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第30話 誇るべき勝利
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※
(……まず一人)
ぶっ倒れている性悪女を見てから、俺は周囲を見回す。
ここにいるのは、見るからに柄の悪い奴らばかりだ。
「テメェ……そうか。
ずっと見てやがったってわけだ!」
史一と呼ばれる不良のリーダーが声を荒げる。
だが、そんなことはどうでもいい。
「……あと八人か」
この程度の数なら問題ない。
「あん? こいつがもしかして、史一がボコるって言ってた奴?」
「へぇ……この子助けにきたわけ?
か~っこいい! ヒーロー気取りですかー!
でも馬鹿じゃねえの? 他に誰も助けを呼んで――」
「いつまで竜胆の上に乗ってんだ、クズが!」
のうのうと口を開くアホの腹部に回し蹴りをいれた。
回転が加えられた一撃に男の身体が浮き後方に倒れる。
男は気絶したのか、その場で項垂れていた。
「あと七人」
驚きに硬直しているのか、男たちは身動きすら取らずその場に固まっていた。
「お前らも、いつまでも竜胆に触ってんじゃねえ」
その隙に彼女の腕を押さえていた男と、足を押さえていた男を交互に殴り飛ばす。
「あがっ!?」
「うごっ!?」
顎を抉るように打ち抜いたので、軽い脳震盪《 のうしんとう》は確実だ。
これであと五人。
「……立てるか?」
「うん」
俺は彼女の手を引いて、竜胆を立ち上がらせた。
そして、制服のブレザーを脱ぐと、彼女に羽織らせる。
「後ろにいろ」
「皆友くん……」
「うん?」
「気を付けて……!」
「安心しろ。
こいつらの相手をするくらい、目を瞑《 つむ》っててもできる」
まぁ、本当に目を瞑って相手をするなんてサービスはしないが。
「舐めやがってクソが!!
テメェら、たった一人を相手に何してやがるっ!」
呆気なく数人やられたことにボス猿は怒号を上げた。
だが、こいつは少し勘違いしている。
なんの為に俺がずっと……怒りを堪えながらも、竜胆を助けなかったのかを。
「あ、そうそう。
一人じゃないぞ」
「あん?」
「あと十分(じゅっぷん)くらいすれば、警察が来る」
「は……?」「え?」「けい、さつ……」
不良たちは間抜けな顔を晒す。
「婦女暴行、恐喝、麻薬所持……罪状はいくつになるかな?」
俺は持っているスマホを不良どもに見せつけた。
「全部録画してある。
これを証拠として渡したらどうなるか……わかるよな?」
今回はブラフじゃない。
これは竜胆が傷付きながら、それでも逃げずに立ち向かったからこそ手に入れられた証拠だ
「け、警察……なんで、そんなことになってんだよ!?」
「冗談じゃねえよ。
やべぇじゃん――でも、今ならまだ逃げられんだろ!」
自分の状況を理解した途端、男たちは脅え出した。
「逃がすわけないだろ?」
余所見《 よそみ》をしている男の腹部を右手で打つ。
膝が崩れたところで顔面を殴打して、そのまま拳を振り抜くと男は地面に倒れ込んだ。
「これであと四人」
見た目ばかりで全員、実力が伴っていない。
「舐めるんじゃねえ!!」
「クソがっ! テメェをやっちまえば何も問題ねえだろ!」
「そうだ……スマホをぶっ壊しちまえば!」
続いて三人が一斉に動き出す。
そして、俺を取り囲むように迫って来た。
少しは学習したらしいが、動きがあまりにも直線的すぎる。
「おらっ!」
「死ねやっ!」
左右から男たちが殴り掛かってくる。
拳があたる直前、俺はバックステップで一歩後ろに下がった。
当然のように、振るわれた拳は俺に当たらず――正面から向かって来た男がちょうど二人の間に割って入り、挟まれるような形で顔面を殴られていた。
「あがっ……」
「なっ!?」
「す、すまねえ!?」
コメディ映画のような一幕に少し吹き出しそうになる。
だが、そこで生まれた隙を見逃すほど俺は優しくはなく、畳み掛けるように戸惑う不良たちに迫った。
「ふっ!」
そして、加速を利用して片方の男の腹部を蹴りつけた。
勢いのままに身体が浮かび上がり、男は吹き飛ぶ。
続けざまに唖然とするもう一人男の顔面にジャブを右、左と二発……最後にフックを叩き込んだ。
我ながら綺麗に決まったコンビネーションに、相手は為す術もなく、その場で崩れ落ちていた。
「これで……後はお前だけだ」
残ったボス猿に目を向ける。
警察の到着まであと7分ほどだろうか?
