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幼少期編
誕生祭 前編
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まるで宝石の様だと思ってしまう。
太陽の光にさらされて輝きを持つ紅はルビーそのもの。光源の変化に合わせて朱色になったりディープレッドになったり。一秒たりとも同じ色を移さない瞳に状況さえ忘れて――思わず見惚れた。
感嘆の息が出そうになった時、ルイの声が私を現実へと引き戻す。
「…何も飾らない、ただのルイ。マリーの前と二人だけの時は、そうあっていい…?」
「そう。王太子でないのであれば、許されることなんじゃないかな?」
我ながら無茶苦茶だと内心で苦笑いをする。
ルイが責めているのは素を零してしまったことで、誰がなんて関係ないはず。
だけど、本当の自分を曝け出せないなんて拷問に近い現実は見逃せない。いや、ルイを見殺しにできない。
ずっと猫を被っていると自分自身さえも見失い、いずれ一生見つけられなくなる。つまり、消滅してしまう。そして言い方は悪いが上辺だけの人間になってしまう。
誰かに悪意を持つこともない。好きという感情を持つこともない。興味を持つことも、当然やりたいこともなくなる。
毎日を淡々と過ごし、生きる意味なんて考えもせず、ただ表面だけの趣向を凝らした物事を計算でしか考えられない、蓋を開けてみれば空洞の人。
中身が空っぽの人間など人間でない。そんなものはただの生きる屍だ。
最も残酷なのは本人がそれに気付けない事だろう。
心…いや、魂でさえも殺してしまえば自分自身について気にかけないから。そもそもそれが当たり前となり異常言う事さえ分からなくなってしまう。
そんなのに、人間の出来損ないなんかに絶対にさせない。
「誰がダメと言っても私は肯定する。それを非難されても絶対に意見を変えることはない。世界中の人が本当のルイを否定するなら、私と二人の時に素をだして。自分自身を苦しませないで、心を休ませる場所を、ルイでさえ見失いかけてる自分をなくさないで」
最後は懇願のようになってしまった。だけどそれが私の本心なのだ。
ルイに人間らしく生きてほしい。心を死なせたくない。
それが私の今の気持ちだから。
しかし、生まれてからずっと許されなかった少年は力なく首を振る。
小刻みに身体が震えているのも気のせいではない。
「…だけど、俺は、」
「なら今日で試そう」
カタリ…と馬車が止まる。
ゆっくり開かれていく扉の向こうには会場が見えている。
徐々に西と動く雲を背景にそびえ立つ城。
前にも一度来たことがあるはずなのにそんな気がしないのは、私の気の持ちようが違うからか。日光が真っ白な城壁を見るのも眩しいくらいに輝かせ、青藍の屋根がとてもよく映えている。
終わりが見えない中庭には庭園が覗いている。
丸く何かを囲うように建っているのを見るに、きっと内側にその何かがあるに違いない。
庭園か、祭りだから露店でもあるのか。はたまた動物…いや、この乙女ゲームでは呼び方は霊獣だったか。
もしかしたらそういうのがいるのかもしれない。
だけど、きっと私のこの予想の中に正解はないに違いない。予想のはるか上を行く、それがこの世界なのだから。
いつもなら現実逃避をするところだけれど、祭りとなると話は変わる。
どんなことでも楽しめてしまう不思議な魔法がかかっている限り、その不安は期待へと変化する。未知なる『何か』を想像するだけで心が躍る。
前ならきっとこんなことは思わなかっただろうし、そもそも目を向けることもなかっただろう。
この変化はなんだだろうかとぼんやり考えて…やめた。
考えるようなことでもないし、答えの出るようなものでもない。
それに今はルイの事だ。私の事じゃない。
他の参加者の貴族たちが中庭を通って行くのを見届けて馬車内に振り返る。
「ね、ルイ。誕生祭は貴族しか招かれなくても、社交界のような畏まったところじゃないんだよ。祭りと書かれているだけあり、緩いもの。挨拶とかもしなくていいし、好きな時間に退出していい。そして楽しみ要素でちょっとしたゲームとか楽しみ要素がある。だから娯楽に飢えている貴族たちしかこなくて、みんなそのゲームとかに夢中になっちゃうの」
すらすらと出てくる誕生祭の説明。
つい最近まで存在を忘れていた人とは思えない発言だけれど、実はこれ、お父様から「最低限の知識はつけておきなさい」とにっこり説明されたものなのだ。
ニッコリがポイントです。知らんがなって思った方、ごめんなさい。
と、話が脱線した。
「つまり私が何を言いたいのかというと――」
「素で今日を過ごそうというのか?」
「さては君、空気読む気ないね?」
そういう事だけれども。だけれども!
