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鈴 ※
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めのまえの膳がすべて空き皿ばかりになると、すこし残念にもおもうけれど、おなじくらいにほっともした。
フヨウのいうとおり、おなかにはぜんぜん溜まっていない。溜まっていたら、ぜんぶは食べられなかったと思う。おなかには溜まらないけれど、もし溜まっていたらおなかいっぱいになるくらい。思いかえせば、こんなに食べたのは生まれてはじめてのことだった。
(フヨウはもっとおかしを持ってきてくれないでしょうか)
気づくとそんなことを考えてしまっていて、はっとなる。いつまでもこうしているわけにもいかない。
「フヨウ。そろそろ帰してくれませんか」
けれどフヨウの男の子らしく節くれだった指はさらにからまってくる。心細いとき、指のあいだに鈴のひもをはさんでた感覚にちかくて。わたしもぎゅっとにぎりこんでしまっていた。
思いだすのは、ヤカツさまの言葉。
『もうそんな式も使えるようになったのかい。さすがはユズリハだね。私が見込んだ子だ』
『その鈴の音色。倉庫に押し込めていたときよりいい音をしている。ユズリハに預けて良かったよ』
『また遅くまで修練かい? 見過ごす私の気持ちにもなってくれよ、可愛い弟子が無理を押していたら色も付けたくなる。ま、無理はするなよ』
思いだしている間だけはほんのりと心が浮きたった。干菓子のようにほんのりと満たされて、ふっと消える。後味は、ぜんぜん甘くない。
「つらいだけだよね、帰っても」
そうですね、と応えそうになる。そう応えてしまったらもう、本当に戻れなくなると思ったから。
「ありがとう。でも、つらくするのも、つらくなくするのも。わたし次第ですから。わたしは、つらくする気はありません」
(その気はなくたって──)
「嫌だよ。ユズリハ姉さまのこと、僕帰したくないもの」
息が詰まるくらい、ぐっと抱きしめられた。男性にしてはまだ華奢に見えるフヨウだって、鈴をかけていたひもよりずっと力強い。男の子の力ではなすまいとされていて──
「帰ります」
泣きそうな声になるくらい自分を強くもってみるけれど、でも。
体には、少しも力がはいらなかった。逃げられない、なんてことじゃない。うごく気力がおきない。
(帰ることにあまり、意味はありません)
あんまり。まったく、ないとは思っていない。少しはあると思う。けれど、フヨウと争ってまで今すぐ帰りたい、とまでは思えない。だからちっとも力がはいらない。
気づくともう姿勢をたもつ力さえはいっていなくて。フヨウがわたしの背中からはなれると、ふわりと視界がゆれた。とつぜんの浮遊感に、おもわず目をつむる。心なしか血のめぐりもあたまの側にはずんだ気がした。けれど、それでも背中はフヨウのうでに支えられていて、ななめの角度でからだがとまる。
「帰さないって言ったよ。ユズリハ姉さま」
「フヨウ……」
目があう。男の子というにはちょっとおおきく、でも男性にしてはどこかあどけなさののこるフヨウのこげ茶色のひとみ。でも、それより気になるのはそのあたまの金色の三角だった。ふさふさの耳に、手をのばしたくなる。
(かわいい)
のばしかけたうでの手首を、フヨウにつかまれる。
「あっ」
ぐっとつかまれた手に気を取られていると、あらあらしく唇をふさがれた。ほんの刹那、なにが起きたのかわからなくてたじろぐ。息ぐるしくておぼれそうになるみたいな体を、フヨウにしがみついて支えた。
ちょっとのあいだだって、胸はとくとく波打ってくるしかった。
ようやく、フヨウがくちびるを離した。はくはく息をした。呼吸が乱れて、なかなか収まらない。
「可愛いのはユズリハ姉さまのほうだからね?」
「ご──」
返事を返そうとしていたその瞬間にまた、フヨウが食いつくように口づけてきた。言葉をつづけようとして開いていた口もと、閉じようとするとこじ開けるように舌先が入ってくる。抱きしめられる力が、かなり強い。舌があたってひっこめようとしたら追うようにフヨウの舌先でつかれた。からめとられる感覚にぞくぞくと震え、おなかの奥がうずく。苦しいのに、でもやめてほしくないと思ってしまう。
