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第8話 胸焼け
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※
――カランカラン。
木製の赤い扉を開くとベルの音が聞こえた。
その音に反応して店員のお姉さんが顔を出す。
「いらっしゃいませ」
そして営業スマイルで俺たちを迎えてくれた。
「二人なんですけど」
「二名様ですね。
こちらのお席へどうぞ」
店員さんが慣れた対応で、窓際の席に案内してくれた。
「お決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」
「は~い」
マニュアル通りの接客をこなすと、店員さんは去っていった。
店内はアンティークな雰囲気でとても落ち着きがある。
学生が来るには少し大人びた感じの店……という印象だ。
「どう? 雰囲気良くない?
カフェ&バーなんだけど、昼はランチもなんかもやってて、中高生カップルにも人気なんだって」
カップルに人気……か。
言われてみれば周囲には若いカップルが多い。
「見てよ、皆友くん。
食事も美味しそうでしょ?」
「……ガレットがメイン、なんだな」
「うん。
後はパスタとか、ロースのステーキとか、これなんてすごくない?
モッツァレラチーズでキーマカレーを包み込んでるんだって」
メニューに載っている写真はどれも美味しそうで、食欲をそそる。
朝食を食べてなかったから余計にだ。
「……竜胆はどれにするんだ?」
「めっちゃ悩む~……デザートにパンケーキも食べたいし」
うっとりとした眼差しでデザートを見つめる竜胆。
よっぽど甘い物が好きなのだろう。
だが、食事も合わせてとなると……。
「カロリーが相当高そうだが……」
「あうっ……そ、そうだよね」
瞳の煌めきが薄れて上がっていたテンションがズーンと下がっていく。
余計なことを言ってしまっただろうか。
「まぁ、竜胆なら少しくらい食べても大丈夫かもな」
「え……? どうして?」
「どうしてって……」
問われたことで、思わず竜胆の身体に目がいってしまった。
だが、スタイルがいいから……などと口にするのは恥ずかしい。
「そ、そうだ。
パンケーキ、二人で食べないか? それなら量も丁度いいくらいだろ?」
「あ、それめっちゃいい!
なら、注文したもの全部シェアしようよ」
上手く話を逸らすことができた。
だが、初めて来た店なら色々な物が食べたくなって当然だろう。
「んじゃ、そうするか。
俺は……さっき竜胆がオススメしてくれたチーズキーマカレーにしようかな」
「あたしは……じゃあガレットにする。
で……パンケーキなんだけど……このストロベリー生クリームでもいい?」
尋ねられて写真を見る。
名前のままにクリームとイチゴが盛り盛りだった。
かなり甘いのは間違いないが、二人なら食べきれるだろう。
「ああ、竜胆が食べたいのにすればいい」
「……皆友くん、優しいんだ。
ありがとう」
「じゃあ注文だな」
机に置かれたハンドベルを鳴らして店員さんを呼ぶと、俺たちは注文を済ませた。
※
「お待たせいたしました~」
料理は思っていたよりも早く運ばれてきた。
机にはチーズキーマカレーと、半熟玉子とロースハムのガレットが並ぶ。
ちなみにデザートは食後にお願いしていた。
「それじゃ半分こ、だよね?」
「ああ」
スプーンでチーズに切れ込みを入れる。
と、モッツァレラチーズとキーマカレーの香りが鼻孔に広がった。
「香りすごいね……。
あっ、ガレットの方も切り分けちゃうね」
ガレットの半熟玉子も竜胆は綺麗に切り分ける。
半分にするのかと思っていたら、竜胆はさらに小さく一口サイズにした。
「これでOKだね。
はい……皆友くん……」
そしてフォークに小さくなったガレットをのせて、俺の口元まで運んだ。
まさかこれは……。
「あ~ん、して?」
「じ、自分で食べるんじゃないのか!?」
「デートなんだから、当然、食べさせっこでしょ?」
当然にしてはハードルが高い。
「皆友くんが食べてくれないと、残っちゃうよ。
