願いを叶える泉

いっき

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「お母さん、行ってくるわね」
「リッツェル……本当にいつも、ごめんね」
「ううん。早く良くなるように、ゆっくり休むのよ」
 リッツェルは、カゴいっぱいの編み物を持って家を出ました。
 リッツェルは、お母さんのルルと二人ぐらし。でも、ルルはひどい病気なので働けません。
 そのため、リッツェルは毎日、毛糸で手袋やセーターを編み、町で売ってお金にかえているのです。そして、二人分の食べ物とルルのお薬を買っているのでした。
 茶色い髪を三つ編みにしたリッツェルは、外では温かい毛糸のセーターを着て手袋をはめ、帽子をかぶります。そして、町の道の上、いつもの場所でお店を開きました。
「やぁ、リッツェルちゃん。今日も温かそうなセーターを売っているね。一つ、買わせてもらうよ」
「わぁ、ジイドさん。ありがとう!」
「お母さんの調子はどうだい?」
「それが、あまり変わらないんです……」
「そうか……。リッツェルちゃんも、無理しないで体に気をつけるんだよ」
「うん。本当にいつも、ありがとう!」
 一年を通して寒いその国では、幸いなことに編み物は必要とされていました。
 さらに、純粋で可愛いリッツェルの売る編み物を必ず買ってくれるお客さんもついていて、応援の声をかけてくれていたのでした。

「よかったぁ、今日もたくさん売れたわ」
夕方、リッツェルは笑顔で店をたたみました。
自分が丹精こめて編んだ編み物が売れるのは、うれしいものです。今日もかせいだお金でごはんとルルの薬を買いに行こうとした、その時でした。
 町にある一軒の家の陰から、一人の小さな男の子がじっとこちらを見ているのに気付きました。金色の髪に青い瞳をした、かわいい男の子です。でも、この寒い中、ボロボロの服を着ていて裸足で、もちろん手袋もしていませんでした。
 リッツェルは、その男の子のことがとても気になりました。
「ねぇ、あなた」
 リッツェルが声をかけると、その男の子はビクッとしました。
「そんな格好で、寒いでしょ。このセーターと靴下と手袋、あげるわ」
 リッツェルは売れ残りの編み物を持って、にっこりと笑いました。
「えっ、いいの?」
 その男の子は、おそるおそる近づいてきて、セーターを着て靴下をはき、手袋をはめました。
「温かい……」
 その男の子はほっこりとしました。リッツェルも、そんな男の子を見てホッと安心しました。
「ねぇ、あなた。お名前は?」
「僕? 僕は、リクル」
「そっか、リクル。どうして、そんな格好でこんな所にいるの?」
 すると、リクルは悲しそうな顔でうつむきました。
「僕のお父さん、病気で……」
「えっ、そうなの?」
 お父さんが病気と聞いて、リッツェルには他人事とは思えませんでした。
 リクルはうなずきます。
「うん。だから……『願いを叶える泉』に、お願いをしに行ってたんだ」
「願いを叶える泉?」
 リッツェルが見つめると、リクルはうなずきました。
「この町を出て枯れ木の森を抜けると、願いを叶えてくれる泉があるんだ。だから僕、そこへ行って、お父さんの病気が良くなるように、お祈りしてたんだ。それで……町に入ってみたらお姉さんのお店を見つけて。すっごく温かそうな編み物だなぁと思って見てたんだ」
「そうだったの……」
 リッツェルは、リクルがいじらしくてたまらなくなりました。それと同時に、自分より小さいのに、そんなに辛い想いをしているリクルが、かわいそうに思えてきたのでした。
 リッツェルはふと思い立って、今日、かせいだお金を取り出しました。そして、その全てをリクルに渡したのです。
「えっ……お姉さん。これ……」
「あなたにあげるわ。リクル」
 リッツェルは、純粋な……天使の微笑みを浮かべました。
「そのお金で、お父さんのお薬と何か温かいものを買って、食べて」
「え、でも……」
「いいから。あなたも、頑張って遠い所まで行ったんだから、温かくしてゆっくり休んでね」
 リッツェルは、にっこりと笑って帰りました。

「お隣のバメルさんからもらったおいもと……お母さんのお薬も、まだ残ってたわよね」
 今日、かせいだお金は、全部渡してしまってありません。でも、リッツェルの心は、何物にも代えられない、ポカポカとした温かさであふれていたのでした。
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