チョコレートコスモスの花言葉

いっき

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 十五年後。僕は動物病院で働いていた。
 来る日も来る日も動物達を診て救う、目が回りそうなくらい忙しい日々。でも、そんな日々がとても充実していて好きだった。



「このコ、チョコの健康診断と混合ワクチンをお願いします」

 一匹のチワワを診察台に乗せた女性の声にはっとした。
 聞き覚えのある声。小学生の頃、聞く度にドキドキしていた、透き通るような声……。

「美那……ちゃん?」

 そっと顔を上げて彼女と目を合わせた。

「奏……?」

 大人になった美那ちゃんは、小学生の頃よりもさらに綺麗で、相変わらず僕なんかよりもずっと大人びていた。



「奏、本当に獣医さんになったんだね。すごいよ」

 チョコの健康診断をする僕に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「いやぁ、獣医さんって言っても僕なんて全然子供で……」

「奏は、そんな所がいいんだよ」

 優しく目を細める。

「今度の日曜日、空いてる? そこの喫茶店でお茶しようよ。渡したいものがあるんだ」



「はい」

 日曜日。
 チョコレートコスモスを持った美那ちゃんがにっこりと笑った。

「これ……」

「小学生の時にも渡したっけ」

「うん。花言葉は『恋の終わり』なんだよね」

「そうね。でも……実は、もう一つ花言葉があるの」

「えっ?」

 不思議そうな顔をする僕に彼女は柔らかく微笑んだ。

「『移り変わらぬ気持ち』よ」

 綺麗な瞳を真っ直ぐ僕に向ける。

「奏が別の中学校を受けて、寂しかった。同じ中学校を受けてくれたらいいのに……そう思ったわ。でも……真剣に将来の夢を話す奏を見て、やっぱり私、あなたのことが好きだと思ったの」

 僕はあの頃のようにドキドキして、顔が火照っていくのが分かった。

「そして、こないだ、立派に夢を実現して獣医さんになってる奏に再会して……私、自分の『移り変わらぬ気持ち』に気付いたの。今からでも遅くないのなら……奏。またあの頃のように……私と付き合って」

「うん……もちろん。こんな僕でよかったら」


 あの頃と変わらない、大人びた完璧な美那ちゃんと獣医であることしか取り柄のない僕。そんな二人を、チョコレートの仄かな香りが優しく包み込んだ。
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