そしたらお店の人、がっかりするんじゃない?」
「ぐっ……」
竜胆の中の小悪魔が顔を出した。
どうしたら俺が断れなくなるのかよくわかっているようだ。
だが、これはあまりにも……照れる。
「はい、あ~ん」
「……っ……パクッ」
恥ずかしさに堪えて俺はガレットを食べた。
半熟玉子がガレットの生地に染み込んでいて、濃厚な味わいが口の中に広がっていく。
「おいし?」
美味しい……のだと思うが、竜胆の幸せそうな笑みを見ていたら、料理の味がわからなくなってしまっていた。
ただ、ただただ……暴力のような甘い感覚が胸を襲ってくる。
「皆友くん、今度はあたしにあ~ん、して」
「む、無理だ」
「あたしだけあ~んさせるんじゃ、不公平じゃん。
だから……あたしにも、してよ」
竜胆の瞳が潤む。
その熱っぽい眼差しを向けられて、俺の思考が鈍ってしまう。
「皆友くんのも、食べさせてよ……」
ぷっくりとした綺麗な唇に竜胆は自分の人差し指を当てて、おねだりするみたいに言った。
そして俺の返事を待たずに、彼女は口を開いた。
「ぅ……わ、わかった」
もう自棄になり竜胆の口に食事を運ぶ。
「……んっ……あっ、ちょ、ちょっと……熱っ……」
口に入れた途端、苦しそうに竜胆の顔が歪んだ。
目尻に涙が浮かんでいる。
「わ、悪い。大丈夫か?」
「ん……へい、き……もぐ、モグモグ……」
口を一生懸命に動かしている様子は、小動物のように可愛らしい。
「ごくっ……うん、美味しい。
もう一回、欲しい。
あたしのもあげるから……食べさせっこ、もっと、しよ?」
「も、もういいだろ。
後は自分で食べてくれ」
竜胆の上目遣いから逃れるように、俺はスプーンでキーマカレーをすくって自分の口に運んだ。
……モグモグ。
うん、美味し――。
「ふふっ、皆友くん、気付いてる?」
ニッと意地悪な笑みを浮かべる小悪魔。
一体、何のことを言っているのか?
「それ、間接キスだかんね?」
「……――んんんっ、ごほっごほっ……!?」
竜胆の目がスプーンに向いているのに気付いた瞬間、俺は驚きから咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
「へ、平気だ」
「ごめん。
そんなびっくりすると思わなかったから」
意識していなかったから余計にだ。
言わないでくれたらよかったのに。
「皆友くんってさ……すっごく強いのに、可愛いとこあるよね」
男に可愛いは誉め言葉じゃない。
それに、
「……強い? 俺がか?」
何をどうしてそう思ったのか。
「あたしのこと助けてくれた時……三人もいた相手を簡単に倒しちゃったじゃん」
「あれは相手が弱かっただけだ」
それに俺は誰よりも、自分が弱いことを知っている。
こんなに傷付くことに臆病な人間は、この世界にいないと確信しているくらいには。
「もしそうだとしてもさ、みんなが見て見ぬふりをしてる中で……皆友くんだけがあたしを助けてくれた。
放っておくことも、見て見ぬふりをすることもできたはずなのに」
さっきまでのふざけた雰囲気は消えて、竜胆は真面目の顔で口を開く。
「皆友くんが勇気を出してくれたから、何もなかったけどさ……あの時のこと思い出すと、まだちょっと怖いんだ」
小さく震える自分の身体を、竜胆は両腕で抱きしめる。
あの時の出来事はそれほどまでに、竜胆の心に傷を作っていたことに、俺は全く気付いていなかった。
こういう時、どんな言葉を掛けるのが正解なのだろうか?
もしも俺がコミュニケーション能力に長けた人間なら、何か言ってやれるのだろうか? でも、必死に考えても気の利いた言葉一つ……思い浮かばない。
だけどせめて……俺は竜胆のことを安心させてやりたかった。
こんな不安そうにする彼女の顔を見ていたくなかったから。
「竜胆……」
俺は口を開いた。
何かを伝えなければならない。
でも、一体俺は何を言おうとしているのだろうか。
「あれだ……何か、あったら――」
待てよ。
お前は何を伝えようとしている。
これは自身に対しての自問自答だった。
まさか、俺を頼ればいい――などと言うつもりなのか?
