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第31話 最後の犯人①
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※
あの後――警察からの簡単な事情聴取があった。
工場内での明らかな状況証拠に加えて、撮影した動画もあったことで俺たちは直ぐに解放された。
まだ対応しなくてはならないことも多いが、あの不良グループが今後、竜胆に近付くことはないだろう。
そして俺はこの日――初めて竜胆を家まで送って帰った。
誰に言い訳をするわけでもないが、決して送り狼になることはなく、その日は彼女がマンションに入るのを見届けてから帰路に着いた。
※
そして翌日。
昨夜の騒ぎが嘘のように、俺たちの日常は再開した。
「いや、マジであの映画よかったから、二人にも見てほしいな」
「へぇ~。
んじゃあさ、今度三人でどう?」
「なら、次の休日はみんなで凛華の家に集合だね」
昨日の今日ということもあり、竜胆が休む可能性も考えていたが、この通りいつもと変わらぬ元気な姿を見せてくれていた。
(……本当に強いな)
心の痛みは今も残り続けているはずなのに、それでも友人たちの前では笑顔を見せている。
でも、無理をしすぎても心が疲れてしまうから、竜胆ががんばりすぎないように見守っていきたい。
悩んで、傷付いて、足掻いて、それでも彼女が前に進んで行かなければならない時に、支えられる存在でありたい。
そして、どうしようもなくて、立ち止まってしまった時、心を休められる場所でありたい。
俺は竜胆を守ると約束したから。
(……だからこそ、まだやるべきことがある)
最後の犯人を追いつめる為の最初の一手として、俺は一通のメールを送った。
内容はこうだ。
『お前の罪を知っている』
さあ、この事件の全てを終わらせよう。
※
放課後――俺は少し間を空けた後、教室を出た。
廊下を進み二階、三階へと階段を上がり、俺は屋上の扉の前で足を止める。
(……さて)
事件の黒幕は間違いなくこの先で待っている。
そう確信して、俺は扉を開いた。
すると視界の先には、屋上のフェンスに手を掛けて、グランドを見ている男がいた。
「来ると思ってたぞ」
俺が声を掛けると、男はゆっくりと振り向いた。
その人物は――クラスの中心人物である飛世翔也だ。
「……あのメールを送って来たのはキミかい?」
飛世の声には静かな怒りが孕んでいた。
「そうだ」
「あれは、なんの悪ふざけだ?」
「内容のままだ。
俺は――『お前の罪を知っている』」
この言葉の意味は、こいつが一番理解しているだろう。
なにせ竜胆に脅迫メールを送っていた張本人なのだから。
「……罪? 一体、なんのことを言っているのかわからないな」
「とぼけるなよ。
お前がこの場に来ていることが何よりの証拠だろ?」
事実無根であるのなら、飛世がこの場にいるはずがない。
自身が犯人であると認めるリスクを負ってでも、こいつは俺の口を塞ぎたいはずなのだ。
「俺は注意しに来ただけだ。
あのいたずらメールだけならまだしも、あんな合成写真まで掲示板に貼られていたんだからね……名誉棄損でキミを訴えさせてもらってもおかしくはないよ?」
掲示板に貼り付けたのは、不良グループが女性に暴行している写真だ。
その写真には飛世も映っていた。
合成と言い張っているが、あれは間違いなくあの不良グループと飛世が関わっている証拠だ。
「訴えることができるなら、好きにしたらいい。
だが、お前は絶対にそれができない」
「……なぜそう思うんだい?」
飛世の表情に微かな変化があった。
「今回の事件の黒幕は飛世翔也――お前だからだよ」
「事件? なんのことを言ってるんだい?」
「とぼけるなら勝手にしろ。
ここからは俺の独り言だ……まず脅迫メールの件、あれは学園内部に協力者がいない限りは成立しない」
理由は簡単だ。
「竜胆の過去――中学時代の写真を掲示板に貼れる人間は、校内の関係者以外にはあり得ない。
そして脅迫メールを送ることが可能な相手は、竜胆のメールアプリのIDか携帯番号を知っている奴だけだ。
