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第37話 大きな価値のある一歩
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※
風呂から出て居間に戻ろうとした時、
「凛華お姉ちゃん、お顔が真っ赤ですよ?
のぼせちゃいましたか?」
「だ、大丈夫だから……」
こんな会話が聞こえてきた。
どうやら竜胆も動揺は消えていないらしい。
(……ここは俺の方から自然に話を切り出さなくては)
話題をいくつか考えてから、俺は居間に入った。
だが、
「……」
「ぅ……」
竜胆と目があった瞬間、それが全て吹っ飛んだ。
互いに、さっきのことを意識してしまっている。
それが丸わかりだ。
「も、もしかして……お背中流し作戦、失敗でしたか?」
どうやら、竜胆があんな行動を取ってきたのはうちの妹が原因らしい。
天音にとって、どうなれば成功で、どうなれば失敗だったのか。
それは後日、尋ねるとして、今は何か話題を……。
「あ、あたし、そろそろ帰るね」
悩んでいる間に竜胆が立ち上がった。
夜もかなり更けている。
明日も学校がある以上、これ以上引き止めては明日に差し支えるだろう。
「泊まっていかないんですか?」
何を言ってるんだうちの妹は!?
「き、気持ちは嬉しいけど……着替えもないから」
「そうですか……残念ですけど、仕方ないですよね」
竜胆にやんわりと断られて、天音も諦めたようだ。
「送ってく」
「悪いから」
「それくらいさせてくれ」
まだ深夜帯というわけではないが、単純に俺が心配だというのもあった。
「……じゃあ、お願い」
「おう」
「お兄ちゃん……凛華お姉ちゃんの家に泊まってきてもいいですからね!」
グッと親指を立てる天音。
どうやらアシストをしているつもりらしいが、返答に困ってしまう。
竜胆はぽっと頬を染めるだけで拒絶はしなかった。
無言は肯定とも取られかねない。
「……い、行くか、竜胆」
「う、うん」
天音の言葉に返事はせず、俺たちは家を出たのだった。
※
マンションを出て駅に向かう俺たち。
「天音が悪かったな……色々と」
「ううん。
すごく楽しかったから……あ、あたしのほうこそ、ごめんね」
「竜胆が謝るようなことは何もないだろ?」
本当に、そう思ってる。
「ちょっと……勢いのまま、行動しすぎちゃったから……」
どうやら竜胆も、そこは反省らしい。
思い出すだけでも赤面してしまいそうだ。
「そうだ。
今日のお礼に、今度は俺に何かさせてくれないか?」
「そんなのいいよ。
悪いもん……」
「俺がしたいんだ。
ダメか?」
竜胆からの感謝の気持ちを、当然と思って受け取るようなことはしたくない。
それに、竜胆がしてほしいことがあるなら、出来る限りでなんでもしてやりたい。
「ずるい……。
そんな風に言われたら……断れないじゃん」
「なら、決定だな」
「……お礼って、なんでもいい?」
「俺にできることなら」
先にそれだけは断っておく。
そんな無茶な注文を竜胆がするとは思っていないが……。
「一つだけ……」
竜胆が足を止めて、俺を見つめる。
その眼差しはあまりにも真剣で、彼女が大切なことを伝えようとしているのがわかった。
「お願いを聞いてほしい」
「なんだ?」
「まだ時期はわからない。
早ければ次の休日になると思うんだけど……付き合ってほしい場所があるの」
口振りからして、デートという雰囲気ではない。
だが、竜胆が俺を必要としてくれるなら答えは決まっていた。
「どこに行くんだ?」
「……会いたい人がいるんだ。
もしかしたら、その人はあたしに会うのなんてイヤかもしれないけど……もし、できるのなら……」
そこまで聞いて、竜胆が何をしようとしているのかがわかった。
「あたし一人だと、勇気が出せないけど、皆友くんが一緒にいてくれたら、きっと……」
「……わかった。
俺で力になれるのなら」
頷き返事をする。
「……ありがとう。
日程、決まったら連絡するから」
「ああ、待ってる」
全てが上手くいくかはわからない。
もしかしたら傷付くことになるかもしれない。
それでも、竜胆は踏み出そうとしている一歩は大きな価値のあるものだから。
(……何があったとしても、俺が竜胆を支えよう)
その覚悟を持って、俺は彼女の背中を押すことに決めた。
風呂から出て居間に戻ろうとした時、
「凛華お姉ちゃん、お顔が真っ赤ですよ?