どれだけ続いただろう。筝曲の音が少し静かになった。するとフヨウはようやく、歯列をなぞりながら舌を抜いた。
熱っぽいフヨウと目を合わせていられなくってそらすと、ぺろりとほおをなめられる。
「やっ」
思わず目をつむると、背を支えられながら床に寝かせられた。ひんやりと冷たい背中に、反射的にフヨウをつよくつかんでしまう。わたしが引きよせたみたいにフヨウがおおいかぶさってきて、はずかしさに口から何か出そうになる。
「大好きだよ、ユズリハ姉さま」
「はい」
なにが「はい」なんだろうって自分で悩んでいたら、袴に手をかけられた。それに気づいたときにはもうおそく、手際よく袴と水干をはがれてしまう。どこか人ごとのようにフヨウのすることを見ていた。けれど、小袖のえりを開かれ胸のさきを摘ままれて、一気に感覚がもどる。
「は……っ!!」
押しのけようとしてみても、フヨウの体はびくともしない。あらわにされた胸元から入ってくるそよ風を感じると、すぐに敏感な頂きに口づけられた。ぬるりとした柔らかい舌先をすりつけられると、しびれるような快感が体中にはしる。
「姉さまは感じやすいね? 安心して。神隠しの間じゃ、初めてでも痛いことにはならないから」
きつねの耳のフヨウのおだやかな声。見下ろした彼はおだやかな笑顔、なのにその目はぎらっと光って見えて、背筋がぞくりと冷えた。なのに、胸はなんだか熱くて苦しい。
「はい。……っ」
ほんのは一瞬だけ落ち着いた、ような気がした。けど落ち着いたのは一瞬だけで、かえってそのあとの動揺がおおきくなる。
すぐにまた胸の先を捕食されて逆のほうもかりっと指先で弄られ、どうしようもない甘くるしい感覚に手足がはねた。両胸からの容赦ない刺激に、おかしくなりそうになる。悶えても楽にはなれなくて、それどころかもっと体がこすれて声にならない声が上がる。
「んっ! んぅ……やっ……あ……っ」
悶えているうちに左右に脱げてきた小袖。執拗に胸をもてあそばれていたかとおもえば、すっとへそのほうへ舌でなぞられていく。苦しげに息をしながら少しほっと、でも少しはずかしさも感じた。けれどフヨウのあたまに気をとられて意識していなかった、足の付け根を手先でさぐられるとへんな声が出そうになる。反射的に脚をとじようとした。
「やぁ……」
けれど、閉じようとした脚のあいだにフヨウのひざが落とされる。そのまま脚をつかまれて、閉じることのできないように固定された。
「隠さないでよ。隠されたら、暴きたくなっちゃうじゃない」
「だめ……っ」
フヨウに見られてしまうとおもうと恥ずかしくて、なんとか閉じようとする。でも、フヨウにはかないっこなかった。もがいているうちに一番敏感な突起をかるく吸い出されて、体の芯まで雷に貫かれたみたいに感じた。ひどくしないようにと力を入れられていなかった両脚で、フヨウの体を断ち切るようにはさみこんでしまう。それでも、フヨウはものともしなくて。
「姉さまが熱烈に歓迎してくれて嬉しいよ。ここも、すごく熱くなってる」
フヨウのきれいだった指でかきだされて、奥がとろとろに溶けていたのを確かめさせられる。止めようと思えば思うほど、体は言うことを聞かなくなって……! わたしの中を、ざらついた舌で舐めとられる。何してるのと下に見下ろせば、きつね耳を立てたフヨウがわたしをすすっている姿のいやらしさに耐えきれなくて。目をふさぎ、すぐに頭をもとどおり床に落としてしまった。
「ん……は……っ! んん……!」
目をふさいだって、フヨウがわたしをすする淫らな音を耳がどうしてもひろってしまう。いつの間にか筝の音も聞こえなくなっていた。
「あは。姉さまって物静かなのに、こっちのお口はよくしゃべるね。とても美味しいよ。もっと飲んでもいいよね」
閉じた秘所の奥を、とがった舌先でかきだされる。恥ずかしくて、きゅうと締まってしまう。けれどそのままなかの蜜をすすられて、ようやくやめてくれたかとほっとしたら。
「やっ! あ、ん!」
秘所のうえの、秘所よりもっと弱いところを吸いだされる。びりびりとしびれるような心地、フヨウの息づかいさえ感じさせられてしまう。唇でゆるくはさまれて、溜まったしびれも合わさってびくりとのけぞった。
「いくら吸いだしても吸いだしきれないよ。ユズリハ姉さま……大好きだよ。もっととろとろにするから」
(もっと――)