一を言ったら十を理解するのはとっても嬉しいですよ。でも、なんか見せ場を奪われた感じで複雑な気分…!
心の中でぐぬぬ…となっていたら、思いっきり顔を顰めた状態で首を振られてしまう。
「いや、幾ら自分の事しか考えない貴族しかいないからって、流石に無理に決まっているだろ」
「何気に酷いことを言うね。…無理だとは決まっていないでしょ?今日一日だけ。この誕生祭の時だけでもいいから羽を伸ばしたら?」
「いや、でも…」
「たまには羽を伸ばそうよ」
じゃないと、いつかそのストレスは巨大な爆弾として周りを、そして自身さえも焼き尽くす。
かつての私のように。
「一日だけ、ね?」
これで駄目だったら流石に諦めるつもりだった。それだけルイの意思は固いんだと、納得するつもりだった。
だから、ため息しながら頷くなんて思ってもいなかった。
「…マリーがそこまで言うなら、仕方ねぇ」
頭を掻きながら、溜息交じりにそう呟いた。
…仕方ないって今言ったよ、ね?
つまり――
OKってことだよね…?
そう脳内で気付いた瞬間、まるで世界が一層輝いたかのように私の心が舞い上がる。
――ヴィクトリー!!!
やったよ!最後まで粘っていた良かったよ、よくやった私。多分的外れだけど、この際気にしない!
そこまで考えて、急に冷静になる。誰かこの情緒不安定さを治してくれ、マジで。
…いや、本当に?夢とかない?まだ夢と言われた方が信憑性があるよ!?
「え、いいの?本当にいいの?」
そうだよ、あんなに渋っていたからダメだって言われると思ったんだよ。
さっきまでとは真逆の事を口にすると軽く小突かれる。
「!?」
え、なぜに!?いや、その前にルイって小突いてくるの!?
「なあに言ってんだ。マリーにそこまで頼まれたら、もう断れねえよ。ただし、人がいない所しか回らないという条件付きだが」
「もちろん」
こくりと頷いて見せる。
最初からそのつもりでいたと言ったら少し嘘っぽく感じられるだろうが、本当だ。
覚えているかな?私ははじめに、”二人の時だけ”と言っているんです。まぁだから言われるまでも、というのが本心。
小突いてきたことに対しての不満は水に流そう。多分私が悪かったから。
私が悪かったから。
圧なんてかけてない!
「ならよかった」
ふんわりといつもの笑みになるが、本性を明かされてからだとなんとも言えない表情になってしまう。
なんか…落ち着かない。
うぬぬ…となっていると、澄んだ声が後ろから聞こえた。
「では行こうか」
ぴょんっと、馬車を出かけていた私の頭上を起用に飛び越えて、私の前に躍り出る。
その人間離れした芸に唖然としていると手を取られそのまま引っ張られていく。
「うあえ!?」
「さ、今日は存分に楽しもうじゃないか」
未だかつて見たことがないくらいテンションが上がっているルイに苦笑すると、笑顔が振り返った。
少し野性的な心の底からの笑みは、その容姿によく似合う太陽の笑みだった。眩しい。
***
「で、ではこちがら…ゴホンこちらがあんにゃい魔法道具ににゃります。ごごごゆっくりいい…」
受付のお姉さまが噛み噛みのガチガチのブルブルの手で大きい水晶を渡してくれた。
ルイが安定の顔で更に緊張状態にしているのに溜息しつつ、水晶に対象を変える。
これ、魔法道具なんだよね。ただの水晶にしか見えない。前世でこんなのが置いてあったから余計にそう思える。
価値を疑っていたら、
「ふっ…」
あ、ついに倒れた。
音こそしなかったものの、謎に言葉にした擬音でわかる。漫画だとそう表現されてるから。
いやここ漫画の中じゃないんだけれども。
目を向けてみると、案の定意識を失ったように体が横になっていた。
ここで皆さんなんで音がしなかったのを不思議に思ったかと思いますが、この場にはルイがいます。
つまり、ルイが魔法で受け止めてあげたのです。
衝撃を吸収する魔法なんてのもあるんだなー、とかちょっと状況も考えず感心してしまう。
ま、そんな感じだったんで特に驚きもせず近くの衛兵を呼び止めて、運んでくれるよう頼む。顔を真っ青にさせて行ってった。解せぬ…と言いたいところなのですが、これにはちゃんと理由があります。お姉さまがぶっ倒れたのも多分同じ理由です。
まず、最初から説明しますと、あの後入口の門をくぐったらよくわからないけど胸元にバッジが括りつけられました。
ここから意味が分からないけど、更に不可解な事件(?)は続きます。
このバッジ、なんとつけた人によってデザインが変わったのだ。
魔法ってすごいなーと最初は呑気に思ったんだけど、よくよく見たらあることに気付いてしまった。
そう、変化先が家紋だったんです。
とんでもない迷惑!そんな無駄に凄い機能いらなかった!