「……な、なんなんだ……お前は……」
「名乗るほどのものじゃない」
だが、俺の名前を検索すればいくつか記事が引っかかるだろう。
その程度のやつだ。
「ぐっ……クソがっ! このままで終われるかよ!」
怒りに表情を歪めながら、ボス猿がポケットからナイフを取り出した。
「――皆友くん!」
「大丈夫だ」
相手が武器を持っている時、気を付けるのは致命傷を避けること……そして、恐怖に脅えないこと。
そうすれば身体が動かなくなることはない。
「こういう奴の相手は慣れてる」
「っ――調子に乗ってんじゃねえよ!!」
怒声を上げて、俺に向かって駆け出した。
そこそこ動きは速い。
大柄で身体能力は高いこの男は、同年代相手に喧嘩に負けた経験がなかったのかもしれない。
だが、何をするにも上には上がいる。
特に暴力という相手を従わす為の単純で、最もわかりやすい手段であるなら、それこそ上を見ればきりがない。
だからこそ、馬鹿な奴ほど安易に頼ろうとするのだ。
俺に接近すると、男は首を切り付けるようにナイフを振った。
が、俺はそれを潜り抜けるよう避け――男の顎目掛けてアッパーを炸裂させた。
「ぁ……」
ぐらぐらっと……スキンヘッドの男の身体が揺れて、大の字に仰向けに倒れる。
「っ……ぐっ……ま、まだだ」
「感心するな。
今のを喰らって、意識を失ってないのか」
男はまだ立ち上がろうとしている。
「まだ……オレは負けちゃいねえ」
「やめておけ、立ち上がるだけ無駄だ」
俺の忠告を聞かず、史一は立ち上がろうとしていた。
不良グループのリーダーとしての意地……だろうか。
「意識があるうちに良く聞け」
「ぁ……」
俺は起き上がろうとする史一の身体を蹴り、再び地面に叩き付けた。
「少年院から出てきた後、もしまた竜胆に危害を加えてみろ……この場にいる全員――この程度じゃ済まさない……次は本当に容赦しない」
男の目を直視する。
この言葉が冗談ではないことを伝える為に。
手加減してやるのはこれで最後だ。
もし次に何かあれば、俺は本気でこいつらを排除する。
たとえどんな手を使うことになったとしても。
「喧嘩にこれだけの気概と意地を見せられるなら、今後はもっといい方向に使え――」
最後にそう伝えて、俺は男の顔面に拳を振り下ろした。
今度こそ確実に相手の意識を奪う一撃を。
※
「はぁ……疲れた」
「すごい……皆友くんが強いのは知ってたけど……」
周囲の光景を見て、闘いを見守っていた竜胆は呆然と立ち尽くしていた。
「別にこのくらい大したことない」
「た、大したことないって、相手はいっぱいいたのに……それにナイフまで持ってて……ぁ……皆友くん、怪我、ない?」
慌てて竜胆が俺に駆け寄って来た。
心配そうに目を潤ませながら俺を見つめる。
「ああ……大丈夫だ。
竜胆、本当に頑張ったな……」
叩かれて腫れた彼女の頬に優しく触れる。
この傷付いた全てが竜胆が闘った証。
「でも、痛かったよな」
「ううん、このくらい全然大丈夫!」
力強く微笑む彼女は、俺に心配を掛けまいとしているのだろう。
でも、
「……ごめん、今のはちょっと強がった。
本当はずっと怖かった……」
甘えるように彼女は俺に身体を寄せてきた。
流れのままに、俺は彼女を抱きしめる。
「でもね……皆友くんを信じてたから、負けずにがんばれたの」
俺を見上げる竜胆は、泣き笑いを浮かべていた。
傷付きながら闘った彼女を、俺は心から尊敬する。
そして心の底から愛しいと思う。
見ているだけで苦しくなるような責め苦に堪えて……これほど誉れ高い勝利はないだろう。
「竜胆ならきっと『イジメ』に負けたりしないって信じてた。
でも、ごめんな……もっと早く助けてやれたら良かったんだが……」
「平気。
証拠を残す為、だったんだから」
「ああ……」
だが、もう一つ。
本当は、もう一つだけ条件が揃うのを待ちたかった。
この事件の全てを終わらせる為に……だけど、それは叶わなかった。
俺にはこれ以上、竜胆が傷付く姿を見ていられなかったんだ。
(……だからこそ、もう一手打つ必要がある)
全てのピースはこの場で揃うだろうか?
