、手元には金貨十枚あるから、二、三か月くらいは持つんじゃないかな。ヴォルフがいるから何とも言えんが。
まあ、しばらくはやっていけそうだし、ギルドに登録して収入源を探すとするか。
俺はヴォルフとマナに話しかける。
「今は、こんなところかな。俺の戦闘力の確認は……あとで大丈夫だろう。ヴォルフに倒してもらえば良いだろうし」
『我はそれで良いぞ。この辺の魔物ならば、今の主でも余裕だがな』
「そうか。でも、今日のところはヴォルフに任せるよ。何せ、数時間前まで戦いとは縁のない世界にいたんだから」
『承知した。向かってくる魔物は、我が確実に屠ろう。あとな、この辺にはいないだろうが、悪意を持つ人の場合はどうするのだ?』
なるほど、人が襲ってくる場合もあるのか。
「……そういう奴もいるんだよな。そのときは、俺のスキル【鑑定】を使って判断するよ」
『承知した』
俺はマナに尋ねる。
「マナ、【鑑定】は対象をよく見たら発動するのかな?」
『そうですよ~。練習のためにやってみましょうか。じゃあ、この辺を見てみてください~』
マナに言われたのでやってみる。
雑草、雑草、雑草、雑草、雑草、雑草、雑草
雑草、薬草、雑草、雑草、雑草、雑草、雑草
……ん?
雑草に紛れて薬草がなかったか?
さらによく見てみると、やはり薬草だった。
・薬草 ×1
ポーションの材料になる。採取する際は、
途中で折れないように、根ごと引っこ抜くように注意する。
えーと、ポーションの材料になるのか。
根っこから折らないようにすると良いらしいから、その通りに採取する。
その様子を見ていたマナが言う。
『【鑑定】スキルの使い方がわかったようですね~』
俺はやや不安を感じつつも頷く。
「たぶん大丈夫だろう……」
6 街に向かおう
ともかく、最低限の確認を終えたな。
でも、【アイテムボックス】がどれだけレアなのかわからないな。マナに確認しても良いけど、変に目立つのは間違いないだろう。
そんなわけで俺は、多少の金をポケットに入れておいた。
「そろそろ街に向かうとするかな。お前達、街では声を出さずに念話で頼むぞ」
ちなみに、念話というのは従魔術で使える魔法の一つだ。二体を従魔にする前から念話で話していた気もするけど、まあその辺は良いだろう。
『主~、街はこっち方向だよ~』
マナが俺とヴォルフを先導するように飛んでいく。
「マナ、道案内を頼むな」
『任せといて~』
それから三時間ほど歩き、大きな壁が見える所までやって来た。その三時間の間に二度ほど狼に襲われたが、ヴォルフが一瞬で倒してくれていた。
壁の近くまで行く。
近くで見ると、相当の高さだった。
「高いなー」と見上げつつ、街に入るための順番待ちに並ぶ。
すると、俺とヴォルフを見た門番が慌てて詰め所に入っていく。しばらくして、少し立派な鎧を着た人が出てきた。
兵士にいろいろ指示してるっぽいな。
なんて観察していると、兵士とおそらく隊長(?)が近づいてくる。隊長らしきその人物は腰の武器に手を当て、すぐにでも抜けるようにしていた。
突如、隊長(?)が声を荒らげる。
「おい貴様、何しにここへ来た! その魔狼は何のつもりだ!」
俺は驚きつつも、正直に答える。
「この子は俺の従魔で、ギルドに従魔登録しに来ました。あと生活のため、俺自身もギルドに登録するつもりです」
隊長(?)は近づき、さらに詰め寄ってくる。
「どこから来たんだ!?」
その辺の設定を考えてなかったので、マナに念話で聞く。
『マナ、この場合、どうすればいいんだ?』
『「迷い人」と答えれば良いと思う~』
俺は言われたままに、隊長(?)に伝える。
「どこからと言われれば、迷い人ですかね?」
隊長(?)は表情を曇らせたものの、慌てて口を開く。
「いくつか質問するからついてこい!」
俺は困惑しつつも、大人しくついていくことにした。
◇
やって来たのは、門の横にある詰め所である。ヴォルフは中に入らずに、建物の外で待っていてもらった。
隊長(?)が厳しい表情で言う。
「それでは質問する」
「はい」
「この街の名前は?」
「知りません」
「この国の名前は?」
「知りません」
「この世界の名前は?」
「セレスティーダですよね?」
「この世界の通貨の名称は?」
「知りません」
「通貨の種類は?」
「俺が知っているのは、金貨、銀貨、銅貨です」
「この付近で出る魔物の種類は?」
「知りません」
周囲にいる他の兵士達が、「嘘をつくな」とか「その辺の子供でも知っているぞ」とかいろいろ言ってくる。
だが、わからないものはわからない。
隊長(?)が二つの水晶を用意してきた。
一方の水晶に触るよう言ってきたので、その通りに触ってみる。
明るくはなるが、何も起こらない。
これに何の意味あるの? と思っていると、隊長(?)が眉根を寄せつつ言う。
「……嘘は、ついてないようだな」
続いて、もう一方の水晶に触るよう促してきた。さっそく触れてみると、今度は金色っぽく光った。
周囲の兵士達と隊長(?)が目を見開く。
俺が内心、「何かまずいことでもあったのか……」と不安になっていると、隊長(?)が口を開いた。
「本当に迷い人か……」
俺は、眉間に皺を寄せて考え込む隊長(?)に尋ねる。
「あの、これは何ですか?」
「ああ、最初のは『真贋の水晶』と言い、次のは『魂の水晶』だ」
名前から察するに、俺が先に触ったほうは、真実を言っているか嘘をついているかを調べる水晶なんだろうな。
ただ、もう一方のほうはよくわからない。
魂? 心? を見られる水晶なのか?