外そうとしたけれど、魔法でつけられたものなので物理的には外せず。早々に諦めて屋内に踏み入ったら…他の人たちが恐れたというような表情で我先にと入っていった。これには若干青筋が浮かびかけた。失礼な人たちですよ、まったく。
しかし受付のお姉さまは仕事なので逃げることは許されない!
ルイの容姿に当てられて、私たちの権威に当てられてこうなったというわけです。
閑話休題
色々あったけれども、とりあえず入場は出来た。色々な人に迷惑をかけた気がするけれど、バッジを考えた人が悪い。私たちは悪くない。
「最初どこ行こうか?」
ルイが案内魔法器具を展開しながら尋ねる。
起動すると空中に半透明な液晶画面のようなものが現れた。
中にはアプリのような小さいアイコンがずらりと並んでいて、ファイルにまとめられているのも幾つかある。
スマホとかそっち系の物の感じがあるので、操作法とかも同じなんじゃなかろうか。
いやまぁ…空中に浮かんでいて固形じゃないんですけど。
「人気がないところが限られていると思うから…取りあえず、奥の方から行ってみる?最初はあまりいないだろうから」
「そうするか」
ルイの指が液晶画面のようなものをなぞると、反応して同じように中身だけが動いていく。
これはどうやら予想通り、スマホの操作と同じみたい。
始めてみるものだけれど、これなら初見でも使えそうだと安心する。
内心で胸をなでおろしていると、ルイが何かをタップした。
「最奥にあるのはここか」
「どれどれ?」
示してくれたのを見ると、画面いっぱいに彫刻が並んでいる。
なるほど、こういう美術品の展示もあるのか。
日本人ってあまり彫刻のイメージがないから何となく新鮮な気持ちになっていると、見覚えのある作品が目に留まった。
「…ん?これって…あのミケランジェロさんのダヴィデ像では?」
「ミケランジェロ?ダヴィデ像?」
「いやなんでもない」
多分見間違いだ。普段見ないから目が養われていなくて、全て同じに見えてしまうのだろう。実際に見たら多分別物のはずだ。
「いいんじゃない?人が集まりにくそうだし、万が一来ても作品で向こうからはすぐに気づかれなさそう」
「じゃあここに行こうか――」
気が付くと液晶画面の中に入り込んでいた。
「「……」」
ごめんちょっと…いやかなり頭が悪かった。
正確には、目指そうとしていた部屋に既にいた。
「…どういうこと?」
「…俺も聞きたい。今さっきまで受付にいたはず…」
呆然と立ち尽くしていると、ふと思い当たったのかルイが手を叩いた。
「あ、そうか。光の女王の魔法か!?」
「いやいやまさか。あんなに興味なさげに帰って行ったんだし、きっとこの魔法道具に何か仕掛けが」
『正解だ、小僧め』
「まさかだった!?」
突然一つの彫刻の上にティーナの姿が現れた。
『ちっ。相変わらず頭の回転が速いの。厄介極まりない。少しは空気を読むということも覚えてほしいの』
「舌打ちしないでくださいよ。そんなに私の事が嫌いですか」
『嫌いじゃな』
まさかの即答にルイが苦笑いになる。
ていうか今のに空気を読むも何もなかったでしょ。言葉以上に嫌っていることが分かる…。先行きが不安だ。
「ティーナ、どうやって…はいいや。どうして私たちを飛ばしたの?」
『いや、だってここに来たかったんじゃろう?』
「…それだけ?」
『それだけ』
「「……」」
二度目の沈黙に包まれるが、ティーナは何が私たちを絶句させているか分からないかのように小首をかしげた。
太陽の光にさらされて輝きを持つ紅はルビーそのもの。光源の変化に合わせて朱色になったりディープレッドになったり。一秒たりとも同じ色を移さない瞳に状況さえ忘れて――思わず見惚れた。
感嘆の息が出そうになった時、ルイの声が私を現実へと引き戻す。
「…何も飾らない、ただのルイ。マリーの前と二人だけの時は、そうあっていい…?」
「そう。王太子でないのであれば、許されることなんじゃないかな?」
我ながら無茶苦茶だと内心で苦笑いをする。