これ以上されたらどうなってしまうんだろうなんて期待を一瞬でも持ってしまったのがいけないのかもしれない。フヨウは見逃してくれなくて、ふくらんだ突起を吸いだされながら閉じかけてきた秘所もきれいな指で広げられた。ゆっくりゆっくりと進められる指先は、優しいのかいじわるなのか分からない。
やがてフヨウが恥骨の裏側にたどりつくともっと彼の指先に感じてしまって、おもてから裏からくる刺激にくるしくもだえた。
「あ! ん、あ、そこ、そこだめです、っ」
「だめ? 違うんじゃない? だって姉さまのここは、とってもいいって言ってる」
突起に口づけられ快感を吸いだされながら、おなかの裏側を指先で責め立てられてく。そのうち中に入ってくる指の数を増やされるけど、でも苦しいのは気持ちのよすぎるほう。なかを広げられるのがきつい、というより
(なにか、もらしてしまいそう、です……)
「大丈夫だよ、姉さまとのことは人には教えてやらないから。気持ちいいことだけ考えてて。初めてなのに、ほんと、気持ちよさそう」
フヨウがそうしてるからだと推測できていても、はずかしい気持ちが先にきてしまう。でも、はずかしいけれど、はずかしいはずなのに、体は勝手に高まってく。脚ぴんと伸ばして、フヨウのくれる快感をもっと受けられるようにってことまでしてしまっていた。
「や……あ、ん……んぅ……! ん……ふぅ……ぁっ! だめ、もう!」
「姉さま。いって?」
そういうとフヨウは舌先で突起をむいてきて、焼けつくような悦楽を与えてくる。裏側を指でなぞられる感覚もあいまった強烈な感覚。こらえきれずわたしの中で何かがはじけると、その感覚がぱぁーと体中に広がって力が抜けた。
「ふぅ……! あ……う……」
「姉さまがいくところ、とても可愛かったよ。いっぱい感じてたね」
なごやかなフヨウと目を合わせたくなくって、顔をそむけた。肩から抱きしめられて、おもわず目をつむる。首筋に口づけられ、ふるりと体がふるえた。
(もっとフヨウを感じていたい)
でもそれ以上のことはなくって、ただ抱きしめられていた。どくどくとうるさかった鼓動も、だんだんと落ちついてくる。もどかしくはない。ただ、ここちよかった。
抱きしめてくれてたフヨウの体に、そっと腕をまわした。おそるおそる下のほうをさぐると、もふもふとしていて。
「しっぽ、あまりさわらないでよ。ちょっとだけだよ?」
「はい」
わたしのほうが恥ずかしくなって、しっぽを手離してしまう。でも、フヨウの背中からは手を離せなかった。
「姉さまが触ってきたんだ。僕も好きなところ、触っていいよね」
「え」
あやしく光るフヨウの瞳から視線をそらしきれなくって、まぶたを下ろした。フヨウに耳の下から輪郭をなぞられる。むずがゆい感覚に、小さく口をあけて息をもらしてしまう。
「どこから食べようか。姉さまのほっぺた、とっても美味しそう」
たぶんフヨウのくちびるが、ほおに落とされた。落とされてみればあっさりとした、やわらかい口づけ。
(触りたいところ、そこですか)
ほっとしたような、でもなんだかものたりないような、どっちなんだろうっていう疑問がまとまる前に、脚のあいだに異物感をかんじた。あつくって、フヨウのゆびの節みたいにかたくでももっと太いそれ、秘所にゆっくりと入ってきて。
「……っ! ん……」
おどろいて体をあたまの側に逃がそうとした。でも、フヨウにうで回されとらえられて、それ以上動けない。
「帰さないよ。帰りたくないって言っているもの、姉さまの体」
もうある程度つながってしまっていた体。フヨウの熱が、まっすぐ奥に入ってくる。逃げることもできずでも速くしてともいえなくて、否応なしに入ってくるものを感じさせられてしまう。痛くはない。痛くないけれど、でも自分の中にフヨウがはいっているのは違和感がつよくて、それにはずかしい。
ようやく奥まではいりきって、これで終わりかなと思っていたら。今度は奥から引き抜かれて、すこしのものさびしさと、指よりもっと節くれたところでかきだされる強烈な快感にさいなまれた。快感を引きずり出される感覚がまだ怖かった。
「待っ! もう少しこのままで、いてください」
「抜いちゃいやって言ってる? いやらしいね姉さま。いやらしくてかわいい姉さまがみたいから、待つね。でも、少しだけ。あ、さっき待った分は差し引くから」