いっそ聞いてみるか。
「それで、その水晶で何がわかるのですか?」
相変わらず考え込んでいた隊長(?)が答える。
「これらは魔道具なんだ。先に触ってもらったほうでは、嘘を見抜ける。次に触れてもらった水晶では、犯罪の有無とこの世界の住人か調べられる。もし犯罪歴があった場合は、さらに別の魔道具を使うことになるが……その必要はないようだな」
「……それで、俺はこの後どうすれば良いのですか?」
俺が嫌な予感を覚えつつ尋ねると、隊長(?)が言う。
「すまないが、従魔登録をしてギルド証を手に入れたら、領主に会ってもらうことになる。それまで、私が付き添うことになるが、了承してほしい」
異世界最初の街に来て早々に領主と会うハメになるとは……面倒なことになってしまったな。
とりあえず、気になってることを確認しとくか。
「えっと……いくつか質問があります。あなたは隊長で良いのですか?」
「ああ。第二衛兵隊、隊長のマークだ。第二衛兵隊はこうして門を守っているが、第一衛兵隊は街中を守っている。今さらだが、さっきは急に怒鳴ってしまって悪かったな」
気にしてなかったが、隊長は謝ってきた。
「いや、別に大丈夫です。俺に付き添うとのことですが、隊長がこの場所を離れても大丈夫なのですか?」
「問題ない。ここには副隊長もいるしな」
何となくだが、マークと名乗ったこの隊長は信頼できそうだ。
いろいろと面倒そうだが、トラブルを避けるためにも彼に従うのが良いかもしれない。
俺はそう考え、マーク隊長に向かって言う。
「じゃあ、従魔登録する場所と、俺がギルドに登録できる場所に連れてってください」
「わかった。ちなみにだが、従魔は従魔ギルドで登録し、体のどこかにギルド証を着けてもらうことになるからな。それであなたのほうは、商業ギルドか冒険者ギルドに登録してもらうことになる」
「複数のギルドに登録するのは可能ですかね?」
商人として生きるのも、冒険者として生きるのも、どちらも良いかもなと思っていたので聞いてみた。
「一応可能だが、その分、金はかかるぞ」
「お金は、たぶん足りると思います」
「いくら持ってるんだ?」
「金貨十枚、銀貨三十枚、銅貨百枚ですね」
俺が正直に言うと、マーク隊長は頷いて言う。
「まあ、それだけあれば大丈夫だな」
マーク隊長によると、通貨の名称は「ダル」のようだ。
ダル硬貨は、価値の低い順に、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨、大白金貨となっており、それぞれの価値は次のようになっているとのこと。
鉄貨一枚 1ダル
銅貨一枚 100ダル
銀貨一枚 1000ダル
金貨一枚 1万ダル
大金貨一枚 10万ダル
白金貨一枚 100万ダル
大白金貨一枚 1000万ダル
なお、白金貨以上は国家間などの大商いでしか使われず、庶民が目にすることはないという。
俺は、詳しく教えてくれたマーク隊長に礼を言う。
「いろいろ教えていただき、ありがとうございした。あと、領主様に会うのは確定ですか?」
偉い人に会うのはやっぱり嫌なので、改めて確認してみた。
マーク隊長は俺のそんな気持ちを察し、残念そうに告げる。
「……確定だ。迷い人の扱いは、そうするように決まっているのでな」
「面倒事が起こる気しかしないのですが」
「諦めてくれ。それをしないと、国の危機になりかねん」
「……はぁ、仕方ないか」
マーク隊長に言われた通り、ここは諦めて従うことにするか。しかし国の危機とは、随分と大げさだな。
気を取り直すようにマーク隊長が言う。
「では、さっそくで申し訳ないが、登録しに行くことにしよう」
「わかりました」
俺とマーク隊長は詰め所から出た。
それからヴォルフを連れ、門をくぐって街に入る。
俺の前には、異世界で初めて目にする街並みが広がっていた。女神様も言っていたが、確かに昔の欧州の街並みのようだった。
7 従魔ギルド
マーク隊長がふと思いついたように聞いてくる。
「そういえば、名前を聞いてなかったな」
俺も名乗ってないのを思い出し、即座に返答する。
「ノート・ミストランドと言います」
「ノートか。じゃあこれからはそう呼ばせてもらう。ところで、名前に家名が付いているが、貴族なのか?」
「いえ。俺がいた所では、家名を持つのが普通でした」
「……そうか。まさか、そのまま登録するつもりか?」
含みを持たせて問うマーク隊長に、俺は尋ねる。
「まずいことでもありますか?」
マーク隊長はため息交じりに答える。
「まあ、まずいというか、トラブルに巻き込まれる可能性があるな。ノートが家名持ちだとバレれば、貴族が圧力をかけてくるかもしれん」
それは随分と面倒くさいな。
「ちょっと避けたいですね。登録の際に名前だけでもできますか?」
「可能だ。むしろ、そうしたほうがいい」
「じゃあ、名前だけにします。それでは行きましょうか」
「ああ、わかった。こちらだ」
案内されるまま、俺はマーク隊長の後ろをついて歩く。
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