そうでなれば、彼女のアカウントに登録許可申請すら出せないからな」
事前に確認しておいたが、高校の連絡網に竜胆個人の携帯番号は書かれていない。
この時点で教師とほとんどの生徒が犯人から除外された。
「俺は校内の生徒が、竜胆の過去を知る誰かと接触を持っている可能性が高いと考えた」
グループメールに入っていれば、そこに所属するアカウントの登録許可を得ることはできるが……IDや携帯番号がわかるわけではない為、謎の人物を装いメールを送ることは不可能だ。
「だが、校内にいるこの事件の関係者が竜胆の過去を知る人物から携帯番号を聞いていたなら、アカウントの許可申請を出すという条件はクリアできる」
竜胆の過去を考えれば、連絡先を変更している可能性もあった。
その為、本人にも確認を取ったが、竜胆は自分の中学時代の親友である理崎梨衣奈からの連絡があるかもしれないと考え、変更はしなかったそうだ。
「ここから俺が犯人を特定する為には――昨夜、竜胆を襲った不良グループと校内の生徒との関係を明確にする証拠が必要だった」
「それがあの写真だと?」
「ああ……でも、それだけじゃない」
言って俺はスマホを見せつけた。
「これは、不良グループのリーダーである不動史一の物だ。
そしてメールアプリには、お前のアカウントが登録されていた」
「……っ」
飛世の顔に明らかに動揺が走った。
このスマホは昨夜、俺は不良たちを警察に引き渡す前に回収しておいたものだ。
ロックは指紋認証だった為、不動が気絶している隙に解除させてらもらった。
「俺は間違いなく、お前が今回の事件の関係者であり、校内に潜む最後の犯人であると確信したよ」
「……言い掛かりだ」
苦笑する飛世が、続けて口を開いた。
「不動という奴は、もしかしたら同級生かもしれないな。
だが、小学校や中学校が同じだとしたら、連絡先を交換していたとしてもおかしくないだろ?」
確かにその言い分を否定することはできない。
飛世と不動――二人の間に会話履歴はなかった。
連絡を取った後は、お互い削除する取り決めなのだろう。
もしこの推測通りであれば、この男が如何に狡猾で慎重な人間なのかわかる。
だからこそ、俺は揺さぶりを掛けていく。
それがたとえ小さな傷跡だとしても、そこからこの男の仮面の瓦解させていく為に。
「おかしいな?
このスマホにはお前たちが会話した履歴が残ってるぞ」
「それはあり得ない。
俺は連絡を取ってないんだからな」
こうまで断言するということは、やはり情報管理は徹底していたという自信があるようだ。
「連絡を取ってない? 嘘を吐くなよ。
ちゃんと履歴が残ってる」
「は?」
飛世は厳しい表情を俺に向け口を閉ざした。
「どうやら、最後の連絡だけは消し忘れたらしいな」
「……」
これはブラフだ。
不動は履歴を全て削除していた。
が、その嘘に少しの事実を混ぜておく。
「ちなみに、お前らの会話の履歴だけじゃない。
不動とその彼女――二階堂麗子との会話履歴には、飛世から『薬』を貰ったと書かれていた。
この薬が何を意味しているのかは、お前が一番良くわかってるよな?」
こっちは今も会話履歴が残っているが、本当は飛世の名前は書かれていなかった。
しかし、その真偽を調べる手段はこいつにはない。
「このスマホを警察に渡せばお前は終わりだ」
「……好きにしたらいい。
なんのことを言っているのか、俺にはわからない」
短い逡巡の後、飛世は冷静に口を開いた。
逃げ切る為の手段を、今もこの男は考えているのだろう。
このままでは自白させることは難しい。
であるなら、俺はもう一つの手札を晒すことにした。
「なぁ、飛世……この薬に見覚えはないか?」
俺はポケットから小さな瓶を取り出して、それを飛世に見せる。
「これがMDMA――エクスタシーだってことは、あいつらから聞いてる」
「……」
「俺がこれを持っているということが、どういうことなのかわかるよな?」
「……」
「この二つの証拠を隠滅してしまえば――お前とあいつらの間に関係がないと証明することができる。
つまりこれは無実の鍵ってわけだ」