抜けかかっていたものが、最奥まで詰められる。体のこすれる刺激に、きゅうと締まってしまう。フヨウの熱をもっとはっきりと感じてしまって、声が抑えきらなかった。
「はぁ、あっ」
「ん? もう動いていい?」
「違います、まだ、待って」
約束通り、フヨウは待ってくれた。待ってくれているあいだ、髪を梳かれた。だれかに髪なんて梳かれるのは何年ぶりだろう。ゆっくり梳かれるのはゆるやかで心地よくて。そのうちの一本をつままれた、
「枝毛だね姉さま。ちょっと待って」
はさみ、どこから出したのだろう。ぱちんと音がすると、つままれていた毛がおちた。すこし緊張した。
耳元できいたフヨウの声は、男性にしてはすこし高くて、美しいひびきにどことなく鈴の音を感じてしまう。
「フヨウ、なんですね」
フヨウにうでを回しなおす。衣服ごしだって、あたたかかった。肩からたすきがけにしていたときよりももっと絡まっていて。感極まってわたしのなかのフヨウを締め付けてしまうと、彼が小さくうめくのが聞こえた。
「ッ!! なんだかよく分からないけれど、姉さまが納得してくれてうれしいよ」
フヨウがそっと動き出す。ただ抱きしめてもらっていたときより繋がっているところは減るのに、でももっとフヨウのことを感じてしまう。まだこの気持ちよさがすこし怖いけれど、でもさっきよりは素直にひたっていられて。
彼の背中からはがされたうでは、床におとされフヨウの指にからめとられていった。手も体も奥も重なり合っているのが気持ちよくて、でも何かぽっかりと空いてて。
「大好きだよ、姉さま」
「好──」
すき。そう返そうとするとするとむねが苦しくなる。好き、だったらよかった。でも、好きかどうかわからない。ただでさえ、ふだんから自分の気持ちがわからないことが多いのに──
「姉さまが僕を通して誰のことを考えててもかまわない。だったら、何も考えられないようにするだけ。愛してる」
フヨウの声がすこし低くなった。ぞくりとするけれど、なのにきゅんとうずいて。
「はぁ、あっ」
急に胸のとがりを甘がみされて、背中がはねた。
つながっているところのうえの突起をむかれ責められて、苦しいくらいの快感を与えられる。ゆるやかだった抽送も激しくなり、こらえきれない熱に体がおどった。気持ちいいけれど、刺激がつよすぎて苦しい……!
「フヨウ、や、ん……あっ!」
(フヨウで、しあわせ、です……!)
そんなことを思っていたら、フヨウの動きがすこし優しくなった。苦しくはなくなったけれど苦しかった分の感覚が空いてしまって、フヨウとの逢瀬をめいっぱいに感じてしまいはずかしさに体が熱くなる。
「ふうん。ここがいいんだ? 僕も幸せだよ、姉さまの気持ちのいいところを見つけられて」
「違……ぁっ……!」
やっぱり選択をまちがえたかもしれない、と思っても。フヨウの声は心地よくって、ささやかれると頭からぽうっとなってしまう。体のおくに快楽を送られているとぼんやりとしか考えられなくって、ただただフヨウの言葉を反すうしてしまう。
「や……ん……あ、あっ! フヨウ……ん……んぅ……!」
「姉さまの声……ッ! はぁ、すごくいやらしい声出てる。ねえ、分かってる?」
「フヨウのほうが、その……や、あっ……は……色っぽいです、から……ん、あ……っ!」
フヨウの声がすこしかすれて上ずったのがいやらしくて、聴覚をそれに犯される。彼の声が鼓膜をふるわせれば、その振動があたまのなかいっぱいに響きわたっておかしくなりそうで。そんなわたしをフヨウに読まれたらって思うと、はずかしさで胸がいっぱいになる。
けど、体はきゅうきゅうとフヨウに吸いついてもっと彼のことを強く感じてしまい。たかまった悦楽が、体いっぱいをくすぶらせていた。
「フヨウ、や……あ、ぅ……んっ! もう、だめ、だめ、です」
「『だめ』じゃないでしょう? 『いい』でしょう。……ッ!! つぅ。僕ももうだめそうだ。このまま出すね」
手をぎゅうっとにぎりこまれる。水かきのこすれるのさえ、しびれるくらい気持ちいい。体じゅう気持ちよくって、けど。
「!! なか、はだめです……ん、あっ、んんぅ!!」
「大丈夫だよ、お菓子がお腹に溜まらないのと一緒で。ぅ……姉さまの、中に出すよ」
だめっていったのに、体はフヨウをもとめてひくひくとひくついていた。フヨウの言葉がやっと頭に入った瞬間、最奥の一番気持ちのいいところからどうしようもなくなって愉悦の沖に意識を押し流された。
