勇気を出してよ皆友くん!

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第24話 自分と向き合う勇気

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「適当に座ってくれ」
「う、うん」

 竜胆は床に置かれた丸いクッションに座った。
 俺も竜胆の対面に俺も腰を下ろす。

「ここが皆友くんの部屋……」

 落ち着かな様子で、竜胆は周囲を見回した。

「大して面白い物はないぞ?」
「あ、ごめん……あまり見られるの、気分よくないよね……」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」

 ベッドや机、衣類など、生活に必要な最低限のものしか置いていない。
 目立つ物と言ったら服を掛けているハンガーラックくらいだろうか?

「男の子の部屋……初めて入ったから、ちょっと新鮮で。
 こういう感じなんだ……」

 その一言で、俺の心に動揺が走った。
 さっきから竜胆がそわそわしているのは、そういうことか。
 脅迫メールの犯人特定を急ぐあまり、全く考えていなかったが……。

(……二人きり、なんだよな)

 意識した途端、目が合った。

「……」
「……」

 言葉もなく見つめ合ってしまう。

(……何か、話題を……)

 そういえば、俺は竜胆を家に呼んだ理由を説明していただろうか?
 もし、万が一……変な誤解があったら……。

「り、竜胆……わ、わかってくれてると思うんだが、家に来てもらったのは……今後のことを相談する為で……」
「う、うん! わかってる!
 それはわかってる、から……!」

 良かった。
 二人とも、同じタイミングで、ほっと息を吐く。
 そんなお互いの姿に、俺たちは苦笑した。
 でも、お陰で互いの緊張が解ける。

「ごめんな。
 いきなり男の家に呼ばれて二人きりになって、怖くなかったか?」
「それは全然! 怖くてなんてないから」

 尋ねてみたら即答された。

「それに……間違いがあってもいいって思ったから……」
「は?」
「だ、だから……皆友くんとだったら、な、何かあっても、イヤじゃないから……」

 ぐらぐらと意識が揺れる。
 緊張が解けたばかりなのに、甘くて蕩けそうな雰囲気が室内を包む。
 竜胆の頬が火照り、瞳が熱く揺れている。
 十五歳の女の子にこんな想いを抱くのはおかしいかもしれないが、その表情はあまりにも色っぽくて……どうしようもないほどに、竜胆が『女』であることを感じてしまう。
 一歩間違えれば、俺は暴走してしまいそうで……。

「そ、そういうのは、せめて、恋人同士になってからだろ!」

 必死に言葉を絞り出す。

「……なら、いつ勇気……出してくれるの?」
「それは……」

 勇気――それは、想いを伝えてほしい。
 そういう意味だろう。
 だが、

「ずっとは待ってあげないから。
 あたし……」

 それはどういう意味だろうか?
 俺が何もせずにいたら、竜胆は他の誰かに?
 そんなことを考えたら、心の中が今まで感じたことがないほど、苦しくなっていく。

「待てないから……どうしても、皆友くんが勇気を出せないなら、あたしから、あたしの好きな人に想いを伝えるから」
「……っ」

 俺を真っ直ぐに見つめる竜胆の瞳から、本気の想いを伝わってくる。
 ここまで言ってくれたのに、俺は……。

「今は……脅迫のメールの件を先に解決しなくちゃだろ」
「……ここで、その話を出すの、ずるいよ……」

 それはあまりにもずるく、卑怯な逃げだ。
 でも、一歩を踏み出す勇気が、誰かと、新しい繋がりを持つ勇気が、俺の心にはまだなかった。
 だから、

「もう少しだけ、待ってくれるか?」

 これが今の俺にできる精一杯の答え。
 仕方ないなぁと……竜胆は優しく笑った。

「……そういえばさ、まだ皆友くんにお礼を言えてなかったよね?」
「お礼?」
「教室で、あたしを守るって言ってくれたこと、本当に嬉しかった。
 一生懸命、あたしのことを考えてくれてるのが伝わってきて、皆友くんのことを信じていたって思えたの」

 あの時、俺の押し付けがましさに、竜胆は応えてくれた。
 そして、

「あの言葉に嘘はない。
 俺はお前のことを守りたい、そして助けたい」

 竜胆は想いを受け止め頷く。

「ありがとう。
 でも、嬉しいと思うのと同じくらい、ごめんなさいとも思ってる。
 ……こんなことに巻き込むことになっちゃったから」
「お前が謝ることじゃない。
 悪いのは脅迫してきた相手だろ?」
「だけど、どんな奴が犯人かもわからないから……。
 皆友くんを危ない目に合わせちゃうかもって思うと……怖いよ……」

 俺に……いや、誰にも迷惑を掛けたくないと、竜胆は思っていたのだろう。
 だからこそ救いの手を伸ばすことができなかった。

「竜胆が一人で悩んで怖がってるほうが、俺はイヤだけどな。
 それに、こうやって放課後もお前の傍にいられるのは嬉しいくらいだ」
「っ……そんなに優しいこと言われたら……あたし、ダメになっちゃう。
 今よりも、弱くなっちゃうよ」

 涙を浮かべる竜胆。
 でも、彼女は少し誤解している。

「誰かに頼ることは、弱さじゃない。
 竜胆が勇気を出して、一歩踏み出してくれたから……俺はお前を守ることができる」
「ぁぅ……」
「……?」

 竜胆が咄嗟に顔を伏せた。
 どうかしたのだろうか?

