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次の日の放課後、授業が終わったらすぐにみちるちゃんは帰ろうとした。
「ちょっと、待って!」
僕が声をかけると、みちるちゃんはびくっとした顔をして振り向いた。その時にはまだ、教室に友達が何人か……健太たちもいて、びっくりした顔で僕たちを見ていた。だから、僕はみちるちゃんの手を引っぱって、誰もいない校舎裏につれて行った。
「高志くん……本当にごめんね。私……」
向かい合って謝るみちるちゃんの顔はやっぱり黒くて長い髪の毛で隠れていた。でも、それでいいと思った。髪の毛は、僕の前でだけかき分けてくれたら……。
「……はい」
僕は右手に持っていたノートを渡した。
「これ……」
そのノートを見たみちるちゃんは、はっとした顔をして、僕の顔を見た。
「あげるよ。すごく好きになってくれたみたいだから」
「えっ、でも……高志くんのものでしょ?」
「うん、そうだけど……みちるちゃんも物語を書いて欲しいんだ。僕、みちるちゃんが書く物語も読んでみたい。それで、完成したらそのノートに書いて、僕に返して」
「えっ……」
夕陽に変わろうとするオレンジ色に照らされたその顔はすごくきれいで……僕はまた恥ずかしくなったから、意地悪っぽく言った。
「だって、ほら。みちるちゃんはジョーになりたいんでしょ? ジョーみたいに立派な物語、書いてみてよ」
僕は若草物語は読んだことがないし、もちろん、ジョーの書いた物語も、読んだことはない。だけど、みちるちゃんの書く物語なら、読んでみたかった。すると、みちるちゃんは白い歯を見せてはにかんだ。
「うん、高志くん。ありがとう……」
その笑顔は今まで会ったどんな女の子より、早乙女さんよりも可愛くて。この笑顔はいつまでも、僕にだけ見せてほしい……そう思った。
「う……うん。じゃあ、そういうわけだから。健太たちに変に思われてるだろうし、今日はあいつらと帰るよ」
「うん、私も。いつものように、教室で若草物語を読んで帰る」
僕たちはバラバラに教室に戻った。
「ちょっと、ちょっと、高志。お前、あいつが好きなの? お前が好きなのは早乙女さんじゃなかったっけ」
「まさか。貸す物があっただけだよ」
僕は自分の気持ちが分からなかった。
だって、みちるちゃんの可愛くてきれいなところも知っているし、どうしようもなく泣き虫なところも知っていた。でも好きかって聞かれると分からない。好きなようにも思えるし、時々、意地悪をしたくてたまらなくなる。どんな気持ちとも思える気持ち。そんな、タマムシ色みたいな気持ちだったんだ。
その日から、僕は気がついたらみちるちゃんを見ているようになった。窓際の席で日差しを浴びているみちるちゃんは、ある日には輝くようにきれいで、どきっとした。でもある日には幽霊みたいに黒い髪で顔を隠していて……やっぱり早乙女さんの方がずっと可愛いかも、なんて思ってしまったりもした。
そんなある日……真夏の日差しが照りつける日のことだった。放課後、帰る用意をしていた僕にみちるちゃんが声をかけてきた。そのころにはもう、僕は普通にみちるちゃんとお話するようになっていて、健太たちにはやされることもなくなっていた。
「ねぇ、高志くん」
みちるちゃんは髪をかき分けて……見とれるほどにきれいな瞳を僕に向けた。
「高志くんはどうして、物語を書こうって思ったの?」
「え、僕?」
みちるちゃんはこくりとうなずいた。
「だって、高志くんが物語を書いてるって分かった時……ちょっと、意外だった。高志くんは友達と遊んでいる時の方が楽しそうで、授業も体育とかの方が好きそうで、あまり物語を書く子には見えなかったから」
「何だよ、失礼な……って言いたくなったけど、確かにそうかもね」
はじめのうちは、みちるちゃんの言うことにむっとしたり怒ったりしていたけれど、もう分かっていた。みちるちゃんは静かで大人しいけれど、誰よりも正直なんだって。
だから、僕は物語を書きはじめた理由を正直に話した。
「僕の毎日は、まるでタマムシ色だから」
「タマムシ色?」
首をかしげるみちるちゃんに、僕はにっこりと笑った。
「そう。毎日、何が起こるのか分からない。キラキラと輝いていて、どんな色になるのか分からなくて。だからさ、せっかく、このキラキラとした毎日に起きたことを物語にして残しておきたいって思ったんだ。実はね、このノートに書いてある物語は本当にあったことをもとにして書いているんだ。みちるちゃんが好きなパルのお話も、本当にパルってハムスターを飼っていて、大脱走したことを元にして書いたんだ」
そして今は、『本のタマムシ』みたいなみちるちゃんとお話するようになって、僕の毎日はさらにタマムシ色になった……なんてことは照れくさかったから、口にしなかった。
すると、みちるちゃんはくすっと笑った。
「タマムシ色の毎日、かぁ。やっぱり、高志くんって面白いね」
「そうかなぁ」
「でもやっぱり、高志くんは面白いから、面白いお話が書けるんだろうね」
「あ、それ、どういう意味だよ?」
あの日……六月十日までお話したこともなかった僕たちは、その日にはそんな冗談を言い合えるようになっていたのだ。
