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第34話 手料理
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※
「ただいま」
「お帰りなさいです、お兄ちゃ――凛華お姉ちゃん!?」
玄関まで出迎えてくれた妹が、竜胆を見てびっくりしている。
竜胆の家に行く決断はできなかった俺は、彼女を自宅に誘ったのだ。
「天音ちゃん、お邪魔するね」
「はい、どうぞです~! お姉ちゃんが来てくれて、天音は嬉しいです!」
「あたしも天音ちゃんに会えて嬉しい。
……皆友くんに感謝しないとね」
感謝と言いつつも、竜胆は意味ありげなジト目を向けてくる。
まるで『意気地なし』と言われているみたいで、俺は思わず目を背けた。
「お兄ちゃんに大感謝です! ところでなんですが……その荷物は?」
天音は俺が持っている食材の入ったビニール袋に目を向けた。
「買い物してきたんだ」
「あのね、天音ちゃん。
今日の夕食はあたしが作ってもいいかな?」
「え!? 凛華お姉ちゃんのお料理が食べられるんですか!?」
満面の笑みをさらに笑顔に変えて、天音は声を弾ませた。
「口に合うといいんだけど……でも、一生懸命作るから楽しみにしていてね」
「はい! すっごく楽しみです! あ、どうぞ上がってください」
そして、俺たちは居間に移動した。
リビングの向かい側にはキッチンがある。
「じゃあ早速、作っちゃおうかな」
「もうか?」
「皆友くん、お腹空いてるでしょ?」
時間は17時30分を過ぎたところだ。
今から作り始めれば、夕食の時間には丁度いいくらいだと思うが。
「少し休んでからでも大丈夫だぞ?」
「へーき。
これはお礼の一つなんだから」
「お礼……?」
妹が首を傾げる。
「いつも天音ちゃんのお兄ちゃんには、いっぱい助けてもらってるから」
「助けて……ですか」
「うん。
だから、その感謝の気持ちを言葉以外で、形にしたかったんだ」
竜胆は幸せそうに笑った。
どうしてそんな顔ができるんだってくらい、本当に嬉しそうに。
「お姉ちゃん……本当にお兄ちゃんのことを好きでいてくれてるんですね」
「っ!? ど、どうして?」
「好きな人のことを考えてると、女の子ってふあ~ってなっちゃうじゃないですか!
凛華お姉ちゃんも今、すごくふあ~ってなってて、幸せそうだったから」
「そ、そんな顔、して、た……?」
「はい! ね? お兄ちゃん!」
このタイミングで俺に振るのか!?
その流れで竜胆が俺を見る。
目が合って俺に見られていたことに気付くと、竜胆は慌てて背中を向けた。
「い、今は、見ちゃ、やだ……。
だ、だらしない顔、しちゃってたかもしれないし」
「そんなことはないが……」
我ながら、どうしてもっと気の利いたセリフが出てこないのか。
天音がいれば変に気まずくなることもないかと思ったが、もしかして失策だったかもしれない。
「……そ、そうだ!
エプロン借りてもいい?」
「もちろんです! 天音チョイスでお姉ちゃんにはこちらをお貸しします!」
「ありがと」
渡された赤いエプロンを、竜胆は手慣れた様子で制服の上から着けていく。
「お姉ちゃん、とっても似合ってます!」
「そう、かな?」
「はい! お兄ちゃんもそう思いますよね?」
いや、天音さん、だからなんで俺に振ってくるの!?
