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十五年後。僕は動物病院で働いていた。
来る日も来る日も動物達を診て救う、目が回りそうなくらい忙しい日々。でも、そんな日々がとても充実していて好きだった。
*
「このコ、チョコの健康診断と混合ワクチンをお願いします」
一匹のチワワを診察台に乗せた女性の声にはっとした。
聞き覚えのある声。小学生の頃、聞く度にドキドキしていた、透き通るような声……。
「美那……ちゃん?」
そっと顔を上げて彼女と目を合わせた。
「奏……?」
大人になった美那ちゃんは、小学生の頃よりもさらに綺麗で、相変わらず僕なんかよりもずっと大人びていた。
「奏、本当に獣医さんになったんだね。すごいよ」
チョコの健康診断をする僕に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「いやぁ、獣医さんって言っても僕なんて全然子供で……」
「奏は、そんな所がいいんだよ」
優しく目を細める。
「今度の日曜日、空いてる? そこの喫茶店でお茶しようよ。渡したいものがあるんだ」
*
「はい」
日曜日。
チョコレートコスモスを持った美那ちゃんがにっこりと笑った。
「これ……」
「小学生の時にも渡したっけ」
「うん。花言葉は『恋の終わり』なんだよね」
「そうね。でも……実は、もう一つ花言葉があるの」
「えっ?」
不思議そうな顔をする僕に彼女は柔らかく微笑んだ。
「『移り変わらぬ気持ち』よ」
綺麗な瞳を真っ直ぐ僕に向ける。
「奏が別の中学校を受けて、寂しかった。同じ中学校を受けてくれたらいいのに……そう思ったわ。でも……真剣に将来の夢を話す奏を見て、やっぱり私、あなたのことが好きだと思ったの」
僕はあの頃のようにドキドキして、顔が火照っていくのが分かった。
「そして、こないだ、立派に夢を実現して獣医さんになってる奏に再会して……私、自分の『移り変わらぬ気持ち』に気付いたの。今からでも遅くないのなら……奏。またあの頃のように……私と付き合って」
「うん……もちろん。こんな僕でよかったら」
あの頃と変わらない、大人びた完璧な美那ちゃんと獣医であることしか取り柄のない僕。そんな二人を、チョコレートの仄かな香りが優しく包み込んだ。
十五年後。僕は動物病院で働いていた。
来る日も来る日も動物達を診て救う、目が回りそうなくらい忙しい日々。でも、そんな日々がとても充実していて好きだった。
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「このコ、チョコの健康診断と混合ワクチンをお願いします」
一匹のチワワを診察台に乗せた女性の声にはっとした。
聞き覚えのある声。小学生の頃、聞く度にドキドキしていた、透き通るような声……。
「美那……ちゃん?」
そっと顔を上げて彼女と目を合わせた。
「奏……?」
大人になった美那ちゃんは、小学生の頃よりもさらに綺麗で、相変わらず僕なんかよりもずっと大人びていた。
「奏、本当に獣医さんになったんだね。すごいよ」
チョコの健康診断をする僕に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「いやぁ、獣医さんって言っても僕なんて全然子供で……」
「奏は、そんな所がいいんだよ」
優しく目を細める。
「今度の日曜日、空いてる? そこの喫茶店でお茶しようよ。渡したいものがあるんだ」
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「はい」
日曜日。
チョコレートコスモスを持った美那ちゃんがにっこりと笑った。
「これ……」
「小学生の時にも渡したっけ」
「うん。花言葉は『恋の終わり』なんだよね」
「そうね。でも……実は、もう一つ花言葉があるの」
「えっ?」
不思議そうな顔をする僕に彼女は柔らかく微笑んだ。
「『移り変わらぬ気持ち』よ」
綺麗な瞳を真っ直ぐ僕に向ける。
「奏が別の中学校を受けて、寂しかった。同じ中学校を受けてくれたらいいのに……そう思ったわ。でも……真剣に将来の夢を話す奏を見て、やっぱり私、あなたのことが好きだと思ったの」
僕はあの頃のようにドキドキして、顔が火照っていくのが分かった。
「そして、こないだ、立派に夢を実現して獣医さんになってる奏に再会して……私、自分の『移り変わらぬ気持ち』に気付いたの。今からでも遅くないのなら……奏。またあの頃のように……私と付き合って」
「うん……もちろん。こんな僕でよかったら」
あの頃と変わらない、大人びた完璧な美那ちゃんと獣医であることしか取り柄のない僕。そんな二人を、チョコレートの仄かな香りが優しく包み込んだ。
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