勇気を出してよ皆友くん!

スフレ

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第33話 三人の友情

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 そして、

「被疑者を確保。
 迅速に連行しろ!」

 屋上にやってきたスーツ姿の刑事たちが、指示に従い速やかに行動を始めた。
 学校への介入ということもあって、警察も交渉に骨を折ると思ったが、上手く取り纏めてくれたことには感謝しなければならない。

「……無茶していただいてすみません。
 証言を信じていただきありがとうございました」

 俺が言葉を向けたのは、この事件の指揮を執っている女性だ。

「現行犯である以上、信じないわけにはいかないよ。
 それに無茶などはしていないさ。
 我々は『保護者』としてこの学校に来たに過ぎないのだからね」
「……ここにいるのはあくまで一般人、そういうことですか」

 そもそも警察の介入などなかったことにしてしまえば、騒ぎなど起きようがない。
 つまり関係者が口を閉ざして置けば、それで済むというわけだ。

「学校側はトラブルをさけられれば問題ない。
 そして我々は事件を解決できれば構わない。
 互いのメリットが一致した結果だ。
 キミたちも、この場で見たことは他言無用にしてくれたまえよ」

 女性刑事が竜胆たちに目を向ける。
 三人の女子生徒は困惑しながらも頷いて、肯定の意志を示した。
 警察が動くほどの事態を飛世が引き起こしたことがどういうことなのかは、当事者ではない岬と小鳥遊も理解しているだろう。
 同時にそれは触れてはならないことであることも。

「……あ、そうだ。
 刑事さん、これを」
「うん?」
「『落とし物』です」

 言って彼女に渡したのは、不良グループのリーダーである不動史一の携帯電話《 スマホ》だ。
 これは俺が廃工場に落ちていた物を拾っておいただけだ。

「ふむ……落とし物なら、仕方がない」
「ええ、落とし物は届けないとですから」
「その通りだな。
 優良な市民の行動に感謝するよ」

 互いにとぼけた口調で苦笑を交わしたあと、女性刑事は屋上を出て行った。
 あとは全て警察の仕事だ。
 今回の事件に限らず飛世たちが関わる全ての悪事が、白日の下へと晒されることを願いたい。

(……さて、もうここにいても仕方ないわけだが……)

 先程から、岬と小鳥遊は事情を説明してほしい! という視線でこちらを見ていた。
 この事件は竜胆の過去が関係している以上、詳細に関しては俺の口から話すつもりはない。
 だが、もしも彼女が二人を信用すると言うなら、それで構わない。
 俺は『どうする?』と問い掛けるように、竜胆に目を向けた。

「……皆友くん、今回の事件のこと、美愛とカナンには……話してもいいかな?」
「竜胆がそうしたいなら」
「ありがとう。
 二人には話しておきたかったから」

 彼女ならそう言うと思っていた。
 それに俺も、岬と小鳥遊の竜胆に対する友情を疑っているわけじゃない。
 万一、何か原因で妙な噂が立つようなら改めて対応すればいい。

「ちょっと時間がかかるかもしれないけど……」

 竜胆は、自分なりに話せる範囲でこれまで事件のあらましを伝えた。



          ※



「……脅迫メール……翔也がそんなことを……」
「それ以上に問題なのは、竜胆に対する傷害事件のほう……もし皆友君が助けに入らなかったらって思うと、ぞっとする」

 竜胆の身に起こったことは、二人の想像を超えていたようだ。
 脅迫、婦女暴行、麻薬所持に使用……普通に生きていれば縁のない世界の話が、こんなに身近に起こったのだから、それは当然だろう。
 しかも、その犯罪を引き起こす原因となったのが、彼女たちと親しくていた人物であれば、強いショックを受けてもおかしくは――。

