臆病者の交換日記

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交換日記(二月十四日・翼)


「どうして、バレンタインなんてあるんだろう……」

バレンタイン当日、二月十四日の朝。
朝っぱらから僕は意気消沈して、布団の中で深く溜息を吐いた。

だって、僕は生まれてこのかた十八年間、一度もバレンタインチョコなんてもらったことがない。

理由ははっきりと分かっている。

黒髪に眼鏡、身長も標準以下でイケメンでもなく勉強やスポーツが特別にできるわけでもない僕は、所謂、目立たない男子で……

バレンタインというのは、活発であったり容姿が良かったり、成績優秀とかスポーツ万能とか……そんな、所謂『リア充』と呼ばれる部類の男子に女子が自らの想いとともにチョコレートを渡す。

そんなリア充爆発イベントであって、僕には縁のないものだからだ。

だから、毎年この日には、僕はこの上なく惨めな想いをすることになるんだ。

「翼(つばさ)、遅刻するわよ。早く、起きなさい」

リビングから母親の僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

嫌だ、嫌だ、休みたい……って言っているのに、母親は僕を布団から叩き出して。

この日ばかりは、翼なんていう響きがカッコ良い、自分の名前を恨んだ。


登校した途端に、僕はげんなりとする。

校門をくぐったら速攻で、待ってましたとばかりに、女子からチョコを受け取る男子の姿が目に入ったからだ。

自分には全く縁のない世界だ……そう思っていた。

今日、自分の下駄箱を開けるまでは。


「えっ……」


下駄箱を開けてみて、僕は暫し硬直した。

それは僕の目が、まるで信じられないものをとらえたから。

可愛らしい包み紙とピンク色のリボンでコーディネートされた小さい箱……そう。

今日、校内でリア充男子達が可憐な女子から受け取っている『チョコ』らしきものが、僕の上履きの隣にちょこんと陣取っていたのだ。


「下駄箱の中なんかにチョコを置く!?」

僕はそんなツッコミが出そうになった自分の口を塞いだ。

だって、目立たない僕がこんな可愛らしい包み紙のチョコを貰っただなんて……何だかイタいしこっぱずかしいし、周りに知られたくない。

だから、僕はこっそりとその箱を自分の鞄に入れて、何事もなかったように下駄箱から靴を取り出した。



授業中はずっと、その小さな箱のことが気になって仕方がなかった。

誰がくれたんだろう?

もちろん、チョコだとは思うけれど本当にそうなのかな?

変な嫌がらせだったらどうしよう?

そんなネガティブな考えさえも、僕の頭の中に浮かんでいた。

だから、僕は女子からチョコをもらっているリア充男子達なんて気にも留めないで。

授業が終わるとすぐに、真っ直ぐに自分の家へ帰った。


僕は自分の部屋で、ドキドキと胸を躍らせながら包み紙を解いて箱を開けた。

すると……

「何だ、これ?」

その箱の中には、とあるサイトのURLを書いた紙が入っていたのだ。

「エブリムーン……」

それは聞いたことのある……いや、それどころか、僕が以前、自作の小説を投稿していた小説サイトだった。

僕はネットを開けて、紙に書いてあったURLを打ち込んでみた。

すると……

『バレンタインの臆病者』というハンネのユーザーのページになったのだった。

「バレンタインの臆病者?」

試しにマイページに戻ると、『バレンタインの臆病者』は僕をフォローしてくれていた。

だから僕もフォロー返しをすると、すぐに『バレンタインの臆病者』は次のようなコメントをくれたのだった。

「ホシシロツバサさん、フォロー返し、ありがとうございます! 私はあなたのファンです。だから、その……私、あなたと一緒に小説が書きたくて。でもいきなり小説を書くのはハードルが高いので、まずは交換日記をしたいです。どうか、よろしくお願いします」

コメントを見て、驚いた。
ホシシロツバサというのは、星城(せいじょう)翼という僕の名をもじった自身のハンネで……まさか、自分にファンがいる?
だって、自分の小説なんて閲覧数も一桁で全く人気がないし、誰も読んでくれてないものと思ってて、だからこのサイトは久しく放置していたのに。

でも、僕は凄く嬉しかった。
何より、自分のファンがいたことに……それも、下駄箱にUR Lを書いた紙の入った箱が入っていたということは、身近な、恐らくは同じ学校の誰かが僕のファンだということなのだ。

だから、僕はサイトのリレー機能を使い、少し小説風にこの交換日記を書き始めた。





「どうして、バレンタインなんてあるんだろう……」

バレンタイン当日、二月十四日の朝。
朝っぱらから僕は意気消沈して、布団の中で深く溜息を吐いた。…………

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