四十路のおっさん、神様からチート能力を9個もらう

霧兎

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4巻

4-3

「ノート殿、これはいくらなんでもやりすぎじゃないだろうか!」
「すまん! 顔が鬱陶うっとうしかったからつい……」
「その割には、かなり痛かったのだけれど!?」
「俺の故郷の徒手としゅの技の一つで、そんな危険な技じゃないんだ」

 ……嘘にはならないよな? プロレスの技だし。

「徒手? そんな技まで扱えたの?」
「今のは、俺の故郷の男なら、子供のときに一回はやったことがある技なんだ。たいてい遊びで」

 そう言うと、今度はカインズが食いついてきた。

「今のは、領主様が悪いと思いますので不問ふもんにいたしますが……どういう技なのですか?」
「基本的には手のひら全体で相手の顔面をつかみ、指先で握力を使って、締め上げてダメージを与える技だ」
「なるほど。ということは、顔を隠している手のひらの部分には、ダメージはないということですかね?」
「まあ、指の部分でダメージを与えるものだが……それよりも、自分からこんなことしておいてなんだが、話を進めないか?」

 領主はハッとした表情になる。

「そうそう、肉に付けていたソースの材料を聞かないと! できるなら私の領で作りたいからね」

 そう言いきった領主。
 なんだかその必死さに笑いが込み上げてきたが、なんとか耐えきって、パッケージに載っている材料を読み上げた。
 あとはたぶん熟成じゅくせいとかが必要だとか、適当に伝えておく。

「作れるようになったら、もうけの一部をノート殿に還元しようと思うのだけど?」
「じゃあ、それはいただいておこうかな? できるなら金じゃなくて、鉱石とか素材とかでもらえないかな? それをギルドに預けておいてほしい」

 せっかくなので、要望を伝えておいた。
 すると、領主は首を傾げる。

「それは可能だけど、少しはお金を置いとかなくてよいのかい?」
「金は自力でたくわえられるからな。その、言うなれば泡銭あぶくぜにはまあ、人のために使おうと思っているんだ。例えば、孤児に使ってもよいだろうし」

 領主は、さらに不思議そうな顔をする。

「さっきも言ってたけど、ノート殿は随分と孤児を気にかけるよね? 何か理由があるのかい?」
「……まあ、ちょっとな」
「無理に聞こうとは思わないから、言いたくないならよいよ」
「そうしておいてくれ」

 別に理由がないこともないが、あえて言うほどでもないしな。
 領主が話題を変えるように尋ねてくる。

「それよりも、問題が一つあるんだけど?」
「なんだ?」
「還元するのは鉱石とか素材とかにしてもいいんだけど、お金じゃないなら、冒険者ギルドや商業ギルドに預けられないんだよね。貴族にはお金以外は渡さないという慣習があってさ」
「そういうものなのか。いずれにしても、お金は着服ちゃくふくされないように、上手く頼むよ。ところでソースの秘密のついでに、これも内緒で打ち明けておこうと思うんだが、先日、俺はとうとう空間転移ジャンプを覚えたんだ」

 話題をがらっと変えて宣言すると同時に、領主とカインズが頭を抱えた。
 領主がため息交じりに問う。

「ノート殿、言葉の感じから、なんとなくどういうものかわかったけれど……一応聞いておくよ? 空間転移ジャンプというのは何かな?」
「行ったことのある場所なら、そこに飛ぶことができるな」

 俺の世代ならやっぱり、ゲームの移動魔法が思い浮かぶだろうな!
 しかも俺の場合、一般的な移動魔法より高性能で、街や村だけじゃなく、街道や森林等の場所へピンポイントで飛べる。
 いろいろイメージトレーニングして練習したからな!
 領主がかなり怖い顔で迫ってきたので、またアイアンクローで撃退しそうになったけど、なんとか手を押さえて事なきを得たが……近い近い!
 我慢できずに、領主が言葉を発する前にデコピンをしてしまった。
 バチンッ!

「あ、痛ぁ……何するのかな!」

 苦情を言ってくるが、俺のセリフだろう!?