そのとき、フヨウのものがわたしのいちばん奥で熱くほとばしるのを感じた、気がした──
フヨウのいうとおり、おなかにはぜんぜん溜まっていない。溜まっていたら、ぜんぶは食べられなかったと思う。おなかには溜まらないけれど、もし溜まっていたらおなかいっぱいになるくらい。思いかえせば、こんなに食べたのは生まれてはじめてのことだった。
(フヨウはもっとおかしを持ってきてくれないでしょうか)
気づくとそんなことを考えてしまっていて、はっとなる。いつまでもこうしているわけにもいかない。
「フヨウ。そろそろ帰してくれませんか」
けれどフヨウの男の子らしく節くれだった指はさらにからまってくる。心細いとき、指のあいだに鈴のひもをはさんでた感覚にちかくて。わたしもぎゅっとにぎりこんでしまっていた。
思いだすのは、ヤカツさまの言葉。
『もうそんな式も使えるようになったのかい。さすがはユズリハだね。私が見込んだ子だ』
『その鈴の音色。倉庫に押し込めていたときよりいい音をしている。ユズリハに預けて良かったよ』
『また遅くまで修練かい? 見過ごす私の気持ちにもなってくれよ、可愛い弟子が無理を押していたら色も付けたくなる。ま、無理はするなよ』
思いだしている間だけはほんのりと心が浮きたった。干菓子のようにほんのりと満たされて、ふっと消える。後味は、ぜんぜん甘くない。
「つらいだけだよね、帰っても」
そうですね、と応えそうになる。そう応えてしまったらもう、本当に戻れなくなると思ったから。
「ありがとう。でも、つらくするのも、つらくなくするのも。わたし次第ですから。わたしは、つらくする気はありません」
(その気はなくたって──)
「嫌だよ。ユズリハ姉さまのこと、僕帰したくないもの」
息が詰まるくらい、ぐっと抱きしめられた。男性にしてはまだ華奢に見えるフヨウだって、鈴をかけていたひもよりずっと力強い。男の子の力ではなすまいとされていて──
「帰ります」
泣きそうな声になるくらい自分を強くもってみるけれど、でも。
体には、少しも力がはいらなかった。逃げられない、なんてことじゃない。うごく気力がおきない。
(帰ることにあまり、意味はありません)
あんまり。まったく、ないとは思っていない。少しはあると思う。けれど、フヨウと争ってまで今すぐ帰りたい、とまでは思えない。だからちっとも力がはいらない。
気づくともう姿勢をたもつ力さえはいっていなくて。フヨウがわたしの背中からはなれると、ふわりと視界がゆれた。とつぜんの浮遊感に、おもわず目をつむる。心なしか血のめぐりもあたまの側にはずんだ気がした。けれど、それでも背中はフヨウのうでに支えられていて、ななめの角度でからだがとまる。
「帰さないって言ったよ。ユズリハ姉さま」
「フヨウ……」
目があう。男の子というにはちょっとおおきく、でも男性にしてはどこかあどけなさののこるフヨウのこげ茶色のひとみ。でも、それより気になるのはそのあたまの金色の三角だった。ふさふさの耳に、手をのばしたくなる。
(かわいい)
のばしかけたうでの手首を、フヨウにつかまれる。
「あっ」
ぐっとつかまれた手に気を取られていると、あらあらしく唇をふさがれた。ほんの刹那、なにが起きたのかわからなくてたじろぐ。息ぐるしくておぼれそうになるみたいな体を、フヨウにしがみついて支えた。
ちょっとのあいだだって、胸はとくとく波打ってくるしかった。
ようやく、フヨウがくちびるを離した。はくはく息をした。呼吸が乱れて、なかなか収まらない。
「可愛いのはユズリハ姉さまのほうだからね?」
「ご──」
返事を返そうとしていたその瞬間にまた、フヨウが食いつくように口づけてきた。言葉をつづけようとして開いていた口もと、閉じようとするとこじ開けるように舌先が入ってくる。抱きしめられる力が、かなり強い。舌があたってひっこめようとしたら追うようにフヨウの舌先でつかれた。からめとられる感覚にぞくぞくと震え、おなかの奥がうずく。苦しいのに、でもやめてほしくないと思ってしまう。
どれだけ続いただろう。筝曲の音が少し静かになった。するとフヨウはようやく、歯列をなぞりながら舌を抜いた。
熱っぽいフヨウと目を合わせていられなくってそらすと、ぺろりとほおをなめられる。
「やっ」