飛世は何も口にしない。
俺の発言の意図を計り兼ねているのだろう。
「条件次第ではスマホと薬を渡してもいい」
「……条件?」
ここで初めて、自身の罪を隠し続ける卑怯者が食いついてきた。
だからこそさらに餌をぶら下げる。
「俺にもこの麻薬――MDMAを寄越せ。
なんなら、もっと気持ちよくなれる薬で構わない」
そして俺は交渉を持ちかけた。
飛世翔也は狡猾で慎重だ。
だが、なぜそんな男が竜胆に脅迫メールを送ったのか。
あれは自身が犯人である可能性を伝えるリスクのある行為だ。
自身に対するリスクを徹底的に避けるのであれば、その行為はデメリットでしかない。
では、そのリスクを覚悟の上でも竜胆に対して複数の脅迫行為を行ったのか――それは、この男の本質が嗜虐的であるからだと俺は推測している。
竜胆が脅迫で追い込まれていく姿を見ながら、こいつは楽しんでいたのだ。
そう考えなければ、ここまでのリスクを犯す理由が見当たらない。
だから俺はそこに勝算を見出《 みいだ》していた。
「俺はお前を陥れたいわけじゃない
この薬を使って――竜胆と快楽を貪りたいんだ」
「……何を言ってるんだ?」
「あれを飲んだあと、朝までぶっ続けで犯《 や》りっぱなしだった。
俺自身、今も昂揚感が治まらない。
それにお前も、今日の竜胆の様子を見ただろ?
廃工場で襲われた癖して、やけにハイだったと思わないか?」
「……」
「飛世……俺は見たいんだ。
竜胆が快楽に堕ち、薬で壊れていくさまを……」
こいつがもし俺の想像通りの人間であるなら、俺の提案を絶対に飲む。
リスクを犯してでも、他人を壊すことに快楽を覚える異常者であるなら――間違いなく。
「そんなことして、君になんの意味がある?」
「……綺麗なものが壊れていくさまが面白いからじゃ理由にならないのか?」
「……」
「お前も見たいと思わないか? 竜胆が狂っていく姿を」
「……正気か、お前?」
「正気じゃないかもな。
だって――」
そう言って、俺は瓶から薬を取り出して飲み込んだ。
あの後――警察からの簡単な事情聴取があった。
工場内での明らかな状況証拠に加えて、撮影した動画もあったことで俺たちは直ぐに解放された。
まだ対応しなくてはならないことも多いが、あの不良グループが今後、竜胆に近付くことはないだろう。
そして俺はこの日――初めて竜胆を家まで送って帰った。
誰に言い訳をするわけでもないが、決して送り狼になることはなく、その日は彼女がマンションに入るのを見届けてから帰路に着いた。
※
そして翌日。
昨夜の騒ぎが嘘のように、俺たちの日常は再開した。
「いや、マジであの映画よかったから、二人にも見てほしいな」
「へぇ~。
んじゃあさ、今度三人でどう?」
「なら、次の休日はみんなで凛華の家に集合だね」
昨日の今日ということもあり、竜胆が休む可能性も考えていたが、この通りいつもと変わらぬ元気な姿を見せてくれていた。
(……本当に強いな)
心の痛みは今も残り続けているはずなのに、それでも友人たちの前では笑顔を見せている。
でも、無理をしすぎても心が疲れてしまうから、竜胆ががんばりすぎないように見守っていきたい。
悩んで、傷付いて、足掻いて、それでも彼女が前に進んで行かなければならない時に、支えられる存在でありたい。
そして、どうしようもなくて、立ち止まってしまった時、心を休められる場所でありたい。
俺は竜胆を守ると約束したから。
(……だからこそ、まだやるべきことがある)
最後の犯人を追いつめる為の最初の一手として、俺は一通のメールを送った。
内容はこうだ。
『お前の罪を知っている』
さあ、この事件の全てを終わらせよう。
※
放課後――俺は少し間を空けた後、教室を出た。
廊下を進み二階、三階へと階段を上がり、俺は屋上の扉の前で足を止める。
(……さて)
事件の黒幕は間違いなくこの先で待っている。
そう確信して、俺は扉を開いた。
すると視界の先には、屋上のフェンスに手を掛けて、グランドを見ている男がいた。
「来ると思ってたぞ」
俺が声を掛けると、男はゆっくりと振り向いた。
その人物は――クラスの中心人物である飛世翔也だ。