「ちょっと、待って!」
僕が声をかけると、みちるちゃんはびくっとした顔をして振り向いた。その時にはまだ、教室に友達が何人か……健太たちもいて、びっくりした顔で僕たちを見ていた。だから、僕はみちるちゃんの手を引っぱって、誰もいない校舎裏につれて行った。
「高志くん……本当にごめんね。私……」
向かい合って謝るみちるちゃんの顔はやっぱり黒くて長い髪の毛で隠れていた。でも、それでいいと思った。髪の毛は、僕の前でだけかき分けてくれたら……。
「……はい」
僕は右手に持っていたノートを渡した。
「これ……」
そのノートを見たみちるちゃんは、はっとした顔をして、僕の顔を見た。
「あげるよ。すごく好きになってくれたみたいだから」
「えっ、でも……高志くんのものでしょ?」
「うん、そうだけど……みちるちゃんも物語を書いて欲しいんだ。僕、みちるちゃんが書く物語も読んでみたい。それで、完成したらそのノートに書いて、僕に返して」
「えっ……」
夕陽に変わろうとするオレンジ色に照らされたその顔はすごくきれいで……僕はまた恥ずかしくなったから、意地悪っぽく言った。
「だって、ほら。みちるちゃんはジョーになりたいんでしょ? ジョーみたいに立派な物語、書いてみてよ」
僕は若草物語は読んだことがないし、もちろん、ジョーの書いた物語も、読んだことはない。だけど、みちるちゃんの書く物語なら、読んでみたかった。すると、みちるちゃんは白い歯を見せてはにかんだ。
「うん、高志くん。ありがとう……」
その笑顔は今まで会ったどんな女の子より、早乙女さんよりも可愛くて。この笑顔はいつまでも、僕にだけ見せてほしい……そう思った。
「う……うん。じゃあ、そういうわけだから。健太たちに変に思われてるだろうし、今日はあいつらと帰るよ」
「うん、私も。いつものように、教室で若草物語を読んで帰る」
僕たちはバラバラに教室に戻った。
「ちょっと、ちょっと、高志。お前、あいつが好きなの? お前が好きなのは早乙女さんじゃなかったっけ」
「まさか。貸す物があっただけだよ」
僕は自分の気持ちが分からなかった。
だって、みちるちゃんの可愛くてきれいなところも知っているし、どうしようもなく泣き虫なところも知っていた。でも好きかって聞かれると分からない。好きなようにも思えるし、時々、意地悪をしたくてたまらなくなる。どんな気持ちとも思える気持ち。そんな、タマムシ色みたいな気持ちだったんだ。
その日から、僕は気がついたらみちるちゃんを見ているようになった。窓際の席で日差しを浴びているみちるちゃんは、ある日には輝くようにきれいで、どきっとした。でもある日には幽霊みたいに黒い髪で顔を隠していて……やっぱり早乙女さんの方がずっと可愛いかも、なんて思ってしまったりもした。
そんなある日……真夏の日差しが照りつける日のことだった。放課後、帰る用意をしていた僕にみちるちゃんが声をかけてきた。そのころにはもう、僕は普通にみちるちゃんとお話するようになっていて、健太たちにはやされることもなくなっていた。
「ねぇ、高志くん」
みちるちゃんは髪をかき分けて……見とれるほどにきれいな瞳を僕に向けた。
「高志くんはどうして、物語を書こうって思ったの?」
「え、僕?」
みちるちゃんはこくりとうなずいた。
「だって、高志くんが物語を書いてるって分かった時……ちょっと、意外だった。高志くんは友達と遊んでいる時の方が楽しそうで、授業も体育とかの方が好きそうで、あまり物語を書く子には見えなかったから」
「何だよ、失礼な……って言いたくなったけど、確かにそうかもね」
はじめのうちは、みちるちゃんの言うことにむっとしたり怒ったりしていたけれど、もう分かっていた。みちるちゃんは静かで大人しいけれど、誰よりも正直なんだって。
だから、僕は物語を書きはじめた理由を正直に話した。
「僕の毎日は、まるでタマムシ色だから」
「タマムシ色?」
首をかしげるみちるちゃんに、僕はにっこりと笑った。
「そう。毎日、何が起こるのか分からない。キラキラと輝いていて、どんな色になるのか分からなくて。だからさ、せっかく、このキラキラとした毎日に起きたことを物語にして残しておきたいって思ったんだ。実はね、このノートに書いてある物語は本当にあったことをもとにして書いているんだ。みちるちゃんが好きなパルのお話も、本当にパルってハムスターを飼っていて、大脱走したことを元にして書いたんだ」
そして今は、『本のタマムシ』みたいなみちるちゃんとお話するようになって、僕の毎日はさらにタマムシ色になった……なんてことは照れくさかったから、口にしなかった。
すると、みちるちゃんはくすっと笑った。
「タマムシ色の毎日、かぁ。やっぱり、高志くんって面白いね」
「そうかなぁ」
「でもやっぱり、高志くんは面白いから、面白いお話が書けるんだろうね」
「あ、それ、どういう意味だよ?」
あの日……六月十日までお話したこともなかった僕たちは、その日にはそんな冗談を言い合えるようになっていたのだ。
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