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次の日のことです。
リッツェルがいつものようにお店を開いていると、昨日の場所からリクルがじっとこちらを見ているのに気が付きました。リクルは今日は、毛糸のセーターを着て帽子をかぶり、手袋もはめて温かそうです。
リッツェルは、そんなリクルを見てクスッと笑いました。
「さて、今日は売れ行きも良かったし……このくらいでお店をしめるか!」
リッツェルは、今日は早々とお店をしめ、リクルの方に近づいて行きました。
「お姉さん……」
「私は、リッツェル」
「えっ?」
リクルは、少し目を丸くしてリッツェルを見上げました。
「リッツェルって、呼んで」
「うん……。リッツェル、昨日は、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして!」
リッツェルがニコッと笑うと、リクルは少し赤くなりました。
「僕、何か……お返ししなくちゃね」
「え、お返し? そんなの、いいよ」
「え、でも……」
リクルは、少し悲しげに下を向きました。そんなリクルを見て、リッツェルはあることを思いつき、口を開きました。
「そうだ。ねぇ、リクル。お返しはしなくていいけど……私を、昨日言ってた『願いを叶える泉』に連れて行ってくれない?」
「願いを叶える泉?」
「うん。お願い!」
リッツェルがまぶしい笑顔を浮かべると、リクルもはにかんでうなずきました。
二人は町を出て、枯れ木の森の中を歩いていました。
「ねぇ、リッツェル?」
「うん?」
「『願いを叶える泉』へ行きたいってことは、リッツェルも何か、願い事があるの?」
「うん……」
リッツェルの笑顔は、少し寂しそうになりました。
「実は、私のお母さんも……」
そこまでしか言われなかったけれど、リクルには分かりました。こんなに明るくて可愛いリッツェルも、おそらく……とても辛い想いをしているのだと。
リクルは何とも言えない気持ちになったのでした。
「わぁ~、きれいな泉!」
泉に着くと、リッツェルはキラキラと瞳をかがやかせました。
幻想的で透明な水の湧き出るその泉は蒼く、吸い込まれるようでした。泉がはぐくむ周りの草花は、寒空の下であるにもかかわらず、生き生きとエメラルド色にかがやいていました。
その美しい泉なら、全ての願いを叶えてくれそう……リッツェルは、そう感じたのでした。
リッツェルは、泉の前にそっとしゃがみ、手を合わせました。
「お母さんが、良くなりますように」
目をつぶり祈ります。その泉の水面は少しかがやいて、リッツェルの願いを受け止めてくれたかに見えました。
すると、リクルもしゃがんで手を合わせました。
「リッツェルのお母さんが、早くよくなりますように」
リッツェルは、そんなリクルを見てクスッと笑います。
「リクル、ありがとう。この泉は、何回でも願い事を聞いてくれるんだ。じゃあ……」
リッツェルは、また手を合わせて目をつぶりました。
「リクルのお父さんが早く良くなりますように。そして、それから……みんなが、元気で幸せでいられますように……」
その晩のこと。リクルは、ベッドで寝ているお父さんのカベルに、むいたリンゴを持って行きました。
「リクル……本当に、ありがとう。でも……昨日も優しいお姉さんのおかげで温かいごはんを食べることができたけど。お姉さんには、ちゃんとお礼を言ったかい?」
「うん、リッツェルにはお礼を言ったよ。本当はお返しもしたかったんだけど、いいって言うから、一緒に『願いを叶える泉』に行ったんだ」
すると、カベルは目を丸くしました。
「リッツェル……」
「え、お父さん。リッツェルのこと、知ってるの?」
リクルが尋ねると、カベルは少しあわてて言いました。
「あ、いや……何でもない。ちょっと、聞き覚えがあっただけだ。それで、リッツェルってお姉さんは、元気だったかい?」
「うん! でも……」
リクルは、少し下を向きました。
「リッツェルのお母さん……病気がよくないみたいなんだ」
「何だって!?」
カベルは、さらにおどろいた顔をしました。
「リッツェルってお姉さんには、お母さんがいるのか?」
「う、うん……病気みたいだけど」
リクルも、カベルの様子に少しおどろきました。
「そうか……」
カベルは、少し考え込みました。
「なぁ、リクル」
「うん?」
「明日……そのリッツェルってお姉さん、この家に連れて来てくれないか? お父さんからも、ちゃんとお礼がしたくて」
「うん、いいけど……リッツェルがお店終わるのが遅かったら、無理だよ」
「いや、その時はいいんだ。別の日にまたお礼をしたらいい。どうか、頼むよ」
「うん、お父さん」
リクルは、にこっと笑って答えました。
