勇気を出してよ皆友くん!

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第9話 竜胆の意外な趣味

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         ※



「ありがとうございました~」

 支払いを終えて、俺たちは店を出た。

「本当に払ってもらっちゃって良かったの?」
「竜胆のお陰で昼食代が浮いてるから、そのお返しだ」

 いつも弁当を作ってきてもらってることを考えたら、このくらいのお礼はしておくべきだろう。

「ありがと……。皆友くんって、やっぱ優しいよね」
「……このくらいは普通だ」
「そんなことない。
 こういうこと、当たり前にできるってすごく大切なことだと思う。
 相手を思いやる気持ちって……忘れがちだと思うから」
「そういう風に考えられる竜胆のほうが、俺よりもよっぽど優しいだろ」
「皆友くんの方が、優しいよ」

 何故かお互いに譲らない。
 会話が止まる。
 互いを見つめる俺たち。
 でもどうしてか、互いに言葉が出ない。

「あの~……お店、入ってもいいですか?」
「「っ!?」」

 沈黙を破ったのは店の前にいた第三者の声だった。

「す、すみません」
「ごめんなさい」
「ふふっ、カップルが仲良しなのはいいけど……見つめ合うなら他の場所でね」

 微笑を浮かべて、お姉さんはお店に入っていく。
 周りから見たら、俺たちはバッカプルのようだったのだろうか。
 そう思うと羞恥心から顔が熱くなっていく。

「……い、移動するか」
「そ、そうだね。
 この後は、買い物に付き合ってもらうから」
「了解」

 どうやら次の予定は組まれていたらしい。

「ん……」

 手を差し出される。
 繋いでくれと竜胆の表情が訴えていたのだが。

「……行くか」

 俺は先を歩いて行く。

「ちょ!? 繋いでくれないわけ!?」

 すると慌てて追いかけてきた竜胆が俺の手を握った。
 本当に嫌なら拒絶することはできたけど、

「えへへ」

 幸せそうに照れ笑いを浮かべる竜胆を見ていると、それはできなかった。
 そもそも不快な感覚など俺にはないのだから。

「お店、こっちね」

 くっ付いて歩いていると、互いの肩がぶつかる。
 その度に、胸の中にこそばゆい気持ちが広がっていった。



        ※



 竜胆の買い物というと、イメージ的には服や香水、アクセサリーとか……そんな感じだと思っていたのだけど。

「ここって、レンタルとかゲームや漫画が売ってる店……だよな?」
「そうだよ。
 最近、来てなかったから色々と見たいんだよね」

 意外だった。
 まさか竜胆とこんな場所に来ることになるなんて。
 軽い驚きを覚えながら俺たちは店内に入る。

「何か見たい映画でもあるのか?」
「それもあるけど、ゲームとか漫画も見たいかなって」
「マジか? ゲームとかやんの?」
「そりゃやるでしょ?」

 この反応からすると、竜胆にとっては当然のことらしい。

「どんなのをやるんだ?」
「う~ん? 最近遊んだのはゾンビを倒すゲーム」

 流石に正式なタイトルまでは出てこないらしい。
 軽く楽しむ程度なのだろう。
 だが、それでも意外なことには変わらない。

「皆友くんはやんないの?」
「暇潰し程度……だな。
 協力プレイできるアクションゲームとか、妹と遊んだりするぞ」
「へぇ、皆友くんって妹さんいるんだ。
 あたしは一人っ子だから、ちょっと羨ましいかも」

 口にした後、軽い後悔。
 中学時代の黒歴史を考えれば、できる限り自分の話はしたくない。 
 知られるメリットなど何もないのだから。

「ねぇ、オススメがあったら教えてよ。
 そんで一緒に遊ばない?」

 一緒に……か。
 直接会ってデートするよりは遥かにハードルは低い。
 そう思って俺たちはゲームコーナーに足を運んだ。

「これなんてどうだ?」
「あ、それ知ってる」

 俺が手に取ったのは、擬人化したタコが水鉄砲で陣地の取り合いをするゲームだ。
 かなり有名なタイトルなので竜胆も知っていたようだ。

「オススメなら、買ってみよっかな。
 一緒に遊んでくれるよね?」
「……まぁ、たまにでいいなら」
「なら、約束だかんね!
 次の休日に付き合ってもらうから!」

 こうして、俺の休日の予定が埋まった。
 どうせ休日は家にいるだけだから何も問題はない。
 何より、こうしてデートするよりも、よっぽど気楽だ。

「お前、大丈夫なのか?」
「何が?」
「友達付き合いとか。
 遊ぶ相手なんて、俺以外にもいくらでもいるだろ」

 岬や小鳥遊……男子ではあるが飛世などもそうだろう。
 それに竜胆なら、中学時代の友達ともまだ交流はあるはずだ。

「へーき。
 てか、気にしてくれるんだったら、美愛やカレンとも一緒に遊べば良くない?」
「俺も含めてってことか?」
「とーぜん!」
「……岬たちが嫌がりそうだがな……」
「そう? 男の子とも結構遊んでるから大丈夫だと思うけど」

 多分、飛世たちのことだろう。
 それ以外でも、竜胆なら友人は多そうだが。

「ぁ――ち、違うかんね!」
「うん?」
「あ、遊んでるって、そういう意味じゃないから!」

 何を慌てて否定しているのだろうか?
 竜胆の顔は真っ赤になって――。

「っ……」

 少し遅れて、意味を理解した。

「ま、前にも言ったじゃん。
 あたしそういう経験――ない、から」
「そ、そんな恥ずかしいなら、言わなくていい」
「だ、だって、皆友くんに勘違いされたくないから……」

 派手な見た目をしているが、竜胆が純粋な女の子なのは理解している。
 それほど恋愛にも慣れてはいないのだろう。
 高校生くらいなら、それも当然かもしれない。
 でも……誰よりも人付き合いが苦手な俺には、こういう時、何を言ったらいいのかまるでわからなくて……。

「……と、とりあえず、買ってきたらどうだ?」

 なんとか口にした言葉がこれだ。

「あ……えっと、そ、その前にさ、映画と漫画も、見ていい?」
「……ああ」
「なら、今度はあたしが、皆友くんになんかオススメしてあげる」

 言って竜胆はレンタルコーナーに足を運んだ。

「これ! めっちゃオススメ!」
「……オーロラの向こうへ?」

 全く聞いたことのない映画だ。

「ネタバレはできないけど、マジで感動するから!」

 興奮した様子で、竜胆は一生懸命、作品の良さを伝えようとしてくれている。

「……そこまで言うなら、レンタルしてみるか」  
「ほんと!? 見たら感想教えてよ。
 この映画の話、誰かとしてみたかったんだよね」
「他に何かオススメはあるか?」
「うん! 後は……」

 俺と竜胆は店内を回る。
 話せば話すほど俺たちの好みが似ていることがわかっていく。
 互いを知れば知るほどに、相性の良さが浮き彫りになっていくようだった。
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