「今の殺し文句すぎるよ……こんな時なのに……あたし、皆友くんへの気持ち、抑えらんなくなっちゃうじゃん……」

 呟くような声。
 はっきりとは聞こえなかったが……俺は何か、彼女を悲しませるようなことを言ってしまっただろうか?

「竜胆……大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃない! でも、そこまで言うなら、あたし……皆友くんをいっぱい頼るから、責任……取ってもらうからね!」
「ああ、それは任せろ」
「言ったからね。
 あたしのこと、今よりも深く知った時に……やっぱ抱えきれませんでしたじゃ、許さないから」

 その言葉を聞いた時、竜胆がもう一度、俺に対して勇気を出そうとしてくれているのがわかった。
 彼女はきっと、これから俺に大切な何かを伝えようとしてくれているのだろう。
 
「約束する。
 竜胆がこれから、どんなことを話したとしても受け入れる」

 俺は竜胆の目を見つめる。
 言葉だけではなく、心からの想いが伝える為に。

「……今回の脅迫メールの相手は……あたしの過去を知ってるって話したよね?」
「それが脅迫の材料……なんだよな?」

 俺の問いかけを竜胆は肯定する。

「本当は……これは自分で向き合わなくいけない問題だから……あたしの力で、なんとかしないとって思ってた……」

 それは彼女の悩みや苦しみ。

「皆友くんや美愛、カナンにもなんでもないよって嘘まで吐いて……手を差し伸べてようとしてくれた人の想いを振り払って……みんなを信じてるなら、勇気を出して、助けてって言えば良かったのに……それができなくて……」

 自身の弱さ。

「ずっと一人で悩んでた。
 どうしたらいいんだろうって……でも、考えれば考えるほど何も見えなくなって。
 怖くて逃げ出したいのに、どこにも逃げ道なんてなくて……心が壊れちゃいそうだった」

 他人には見せたくない自分。
 抑えていた感情を、竜胆は解き放っていく。

「でも、皆友くんがあたしを――何も見えない真っ暗な場所から助けてくれたの」
「俺が?」
「うん……教室で手を握ってくれたでしょ? あの時、皆友くんの体温が伝わってきて、すごく安心できた。
 守るって言ってくれた時、助けるって言ってくれた時、救われた想いがした」

 竜胆が俺の目を見つめる。

「皆友くんがあたしに勇気をくれた。
 そして……あたしはもう一度だけ、勇気を出さなくちゃいけない」
「どういうことだ?」
「……話しておきたいことがあるの」

 言って、竜胆は自身のスマホを俺に手渡してきた。
 手渡されたディスプレイには、犯人からのメールが表示されている。

「見てもいいのか?」
「うん」

 内容を確認しながら画面を下にスクロールしていくと、一枚の写真が貼られていた。
 中学生だろうか?
 セーラー服に身を包んだ黒髪の女の子が映っていた。

「この子は?」
「それは……中学時代のあたし」

 写真は化粧っ気がなく、髪型も三つ編みでおさげ眼鏡。
 今の竜胆とは真逆という印象なのだが、写真の少女も顔立ちは非常に整っていた。

「言われてみれば、面影はあるが……」
「今と全然違うでしょ? 地味でダサくて……カッコ悪い。
 それが本当のあたしなの」
「勇気が必要っていうのは、そういうことか」

 竜胆は左右に首を振り、否定の意志を示す。

「勇気が必要なのはまだこれからなの。
 だから、皆友くん……お願いがあります」

 泣きそうな顔で、竜胆は震える手を俺に伸ばす。

「手、握ってほしいの。
 臆病なあたしに、自分の罪と、もう一度向き合う勇気をください」

 脅迫メールにも記載されていた竜胆の罪。
 それは、彼女をこれほど苦しめることなのだろうか?
 でも、それがたとえどんなものだったとしても。

「一人で抱え込まなくていい。
 もしそれがどんな話だったとしても……お前が泣いてしまうほどつらいことだったとしても、俺が一緒に支えるから」

 手を重ねて、指を絡め合う。
 絶対に離さないという想いを伝えるように。
 どれだけ竜胆の過去が辛いものだったとしても、俺は逃げたり、見捨てたりはしない。
 そして、竜胆は話し始めた。

「うん。
 これで……勇気、出せそう。
 ……あたしは――」

 彼女にとっての弱味で、黒歴史で、

「中学生の頃、イジメられてたんだ」

 消してしまいたいほどの過去の記憶を。
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