チョコレートコスモスの花言葉

いっき

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 次の日の学校。
 僕と目が合った美那ちゃんは、やはり赤くなった。
 僕も胸の中がドキドキと熱く鳴った。そのドキドキが聞こえないように、できる限りいつも通りに彼女の元へ行き、本を一冊渡した。

「……はい」

「これ……若草物語?」

「うん。美那ちゃん、ずっと読みたいって言ってたでしょ。」

「ありがとう!これ、ずっと読みたかったの」

 彼女はそうつとめてか、いつもと同じ反応だった。

 それからも、僕達の関係は今までとそう変わったということはなかった。

 ただ、僕の方から積極的に本を貸してあげたりしたし、目が合ったらお互いに少し赤くなるようになった……それだけだった。



 秋も終わりに近づく頃。
 一緒に帰る帰り道で、美那ちゃんは僕に顔を向けてにっこりと笑った。

「私、城命中学校を受験することにしたわ」

「えっ、そうなの?」

 城命中学校は、大学までエスカレーターで進める名門の共学校。僕の住む地域で中学受験をするコは、大抵目指している学校だ。

「ええ。奏は、どこを受験するの?」

「僕は……」

 本当の事を言おうか、少し迷った。

「立洋中学校」

 他県の、男子進学校だ。

「えっ、城命中学校じゃないの?」

「うん。僕、将来獣医さんになりたいんだ。城命中学校だったら大学までエスカレーターだけど、獣医にはなれない。立洋中学校は遠いけど、難しい大学への進学率が凄く高いんだ。だから、僕は……立洋中学校を受験する」

 僕は自分の決意を話した。

「そう……分かったわ」

 美那ちゃんは寂しそうに、澄んだ瞳を下に向けた。



 次の日。
 帰りの下駄箱で美那ちゃんは僕に黒いコスモスを渡した。

「これ……」

「私からの、プレゼント」

 美那ちゃんは、寂しそうに眉を下げて微笑んだ。

「お互い、絶対に志望校合格できるように頑張ろうね!」

 少し潤んだ瞳でそう言って走り去った。



「あんたの恋、終わったね」

 黒いコスモスを見た姉は溜息を吐いた。

「黒いコスモスはチョコレートコスモスって言うんだけど、その花言葉は、『恋の終わり』。ああもう、バカだねぇ。そのコと同じ中学校受けたらいいのに」

 終わった……僕の恋は。
 塞ぎこむ僕を、チョコレートコスモスの仄かなチョコレートの香りが包んだ。

 でも、受験前の時期に落ち込んでばかりもいられなかった。僕はそれから彼女のことを忘れるくらいにがむしゃらに勉強して、そして、志望校に合格した。
 美那ちゃんも彼女の志望校に合格した。
 実質的に僕達の関係は終わり……僕達は『別れた』んだ。
 お互い、それぞれの道を歩み出した。
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