思ってても、そんな簡単に正直な想いを伝えられるわけがない。
でも普段は見られないその姿は新鮮で、可愛いと思う。
「あ、あんまり見られると恥ずかしいから……」
「ぁ……す、すまん。
イヤ、だったよな」
「あ、ち、違う、から。
イヤじゃない、けど……その……ど、どう? 似合ってる?」
「……あ、ああ」
「そう……可愛いって思ってくれたなら、嬉しい」
またお互いに視線を合わせられなくなってしまった。
なんだか間がもたない……もしかしたら、二人で過ごす時よりも酷いかもしれない。
「お兄ちゃん、ぶっきらぼう過ぎます! もっと可愛いよ! とか、すごく似合ってるね! とか、ないんですか?」
不満と呆れが入り混じったように、妹に注意されてしまった。
不甲斐なくてすみません。
「と、とりあえず……邪魔にならないようにリビングにいるから」
その場を逃げるように立ち去って、ソファに座りテレビをつけた。
本当は何か手伝ったほうがいいと思っていたのだが、戦略的撤退だ。
「凛華お姉ちゃん、天音もお手伝していいですか?」
「いいの? リビングでゆっくりしててくれても大丈夫だけど……」
「一緒に作りたいです!」
「わかった。
じゃあ美味しいのを作って、皆友くんをびっくりさせちゃおっか!」
テレビの音に交じりながら、そんな会話が聞こえてくる。
竜胆も天音も料理上手なので、俺は今日の夕食がとても楽しみになっていたのだった。
※
キッチンに立つと、あたしたちはテキパキと調理の準備を進めていく。
誰かと一緒に料理を作るのは、実家にいた時以来なのでちょっとだけ懐かしい。
「ごめんなさいです、凛華お姉ちゃん」
準備が終わったところで、なぜか天音ちゃんに謝られた。
「どうかしたの?」
「お兄ちゃんのことです。
素直じゃないというか、ちょっと照れ屋さんなところがあるので……」
天音ちゃんが、申し訳なさそうに口を開いた。
どうやら、さっきの皆友くんの様子を気にしていたらしい。
「皆友くんが照れ屋なのは、良く知ってるつもり。
でも、そこが可愛くもあるんだよね……いざっていう時は男らしくてカッコいいから、ギャップにもグラッときちゃうっていうか」
「あ~、それはわかります。
普段はポンコツお兄ちゃんですけど、いざという時は頼りになる一面もあるので!」
どうやら天音ちゃんの目から見ても、皆友くんの評価は同じらしい。
「うん……それに、すごく優しくて……だからどんどん好きになっちゃう……」
これは、この場だけのガールズトークだ。
皆友くんはリビングでテレビを見ているので、あたしたちの会話は聞こえていないだろう。
「お姉ちゃんにそんな風に思ってもらえるなんて、お兄ちゃんは幸せ者ですね。
ちょっと不器用なところもありますが、愛想を尽かさないであげてくれると天音は嬉しいです!」
「それは大丈夫だけど……」
さっきも伝えた通りだけど、どこまで好きになっちゃうの? ってくらい……あたしは皆友くんのへの想いが強くなっている。
もっとおしゃべりしたい。
いっぱい甘やかしてもらいたい。
頭を撫でてほしい。
ぎゅっと抱きしめられたい。
二人でデートにも行きたい。
それから……き、キス、とか……そ、その先も、皆友くんとなら、したいって思ってる。
まだ恋人にもなれてないのに、そんな風に思っちゃうあたしは、ちょっとエッチな子なのだろうか?
でも、そうなりたいと思えるのは、皆友くんだけだから……。
きっとこれが、人を好きになるってことで、恋をするってことなんだって思えた。
「どっちかって言うと、あたしのほうが愛想尽かされないか心配なくらいなんだよね」
世の中には魅力的な女の子がいっぱいる。
そういう子がもし、皆友くんの魅力に気付いてしまったら……あたしは、負けてしまうかもしれない。
だけど……それでも、あたしは皆友くんの一番になりたいと思ってる。
他のことで一番にはなれなくてもいいから――皆友くんのことでだけは、絶対誰にも負けたくなかった。
「凛華お姉ちゃんなら、大丈夫です。
それに、もしお兄ちゃんがそんな贅沢なこと言ったら、天音の妹パンチでお仕置きです!」
