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第10話 真っ直ぐな感情は、人を戸惑わせるものだから
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※
買い物を済ませて俺たちは場所を移動していた。
次は服やアクセサリーを見たいらしく、デートはまだまだ続く。
「この辺りだと……大した店はないんじゃないか?
渋谷とか原宿とか行ったほうがいいと思うんだが……」
「……う~ん? そっちのお店は美愛たちとも行くからさ。
それに、高校の同級生と会うのは皆友くん的に……でしょ?」
言われて気付く。
竜胆と二人でいるところを見られれば、根掘り葉掘り尋ねられるに決まってる。
わざわざこっちまで電車で来てくれたのは、その辺りの気遣いもしてくれてたからなのか。
「そこまで考えてくれてたんだな」
「……まぁ、あたしとしては知られてもいいんだけど?」
キミはどう? と竜胆の視線に問い掛けられた。
「それは勘弁してくれ」
「まぁ、今はまだ……二人だけの秘密の関係っていうのは悪くないけどね」
俺は自分のスタンスを変えるつもりはない。
最低限の関りだけで高校生活を終える。
それが最も楽で無難な生き方だと信じているから。
「でも、さ……」
竜胆が足を止める。
合わせて俺も足を止めて彼女を見た。
「これからもっと、ゆっくりでもいいから、あたしは……皆友くんのこと知りたいなって思う。
あたしのこと、知って欲しいなって思う」
踏み込んできた。
深く俺の心に。
真剣な彼女の眼差しが俺を捉えて離さない。
そして、ギュッと強く手を握られた。
「……覚えておいて、くれるかな?
あたしの気持ち」
直ぐに答えを求めて来なかったのは、俺に対する逃げ道を残しておいてくれたのかもしれない。
「わかった……」
小さく返事をする。
竜胆の気持ちに対する答えを返せるかはわからない。
でも、彼女の想いは忘れない。
それを約束することだけが今の俺の精一杯だ。
「うん……ならよし!
ふふっ、結構相性いいと思うんだよね、あたしたち」
俺の情けない返事にも、竜胆は優しく笑う。
決して無理強いすることはない。
竜胆は人との距離感の取り方が上手い。
そして大切な決断を委ねてくれているからこそ、俺たちの関係はまだ続いている。
もしこれ以上、踏み込まれてしまっていたら……今、竜胆の想いに応える勇気は俺にはなかった。
※
「てかさ皆友くん、どっかオススメのショップとかないの?」
「ないな。
そもそも俺はあまり外に出ないからな」
そもそも、進学に合わせてこっちに引っ越したので、この辺りにそれほど詳しくない。
「でも、この辺りが地元なんだよね?
長く住んでたらある程度は詳しくならない?」
「……進学に合わせてこっちに引っ越してきたんだ」
「え……そう、だったんだ。
じゃあ地元は……?」
「足利……」
「って、どこ?」
言われると思った。
都会の人間からすると田舎の認識などこんなものだろう。
「足利学校とか、フラワーパークって聞いたことあるだろ?」
「あ、それはある!」
地元の名前よりも、名所を伝えた方が理解が早いのも田舎あるあるだ。
「竜胆は都内なのか?」
「ううん。
地元は埼玉。
だから、今は一人暮らし」
そうだったのか。
俺と出会った時、竜胆が不安そうにしていたのは周りに頼れる人間がいなかったから……ということもあったのかもしれない。
「埼玉からなら、通えたんじゃないか?」
「まぁ……ね。
でも、近いほうが楽じゃん」
場所によっては一時間くらいはかかるだろう。
往復二時間。
これから三年間を考えれば、引っ越した方が遥かに有効的に時間を使えるだろう。
特に朝は辛いからな……。
「あ……皆友くん、ここ、どうかな? 雰囲気良くない?」
そこは街中になるカジュアルショップ。
見るからに若者に人気がありそうなお店だった。
「じゃあ、入ってみるか。
気に入った服があるといいな」
「うん。
皆友くんに似合う服をばっちりあたしが選んであげるから!」
「は? ちょっと待て。
自分のを買うんじゃないのか?」
「ううん。あたしの服は、美愛たちと出掛けた時に買ったばっかりだから」
それを聞いて、俺は今直ぐに帰りたい気持ちが強まっていったのだが……言っても恐らく却下されるだろう。
「んじゃ、入ろ」
手を引かれる。
店内でも繋いだままのようだ。
「あ、この辺りとかいいんじゃない?」
普通、こういう時は男が女の子の服を選ぶものではないか?