思わず目をつむると、背を支えられながら床に寝かせられた。ひんやりと冷たい背中に、反射的にフヨウをつよくつかんでしまう。わたしが引きよせたみたいにフヨウがおおいかぶさってきて、はずかしさに口から何か出そうになる。
「大好きだよ、ユズリハ姉さま」
「はい」
なにが「はい」なんだろうって自分で悩んでいたら、袴に手をかけられた。それに気づいたときにはもうおそく、手際よく袴と水干をはがれてしまう。どこか人ごとのようにフヨウのすることを見ていた。けれど、小袖のえりを開かれ胸のさきを摘ままれて、一気に感覚がもどる。
「は……っ!!」
押しのけようとしてみても、フヨウの体はびくともしない。あらわにされた胸元から入ってくるそよ風を感じると、すぐに敏感な頂きに口づけられた。ぬるりとした柔らかい舌先をすりつけられると、しびれるような快感が体中にはしる。
「姉さまは感じやすいね? 安心して。神隠しの間じゃ、初めてでも痛いことにはならないから」
きつねの耳のフヨウのおだやかな声。見下ろした彼はおだやかな笑顔、なのにその目はぎらっと光って見えて、背筋がぞくりと冷えた。なのに、胸はなんだか熱くて苦しい。
「はい。……っ」
ほんのは一瞬だけ落ち着いた、ような気がした。けど落ち着いたのは一瞬だけで、かえってそのあとの動揺がおおきくなる。
すぐにまた胸の先を捕食されて逆のほうもかりっと指先で弄られ、どうしようもない甘くるしい感覚に手足がはねた。両胸からの容赦ない刺激に、おかしくなりそうになる。悶えても楽にはなれなくて、それどころかもっと体がこすれて声にならない声が上がる。
「んっ! んぅ……やっ……あ……っ」
悶えているうちに左右に脱げてきた小袖。執拗に胸をもてあそばれていたかとおもえば、すっとへそのほうへ舌でなぞられていく。苦しげに息をしながら少しほっと、でも少しはずかしさも感じた。けれどフヨウのあたまに気をとられて意識していなかった、足の付け根を手先でさぐられるとへんな声が出そうになる。反射的に脚をとじようとした。
「やぁ……」
けれど、閉じようとした脚のあいだにフヨウのひざが落とされる。そのまま脚をつかまれて、閉じることのできないように固定された。
「隠さないでよ。隠されたら、暴きたくなっちゃうじゃない」
「だめ……っ」
フヨウに見られてしまうとおもうと恥ずかしくて、なんとか閉じようとする。でも、フヨウにはかないっこなかった。もがいているうちに一番敏感な突起をかるく吸い出されて、体の芯まで雷に貫かれたみたいに感じた。ひどくしないようにと力を入れられていなかった両脚で、フヨウの体を断ち切るようにはさみこんでしまう。それでも、フヨウはものともしなくて。
「姉さまが熱烈に歓迎してくれて嬉しいよ。ここも、すごく熱くなってる」
フヨウのきれいだった指でかきだされて、奥がとろとろに溶けていたのを確かめさせられる。止めようと思えば思うほど、体は言うことを聞かなくなって……! わたしの中を、ざらついた舌で舐めとられる。何してるのと下に見下ろせば、きつね耳を立てたフヨウがわたしをすすっている姿のいやらしさに耐えきれなくて。目をふさぎ、すぐに頭をもとどおり床に落としてしまった。
「ん……は……っ! んん……!」
目をふさいだって、フヨウがわたしをすする淫らな音を耳がどうしてもひろってしまう。いつの間にか筝の音も聞こえなくなっていた。
「あは。姉さまって物静かなのに、こっちのお口はよくしゃべるね。とても美味しいよ。もっと飲んでもいいよね」
閉じた秘所の奥を、とがった舌先でかきだされる。恥ずかしくて、きゅうと締まってしまう。けれどそのままなかの蜜をすすられて、ようやくやめてくれたかとほっとしたら。
「やっ! あ、ん!」
秘所のうえの、秘所よりもっと弱いところを吸いだされる。びりびりとしびれるような心地、フヨウの息づかいさえ感じさせられてしまう。唇でゆるくはさまれて、溜まったしびれも合わさってびくりとのけぞった。
「いくら吸いだしても吸いだしきれないよ。ユズリハ姉さま……大好きだよ。もっととろとろにするから」
(もっと――)
これ以上されたらどうなってしまうんだろうなんて期待を一瞬でも持ってしまったのがいけないのかもしれない。フヨウは見逃してくれなくて、ふくらんだ突起を吸いだされながら閉じかけてきた秘所もきれいな指で広げられた。ゆっくりゆっくりと進められる指先は、優しいのかいじわるなのか分からない。