「怖い顔で、キスされるかと思うくらい近寄るからだ!」
「キッ、キス? しないよ! 私を誰だと思っているのかな!?」
「怖い顔でキスしそうなくらい、顔を近づける人?」
「言い方に気をつけようか!? じゃなくてだね! 君はその空間転移ジャンプとやらを、どう使うのかね!」
「えっ? 食材購入と販売?」

 俺がそう答えると、脱力してその場にへたり込む領主。

「服、汚れるぞ?」
「それどころじゃないよ!」
「なんだ? 金歯でも落ちたか?」
「金歯ってのが何かはわからないけど、そうじゃない! それの危険性をわかっているの!?」
「ん? 危険なことでもあるのか? 使いすぎると体に悪いとか?」
「君はバカかね!? いや、わかってて言っているのか?」
「いや、そうだろう。危険も何も、ただの移動魔法だよ。これで奇襲なんて無理だし。まあ、兵士や冒険者に囲まれたら、それこそ空間転移ジャンプで逃げるけど」

 俺がそう説明すると、一応納得した感じの領主。

「それもそうか。でもさ、発動までに接近されたり、行きそうな所に兵を置かれたりしたら、逃げきれないんじゃないかな」
「魔法発動までの時間か? 魔力を込めて『空間転移ジャンプ』と言うだけだから二秒以内かな? あと俺が行ったことのある所だぞ? 逃げ放題だろ」
「時間の短さは目を見張るけど……普通は街や村に数ヶ所でしょ!? 過去に現れた、移動魔法を使えた者の記述が載っていた本を見たことはあるけど」

 ゲームの移動魔法みたいなのを使えた奴もいたんだな。俺と同じ転生者か。

「そうなんだ。しかし、俺のは行ったことのある所だ。つまりは街道も森林もすべて。俺が通った所すべてに転移できる。なので、街や村を見張っていても、街道も森林も隙間すきまなく兵を配置できないなら捕まえられんぞ?」

 俺がそう言うと、さらに頭を抱える領主。

「君は、常識を覚える気がないんだね?」
「何を言うんだ。必死に覚えようとしているのに」
「そうは見えないから、言っているんだけどね」

 そこでふと、俺は最近感じていたことを口にする。

「俺は少しわかったことがある」
「何をかな?」
「俺の非常識はこちらの常識であったり、俺の常識はここの非常識ってことがちょくちょく出てきているんだよな」
「それはどういうことかな?」

 少し真剣な目でこちらを見てくる領主。
 俺は、先ほどの話にも絡む違和感を話すことにした。
 少なくとも自分の住んでいた国では、ちょっとやそっとの犯罪やミスで死刑はなかった。その代わりに、細かな刑罰に科すことや罰金刑が数多くあって、それが普通だと感じている。俺は法律の専門家ではないから、そのあたりをふんわりさせながら伝えた。
 領主はいろいろ考えているのか、悩み出してしまった。
 随分時間がかかりそうだったので、カインズに言って俺は帰ることにした。後日また呼ぶということだったがな!


 それにしても長く話し合っていたようで、もう夕方に近いな。
 夕食どうしようかな?
 みんなに聞くと、美味うまければ何でもいいということだったので、オークの生姜焼しょうがやきにする。大量に作り置きしているお手軽手抜き料理をどんぶりにして出した。
 皆、美味そうに食っているのでうれしくなるね!
 食後のお茶も飲んだことだし、今日はもう寝よう。
 ヴォルフにはいつものように周囲の警戒をお願いして、そのまま眠りに落ちた……




 4 王都周辺での狩りの成果と……



 ……朝か。
 最近寝るのが早いからか、日の出くらいに目が覚めるな。
 寝覚めがいいのは、日本で働いていたときのように、朝起きてすぐに出勤する準備をしなくてもいいからかな。
 いつも朝寝坊のアクアも含めて全員起きてきたので、朝食を用意する。
 今日はなんとなくだが、古きよき日本の朝食って感じのを食べたくなった。そんなわけで、卵焼き、焼鮭、海苔のりしじみの味噌汁にする。
 従魔達には物足りないだろうから、これにプラスして、オークといのししの魔物であるレッドボアのトンテキを出してやった。
 肉はもちろん好評だったが、卵焼きも意外と評価が高かった。
 肉食のヴォルフも嬉しそうに食べていたな。
 今度、肉をたくさん入れたオムレツを作ってもよいかもな。
 ふと、昔、友人が作ってくれたわりだねのオムレツを思い出す。
 その名もオムカツという料理だ。
 オムレツにトンカツをトッピングして出汁だしをかけるという料理で、俺としてはころもがふやけるから嫌なんだが、肉好きなら好きそうな気もする。
 そんなふうに今後のメニューを考えつつ食事をしていると、オグ達の世話をしてきたらしいマークがやって来た。
 従魔達の食事を見てから聞いてくる。

