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第22話 俺自身の為に
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昼休みが終わると静かなもので……午後の授業は淡々と――過ぎてはくれなかった。
『皆友くん……』
竜胆からメールが届いたのだ。
(……何か相談があるのだろか?)
俺は次の連絡を待っていると、
『昼休み、ずっと美愛にデレデレしてたでしょ?』
その話か。
竜胆の調子が戻ってきたのはいいが、それは完全な誤解だった。
『してない』
『うそ……赤くなってたもん』
もしかして、嫉妬しているのだろうか?
ちらっと竜胆のほうを見る。
と……不満そうにむすっとしていた。
『嘘じゃない。
赤くは、なってたかもしれないけど』
『ドキドキしてたんだ。
女の子にああいうことされると、男の子はそうなっちゃうの?』
驚きはあってもそれほどドキドキしていたわけじゃないのだが、どうすれば機嫌を直してくれるだろうか?
『やましい気持ちはない。
それよりも……あの後に竜胆に抱きしめられたほうが、その……驚いた』
嘘偽りなく、俺はどきどきしてた。
書くのも照れるくらいだったが、正直な気持ちを伝える。
「ぇ……~~~~~~」
これはメールではなく、思わず零れた竜胆の声。
自分のしたことの大胆さに気付いたのか、竜胆は激しく赤面して悶えるようにふるふるしていた。
その様子を見ていると、こっちまで照れてしまう。
学園一のモデル顔負けの美少女が、なんで俺のことで一喜一憂してるんだよ……。
(……可愛すぎるだろ)
竜胆のことを見ているだけで、体温が上がっていく。
しばらくして落ち着いてきたのか、竜胆は窺うように俺を見る。
そして、何かを言おうとしては口を閉じて、視線を伏せ……を、何度か繰り返すと、スマホを操作した。
『……美愛よりも、あたしにぎゅってされるほうが、ドキドキした?』
それを言うとしてたのか。
さっきまでの仕草を見てたせいで、こっちまで照れてくる。
竜胆はどれだけ俺の心をもやもやされたら気が済むのだろう。
悩んだ末に俺は……。
『した』
「~~~~~~っ」
喜んだり、嫉妬したり、拗ねたり、竜胆は百面相を披露する。
『あたしでドキドキしてくれたんだ。
なら、また二人っきりの時に……ぎゅってしてあげる』
「ぅ……」
今度は俺が動揺する番だった。
『それに、あたしも皆友くんに……ぎゅって、してほしい』
『……そんなこと、簡単にできるわけないだろ……』
『だったら、簡単に、しないでよ。
あたしの傍にずっといるって……覚悟ができたら……その時は、大切な言葉と一緒に、ぎゅってして』
文章を打つ手が止まる。
いつか――俺はその言葉を竜胆に言え――
「……!?」
微かな声が聞こえた。
反射的に視線が動く。
竜胆の顔が戸惑い……いや、恐怖に歪んでいる。
先程までのほんわとした雰囲気は泡沫のように消え、様子がおかしいのは手に取るように明らかだった。
「どうかしたのか……?」
メールではなく、直接声を掛けた。
「ぇ……あっ、な、なんでもない、から」
「なんでもないって……」
じゃあ、なんでそんなに、お前は身体は、声は……震えてるんだよ。