などと考えている間に、竜胆にどんどん服を渡されていく。
「こ、これ……全部着るのか?」
「もち!」
期待に満ちあふれた目を向けられた。
完全に着せ替え人形にするつもりらしい。
「一着くらい自分のを選んでもいいんじゃないか?」
「……なら、皆友くんが選んでよ」
「え……?」
しまった。
逃げ道を作ろうとしたら、そもそも出口がなかった気分だ。
「あたしに似合う服……皆友くんが選んでくれたら嬉しい」
「いや、でも……俺は服のセンスはないぞ?」
「そんなことないよ。
今日の服も似合ってて、カッコいいもん。
だから……皆友くんの好みで選んでよ」
竜胆がぐっと身体を寄せてきた。
二つの柔らかな感触が胸に当たる。
この状況はあまりにも、その……色々とマズい。
「り、竜胆……近い」
「あっ……ご、ごめん」
指摘されると竜胆は慌てて離れた。
「お前、夢中になると周りが見えなくなるよな……」
「そ、そうかも……気を付ける」
頬に朱がさしたまま竜胆は顔を伏せた。
「あ、あまり無防備過ぎると、その……誤解されるぞ」
「されないよ。
他の男の子にはこんな自然になれないし」
それは俺のことだけは特別だと言っているようなもので……。
そんなこと、照れながら口にしないでほしい。
「……そ、それでさ、選んで……くれるの?」
「竜胆の好みかはわからないからな。
それでもいいなら……」
「うん! いい! めっちゃ嬉しい!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべて、胸に手を当てて、竜胆はうきうきと小さく飛び跳ねた。
その様子はあまりにも可愛らし過ぎて……直視できないくらいで。
竜胆の感情はいつも真っ直ぐすぎて、俺を戸惑わせた。
買い物を済ませて俺たちは場所を移動していた。
次は服やアクセサリーを見たいらしく、デートはまだまだ続く。
「この辺りだと……大した店はないんじゃないか?
渋谷とか原宿とか行ったほうがいいと思うんだが……」
「……う~ん? そっちのお店は美愛たちとも行くからさ。
それに、高校の同級生と会うのは皆友くん的に……でしょ?」
言われて気付く。
竜胆と二人でいるところを見られれば、根掘り葉掘り尋ねられるに決まってる。
わざわざこっちまで電車で来てくれたのは、その辺りの気遣いもしてくれてたからなのか。
「そこまで考えてくれてたんだな」
「……まぁ、あたしとしては知られてもいいんだけど?」
キミはどう? と竜胆の視線に問い掛けられた。
「それは勘弁してくれ」
「まぁ、今はまだ……二人だけの秘密の関係っていうのは悪くないけどね」
俺は自分のスタンスを変えるつもりはない。
最低限の関りだけで高校生活を終える。
それが最も楽で無難な生き方だと信じているから。
「でも、さ……」
竜胆が足を止める。
合わせて俺も足を止めて彼女を見た。
「これからもっと、ゆっくりでもいいから、あたしは……皆友くんのこと知りたいなって思う。
あたしのこと、知って欲しいなって思う」
踏み込んできた。
深く俺の心に。
真剣な彼女の眼差しが俺を捉えて離さない。
そして、ギュッと強く手を握られた。
「……覚えておいて、くれるかな?
あたしの気持ち」
直ぐに答えを求めて来なかったのは、俺に対する逃げ道を残しておいてくれたのかもしれない。
「わかった……」
小さく返事をする。
竜胆の気持ちに対する答えを返せるかはわからない。
でも、彼女の想いは忘れない。
それを約束することだけが今の俺の精一杯だ。
「うん……ならよし!