やがてフヨウが恥骨の裏側にたどりつくともっと彼の指先に感じてしまって、おもてから裏からくる刺激にくるしくもだえた。
「あ! ん、あ、そこ、そこだめです、っ」
「だめ? 違うんじゃない? だって姉さまのここは、とってもいいって言ってる」
突起に口づけられ快感を吸いだされながら、おなかの裏側を指先で責め立てられてく。そのうち中に入ってくる指の数を増やされるけど、でも苦しいのは気持ちのよすぎるほう。なかを広げられるのがきつい、というより
(なにか、もらしてしまいそう、です……)
「大丈夫だよ、姉さまとのことは人には教えてやらないから。気持ちいいことだけ考えてて。初めてなのに、ほんと、気持ちよさそう」
フヨウがそうしてるからだと推測できていても、はずかしい気持ちが先にきてしまう。でも、はずかしいけれど、はずかしいはずなのに、体は勝手に高まってく。脚ぴんと伸ばして、フヨウのくれる快感をもっと受けられるようにってことまでしてしまっていた。
「や……あ、ん……んぅ……! ん……ふぅ……ぁっ! だめ、もう!」
「姉さま。いって?」
そういうとフヨウは舌先で突起をむいてきて、焼けつくような悦楽を与えてくる。裏側を指でなぞられる感覚もあいまった強烈な感覚。こらえきれずわたしの中で何かがはじけると、その感覚がぱぁーと体中に広がって力が抜けた。
「ふぅ……! あ……う……」
「姉さまがいくところ、とても可愛かったよ。いっぱい感じてたね」
なごやかなフヨウと目を合わせたくなくって、顔をそむけた。肩から抱きしめられて、おもわず目をつむる。首筋に口づけられ、ふるりと体がふるえた。
(もっとフヨウを感じていたい)
でもそれ以上のことはなくって、ただ抱きしめられていた。どくどくとうるさかった鼓動も、だんだんと落ちついてくる。もどかしくはない。ただ、ここちよかった。
抱きしめてくれてたフヨウの体に、そっと腕をまわした。おそるおそる下のほうをさぐると、もふもふとしていて。
「しっぽ、あまりさわらないでよ。ちょっとだけだよ?」
「はい」
わたしのほうが恥ずかしくなって、しっぽを手離してしまう。でも、フヨウの背中からは手を離せなかった。
「姉さまが触ってきたんだ。僕も好きなところ、触っていいよね」
「え」
あやしく光るフヨウの瞳から視線をそらしきれなくって、まぶたを下ろした。フヨウに耳の下から輪郭をなぞられる。むずがゆい感覚に、小さく口をあけて息をもらしてしまう。
「どこから食べようか。姉さまのほっぺた、とっても美味しそう」
たぶんフヨウのくちびるが、ほおに落とされた。落とされてみればあっさりとした、やわらかい口づけ。
(触りたいところ、そこですか)
ほっとしたような、でもなんだかものたりないような、どっちなんだろうっていう疑問がまとまる前に、脚のあいだに異物感をかんじた。あつくって、フヨウのゆびの節みたいにかたくでももっと太いそれ、秘所にゆっくりと入ってきて。
「……っ! ん……」
おどろいて体をあたまの側に逃がそうとした。でも、フヨウにうで回されとらえられて、それ以上動けない。
「帰さないよ。帰りたくないって言っているもの、姉さまの体」
もうある程度つながってしまっていた体。フヨウの熱が、まっすぐ奥に入ってくる。逃げることもできずでも速くしてともいえなくて、否応なしに入ってくるものを感じさせられてしまう。痛くはない。痛くないけれど、でも自分の中にフヨウがはいっているのは違和感がつよくて、それにはずかしい。
ようやく奥まではいりきって、これで終わりかなと思っていたら。今度は奥から引き抜かれて、すこしのものさびしさと、指よりもっと節くれたところでかきだされる強烈な快感にさいなまれた。快感を引きずり出される感覚がまだ怖かった。
「待っ! もう少しこのままで、いてください」
「抜いちゃいやって言ってる? いやらしいね姉さま。いやらしくてかわいい姉さまがみたいから、待つね。でも、少しだけ。あ、さっき待った分は差し引くから」
抜けかかっていたものが、最奥まで詰められる。体のこすれる刺激に、きゅうと締まってしまう。フヨウの熱をもっとはっきりと感じてしまって、声が抑えきらなかった。
「はぁ、あっ」
「ん? もう動いていい?」
「違います、まだ、待って」