彼女の不安を和らげる為に……俺ができることがあるなら……俺は直ぐにでも何かをしてやりたい。
「竜胆……」
言葉と共に脅える少女の手を強く握った。
「無理しなくていい」
「っ……」
「落ち着くまでこうしてるから」
俺が伝えると、竜胆は不安を押し潰すように握られた手に力を込めた。
少しずつ、ゆっくりと、彼女の震えが治まっていく。
それを確認して、俺は会話をメールに切り替えた。
勿論、手は繋いだまま。
『一つ、伝えておく』
『……なに?』
『昼休み、保健室に行ったっていうの、嘘なんだろ』
『どう、して?』
「そんなの、保健の先生に聞けば直ぐにわかる」
教室に戻る前に、俺は竜胆が保健室に来たかを確かめておいたのだ。
そして答えはノー。
『どうしてそんな嘘を?』
『……ごめん』
咎めたいのではない。
俺は――竜胆を苦している『原因』が知りたかった。
『そうしなくちゃならなかったのは、お前の身に起こっている『何か』が原因か?』
返事はない。
沈黙は肯定と捉える。
竜胆には、わざわざ嘘を吐かなければならない理由があった。
そう考えるのが自然だ。
だからこそ俺は、竜胆の身に何かが起こっていると確信したのだから。
『俺たちに……心配を掛けたくなかったから?』
答えはない。
これも肯定だろう。
竜胆に嘘を吐かせた相手がいる。
その嘘に悪意はない。
誰も傷付けない為に、自分を傷付けることになる優しい嘘だ。
だけど、
『お前を守ってみせる』
竜胆自身が傷付く必要はない。
彼女を悲しませる『何か』があるのなら、その原因を取り除く。
『だから、俺を信じてくれないか?』
「っ……」
誰かを信じることは難しい。
どんな小さな裏切りだとしても、誰もがその恐怖を知っているから。
傷付けられたことで人は臆病になる。
だから、どれだけ親しくなったとしても、相手を信じ切ることは難しい。
それは追い込まれた状況であればあるほどに。
俺が竜胆に信じてほしいと思う気持ちはただの我儘なのかもしれない。
それでも、
『俺はお前を助けたい』
自分の押し付けがましい想いを伝えた。
それは、俺がやりたいことだから。
これ以上、説得力のある言葉なんてないだろう。
「……っ」
涙を堪えるような掠れた声と共に、竜胆は頷く。
それを見て、俺の迷いは完全に消える。
不安、恐怖、疑念――全ての負の感情に打ち勝ち、彼女は俺を信じることを決めてくれた、その想いに応える為にも、俺は――俺自身の為にも、竜胆を救うと決めたのだった
昼休みが終わると静かなもので……午後の授業は淡々と――過ぎてはくれなかった。
『皆友くん……』
竜胆からメールが届いたのだ。
(……何か相談があるのだろか?)
俺は次の連絡を待っていると、
『昼休み、ずっと美愛にデレデレしてたでしょ?』
その話か。
竜胆の調子が戻ってきたのはいいが、それは完全な誤解だった。
『してない』
『うそ……赤くなってたもん』
もしかして、嫉妬しているのだろうか?
ちらっと竜胆のほうを見る。
と……不満そうにむすっとしていた。
『嘘じゃない。
赤くは、なってたかもしれないけど』
『ドキドキしてたんだ。
女の子にああいうことされると、男の子はそうなっちゃうの?』
驚きはあってもそれほどドキドキしていたわけじゃないのだが、どうすれば機嫌を直してくれるだろうか?