軽率なことを口にするな。
そんな無責任なことを言う勇気があるのか?
たった一部だけだとしても、誰かの人生に対して責任を持つなんて、俺にできるはずがない。
「皆友くん……?」
突然口を閉ざした俺を、心配にそうに竜胆が窺っている。
「あ……いや、あいつらは、もう何もしてこない。
だから、大丈夫だ」
「……うん。ありがとう」
こんな曖昧な言葉に、竜胆を微笑を返してくれた。
「……――あのね、皆友くん……」
続けて口を開き、竜胆は俺を見つめる。
彼女の瞳は揺れていた。
俺に伝えたいことがあるようだが、もう一歩を踏み出す勇気が出ないのか……。
「ごめん……やっぱりなんでもない」
寂しそうに竜胆は笑うだけで、その先の言葉を聞くことはできなかった。
少し自惚れるようなことを考え方をしてしまっているが、今のは竜胆が俺に告白をしようなんて雰囲気ではなかった。
もっと大切な何かを、俺に伝えたかったんじゃないのか?
でも……一歩踏み出せなかった俺が、竜胆に踏み込む勇気があるわけがなくて。
「とにかく、あたしは本当にキミに感謝してるってことだから!
さ、冷める前に食べちゃおう。
また、あ~ん、させてくれる?」
「それは勘弁してくれ」
本気と冗談を交えた竜胆に、俺は苦笑を浮かべる。
踏み入れず、踏み込まず。
俺がこいつと最低限の関係を持てるとしたら、それが限界だ。
「あ、でもパンケーキは絶対に食べさせ合いっこだかんね」
「……強制なのかよ」
その後、有言実行とばかりにお互いの口にパンケーキを運んだのだが……甘美なデザートの味よりも、俺にあ~んして嬉しそうに笑う竜胆の方が、何十倍も何百倍も甘く、俺の心に胸焼けに似た感情を残していた。
――カランカラン。
木製の赤い扉を開くとベルの音が聞こえた。
その音に反応して店員のお姉さんが顔を出す。
「いらっしゃいませ」
そして営業スマイルで俺たちを迎えてくれた。
「二人なんですけど」
「二名様ですね。
こちらのお席へどうぞ」
店員さんが慣れた対応で、窓際の席に案内してくれた。
「お決まりになりましたら、そちらのベルでお呼びください」
「は~い」
マニュアル通りの接客をこなすと、店員さんは去っていった。
店内はアンティークな雰囲気でとても落ち着きがある。
学生が来るには少し大人びた感じの店……という印象だ。
「どう? 雰囲気良くない?
カフェ&バーなんだけど、昼はランチもなんかもやってて、中高生カップルにも人気なんだって」
カップルに人気……か。
言われてみれば周囲には若いカップルが多い。
「見てよ、皆友くん。
食事も美味しそうでしょ?」
「……ガレットがメイン、なんだな」
「うん。
後はパスタとか、ロースのステーキとか、これなんてすごくない?
モッツァレラチーズでキーマカレーを包み込んでるんだって」
メニューに載っている写真はどれも美味しそうで、食欲をそそる。
朝食を食べてなかったから余計にだ。
「……竜胆はどれにするんだ?」
「めっちゃ悩む~……デザートにパンケーキも食べたいし」
うっとりとした眼差しでデザートを見つめる竜胆。
よっぽど甘い物が好きなのだろう。
だが、食事も合わせてとなると……。
「カロリーが相当高そうだが……」
「あうっ……そ、そうだよね」
瞳の煌めきが薄れて上がっていたテンションがズーンと下がっていく。
余計なことを言ってしまっただろうか。
「まぁ、竜胆なら少しくらい食べても大丈夫かもな」
「え……? どうして?」
「どうしてって……」
問われたことで、思わず竜胆の身体に目がいってしまった。
だが、スタイルがいいから……などと口にするのは恥ずかしい。
「そ、そうだ。
パンケーキ、二人で食べないか? それなら量も丁度いいくらいだろ?」
「あ、それめっちゃいい!