約束通り、フヨウは待ってくれた。待ってくれているあいだ、髪を梳かれた。だれかに髪なんて梳かれるのは何年ぶりだろう。ゆっくり梳かれるのはゆるやかで心地よくて。そのうちの一本をつままれた、
「枝毛だね姉さま。ちょっと待って」
はさみ、どこから出したのだろう。ぱちんと音がすると、つままれていた毛がおちた。すこし緊張した。
耳元できいたフヨウの声は、男性にしてはすこし高くて、美しいひびきにどことなく鈴の音を感じてしまう。
「フヨウ、なんですね」
フヨウにうでを回しなおす。衣服ごしだって、あたたかかった。肩からたすきがけにしていたときよりももっと絡まっていて。感極まってわたしのなかのフヨウを締め付けてしまうと、彼が小さくうめくのが聞こえた。
「ッ!! なんだかよく分からないけれど、姉さまが納得してくれてうれしいよ」
フヨウがそっと動き出す。ただ抱きしめてもらっていたときより繋がっているところは減るのに、でももっとフヨウのことを感じてしまう。まだこの気持ちよさがすこし怖いけれど、でもさっきよりは素直にひたっていられて。
彼の背中からはがされたうでは、床におとされフヨウの指にからめとられていった。手も体も奥も重なり合っているのが気持ちよくて、でも何かぽっかりと空いてて。
「大好きだよ、姉さま」
「好──」
すき。そう返そうとするとするとむねが苦しくなる。好き、だったらよかった。でも、好きかどうかわからない。ただでさえ、ふだんから自分の気持ちがわからないことが多いのに──
「姉さまが僕を通して誰のことを考えててもかまわない。だったら、何も考えられないようにするだけ。愛してる」
フヨウの声がすこし低くなった。ぞくりとするけれど、なのにきゅんとうずいて。
「はぁ、あっ」
急に胸のとがりを甘がみされて、背中がはねた。
つながっているところのうえの突起をむかれ責められて、苦しいくらいの快感を与えられる。ゆるやかだった抽送も激しくなり、こらえきれない熱に体がおどった。気持ちいいけれど、刺激がつよすぎて苦しい……!
「フヨウ、や、ん……あっ!」
(フヨウで、しあわせ、です……!)
そんなことを思っていたら、フヨウの動きがすこし優しくなった。苦しくはなくなったけれど苦しかった分の感覚が空いてしまって、フヨウとの逢瀬をめいっぱいに感じてしまいはずかしさに体が熱くなる。
「ふうん。ここがいいんだ? 僕も幸せだよ、姉さまの気持ちのいいところを見つけられて」
「違……ぁっ……!」
やっぱり選択をまちがえたかもしれない、と思っても。フヨウの声は心地よくって、ささやかれると頭からぽうっとなってしまう。体のおくに快楽を送られているとぼんやりとしか考えられなくって、ただただフヨウの言葉を反すうしてしまう。
「や……ん……あ、あっ! フヨウ……ん……んぅ……!」
「姉さまの声……ッ! はぁ、すごくいやらしい声出てる。ねえ、分かってる?」
「フヨウのほうが、その……や、あっ……は……色っぽいです、から……ん、あ……っ!」
フヨウの声がすこしかすれて上ずったのがいやらしくて、聴覚をそれに犯される。彼の声が鼓膜をふるわせれば、その振動があたまのなかいっぱいに響きわたっておかしくなりそうで。そんなわたしをフヨウに読まれたらって思うと、はずかしさで胸がいっぱいになる。
けど、体はきゅうきゅうとフヨウに吸いついてもっと彼のことを強く感じてしまい。たかまった悦楽が、体いっぱいをくすぶらせていた。
「フヨウ、や……あ、ぅ……んっ! もう、だめ、だめ、です」
「『だめ』じゃないでしょう? 『いい』でしょう。……ッ!! つぅ。僕ももうだめそうだ。このまま出すね」
手をぎゅうっとにぎりこまれる。水かきのこすれるのさえ、しびれるくらい気持ちいい。体じゅう気持ちよくって、けど。
「!! なか、はだめです……ん、あっ、んんぅ!!」
「大丈夫だよ、お菓子がお腹に溜まらないのと一緒で。ぅ……姉さまの、中に出すよ」
だめっていったのに、体はフヨウをもとめてひくひくとひくついていた。フヨウの言葉がやっと頭に入った瞬間、最奥の一番気持ちのいいところからどうしようもなくなって愉悦の沖に意識を押し流された。
そのとき、フヨウのものがわたしのいちばん奥で熱くほとばしるのを感じた、気がした──
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