「私の分はどっちだ?」

 俺が食べている日本の朝食でも、ヴォルフが食べているトンテキでも、どちらでも出せると伝えると、日本の朝食に串焼きをプラスしてほしいとのことだった。
 和食プラス串焼きを用意して渡す。
 食べながら、今日の行動を話し合う。

「ノート、今日はどう動くんだ?」
「そうだなぁ。今のうちに狩りに行って従魔の運動不足を解消しなきゃな。肉の確保をしたいところだし」
「ん? 王に呼ばれて王都に来たのに、そんなことしてていいのか?」
「まあ、話がまだ回ってきてないか……俺から話せってことか?」
「また、何かやったのか?」

 ため息をきながら問うマーク。

「失礼な。今回も俺からは何もしていないぞ?」
「その言い方だと、何か巻き込まれたか。また揉めごとになったんだな?」

 マークはジト目で見てくる。

「まあ、当たらずも遠からずだな。昨日、拠点を持ったので、領主に伝えに行くと言っただろう?」
「ああ」
「それで貴族街に入ろうとしたらな、そこの兵士に止められて入れなかったんだよ」
「領主様に会いに来たと言ったのか?」
「言ったさ。でも『聞いてない』から始まって……」

 そんなふうにして経緯を話すと、マークは難しい顔をした。
 マーク、ここまではまだジャブだ。導入でそんな顔されたら最後まで聞けないぞ?
 すべて話し終えると、頭を抱えたマークは、領主に会うことにしたようだ。さすがに俺のやることに慣れているのか、復活は早かったけどな!
 そんなわけでマークは朝食を終えると、急ぎ領主邸に向かっていった。
 俺達は、領主から呼ばれるまでは自由だからな。とりあえず冒険者ギルドに行って、依頼チェックを行うとするか。


 結果から先に言うと、よい依頼はなかった。
 王都からちょっと離れたらよい依頼はあったのだけど、それはだめだからな。
 王から話があると聞いてなければ行くのだが、今回の状況で出ていけば、ファスティ領主の責任問題になるだろうし。
 遠くまで離れる方向はなしで、食肉にできそうな依頼がないか確認していくと、ホーンラビットとコケットの依頼はあったけど……さすがに俺がやるのは目立ちそうだ。うーん、依頼なしで個人消費用に狩るとするか。
 さーて、この周辺はたいしたことのない魔物しかいないようだけど、それ以外にいないか探すとしよう!


 ◇


 さて、いろいろ考えた結果、薬草採取依頼を受けることにした。
 門で冒険者ギルド証を見せて、王都の外に出る。
 薬草のある場所は少し離れていて川の近くらしいから、ヴォルフに乗って向かった。それで三十分ほどかかったから、歩いたら二、三時間はしたかもな。
 薬草採取を行うかたわら、ちょくちょく見かけるホーンラビットを倒して【アイテムボックス】に入れていく。
 依頼用に加えて自分用の薬草も集めたあと、昼食の準備をする。
 さて、何を作ろうかな?
 俺だけならサンドイッチかハンバーガーなんだが、従魔達には物足りないだろうからな。といっても、毎回バーベキューもな……んー、どうしようか。
 ハンバーグはあるし卵もある。そしてバターライスもあるから……そうだ、お手軽簡単、ロコモコにしよう。
 バターライスを丼に盛り付けて、レタスを並べる。この上にポテトサラダを載っけて、立てかけるようにハンバーグを置いて、そして目玉焼きを載せたら完成だ!
 俺、ライ、マナには普通の一人前だけど、ヴォルフは俺の七、八倍の量だ。アクアはどこに入るのか、俺の二、三倍食うんだよな!