「それを先に知ってたら、うちもあいつを一発ぶっ飛ばしてやったのに!」
「同意。
 気絶してる時、急所を蹴り上げてやれば良かった」

 全くショックなど受けていなかった。
 それどころか飛世に対して怒りを爆発させ過激な発言をしている。
 そんな二人の様子に俺は唖然としていると。

「……どしたん、皆友?」
「どうしてそんな驚いているの?」
「いや……飛世とお前らは仲が良かったから、もっと悲しむと思ってたんだが……」

 俺を見て不思議そうに尋ねる岬たちに、純粋な疑問をぶつける。

「この話を聞いて、悲しんだり同情する要素とかある?」
「飛世は最悪……見損なった」
「てか、元々グループで付き合いがあっただけなんですけど? 山城《 やまぎ》と仲良かったし、まぁいい奴だとは思ってたけど、中身がない男とかダサすぎんっしょ?」
「ダサいどころかありえない。
 それに女の子に暴力を振るうなんて、最低」

 ボロクソだった。
 最早すがすがしいくらいに。
 こういう時の連帯感や共感性の高さは、男子よりも女子が優れているかもしれない。

「凛華……大変だったね、辛かったよね。
 気付いてあげらんなくて、ごめん」
「……わたしも、何もできなかった……凛華が苦しんでるの、感じてたのに……」
「美愛、カナン……」

 目尻に涙を浮かべて、竜胆が二人の親友を見つめる。 

「何かあったら今度はうちらにも相談して!
 迷惑かけたくないって思ってくれてたかもだけどさ、遠慮とかもあるかもだけどさ……うちらは凛華とマジで親友だと思ってるから」
「私も岬と同じ気持ち。
 もっと頼って欲しかった……竜胆の様子がおかしくて、すごく心配だったから……」

 三人の少女は友情を確かめるように、肩を寄せ合い抱きしめ合う。
 人を信じ続けることは難しいことだけど……俺には手に入らなかったものだけど、それでも――確かな友情があると、信じていたい。
 彼女たちが互いを想い合う気持ちは本物だと。

「美、カナン、ありがとう。
 もし二人に何かあった時は、あたしも必ず力になるから……!」

 そんな約束をする三人の姿を見て……俺はほんの少しだけ昔を思い出していた。
 俺にもたった一人だけいた親友のこと。
 蘇ってくる懐かしさと……もう一つ、胸に湧いてくる気持ちは……いや、それはきっと気のせいだろう。

(……羨ましいなんて、思うはずがない)

 そう決め付けて、自分の感情に蓋を閉じたのだった。



           ※



 話を終えて俺たちは学校を出た。

『邪魔しちゃ悪いから、うちらは先に失礼するね』
『……悔しいけど、凛華のことは任せるから』

 気を遣ってくれたのか、岬たちとは途中で別れることになり……今は竜胆と二人きりだ。
 とりあえず駅まで彼女を送ってから、俺は帰路に着こう。
 そう思っていたのだけど、

「……ねぇ、皆友くん」
「うん?」
「今から……うちに来ない?」
「……」

 思わず思考を放棄しそうになった。

「も、もう一度、言ってもらっていいか?」
「だ、だから……う、うちに、来ない……?」

 どうやら俺の聞き間違いではないらしい。

「べ、別に、その、変な期待としかしてるわけじゃなくて……あ、いや、その、み、皆友くんだったら、いいんだけど……って、なに言ってるんだろう、あたし!?」

 慌てて言い訳をしたと思えば、竜胆は羞恥心に悶え始めた。

「ご、誤解しないでほしいんだけど、お礼が……したいの……昨日と今日のぶんも――ううん、これまでの分も含めて……」
「……そういうことか」
「うん。
 ……ダメ、かな?」

 不安そうに俺を見つめる竜胆。
 勇気を出して誘ってくれたのが伝わってくる。
 だからこそ、彼女の気持ちに応えたいが……竜胆の家に二人きりはマズい。
 万が一……俺が暴走してしまったら、彼女を傷付けてしまうかもしれない。

(……なら俺にできるのは――)

 逡巡しながらも、答えを出した。
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