勇気を出してよ皆友くん!

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第25話 再び立ち上がるまでの物語

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 あたしは高校に入学して初めて、自身の秘密を打ち明けた。
 誰にも話すことはないと思っていた過去。
 中学時代のイジメられていた記憶。
 本当は今も話すのが怖い……自分がイジメられていたことを知られるのは、惨めで情けなくて恥ずかしい。
 忘れたいのに、忘れることができない。
 きっと、生涯消えることのない痛み。

 でもその感情があったからこそ、あたしの今に繋がる。
 今から話すのは、弱くて、臆病で、地味で、不人気を形にしたような女の子が、再び立ち上がるまでの物語だ。



            ※



 中学時代の『わたし』は、気が弱くて、見た目も地味で、人と話すのも苦手だった。
 多分、ほとんどのクラスメイトにとって、いてもいなくても変わらない生徒の一人。
 だけど、そんなわたしにも友達はいた。
 幼稚園の頃から腐れ縁でたった一人の親友。
 わたしはその子のことが大好きだった。
 可愛くて、頭も良くて、話上手で――彼女の周りには、いつも笑顔が溢れていた。
 自分にないものをいっぱい持っていて……憧れだった。
 だから考えもしなかった。
 彼女が学校中の生徒からイジメを受けることになるなんて。

『あいつさ、調子のっててうざくね?』

 事の発端はクラスの中心にいた女子生徒の発言だ。

『明日からシカトしちゃおうよ。
 もしできないなら、そいつもハブるから』

 一部の生徒による無視が始まった。
 それに戸惑うあの子を見て、主犯格である女子生徒のグループはおかしそうな……でも、どこか満足したように歪んだ笑みを浮かべていた。
 少し前まで仲が良かった生徒たちも、同調するように、会話すらしてくれなくなっていく。
 クラス担任にその現状を訴えても、なんの力にもなってはくれず……一週間後には、彼女と会話をする生徒はわたしだけになっていた。

『凛華もイジメられちゃうから……あたしのことはもう無視したほうがいいよ』

 自分が大変な時なのに、わたしのことを気遣ってくれた。
 弱々しい彼女の笑みが今も忘れられない。
 大好きな親友の傍にいたい。
 だから……一緒にイジメと闘うことを決めた。

『大丈夫だよ。
 わたしは、何があっても傍にいるから……』
『……うん……うん……! ありがとう……凛華……』

 あたしの気持ちを伝えた時、彼女は声を出して泣いた。
 辛かった気持ちを全部、吐き出すように。

『凛華がいてくれたら、あたし……がんばれるよ』

 でも、今思えばわたしたちの選択は間違いだったんだと思う。
 自分にできることがないか……あの子の為に何かをしなくちゃって、必死で考えて……そして、行動を起こした。

『もう……こんなこと、やめてよ。
 イジメなんて、何が楽しいの?』

 みんなの前で自分の意見を言うのは、本当に怖かったけど……それでも、行動すればきっと、この最悪な現状を変えられると思ってた。
 結果、変わったことは二つ。
 イジメがさらにエスカレートしたこと。
 そして、イジメの対象にわたしも含まれることになったことだ。
 学校内で当然のように無視され、教科書や筆箱、体操着、上履き――学校生活に必要な物が、次から次へと捨てられていく。
 酷い時には暴力を受けることもあった。
 日々、苛烈さを増していくイジメによって、明るくて、笑顔をたやさなかった彼女が、暗くふさぎ込んでいく。
 永遠とも思えるような地獄の日々をなんとか耐えていられたのは、互いという心の支えがあったからだった。
 でも、終わらないイジメは、わたしたちの心をどこまでも蝕み、壊していく。

 そして――最悪の日は訪れた。

 放課後の教室。
 鍵を掛けられ、取り囲まれ、逃げることは許されない。
 これから何が始まるのか。
 不安と恐怖に思考が支配されていた。
 そして、

『男子~、こいつら好きにしちゃっていいよ。
 童貞くんたちも初体験のチャンス~』

 なんの権利があるのだろう。
 イジメの主犯格の女子生徒が、そんなことを言った。
 そして、わたしたちは男子生徒に身体を取り押さえられる。
 本当に……されるんじゃないかって、思った。
 必死に抵抗しても男の子の力には勝てなくて……もう、ダメだと思った。
 その時……。

『お願い……します。
 もう、許してください……わたしが悪かったなら、謝ります……なんでもしますから……だから……もう、怖いこと、しない……で……』

 これは、あの子の口から零《 こぼ》れた言葉だった。
 もう、とっくに限界を超えていたんだと思う。
 それを見て心底おかしそうに、主犯格の女子生徒が相手を屈服させたことに、心から快感を覚えているような、気持ちが悪く、背筋が凍るような嗜虐的な笑みを浮かべた。