 食事をとってからまったり食休みをしていると、ヴォルフがいきなり立ち上がった。

「ヴォルフ? どうしたんだ?」
『人の声が聞こえる。何やら叫んでいるようだ』
「なんだと!? ライッ! 探せるか!?」
『探してきます!』

 そう言って飛び立ったライを見送り、俺はその辺の物を片付ける。
 そして装備を確認していると、ライから念話が入ってきた。
 どうやら子供がボア系の魔物に追われているらしい。
 ライだけで倒せるか聞くと、子供と魔物の距離が近すぎて誤爆ごばくの危険があるようだ。牽制けんせいしておくので、早く来てほしいとのこと。
 ライに鳴き声を上げてもらい、ヴォルフに乗って駆けつける。
 ほんの一、二分が何倍にも感じる。俺の目にもライの姿が見えた。
 間に合ったようだ!
 ライが追いかけている魔物の姿を確認してみると、複数のグレーボアだった。ヴォルフから飛び降り、そのまま走って小太刀こだちを振り抜き、先頭のグレーボアを両断した。
 そして他のグレーボアが戸惑った隙をつき、風魔法で残りのグレーボアの首を斬り落としていく。
 もったいないから、回収もするけどな!
 周りを見ると、ヴォルフの姿が見えない。念話で話しかけると、俺達から数百メートル離れた所にいるらしい。
 なぜだと問うと……変異種のオーガがいるとのこと。
 倒しきれないので、終わったら来てほしいと言われた。
 ライでもよいならと聞くと構わないそうだから、ライをヴォルフの所に向かわせる。
 一方、俺は周りに気をつけながら、追いかけられていた子供に近寄る。
 子供は放心しているようだった。
 しばらく話は聞けそうにないな。見た目的には……男女どちらとも言えない顔立ちの子だな。男の子なら大きくなったらイケメンになりそうだし、女の子なら美人になりそうな感じだ。
 少ししたら、目の焦点しょうてんが合ってきた。
 俺と目が合うと、その子は体をビクッとさせた。やがて俺が魔物じゃないことを認識したのか、緊張がけて泣き出す。
 泣き声を聞いても性別がわからなかった。俺はにぶいのだろうか?
 なるべく怖がらせないようにして、子供に向けて声をかける。

「体に痛いところはないか? あるなら教えてくれ。治癒魔法を使って治してあげられるからね?」

 そう聞くと、子供は首を左右に振り、怪我けがはないとアピールする。
 確かに見える範囲に怪我はないな。
 子供がおずおずと、小さな消え入りそうな声で言う。

「たす、かった、の?」
「グレーボアなら俺が倒したよ? 大丈夫だから、もう少し休憩しているといい」

 そう子供に言いながら、ライとヴォルフに念話を送る。

『そっちはどうだ?』
『ご主人、倒しました』
『そうか、ご苦労様。まだ少し時間がかかりそうだが、この辺りはもう大丈夫か?』

 ヴォルフから『しばらくは大丈夫だが、オーガの死体をどうするか』と尋ねられる。ひとまずライには戻るように、ヴォルフにはオーガの死体をくわえて戻ってくるように伝えておいた。
 そのとき「クルルゥゥゥー」と可愛らしい音が聞こえたので顔を向けると、子供が恥ずかしそうに顔をうつむかせている。
 お腹の音か。
 とりあえず少し食べ物をあげて状況を聞くかな。
 お腹が鳴って恥ずかしそうにしている子供に、このままだと話が進まないからごはんを食べるか聞いてみる。

「お腹が空いたのかい? 食べ物ならあるけど食べるかい?」

 そう聞くも、首を左右に振る子供。
 なぜ食べないのか聞いてみると……

「お金持ってないから。だからいらない。それにお母さんが、ごはんを知らない人からもらうとそのまま連れていかれるって言ってたもん」

 しっかりと教育されているみたいだな。

「そうか。間違ったことはお母さん言ってないな」

 俺が言うと、子供はビクッとした。
 これは俺の言い方が悪かったな。

「ああ、ごめんよ。俺は連れていかないから安心していいよ」

 んー、だけどお腹空かせている、見た感じ十から十二歳くらいの子供をそのままにもできないし、何かよい手がないものか……
 そうだ! 冒険者ギルド証を見せたら少しは安心してもらえるかもな。

「これを見てごらん? 冒険者ギルド証だよ」

 そう言って、ギルド証を見せると子供は驚いた。

「えっ!? この形の文字ってすごい人じゃ!?」
「すごいかどうかはわからないけど、Aランクだよ。俺はとにかく、子供がお腹を空かせている姿を見たくないんだよ。だから遠慮なく食べていいよ?」
「で、でも、私だけじゃないもん。お腹が空いているのは……」

 そう言って、また泣き出してしまった。
 泣かしたのは俺か!? 俺だな……泣かしたいわけじゃないんだけどな。
 だが、一つわかったな。「私」って言ってたし、声の高さ的にもたぶん女の子だろう。
 泣きやむのを待ってから、理由を聞いてみた。
 どうやら母親が頑張って働いても、ほぼその日暮らしの収入しかない家の子で、その母親が病気になっているらしい。
 収入が途絶え、弟もいるけどその弟も病気になっていて、満足に動けるのがこの子だけのようだった。
 しかし、わからないことがあるな。
 なんで、こんな子供がこんな所まで来ていたのか……


感想 1,112

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