(……警察が来るまであまり時間はないが……)
真相に迫る為に、俺はある行動に移るのだった。
(……まず一人)
ぶっ倒れている性悪女を見てから、俺は周囲を見回す。
ここにいるのは、見るからに柄の悪い奴らばかりだ。
「テメェ……そうか。
ずっと見てやがったってわけだ!」
史一と呼ばれる不良のリーダーが声を荒げる。
だが、そんなことはどうでもいい。
「……あと八人か」
この程度の数なら問題ない。
「あん? こいつがもしかして、史一がボコるって言ってた奴?」
「へぇ……この子助けにきたわけ?
か~っこいい! ヒーロー気取りですかー!
でも馬鹿じゃねえの? 他に誰も助けを呼んで――」
「いつまで竜胆の上に乗ってんだ、クズが!」
のうのうと口を開くアホの腹部に回し蹴りをいれた。
回転が加えられた一撃に男の身体が浮き後方に倒れる。
男は気絶したのか、その場で項垂れていた。
「あと七人」
驚きに硬直しているのか、男たちは身動きすら取らずその場に固まっていた。
「お前らも、いつまでも竜胆に触ってんじゃねえ」
その隙に彼女の腕を押さえていた男と、足を押さえていた男を交互に殴り飛ばす。
「あがっ!?」
「うごっ!?」
顎を抉るように打ち抜いたので、軽い脳震盪《 のうしんとう》は確実だ。
これであと五人。
「……立てるか?」
「うん」
俺は彼女の手を引いて、竜胆を立ち上がらせた。
そして、制服のブレザーを脱ぐと、彼女に羽織らせる。
「後ろにいろ」
「皆友くん……」
「うん?」
「気を付けて……!」
「安心しろ。
こいつらの相手をするくらい、目を瞑《 つむ》っててもできる」
まぁ、本当に目を瞑って相手をするなんてサービスはしないが。
「舐めやがってクソが!!
テメェら、たった一人を相手に何してやがるっ!」
呆気なく数人やられたことにボス猿は怒号を上げた。
だが、こいつは少し勘違いしている。
なんの為に俺がずっと……怒りを堪えながらも、竜胆を助けなかったのかを。
「あ、そうそう。
一人じゃないぞ」
「あん?」
「あと十分(じゅっぷん)くらいすれば、警察が来る」
「は……?」「え?」「けい、さつ……」
不良たちは間抜けな顔を晒す。
「婦女暴行、恐喝、麻薬所持……罪状はいくつになるかな?」
俺は持っているスマホを不良どもに見せつけた。
「全部録画してある。
これを証拠として渡したらどうなるか……わかるよな?」
今回はブラフじゃない。
これは竜胆が傷付きながら、それでも逃げずに立ち向かったからこそ手に入れられた証拠だ
「け、警察……なんで、そんなことになってんだよ!?」
「冗談じゃねえよ。
やべぇじゃん――でも、今ならまだ逃げられんだろ!」
自分の状況を理解した途端、男たちは脅え出した。
「逃がすわけないだろ?」
余所見《 よそみ》をしている男の腹部を右手で打つ。
膝が崩れたところで顔面を殴打して、そのまま拳を振り抜くと男は地面に倒れ込んだ。
「これであと四人」
見た目ばかりで全員、実力が伴っていない。
「舐めるんじゃねえ!!」
「クソがっ! テメェをやっちまえば何も問題ねえだろ!」
「そうだ……スマホをぶっ壊しちまえば!」
続いて三人が一斉に動き出す。
そして、俺を取り囲むように迫って来た。
少しは学習したらしいが、動きがあまりにも直線的すぎる。
「おらっ!」
「死ねやっ!」
左右から男たちが殴り掛かってくる。
拳があたる直前、俺はバックステップで一歩後ろに下がった。
当然のように、振るわれた拳は俺に当たらず――正面から向かって来た男がちょうど二人の間に割って入り、挟まれるような形で顔面を殴られていた。
「あがっ……」
「なっ!?」
「す、すまねえ!?」
コメディ映画のような一幕に少し吹き出しそうになる。
だが、そこで生まれた隙を見逃すほど俺は優しくはなく、畳み掛けるように戸惑う不良たちに迫った。
「ふっ!」
そして、加速を利用して片方の男の腹部を蹴りつけた。
勢いのままに身体が浮かび上がり、男は吹き飛ぶ。
続けざまに唖然とするもう一人男の顔面にジャブを右、左と二発……最後にフックを叩き込んだ。
我ながら綺麗に決まったコンビネーションに、相手は為す術もなく、その場で崩れ落ちていた。
「これで……後はお前だけだ」
残ったボス猿に目を向ける。
警察の到着まであと7分ほどだろうか?