なら、注文したもの全部シェアしようよ」
上手く話を逸らすことができた。
だが、初めて来た店なら色々な物が食べたくなって当然だろう。
「んじゃ、そうするか。
俺は……さっき竜胆がオススメしてくれたチーズキーマカレーにしようかな」
「あたしは……じゃあガレットにする。
で……パンケーキなんだけど……このストロベリー生クリームでもいい?」
尋ねられて写真を見る。
名前のままにクリームとイチゴが盛り盛りだった。
かなり甘いのは間違いないが、二人なら食べきれるだろう。
「ああ、竜胆が食べたいのにすればいい」
「……皆友くん、優しいんだ。
ありがとう」
「じゃあ注文だな」
机に置かれたハンドベルを鳴らして店員さんを呼ぶと、俺たちは注文を済ませた。
※
「お待たせいたしました~」
料理は思っていたよりも早く運ばれてきた。
机にはチーズキーマカレーと、半熟玉子とロースハムのガレットが並ぶ。
ちなみにデザートは食後にお願いしていた。
「それじゃ半分こ、だよね?」
「ああ」
スプーンでチーズに切れ込みを入れる。
と、モッツァレラチーズとキーマカレーの香りが鼻孔に広がった。
「香りすごいね……。
あっ、ガレットの方も切り分けちゃうね」
ガレットの半熟玉子も竜胆は綺麗に切り分ける。
半分にするのかと思っていたら、竜胆はさらに小さく一口サイズにした。
「これでOKだね。
はい……皆友くん……」
そしてフォークに小さくなったガレットをのせて、俺の口元まで運んだ。
まさかこれは……。
「あ~ん、して?」
「じ、自分で食べるんじゃないのか!?」
「デートなんだから、当然、食べさせっこでしょ?」
当然にしてはハードルが高い。
「皆友くんが食べてくれないと、残っちゃうよ。
そしたらお店の人、がっかりするんじゃない?」
「ぐっ……」
竜胆の中の小悪魔が顔を出した。
どうしたら俺が断れなくなるのかよくわかっているようだ。
だが、これはあまりにも……照れる。
「はい、あ~ん」
「……っ……パクッ」
恥ずかしさに堪えて俺はガレットを食べた。
半熟玉子がガレットの生地に染み込んでいて、濃厚な味わいが口の中に広がっていく。
「おいし?」
美味しい……のだと思うが、竜胆の幸せそうな笑みを見ていたら、料理の味がわからなくなってしまっていた。
ただ、ただただ……暴力のような甘い感覚が胸を襲ってくる。
「皆友くん、今度はあたしにあ~ん、して」
「む、無理だ」
「あたしだけあ~んさせるんじゃ、不公平じゃん。
だから……あたしにも、してよ」
竜胆の瞳が潤む。
その熱っぽい眼差しを向けられて、俺の思考が鈍ってしまう。
「皆友くんのも、食べさせてよ……」
ぷっくりとした綺麗な唇に竜胆は自分の人差し指を当てて、おねだりするみたいに言った。
そして俺の返事を待たずに、彼女は口を開いた。
「ぅ……わ、わかった」
もう自棄になり竜胆の口に食事を運ぶ。
「……んっ……あっ、ちょ、ちょっと……熱っ……」
口に入れた途端、苦しそうに竜胆の顔が歪んだ。
目尻に涙が浮かんでいる。
「わ、悪い。大丈夫か?」
「ん……へい、き……もぐ、モグモグ……」
口を一生懸命に動かしている様子は、小動物のように可愛らしい。
「ごくっ……うん、美味しい。
もう一回、欲しい。
あたしのもあげるから……食べさせっこ、もっと、しよ?」
「も、もういいだろ。
後は自分で食べてくれ」
竜胆の上目遣いから逃れるように、俺はスプーンでキーマカレーをすくって自分の口に運んだ。
……モグモグ。
うん、美味し――。
「ふふっ、皆友くん、気付いてる?」
ニッと意地悪な笑みを浮かべる小悪魔。
一体、何のことを言っているのか?