リッツェルがいつものようにお店を開いていると、昨日の場所からリクルがじっとこちらを見ているのに気が付きました。リクルは今日は、毛糸のセーターを着て帽子をかぶり、手袋もはめて温かそうです。
リッツェルは、そんなリクルを見てクスッと笑いました。
「さて、今日は売れ行きも良かったし……このくらいでお店をしめるか!」
リッツェルは、今日は早々とお店をしめ、リクルの方に近づいて行きました。
「お姉さん……」
「私は、リッツェル」
「えっ?」
リクルは、少し目を丸くしてリッツェルを見上げました。
「リッツェルって、呼んで」
「うん……。リッツェル、昨日は、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして!」
リッツェルがニコッと笑うと、リクルは少し赤くなりました。
「僕、何か……お返ししなくちゃね」
「え、お返し? そんなの、いいよ」
「え、でも……」
リクルは、少し悲しげに下を向きました。そんなリクルを見て、リッツェルはあることを思いつき、口を開きました。
「そうだ。ねぇ、リクル。お返しはしなくていいけど……私を、昨日言ってた『願いを叶える泉』に連れて行ってくれない?」
「願いを叶える泉?」
「うん。お願い!」
リッツェルがまぶしい笑顔を浮かべると、リクルもはにかんでうなずきました。
二人は町を出て、枯れ木の森の中を歩いていました。
「ねぇ、リッツェル?」
「うん?」
「『願いを叶える泉』へ行きたいってことは、リッツェルも何か、願い事があるの?」
「うん……」
リッツェルの笑顔は、少し寂しそうになりました。
「実は、私のお母さんも……」
そこまでしか言われなかったけれど、リクルには分かりました。こんなに明るくて可愛いリッツェルも、おそらく……とても辛い想いをしているのだと。
リクルは何とも言えない気持ちになったのでした。
「わぁ~、きれいな泉!」
泉に着くと、リッツェルはキラキラと瞳をかがやかせました。
幻想的で透明な水の湧き出るその泉は蒼く、吸い込まれるようでした。泉がはぐくむ周りの草花は、寒空の下であるにもかかわらず、生き生きとエメラルド色にかがやいていました。
その美しい泉なら、全ての願いを叶えてくれそう……リッツェルは、そう感じたのでした。
リッツェルは、泉の前にそっとしゃがみ、手を合わせました。
「お母さんが、良くなりますように」
目をつぶり祈ります。その泉の水面は少しかがやいて、リッツェルの願いを受け止めてくれたかに見えました。
すると、リクルもしゃがんで手を合わせました。
「リッツェルのお母さんが、早くよくなりますように」
リッツェルは、そんなリクルを見てクスッと笑います。
「リクル、ありがとう。この泉は、何回でも願い事を聞いてくれるんだ。じゃあ……」
リッツェルは、また手を合わせて目をつぶりました。
「リクルのお父さんが早く良くなりますように。そして、それから……みんなが、元気で幸せでいられますように……」
その晩のこと。リクルは、ベッドで寝ているお父さんのカベルに、むいたリンゴを持って行きました。
「リクル……本当に、ありがとう。でも……昨日も優しいお姉さんのおかげで温かいごはんを食べることができたけど。お姉さんには、ちゃんとお礼を言ったかい?」
「うん、リッツェルにはお礼を言ったよ。本当はお返しもしたかったんだけど、いいって言うから、一緒に『願いを叶える泉』に行ったんだ」
すると、カベルは目を丸くしました。
「リッツェル……」
「え、お父さん。リッツェルのこと、知ってるの?」
リクルが尋ねると、カベルは少しあわてて言いました。
「あ、いや……何でもない。ちょっと、聞き覚えがあっただけだ。それで、リッツェルってお姉さんは、元気だったかい?」
「うん! でも……」
リクルは、少し下を向きました。
「リッツェルのお母さん……病気がよくないみたいなんだ」
「何だって!?」
カベルは、さらにおどろいた顔をしました。
「リッツェルってお姉さんには、お母さんがいるのか?」
「う、うん……病気みたいだけど」
リクルも、カベルの様子に少しおどろきました。
「そうか……」
カベルは、少し考え込みました。
「なぁ、リクル」
「うん?」
「明日……そのリッツェルってお姉さん、この家に連れて来てくれないか? お父さんからも、ちゃんとお礼がしたくて」
「うん、いいけど……リッツェルがお店終わるのが遅かったら、無理だよ」
「いや、その時はいいんだ。別の日にまたお礼をしたらいい。どうか、頼むよ」
「うん、お父さん」
リクルは、にこっと笑って答えました。
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