『……なんでもするなら、このまま男子にレイプされろよ』
『やだ、やめて……そんなの、ひどすぎるよ……』

 泣き叫ぶ彼女を見て、愉悦を帯びた笑い声が室内に響いた。

『なら……そうだな。
 もしどっちかを生贄に差し出すなら、片方だけ助けてやってもいいよ?』

 嗜虐的な笑みと共に、わたしたちを交互に見る少女。
 でも、どちから片方なんて選べるわけがない。

『ならあたしを助けて……!』

 でも、そう思っていたのはわたしだけだった。

『凛華を……こいつを好きにしていいから!』

 その言葉が信じられなかった。
 胸が痛くて、苦しくて呼吸ができなくなっていく。
 鋭利な刃物に貫かれ、深い穴が開いていくような錯覚に襲われてしまう。

『きゃははははっ、友達を見捨てるんだぁ~。
 ……でもさ、言葉だけじゃ誰も信じないよね? 実際に行動で示してよ』
『行動で……?』

 きっと彼女は迷っていたのだと思う。
 自分の手でわたしを傷付けることを。
 でも、

『殴ったり、罵倒したりとか……あ、服脱がして写真でも撮っとく?』
『そ……そんな……』
『もしできないなんて言うなら、そういう目にあうのはあんただよ?』
『っ――……や、やる! そのくらい、やるから!』

 彼女の心は簡単に折られた。
 自身がイジメられる恐怖にもう耐えられなかったんだ。
 だから、仕方ない。
 わたしは全てを諦めて、そう考えることにした。
 羽交い締めにされて、親友に頬をぶたれた。
 大した痛みはなくて、心は痛かった。
 でも、仕方ない。
 お腹を蹴られて嘔吐してしまった。
 呼吸が止まって、苦しくて、涙が溢れてきた。
 だけど、仕方ない。
 その様子をスマホで撮影されていることも。
 全部、全部――わたしが生贄になることで、あの子が助かるなら……それが唯一の救いだ。
 そう思うことしか、できなかった。

「あははははっ、あははははははははっ……」

 壊れたように、わたしの親友が笑っている。
 わたしを殴りながら、涙を流している。
 そんな姿を見てしまったら、彼女を恨むことなんてできるわけなかった。
 だって、こんなになるまで、辛くて悲しくて、痛い想いをしつづけてきたんだから。

 そして永遠とも思えるような最悪の時間が始まり――わたしたちの関係を完全に壊すことになった行為は、彼女たちが満足するまで続いた。
 唯一の救いだったのは、嘔吐してしまったわたしを見て……男子が引いてしまい、酷いことをされずに済んだことだろうか?

『ごめん……ごめんね……凛華ぁ……』

 二人だけが残された誰もいない教室で、親友だったあの子の泣き声が聞こえた。
 ここからの記憶はとても曖昧で、良く覚えていない。
 ただ、わたしは……ボロボロになった身体で、なんとか家に帰った。

 でも……翌日からわたしは学校に行けなくなっていた。
 本当は行かなくちゃならなかった。
 わたしは生贄で……その生贄がいなくなれば、またイジメを受けることになるのは誰かなんて、わかりきっていた。
 だけど、あの日のことを思い出す度に身体が震えてしまって、吐き気がして、トラウマとなって今もわたしの心を蝕み続けた。 

 あの子は大丈夫だろうか?
 わたしと同じで逃げてくれたのだろうか?
 気になっているはずなのに、あの日以降……親友だったはずのあの子とは、一度も連絡を取っていない。

 時間だけがただ過ぎていく後悔の日々。
 だからだったのだろうか?
 学校にも行かず、『イジメ』についてばかり考えるようになっていた。

 どうしたら『イジメ』られずにすむのか。
 どうしたら『イジメ』をなくせるのか。
 どうしたら『次のわたしたち』を生まずにすむのか。

 考えて、考えて、いっぱい考えて、その時に思ったんだ。
 スクールカーストという見えない階級《 ランク》が存在していて、その立場にいる生徒の発言権が高いというのなら、立場の弱い生徒が苦しまなければならないのなら、わたしが、学校中の誰よりも人気者になればいいんじゃないかって。
 そうなることができたなら――イジメを生まずに済むんじゃないか、もし起こってしまったとしても、わたしがみんなを守ってあげられるんじゃないかって。

 それはもしかしたら、子供じみたおかしな考えだったのかもしれない。
 でも――だとしても、最後にもう一度だけ立ち上がってみようと思えた。
 あの時の後悔を二度と繰り返したくない。
 だから、高校入学までに自分を変えてみせる。
 わたしはもう、自分の全てを奪った『イジメ』に負けたくないから。
 誰よりも人気者になって、今度はわたしが『イジメ』を倒してみせる――そう誓ったんだ。



         ※



 これが今の『あたし』になるまでの話。
 弱くて、臆病で、地味で、不人気を形にしたような女の子が、再び立ち上がるまでの物語の全てだ。
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