ぐっと拳を握る天音ちゃんはとても可愛いらしかった。
こんな愛らしい攻撃を受けたら、なんでも言うことを聞いてしまうと思う。
「ありがとう、天音ちゃん。
あたし、がんばるから……」
もっとお互いの関係を進展させたい。
その為にもまずは皆友くんの口から……『好き』って言ってほしい。
そして……恋人になりたい。
あたしが皆友くんとつりあってないのはわかってるけど、それでも……彼のことが好きだから。
「凛華お姉ちゃん、まずは手料理でお兄ちゃんの胃袋を掴んじゃいましょう!」
「なら、気合を入れて作らないとだよね!」
好きな人を想いながら料理を作ることができるのは、本当に幸せなことだと思う。
これも恋をして知ることができた気持ちの一つだ。
(……喜んでくれる、よね)
皆友くんがどんな反応を見せてくれるのか。
あたしはそれを楽しみにしながら、調理を進めていくのだった。
「ただいま」
「お帰りなさいです、お兄ちゃ――凛華お姉ちゃん!?」
玄関まで出迎えてくれた妹が、竜胆を見てびっくりしている。
竜胆の家に行く決断はできなかった俺は、彼女を自宅に誘ったのだ。
「天音ちゃん、お邪魔するね」
「はい、どうぞです~! お姉ちゃんが来てくれて、天音は嬉しいです!」
「あたしも天音ちゃんに会えて嬉しい。
……皆友くんに感謝しないとね」
感謝と言いつつも、竜胆は意味ありげなジト目を向けてくる。
まるで『意気地なし』と言われているみたいで、俺は思わず目を背けた。
「お兄ちゃんに大感謝です! ところでなんですが……その荷物は?」
天音は俺が持っている食材の入ったビニール袋に目を向けた。
「買い物してきたんだ」
「あのね、天音ちゃん。
今日の夕食はあたしが作ってもいいかな?」
「え!? 凛華お姉ちゃんのお料理が食べられるんですか!?」
満面の笑みをさらに笑顔に変えて、天音は声を弾ませた。
「口に合うといいんだけど……でも、一生懸命作るから楽しみにしていてね」
「はい! すっごく楽しみです! あ、どうぞ上がってください」
そして、俺たちは居間に移動した。
リビングの向かい側にはキッチンがある。
「じゃあ早速、作っちゃおうかな」
「もうか?」
「皆友くん、お腹空いてるでしょ?」
時間は17時30分を過ぎたところだ。
今から作り始めれば、夕食の時間には丁度いいくらいだと思うが。
「少し休んでからでも大丈夫だぞ?」
「へーき。
これはお礼の一つなんだから」
「お礼……?」
妹が首を傾げる。
「いつも天音ちゃんのお兄ちゃんには、いっぱい助けてもらってるから」
「助けて……ですか」
「うん。
だから、その感謝の気持ちを言葉以外で、形にしたかったんだ」
竜胆は幸せそうに笑った。
どうしてそんな顔ができるんだってくらい、本当に嬉しそうに。
「お姉ちゃん……本当にお兄ちゃんのことを好きでいてくれてるんですね」
「っ!? ど、どうして?」
「好きな人のことを考えてると、女の子ってふあ~ってなっちゃうじゃないですか!
凛華お姉ちゃんも今、すごくふあ~ってなってて、幸せそうだったから」
「そ、そんな顔、して、た……?」
「はい! ね? お兄ちゃん!」
このタイミングで俺に振るのか!?
その流れで竜胆が俺を見る。
目が合って俺に見られていたことに気付くと、竜胆は慌てて背中を向けた。
「い、今は、見ちゃ、やだ……。
だ、だらしない顔、しちゃってたかもしれないし」
「そんなことはないが……」
我ながら、どうしてもっと気の利いたセリフが出てこないのか。
天音がいれば変に気まずくなることもないかと思ったが、もしかして失策だったかもしれない。
「……そ、そうだ!
エプロン借りてもいい?」
「もちろんです! 天音チョイスでお姉ちゃんにはこちらをお貸しします!」
「ありがと」
渡された赤いエプロンを、竜胆は手慣れた様子で制服の上から着けていく。
「お姉ちゃん、とっても似合ってます!」
「そう、かな?」
「はい! お兄ちゃんもそう思いますよね?」
いや、天音さん、だからなんで俺に振ってくるの!?