「……あのメールを送って来たのはキミかい?」
飛世の声には静かな怒りが孕んでいた。
「そうだ」
「あれは、なんの悪ふざけだ?」
「内容のままだ。
俺は――『お前の罪を知っている』」
この言葉の意味は、こいつが一番理解しているだろう。
なにせ竜胆に脅迫メールを送っていた張本人なのだから。
「……罪? 一体、なんのことを言っているのかわからないな」
「とぼけるなよ。
お前がこの場に来ていることが何よりの証拠だろ?」
事実無根であるのなら、飛世がこの場にいるはずがない。
自身が犯人であると認めるリスクを負ってでも、こいつは俺の口を塞ぎたいはずなのだ。
「俺は注意しに来ただけだ。
あのいたずらメールだけならまだしも、あんな合成写真まで掲示板に貼られていたんだからね……名誉棄損でキミを訴えさせてもらってもおかしくはないよ?」
掲示板に貼り付けたのは、不良グループが女性に暴行している写真だ。
その写真には飛世も映っていた。
合成と言い張っているが、あれは間違いなくあの不良グループと飛世が関わっている証拠だ。
「訴えることができるなら、好きにしたらいい。
だが、お前は絶対にそれができない」
「……なぜそう思うんだい?」
飛世の表情に微かな変化があった。
「今回の事件の黒幕は飛世翔也――お前だからだよ」
「事件? なんのことを言ってるんだい?」
「とぼけるなら勝手にしろ。
ここからは俺の独り言だ……まず脅迫メールの件、あれは学園内部に協力者がいない限りは成立しない」
理由は簡単だ。
「竜胆の過去――中学時代の写真を掲示板に貼れる人間は、校内の関係者以外にはあり得ない。
そして脅迫メールを送ることが可能な相手は、竜胆のメールアプリのIDか携帯番号を知っている奴だけだ。
そうでなれば、彼女のアカウントに登録許可申請すら出せないからな」
事前に確認しておいたが、高校の連絡網に竜胆個人の携帯番号は書かれていない。
この時点で教師とほとんどの生徒が犯人から除外された。
「俺は校内の生徒が、竜胆の過去を知る誰かと接触を持っている可能性が高いと考えた」
グループメールに入っていれば、そこに所属するアカウントの登録許可を得ることはできるが……IDや携帯番号がわかるわけではない為、謎の人物を装いメールを送ることは不可能だ。
「だが、校内にいるこの事件の関係者が竜胆の過去を知る人物から携帯番号を聞いていたなら、アカウントの許可申請を出すという条件はクリアできる」
竜胆の過去を考えれば、連絡先を変更している可能性もあった。
その為、本人にも確認を取ったが、竜胆は自分の中学時代の親友である理崎梨衣奈からの連絡があるかもしれないと考え、変更はしなかったそうだ。
「ここから俺が犯人を特定する為には――昨夜、竜胆を襲った不良グループと校内の生徒との関係を明確にする証拠が必要だった」
「それがあの写真だと?」
「ああ……でも、それだけじゃない」
言って俺はスマホを見せつけた。
「これは、不良グループのリーダーである不動史一の物だ。
そしてメールアプリには、お前のアカウントが登録されていた」
「……っ」
飛世の顔に明らかに動揺が走った。
このスマホは昨夜、俺は不良たちを警察に引き渡す前に回収しておいたものだ。
ロックは指紋認証だった為、不動が気絶している隙に解除させてらもらった。
「俺は間違いなく、お前が今回の事件の関係者であり、校内に潜む最後の犯人であると確信したよ」
「……言い掛かりだ」
苦笑する飛世が、続けて口を開いた。
「不動という奴は、もしかしたら同級生かもしれないな。
だが、小学校や中学校が同じだとしたら、連絡先を交換していたとしてもおかしくないだろ?」
確かにその言い分を否定することはできない。
飛世と不動――二人の間に会話履歴はなかった。
連絡を取った後は、お互い削除する取り決めなのだろう。
もしこの推測通りであれば、この男が如何に狡猾で慎重な人間なのかわかる。
だからこそ、俺は揺さぶりを掛けていく。
それがたとえ小さな傷跡だとしても、そこからこの男の仮面の瓦解させていく為に。
「おかしいな?