ルイが責めているのは素を零してしまったことで、誰がなんて関係ないはず。
だけど、本当の自分を曝け出せないなんて拷問に近い現実は見逃せない。いや、ルイを見殺しにできない。
ずっと猫を被っていると自分自身さえも見失い、いずれ一生見つけられなくなる。つまり、消滅してしまう。そして言い方は悪いが上辺だけの人間になってしまう。
誰かに悪意を持つこともない。好きという感情を持つこともない。興味を持つことも、当然やりたいこともなくなる。
毎日を淡々と過ごし、生きる意味なんて考えもせず、ただ表面だけの趣向を凝らした物事を計算でしか考えられない、蓋を開けてみれば空洞の人。
中身が空っぽの人間など人間でない。そんなものはただの生きる屍だ。
最も残酷なのは本人がそれに気付けない事だろう。
心…いや、魂でさえも殺してしまえば自分自身について気にかけないから。そもそもそれが当たり前となり異常言う事さえ分からなくなってしまう。
そんなのに、人間の出来損ないなんかに絶対にさせない。
「誰がダメと言っても私は肯定する。それを非難されても絶対に意見を変えることはない。世界中の人が本当のルイを否定するなら、私と二人の時に素をだして。自分自身を苦しませないで、心を休ませる場所を、ルイでさえ見失いかけてる自分をなくさないで」
最後は懇願のようになってしまった。だけどそれが私の本心なのだ。
ルイに人間らしく生きてほしい。心を死なせたくない。
それが私の今の気持ちだから。
しかし、生まれてからずっと許されなかった少年は力なく首を振る。
小刻みに身体が震えているのも気のせいではない。
「…だけど、俺は、」
「なら今日で試そう」
カタリ…と馬車が止まる。
ゆっくり開かれていく扉の向こうには会場が見えている。
徐々に西と動く雲を背景にそびえ立つ城。
前にも一度来たことがあるはずなのにそんな気がしないのは、私の気の持ちようが違うからか。日光が真っ白な城壁を見るのも眩しいくらいに輝かせ、青藍の屋根がとてもよく映えている。
終わりが見えない中庭には庭園が覗いている。
丸く何かを囲うように建っているのを見るに、きっと内側にその何かがあるに違いない。
庭園か、祭りだから露店でもあるのか。はたまた動物…いや、この乙女ゲームでは呼び方は霊獣だったか。
もしかしたらそういうのがいるのかもしれない。
だけど、きっと私のこの予想の中に正解はないに違いない。予想のはるか上を行く、それがこの世界なのだから。
いつもなら現実逃避をするところだけれど、祭りとなると話は変わる。
どんなことでも楽しめてしまう不思議な魔法がかかっている限り、その不安は期待へと変化する。未知なる『何か』を想像するだけで心が躍る。
前ならきっとこんなことは思わなかっただろうし、そもそも目を向けることもなかっただろう。
この変化はなんだだろうかとぼんやり考えて…やめた。
考えるようなことでもないし、答えの出るようなものでもない。
それに今はルイの事だ。私の事じゃない。
他の参加者の貴族たちが中庭を通って行くのを見届けて馬車内に振り返る。
「ね、ルイ。誕生祭は貴族しか招かれなくても、社交界のような畏まったところじゃないんだよ。祭りと書かれているだけあり、緩いもの。挨拶とかもしなくていいし、好きな時間に退出していい。そして楽しみ要素でちょっとしたゲームとか楽しみ要素がある。だから娯楽に飢えている貴族たちしかこなくて、みんなそのゲームとかに夢中になっちゃうの」
すらすらと出てくる誕生祭の説明。
つい最近まで存在を忘れていた人とは思えない発言だけれど、実はこれ、お父様から「最低限の知識はつけておきなさい」とにっこり説明されたものなのだ。
ニッコリがポイントです。知らんがなって思った方、ごめんなさい。
と、話が脱線した。
「つまり私が何を言いたいのかというと――」
「素で今日を過ごそうというのか?」
「さては君、空気読む気ないね?」
そういう事だけれども。だけれども!