「それ、間接キスだかんね?」
「……――んんんっ、ごほっごほっ……!?」
竜胆の目がスプーンに向いているのに気付いた瞬間、俺は驚きから咳き込んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
「へ、平気だ」
「ごめん。
そんなびっくりすると思わなかったから」
意識していなかったから余計にだ。
言わないでくれたらよかったのに。
「皆友くんってさ……すっごく強いのに、可愛いとこあるよね」
男に可愛いは誉め言葉じゃない。
それに、
「……強い? 俺がか?」
何をどうしてそう思ったのか。
「あたしのこと助けてくれた時……三人もいた相手を簡単に倒しちゃったじゃん」
「あれは相手が弱かっただけだ」
それに俺は誰よりも、自分が弱いことを知っている。
こんなに傷付くことに臆病な人間は、この世界にいないと確信しているくらいには。
「もしそうだとしてもさ、みんなが見て見ぬふりをしてる中で……皆友くんだけがあたしを助けてくれた。
放っておくことも、見て見ぬふりをすることもできたはずなのに」
さっきまでのふざけた雰囲気は消えて、竜胆は真面目の顔で口を開く。
「皆友くんが勇気を出してくれたから、何もなかったけどさ……あの時のこと思い出すと、まだちょっと怖いんだ」
小さく震える自分の身体を、竜胆は両腕で抱きしめる。
あの時の出来事はそれほどまでに、竜胆の心に傷を作っていたことに、俺は全く気付いていなかった。
こういう時、どんな言葉を掛けるのが正解なのだろうか?
もしも俺がコミュニケーション能力に長けた人間なら、何か言ってやれるのだろうか? でも、必死に考えても気の利いた言葉一つ……思い浮かばない。
だけどせめて……俺は竜胆のことを安心させてやりたかった。
こんな不安そうにする彼女の顔を見ていたくなかったから。
「竜胆……」
俺は口を開いた。
何かを伝えなければならない。
でも、一体俺は何を言おうとしているのだろうか。
「あれだ……何か、あったら――」
待てよ。
お前は何を伝えようとしている。
これは自身に対しての自問自答だった。
まさか、俺を頼ればいい――などと言うつもりなのか?
軽率なことを口にするな。
そんな無責任なことを言う勇気があるのか?
たった一部だけだとしても、誰かの人生に対して責任を持つなんて、俺にできるはずがない。
「皆友くん……?」
突然口を閉ざした俺を、心配にそうに竜胆が窺っている。
「あ……いや、あいつらは、もう何もしてこない。
だから、大丈夫だ」
「……うん。ありがとう」
こんな曖昧な言葉に、竜胆を微笑を返してくれた。
「……――あのね、皆友くん……」
続けて口を開き、竜胆は俺を見つめる。
彼女の瞳は揺れていた。
俺に伝えたいことがあるようだが、もう一歩を踏み出す勇気が出ないのか……。
「ごめん……やっぱりなんでもない」
寂しそうに竜胆は笑うだけで、その先の言葉を聞くことはできなかった。
少し自惚れるようなことを考え方をしてしまっているが、今のは竜胆が俺に告白をしようなんて雰囲気ではなかった。
もっと大切な何かを、俺に伝えたかったんじゃないのか?
でも……一歩踏み出せなかった俺が、竜胆に踏み込む勇気があるわけがなくて。
「とにかく、あたしは本当にキミに感謝してるってことだから!
さ、冷める前に食べちゃおう。
また、あ~ん、させてくれる?」
「それは勘弁してくれ」
本気と冗談を交えた竜胆に、俺は苦笑を浮かべる。
踏み入れず、踏み込まず。
俺がこいつと最低限の関係を持てるとしたら、それが限界だ。
「あ、でもパンケーキは絶対に食べさせ合いっこだかんね」
「……強制なのかよ」
その後、有言実行とばかりにお互いの口にパンケーキを運んだのだが……甘美なデザートの味よりも、俺にあ~んして嬉しそうに笑う竜胆の方が、何十倍も何百倍も甘く、俺の心に胸焼けに似た感情を残していた。
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