ふふっ、結構相性いいと思うんだよね、あたしたち」
俺の情けない返事にも、竜胆は優しく笑う。
決して無理強いすることはない。
竜胆は人との距離感の取り方が上手い。
そして大切な決断を委ねてくれているからこそ、俺たちの関係はまだ続いている。
もしこれ以上、踏み込まれてしまっていたら……今、竜胆の想いに応える勇気は俺にはなかった。
※
「てかさ皆友くん、どっかオススメのショップとかないの?」
「ないな。
そもそも俺はあまり外に出ないからな」
そもそも、進学に合わせてこっちに引っ越したので、この辺りにそれほど詳しくない。
「でも、この辺りが地元なんだよね?
長く住んでたらある程度は詳しくならない?」
「……進学に合わせてこっちに引っ越してきたんだ」
「え……そう、だったんだ。
じゃあ地元は……?」
「足利……」
「って、どこ?」
言われると思った。
都会の人間からすると田舎の認識などこんなものだろう。
「足利学校とか、フラワーパークって聞いたことあるだろ?」
「あ、それはある!」
地元の名前よりも、名所を伝えた方が理解が早いのも田舎あるあるだ。
「竜胆は都内なのか?」
「ううん。
地元は埼玉。
だから、今は一人暮らし」
そうだったのか。
俺と出会った時、竜胆が不安そうにしていたのは周りに頼れる人間がいなかったから……ということもあったのかもしれない。
「埼玉からなら、通えたんじゃないか?」
「まぁ……ね。
でも、近いほうが楽じゃん」
場所によっては一時間くらいはかかるだろう。
往復二時間。
これから三年間を考えれば、引っ越した方が遥かに有効的に時間を使えるだろう。
特に朝は辛いからな……。
「あ……皆友くん、ここ、どうかな? 雰囲気良くない?」
そこは街中になるカジュアルショップ。
見るからに若者に人気がありそうなお店だった。
「じゃあ、入ってみるか。
気に入った服があるといいな」
「うん。
皆友くんに似合う服をばっちりあたしが選んであげるから!」
「は? ちょっと待て。
自分のを買うんじゃないのか?」
「ううん。あたしの服は、美愛たちと出掛けた時に買ったばっかりだから」
それを聞いて、俺は今直ぐに帰りたい気持ちが強まっていったのだが……言っても恐らく却下されるだろう。
「んじゃ、入ろ」
手を引かれる。
店内でも繋いだままのようだ。
「あ、この辺りとかいいんじゃない?」
普通、こういう時は男が女の子の服を選ぶものではないか?
などと考えている間に、竜胆にどんどん服を渡されていく。
「こ、これ……全部着るのか?」
「もち!」
期待に満ちあふれた目を向けられた。
完全に着せ替え人形にするつもりらしい。
「一着くらい自分のを選んでもいいんじゃないか?」
「……なら、皆友くんが選んでよ」
「え……?」
しまった。
逃げ道を作ろうとしたら、そもそも出口がなかった気分だ。
「あたしに似合う服……皆友くんが選んでくれたら嬉しい」
「いや、でも……俺は服のセンスはないぞ?」
「そんなことないよ。
今日の服も似合ってて、カッコいいもん。
だから……皆友くんの好みで選んでよ」
竜胆がぐっと身体を寄せてきた。
二つの柔らかな感触が胸に当たる。
この状況はあまりにも、その……色々とマズい。
「り、竜胆……近い」
「あっ……ご、ごめん」
指摘されると竜胆は慌てて離れた。
「お前、夢中になると周りが見えなくなるよな……」
「そ、そうかも……気を付ける」
頬に朱がさしたまま竜胆は顔を伏せた。
「あ、あまり無防備過ぎると、その……誤解されるぞ」
「されないよ。
他の男の子にはこんな自然になれないし」
それは俺のことだけは特別だと言っているようなもので……。
そんなこと、照れながら口にしないでほしい。
「……そ、それでさ、選んで……くれるの?」
「竜胆の好みかはわからないからな。
それでもいいなら……」
「うん! いい! めっちゃ嬉しい!」
眩しいくらいの笑顔を浮かべて、胸に手を当てて、竜胆はうきうきと小さく飛び跳ねた。
その様子はあまりにも可愛らし過ぎて……直視できないくらいで。
竜胆の感情はいつも真っ直ぐすぎて、俺を戸惑わせた。
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