『やましい気持ちはない。
それよりも……あの後に竜胆に抱きしめられたほうが、その……驚いた』
嘘偽りなく、俺はどきどきしてた。
書くのも照れるくらいだったが、正直な気持ちを伝える。
「ぇ……~~~~~~」
これはメールではなく、思わず零れた竜胆の声。
自分のしたことの大胆さに気付いたのか、竜胆は激しく赤面して悶えるようにふるふるしていた。
その様子を見ていると、こっちまで照れてしまう。
学園一のモデル顔負けの美少女が、なんで俺のことで一喜一憂してるんだよ……。
(……可愛すぎるだろ)
竜胆のことを見ているだけで、体温が上がっていく。
しばらくして落ち着いてきたのか、竜胆は窺うように俺を見る。
そして、何かを言おうとしては口を閉じて、視線を伏せ……を、何度か繰り返すと、スマホを操作した。
『……美愛よりも、あたしにぎゅってされるほうが、ドキドキした?』
それを言うとしてたのか。
さっきまでの仕草を見てたせいで、こっちまで照れてくる。
竜胆はどれだけ俺の心をもやもやされたら気が済むのだろう。
悩んだ末に俺は……。
『した』
「~~~~~~っ」
喜んだり、嫉妬したり、拗ねたり、竜胆は百面相を披露する。
『あたしでドキドキしてくれたんだ。
なら、また二人っきりの時に……ぎゅってしてあげる』
「ぅ……」
今度は俺が動揺する番だった。
『それに、あたしも皆友くんに……ぎゅって、してほしい』
『……そんなこと、簡単にできるわけないだろ……』
『だったら、簡単に、しないでよ。
あたしの傍にずっといるって……覚悟ができたら……その時は、大切な言葉と一緒に、ぎゅってして』
文章を打つ手が止まる。
いつか――俺はその言葉を竜胆に言え――
「……!?」
微かな声が聞こえた。
反射的に視線が動く。
竜胆の顔が戸惑い……いや、恐怖に歪んでいる。
先程までのほんわとした雰囲気は泡沫のように消え、様子がおかしいのは手に取るように明らかだった。
「どうかしたのか……?」
メールではなく、直接声を掛けた。
「ぇ……あっ、な、なんでもない、から」
「なんでもないって……」
じゃあ、なんでそんなに、お前は身体は、声は……震えてるんだよ。
彼女の不安を和らげる為に……俺ができることがあるなら……俺は直ぐにでも何かをしてやりたい。
「竜胆……」
言葉と共に脅える少女の手を強く握った。
「無理しなくていい」
「っ……」
「落ち着くまでこうしてるから」
俺が伝えると、竜胆は不安を押し潰すように握られた手に力を込めた。
少しずつ、ゆっくりと、彼女の震えが治まっていく。
それを確認して、俺は会話をメールに切り替えた。
勿論、手は繋いだまま。
『一つ、伝えておく』
『……なに?』
『昼休み、保健室に行ったっていうの、嘘なんだろ』
『どう、して?』
「そんなの、保健の先生に聞けば直ぐにわかる」
教室に戻る前に、俺は竜胆が保健室に来たかを確かめておいたのだ。
そして答えはノー。
『どうしてそんな嘘を?』
『……ごめん』
咎めたいのではない。
俺は――竜胆を苦している『原因』が知りたかった。
『そうしなくちゃならなかったのは、お前の身に起こっている『何か』が原因か?』
返事はない。
沈黙は肯定と捉える。
竜胆には、わざわざ嘘を吐かなければならない理由があった。
そう考えるのが自然だ。
だからこそ俺は、竜胆の身に何かが起こっていると確信したのだから。
『俺たちに……心配を掛けたくなかったから?』
答えはない。
これも肯定だろう。
竜胆に嘘を吐かせた相手がいる。
その嘘に悪意はない。
誰も傷付けない為に、自分を傷付けることになる優しい嘘だ。
だけど、
『お前を守ってみせる』
竜胆自身が傷付く必要はない。
彼女を悲しませる『何か』があるのなら、その原因を取り除く。
『だから、俺を信じてくれないか?』
「っ……」
誰かを信じることは難しい。
どんな小さな裏切りだとしても、誰もがその恐怖を知っているから。
傷付けられたことで人は臆病になる。
だから、どれだけ親しくなったとしても、相手を信じ切ることは難しい。
それは追い込まれた状況であればあるほどに。
俺が竜胆に信じてほしいと思う気持ちはただの我儘なのかもしれない。
それでも、
『俺はお前を助けたい』
自分の押し付けがましい想いを伝えた。
それは、俺がやりたいことだから。
これ以上、説得力のある言葉なんてないだろう。
「……っ」
涙を堪えるような掠れた声と共に、竜胆は頷く。
それを見て、俺の迷いは完全に消える。
不安、恐怖、疑念――全ての負の感情に打ち勝ち、彼女は俺を信じることを決めてくれた、その想いに応える為にも、俺は――俺自身の為にも、竜胆を救うと決めたのだった
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