一を言ったら十を理解するのはとっても嬉しいですよ。でも、なんか見せ場を奪われた感じで複雑な気分…!
心の中でぐぬぬ…となっていたら、思いっきり顔を顰めた状態で首を振られてしまう。
「いや、幾ら自分の事しか考えない貴族しかいないからって、流石に無理に決まっているだろ」
「何気に酷いことを言うね。…無理だとは決まっていないでしょ?今日一日だけ。この誕生祭の時だけでもいいから羽を伸ばしたら?」
「いや、でも…」
「たまには羽を伸ばそうよ」
じゃないと、いつかそのストレスは巨大な爆弾として周りを、そして自身さえも焼き尽くす。
かつての私のように。
「一日だけ、ね?」
これで駄目だったら流石に諦めるつもりだった。それだけルイの意思は固いんだと、納得するつもりだった。
だから、ため息しながら頷くなんて思ってもいなかった。
「…マリーがそこまで言うなら、仕方ねぇ」
頭を掻きながら、溜息交じりにそう呟いた。
…仕方ないって今言ったよ、ね?
つまり――
OKってことだよね…?
そう脳内で気付いた瞬間、まるで世界が一層輝いたかのように私の心が舞い上がる。
――ヴィクトリー!!!
やったよ!最後まで粘っていた良かったよ、よくやった私。多分的外れだけど、この際気にしない!
そこまで考えて、急に冷静になる。誰かこの情緒不安定さを治してくれ、マジで。
…いや、本当に?夢とかない?まだ夢と言われた方が信憑性があるよ!?
「え、いいの?本当にいいの?」
そうだよ、あんなに渋っていたからダメだって言われると思ったんだよ。
さっきまでとは真逆の事を口にすると軽く小突かれる。
「!?」
え、なぜに!?いや、その前にルイって小突いてくるの!?
「なあに言ってんだ。マリーにそこまで頼まれたら、もう断れねえよ。ただし、人がいない所しか回らないという条件付きだが」
「もちろん」
こくりと頷いて見せる。
最初からそのつもりでいたと言ったら少し嘘っぽく感じられるだろうが、本当だ。
覚えているかな?私ははじめに、”二人の時だけ”と言っているんです。まぁだから言われるまでも、というのが本心。
小突いてきたことに対しての不満は水に流そう。多分私が悪かったから。
私が悪かったから。
圧なんてかけてない!
「ならよかった」
ふんわりといつもの笑みになるが、本性を明かされてからだとなんとも言えない表情になってしまう。
なんか…落ち着かない。
うぬぬ…となっていると、澄んだ声が後ろから聞こえた。
「では行こうか」
ぴょんっと、馬車を出かけていた私の頭上を起用に飛び越えて、私の前に躍り出る。
その人間離れした芸に唖然としていると手を取られそのまま引っ張られていく。
「うあえ!?」
「さ、今日は存分に楽しもうじゃないか」
未だかつて見たことがないくらいテンションが上がっているルイに苦笑すると、笑顔が振り返った。
少し野性的な心の底からの笑みは、その容姿によく似合う太陽の笑みだった。眩しい。
***
「で、ではこちがら…ゴホンこちらがあんにゃい魔法道具ににゃります。ごごごゆっくりいい…」
受付のお姉さまが噛み噛みのガチガチのブルブルの手で大きい水晶を渡してくれた。
ルイが安定の顔で更に緊張状態にしているのに溜息しつつ、水晶に対象を変える。
これ、魔法道具なんだよね。ただの水晶にしか見えない。前世でこんなのが置いてあったから余計にそう思える。
価値を疑っていたら、
「ふっ…」
あ、ついに倒れた。
音こそしなかったものの、謎に言葉にした擬音でわかる。漫画だとそう表現されてるから。
いやここ漫画の中じゃないんだけれども。
目を向けてみると、案の定意識を失ったように体が横になっていた。
ここで皆さんなんで音がしなかったのを不思議に思ったかと思いますが、この場にはルイがいます。
つまり、ルイが魔法で受け止めてあげたのです。
衝撃を吸収する魔法なんてのもあるんだなー、とかちょっと状況も考えず感心してしまう。
ま、そんな感じだったんで特に驚きもせず近くの衛兵を呼び止めて、運んでくれるよう頼む。顔を真っ青にさせて行ってった。解せぬ…と言いたいところなのですが、これにはちゃんと理由があります。お姉さまがぶっ倒れたのも多分同じ理由です。
まず、最初から説明しますと、あの後入口の門をくぐったらよくわからないけど胸元にバッジが括りつけられました。
ここから意味が分からないけど、更に不可解な事件(?)は続きます。
このバッジ、なんとつけた人によってデザインが変わったのだ。
魔法ってすごいなーと最初は呑気に思ったんだけど、よくよく見たらあることに気付いてしまった。
そう、変化先が家紋だったんです。
とんでもない迷惑!そんな無駄に凄い機能いらなかった!