思ってても、そんな簡単に正直な想いを伝えられるわけがない。
でも普段は見られないその姿は新鮮で、可愛いと思う。
「あ、あんまり見られると恥ずかしいから……」
「ぁ……す、すまん。
イヤ、だったよな」
「あ、ち、違う、から。
イヤじゃない、けど……その……ど、どう? 似合ってる?」
「……あ、ああ」
「そう……可愛いって思ってくれたなら、嬉しい」
またお互いに視線を合わせられなくなってしまった。
なんだか間がもたない……もしかしたら、二人で過ごす時よりも酷いかもしれない。
「お兄ちゃん、ぶっきらぼう過ぎます! もっと可愛いよ! とか、すごく似合ってるね! とか、ないんですか?」
不満と呆れが入り混じったように、妹に注意されてしまった。
不甲斐なくてすみません。
「と、とりあえず……邪魔にならないようにリビングにいるから」
その場を逃げるように立ち去って、ソファに座りテレビをつけた。
本当は何か手伝ったほうがいいと思っていたのだが、戦略的撤退だ。
「凛華お姉ちゃん、天音もお手伝していいですか?」
「いいの? リビングでゆっくりしててくれても大丈夫だけど……」
「一緒に作りたいです!」
「わかった。
じゃあ美味しいのを作って、皆友くんをびっくりさせちゃおっか!」
テレビの音に交じりながら、そんな会話が聞こえてくる。
竜胆も天音も料理上手なので、俺は今日の夕食がとても楽しみになっていたのだった。
※
キッチンに立つと、あたしたちはテキパキと調理の準備を進めていく。
誰かと一緒に料理を作るのは、実家にいた時以来なのでちょっとだけ懐かしい。
「ごめんなさいです、凛華お姉ちゃん」
準備が終わったところで、なぜか天音ちゃんに謝られた。
「どうかしたの?」
「お兄ちゃんのことです。
素直じゃないというか、ちょっと照れ屋さんなところがあるので……」
天音ちゃんが、申し訳なさそうに口を開いた。
どうやら、さっきの皆友くんの様子を気にしていたらしい。
「皆友くんが照れ屋なのは、良く知ってるつもり。
でも、そこが可愛くもあるんだよね……いざっていう時は男らしくてカッコいいから、ギャップにもグラッときちゃうっていうか」
「あ~、それはわかります。
普段はポンコツお兄ちゃんですけど、いざという時は頼りになる一面もあるので!」
どうやら天音ちゃんの目から見ても、皆友くんの評価は同じらしい。
「うん……それに、すごく優しくて……だからどんどん好きになっちゃう……」
これは、この場だけのガールズトークだ。
皆友くんはリビングでテレビを見ているので、あたしたちの会話は聞こえていないだろう。
「お姉ちゃんにそんな風に思ってもらえるなんて、お兄ちゃんは幸せ者ですね。
ちょっと不器用なところもありますが、愛想を尽かさないであげてくれると天音は嬉しいです!」
「それは大丈夫だけど……」
さっきも伝えた通りだけど、どこまで好きになっちゃうの? ってくらい……あたしは皆友くんのへの想いが強くなっている。
もっとおしゃべりしたい。
いっぱい甘やかしてもらいたい。
頭を撫でてほしい。
ぎゅっと抱きしめられたい。
二人でデートにも行きたい。
それから……き、キス、とか……そ、その先も、皆友くんとなら、したいって思ってる。
まだ恋人にもなれてないのに、そんな風に思っちゃうあたしは、ちょっとエッチな子なのだろうか?
でも、そうなりたいと思えるのは、皆友くんだけだから……。
きっとこれが、人を好きになるってことで、恋をするってことなんだって思えた。
「どっちかって言うと、あたしのほうが愛想尽かされないか心配なくらいなんだよね」
世の中には魅力的な女の子がいっぱいる。
そういう子がもし、皆友くんの魅力に気付いてしまったら……あたしは、負けてしまうかもしれない。
だけど……それでも、あたしは皆友くんの一番になりたいと思ってる。
他のことで一番にはなれなくてもいいから――皆友くんのことでだけは、絶対誰にも負けたくなかった。
「凛華お姉ちゃんなら、大丈夫です。
それに、もしお兄ちゃんがそんな贅沢なこと言ったら、天音の妹パンチでお仕置きです!」
ぐっと拳を握る天音ちゃんはとても可愛いらしかった。
こんな愛らしい攻撃を受けたら、なんでも言うことを聞いてしまうと思う。
「ありがとう、天音ちゃん。
あたし、がんばるから……」
もっとお互いの関係を進展させたい。
その為にもまずは皆友くんの口から……『好き』って言ってほしい。
そして……恋人になりたい。
あたしが皆友くんとつりあってないのはわかってるけど、それでも……彼のことが好きだから。
「凛華お姉ちゃん、まずは手料理でお兄ちゃんの胃袋を掴んじゃいましょう!」
「なら、気合を入れて作らないとだよね!」
好きな人を想いながら料理を作ることができるのは、本当に幸せなことだと思う。
これも恋をして知ることができた気持ちの一つだ。
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