のぼせちゃいましたか?」
「だ、大丈夫だから……」
こんな会話が聞こえてきた。
どうやら竜胆も動揺は消えていないらしい。
(……ここは俺の方から自然に話を切り出さなくては)
話題をいくつか考えてから、俺は居間に入った。
だが、
「……」
「ぅ……」
竜胆と目があった瞬間、それが全て吹っ飛んだ。
互いに、さっきのことを意識してしまっている。
それが丸わかりだ。
「も、もしかして……お背中流し作戦、失敗でしたか?」
どうやら、竜胆があんな行動を取ってきたのはうちの妹が原因らしい。
天音にとって、どうなれば成功で、どうなれば失敗だったのか。
それは後日、尋ねるとして、今は何か話題を……。
「あ、あたし、そろそろ帰るね」
悩んでいる間に竜胆が立ち上がった。
夜もかなり更けている。
明日も学校がある以上、これ以上引き止めては明日に差し支えるだろう。
「泊まっていかないんですか?」
何を言ってるんだうちの妹は!?
「き、気持ちは嬉しいけど……着替えもないから」
「そうですか……残念ですけど、仕方ないですよね」
竜胆にやんわりと断られて、天音も諦めたようだ。
「送ってく」
「悪いから」
「それくらいさせてくれ」
まだ深夜帯というわけではないが、単純に俺が心配だというのもあった。
「……じゃあ、お願い」
「おう」
「お兄ちゃん……凛華お姉ちゃんの家に泊まってきてもいいですからね!」
グッと親指を立てる天音。
どうやらアシストをしているつもりらしいが、返答に困ってしまう。
竜胆はぽっと頬を染めるだけで拒絶はしなかった。
無言は肯定とも取られかねない。
「……い、行くか、竜胆」
「う、うん」
天音の言葉に返事はせず、俺たちは家を出たのだった。
※
マンションを出て駅に向かう俺たち。
「天音が悪かったな……色々と」
「ううん。
すごく楽しかったから……あ、あたしのほうこそ、ごめんね」
「竜胆が謝るようなことは何もないだろ?」
本当に、そう思ってる。
「ちょっと……勢いのまま、行動しすぎちゃったから……」
どうやら竜胆も、そこは反省らしい。
思い出すだけでも赤面してしまいそうだ。
「そうだ。
今日のお礼に、今度は俺に何かさせてくれないか?」
「そんなのいいよ。
悪いもん……」
「俺がしたいんだ。
ダメか?」
竜胆からの感謝の気持ちを、当然と思って受け取るようなことはしたくない。
それに、竜胆がしてほしいことがあるなら、出来る限りでなんでもしてやりたい。
「ずるい……。
そんな風に言われたら……断れないじゃん」
「なら、決定だな」
「……お礼って、なんでもいい?」
「俺にできることなら」
先にそれだけは断っておく。
そんな無茶な注文を竜胆がするとは思っていないが……。
「一つだけ……」
竜胆が足を止めて、俺を見つめる。
その眼差しはあまりにも真剣で、彼女が大切なことを伝えようとしているのがわかった。
「お願いを聞いてほしい」
「なんだ?」
「まだ時期はわからない。
早ければ次の休日になると思うんだけど……付き合ってほしい場所があるの」
口振りからして、デートという雰囲気ではない。
だが、竜胆が俺を必要としてくれるなら答えは決まっていた。
「どこに行くんだ?」
「……会いたい人がいるんだ。
もしかしたら、その人はあたしに会うのなんてイヤかもしれないけど……もし、できるのなら……」
そこまで聞いて、竜胆が何をしようとしているのかがわかった。
「あたし一人だと、勇気が出せないけど、皆友くんが一緒にいてくれたら、きっと……」
「……わかった。
俺で力になれるのなら」
頷き返事をする。
「……ありがとう。
日程、決まったら連絡するから」
「ああ、待ってる」
全てが上手くいくかはわからない。
もしかしたら傷付くことになるかもしれない。
それでも、竜胆は踏み出そうとしている一歩は大きな価値のあるものだから。
(……何があったとしても、俺が竜胆を支えよう)
その覚悟を持って、俺は彼女の背中を押すことに決めた。
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