外そうとしたけれど、魔法でつけられたものなので物理的には外せず。早々に諦めて屋内に踏み入ったら…他の人たちが恐れたというような表情で我先にと入っていった。これには若干青筋が浮かびかけた。失礼な人たちですよ、まったく。
しかし受付のお姉さまは仕事なので逃げることは許されない!
ルイの容姿に当てられて、私たちの権威に当てられてこうなったというわけです。
閑話休題
色々あったけれども、とりあえず入場は出来た。色々な人に迷惑をかけた気がするけれど、バッジを考えた人が悪い。私たちは悪くない。
「最初どこ行こうか?」
ルイが案内魔法器具を展開しながら尋ねる。
起動すると空中に半透明な液晶画面のようなものが現れた。
中にはアプリのような小さいアイコンがずらりと並んでいて、ファイルにまとめられているのも幾つかある。
スマホとかそっち系の物の感じがあるので、操作法とかも同じなんじゃなかろうか。
いやまぁ…空中に浮かんでいて固形じゃないんですけど。
「人気がないところが限られていると思うから…取りあえず、奥の方から行ってみる?最初はあまりいないだろうから」
「そうするか」
ルイの指が液晶画面のようなものをなぞると、反応して同じように中身だけが動いていく。
これはどうやら予想通り、スマホの操作と同じみたい。
始めてみるものだけれど、これなら初見でも使えそうだと安心する。
内心で胸をなでおろしていると、ルイが何かをタップした。
「最奥にあるのはここか」
「どれどれ?」
示してくれたのを見ると、画面いっぱいに彫刻が並んでいる。
なるほど、こういう美術品の展示もあるのか。
日本人ってあまり彫刻のイメージがないから何となく新鮮な気持ちになっていると、見覚えのある作品が目に留まった。
「…ん?これって…あのミケランジェロさんのダヴィデ像では?」
「ミケランジェロ?ダヴィデ像?」
「いやなんでもない」
多分見間違いだ。普段見ないから目が養われていなくて、全て同じに見えてしまうのだろう。実際に見たら多分別物のはずだ。
「いいんじゃない?人が集まりにくそうだし、万が一来ても作品で向こうからはすぐに気づかれなさそう」
「じゃあここに行こうか――」
気が付くと液晶画面の中に入り込んでいた。
「「……」」
ごめんちょっと…いやかなり頭が悪かった。
正確には、目指そうとしていた部屋に既にいた。
「…どういうこと?」
「…俺も聞きたい。今さっきまで受付にいたはず…」
呆然と立ち尽くしていると、ふと思い当たったのかルイが手を叩いた。
「あ、そうか。光の女王の魔法か!?」
「いやいやまさか。あんなに興味なさげに帰って行ったんだし、きっとこの魔法道具に何か仕掛けが」
『正解だ、小僧め』
「まさかだった!?」
突然一つの彫刻の上にティーナの姿が現れた。
『ちっ。相変わらず頭の回転が速いの。厄介極まりない。少しは空気を読むということも覚えてほしいの』
「舌打ちしないでくださいよ。そんなに私の事が嫌いですか」
『嫌いじゃな』
まさかの即答にルイが苦笑いになる。
ていうか今のに空気を読むも何もなかったでしょ。言葉以上に嫌っていることが分かる…。先行きが不安だ。
「ティーナ、どうやって…はいいや。どうして私たちを飛ばしたの?」
『いや、だってここに来たかったんじゃろう?』
「…それだけ?」
『それだけ』
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乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
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