「……な、なんなんだ……お前は……」
「名乗るほどのものじゃない」
だが、俺の名前を検索すればいくつか記事が引っかかるだろう。
その程度のやつだ。
「ぐっ……クソがっ! このままで終われるかよ!」
怒りに表情を歪めながら、ボス猿がポケットからナイフを取り出した。
「――皆友くん!」
「大丈夫だ」
相手が武器を持っている時、気を付けるのは致命傷を避けること……そして、恐怖に脅えないこと。
そうすれば身体が動かなくなることはない。
「こういう奴の相手は慣れてる」
「っ――調子に乗ってんじゃねえよ!!」
怒声を上げて、俺に向かって駆け出した。
そこそこ動きは速い。
大柄で身体能力は高いこの男は、同年代相手に喧嘩に負けた経験がなかったのかもしれない。
だが、何をするにも上には上がいる。
特に暴力という相手を従わす為の単純で、最もわかりやすい手段であるなら、それこそ上を見ればきりがない。
だからこそ、馬鹿な奴ほど安易に頼ろうとするのだ。
俺に接近すると、男は首を切り付けるようにナイフを振った。
が、俺はそれを潜り抜けるよう避け――男の顎目掛けてアッパーを炸裂させた。
「ぁ……」
ぐらぐらっと……スキンヘッドの男の身体が揺れて、大の字に仰向けに倒れる。
「っ……ぐっ……ま、まだだ」
「感心するな。
今のを喰らって、意識を失ってないのか」
男はまだ立ち上がろうとしている。
「まだ……オレは負けちゃいねえ」
「やめておけ、立ち上がるだけ無駄だ」
俺の忠告を聞かず、史一は立ち上がろうとしていた。
不良グループのリーダーとしての意地……だろうか。
「意識があるうちに良く聞け」
「ぁ……」
俺は起き上がろうとする史一の身体を蹴り、再び地面に叩き付けた。
「少年院から出てきた後、もしまた竜胆に危害を加えてみろ……この場にいる全員――この程度じゃ済まさない……次は本当に容赦しない」
男の目を直視する。
この言葉が冗談ではないことを伝える為に。
手加減してやるのはこれで最後だ。
もし次に何かあれば、俺は本気でこいつらを排除する。
たとえどんな手を使うことになったとしても。
「喧嘩にこれだけの気概と意地を見せられるなら、今後はもっといい方向に使え――」
最後にそう伝えて、俺は男の顔面に拳を振り下ろした。
今度こそ確実に相手の意識を奪う一撃を。
※
「はぁ……疲れた」
「すごい……皆友くんが強いのは知ってたけど……」
周囲の光景を見て、闘いを見守っていた竜胆は呆然と立ち尽くしていた。
「別にこのくらい大したことない」
「た、大したことないって、相手はいっぱいいたのに……それにナイフまで持ってて……ぁ……皆友くん、怪我、ない?」
慌てて竜胆が俺に駆け寄って来た。
心配そうに目を潤ませながら俺を見つめる。
「ああ……大丈夫だ。
竜胆、本当に頑張ったな……」
叩かれて腫れた彼女の頬に優しく触れる。
この傷付いた全てが竜胆が闘った証。
「でも、痛かったよな」
「ううん、このくらい全然大丈夫!」
力強く微笑む彼女は、俺に心配を掛けまいとしているのだろう。
でも、
「……ごめん、今のはちょっと強がった。
本当はずっと怖かった……」
甘えるように彼女は俺に身体を寄せてきた。
流れのままに、俺は彼女を抱きしめる。
「でもね……皆友くんを信じてたから、負けずにがんばれたの」
俺を見上げる竜胆は、泣き笑いを浮かべていた。
傷付きながら闘った彼女を、俺は心から尊敬する。
そして心の底から愛しいと思う。
見ているだけで苦しくなるような責め苦に堪えて……これほど誉れ高い勝利はないだろう。
「竜胆ならきっと『イジメ』に負けたりしないって信じてた。
でも、ごめんな……もっと早く助けてやれたら良かったんだが……」
「平気。
証拠を残す為、だったんだから」
「ああ……」
だが、もう一つ。
本当は、もう一つだけ条件が揃うのを待ちたかった。
この事件の全てを終わらせる為に……だけど、それは叶わなかった。
俺にはこれ以上、竜胆が傷付く姿を見ていられなかったんだ。
(……だからこそ、もう一手打つ必要がある)
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