このスマホにはお前たちが会話した履歴が残ってるぞ」
「それはあり得ない。
俺は連絡を取ってないんだからな」
こうまで断言するということは、やはり情報管理は徹底していたという自信があるようだ。
「連絡を取ってない? 嘘を吐くなよ。
ちゃんと履歴が残ってる」
「は?」
飛世は厳しい表情を俺に向け口を閉ざした。
「どうやら、最後の連絡だけは消し忘れたらしいな」
「……」
これはブラフだ。
不動は履歴を全て削除していた。
が、その嘘に少しの事実を混ぜておく。
「ちなみに、お前らの会話の履歴だけじゃない。
不動とその彼女――二階堂麗子との会話履歴には、飛世から『薬』を貰ったと書かれていた。
この薬が何を意味しているのかは、お前が一番良くわかってるよな?」
こっちは今も会話履歴が残っているが、本当は飛世の名前は書かれていなかった。
しかし、その真偽を調べる手段はこいつにはない。
「このスマホを警察に渡せばお前は終わりだ」
「……好きにしたらいい。
なんのことを言っているのか、俺にはわからない」
短い逡巡の後、飛世は冷静に口を開いた。
逃げ切る為の手段を、今もこの男は考えているのだろう。
このままでは自白させることは難しい。
であるなら、俺はもう一つの手札を晒すことにした。
「なぁ、飛世……この薬に見覚えはないか?」
俺はポケットから小さな瓶を取り出して、それを飛世に見せる。
「これがMDMA――エクスタシーだってことは、あいつらから聞いてる」
「……」
「俺がこれを持っているということが、どういうことなのかわかるよな?」
「……」
「この二つの証拠を隠滅してしまえば――お前とあいつらの間に関係がないと証明することができる。
つまりこれは無実の鍵ってわけだ」
飛世は何も口にしない。
俺の発言の意図を計り兼ねているのだろう。
「条件次第ではスマホと薬を渡してもいい」
「……条件?」
ここで初めて、自身の罪を隠し続ける卑怯者が食いついてきた。
だからこそさらに餌をぶら下げる。
「俺にもこの麻薬――MDMAを寄越せ。
なんなら、もっと気持ちよくなれる薬で構わない」
そして俺は交渉を持ちかけた。
飛世翔也は狡猾で慎重だ。
だが、なぜそんな男が竜胆に脅迫メールを送ったのか。
あれは自身が犯人である可能性を伝えるリスクのある行為だ。
自身に対するリスクを徹底的に避けるのであれば、その行為はデメリットでしかない。
では、そのリスクを覚悟の上でも竜胆に対して複数の脅迫行為を行ったのか――それは、この男の本質が嗜虐的であるからだと俺は推測している。
竜胆が脅迫で追い込まれていく姿を見ながら、こいつは楽しんでいたのだ。
そう考えなければ、ここまでのリスクを犯す理由が見当たらない。
だから俺はそこに勝算を見出《 みいだ》していた。
「俺はお前を陥れたいわけじゃない
この薬を使って――竜胆と快楽を貪りたいんだ」
「……何を言ってるんだ?」
「あれを飲んだあと、朝までぶっ続けで犯《 や》りっぱなしだった。
俺自身、今も昂揚感が治まらない。
それにお前も、今日の竜胆の様子を見ただろ?
廃工場で襲われた癖して、やけにハイだったと思わないか?」
「……」
「飛世……俺は見たいんだ。
竜胆が快楽に堕ち、薬で壊れていくさまを……」
こいつがもし俺の想像通りの人間であるなら、俺の提案を絶対に飲む。
リスクを犯してでも、他人を壊すことに快楽を覚える異常者であるなら――間違いなく。
「そんなことして、君になんの意味がある?」
「……綺麗なものが壊れていくさまが面白いからじゃ理由にならないのか?」
「……」
「お前も見たいと思わないか? 竜胆が狂っていく姿を」
「……正気か、お前?」
「正気じゃないかもな。
だって――」
そう言って、俺は瓶から薬を取り出して飲み込んだ。
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