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それから一週間くらいして、夏休みももう間近になった。放課後、校舎裏でみちるちゃんからノートを返してもらった。
「書いたわ、私の物語。家に帰ったら、読んでみて」
みちるちゃんは頬を桃色にしていた。
「わぁ、本当に? 楽しみ!」
僕はワクワクして……すぐにでも読みたい気分だった。
「私が書いたのは、タマムシの物語なんだ」
「えっ、そうなの?」
タマムシの物語って、どんなのを書いたんだろう?
僕はさらにワクワクした。
「それでね、私の物語を読み終わったら……高志くんも書いて、私に読ませて。高志くんの、タマムシ色の物語」
「タマムシ色の物語?」
みちるちゃんは、黒くて長い髪をかき分けてうなずいた。
「だって、高志くんの毎日はタマムシ色なんでしょ?」
「何それ。タマムシ色の毎日の物語って……」
彼女の言うことが面白くって、声を上げて笑った。するとみちるちゃんも白い歯を見せて笑って……。太陽の光がちょっとだけかげった校舎裏で僕たちは、まるでくすぐり合っているかのように笑いあったんだ。
家に帰った僕は、わくわくしながらみちるちゃんの書いた物語を読んだ。その題名は『タマムシとイモムシ』だった。
*
『タマムシとイモムシ』
桜のはっぱの上に、太陽の光をあびてにじ色にキラキラとかがやくタマムシがいました。そのタマムシはいつも、黄色くひらひらとおどるちょうちょと遊んだり、美しい小鳥のさえずりを聞いたりしていて、過ごす毎日もキラキラとかがやいていました。
同じ桜のちがうはっぱの上に、イモムシがいました。そのイモムシは、地味できたなくて、タマムシとは大ちがい。でも、物語を読むのがとっても好きなイモムシでした。
ある日、タマムシは桜のはっぱに物語を書きはじめました。なぜなら、タマムシの毎日はまるでタマムシの色のようにキラキラとして、どんな色になるのか分かりませんでした。だから、毎日おきたことを物語にしてのこしたいと思ったのでした。だけれど、タマムシははずかしがりやさんで、はっぱにお話を書いては、みんなから見えないところにかくしていました。
でも、みんなから見えないひっそりとしたところは、地味なイモムシのすみかでした。だから、イモムシはすぐにタマムシの物語を見つけてしまって……物語の大好きなイモムシは、お話を夢中で読んでしまいました。
その物語がおもしろくて、感動したイモムシはそのはっぱに、感想を書きました。
でも、どういうわけか、その日からタマムシは物語を書くのをやめてしまったのです。
どうしてだろう、あんなに面白かったのに。
イモムシはふしぎでたまりませんでした。だから、こんな地味な自分だけど……一回でいい。タマムシとお話をして、また物語が読みたい。そう思っていました。
イモムシはタマムシのことをずっと見ていました。タマムシはふしぎな虫でした。みどり色にかがやく日もあれば、こがね色にかがやく日もあって、赤くかがやく日もあれば、むらさきに見える日もありました。イモムシは、そんなタマムシから目がはなせなくなっていたのでした。
そんなある日のことでした。ふとしたことでタマムシがイモムシに話しかけてくれたのです。それは、イモムシにとっては夢のようなことでした。イモムシはうれしくて、まいあがって……だから、物語のことを話さずにいられませんでした。
「ねぇ、タマムシさん。タマムシさんって、物語を書いていたよね」
それは、全然悪い気持ちで言ったわけではありませんでした。なのに、タマムシはとつぜんにおこっているような……真っ赤な色になりました。
「どうして……勝手に読んだの?」
「えっ……」
「ぼくは勝手に読むやつ、きらい!」
タマムシはプンプンおこってしまいました。
イモムシはとても悲しくなりました。
どうしてタマムシはおこってしまったんだろう。分からない……だって、あんなに楽しい物語を書いて。私だったら、ぜったいにみんなに読んでもらいたいのに……。
次の日、イモムシはタマムシのことがこわくてたまりませんでした。タマムシを見るとにげようとしました。でも、タマムシに呼び止められて……イモムシはびくっとしました。
だけれども、タマムシはおこっていませんでした。タマムシははっぱをそっとイモムシにわたしました。
「あげるよ、この物語。それに……ぼく、イモムシさんの書いた物語も読んでみたい」
タマムシはなんと、書いた物語をイモムシにくれて……イモムシの書く物語を読みたいとまで言ってくれたのです。
イモムシは、ますますタマムシの気持ちが分からなくなりました。だって、おこっているようにも見えるし、よろこんでいるようにも見えるし……。でも、それと同時にイモムシはタマムシの言葉がすごくうれしくなりました。だから、今までどおりにキラキラとかがやくタマムシを見つめながら、イモムシは物語を書き始めました。
そんなイモムシの毎日も、いつの日か……毎日がどんな色になるか分からない、タマムシ色の毎日になっていました。そして、イモムシはこれからもずっと、そんな毎日が続いてほしいと願ったのでした。
*
「えっ、このタマムシって、まさか……」
みちるちゃんが書いたその物語。イモムシさんの心情……それはまるで、みちるちゃんの想いのようだった。
だって、イモムシは地味で、物語を読むのがとっても好きで、だから物語を勝手に読んで勝手に感想を書いて。それはみちるちゃん、そのものだから。
でも、だとすると……僕がみちるちゃんにとってはタマムシだってこと?
「とんでもない。みちるちゃんの方がタマムシなのに」
その言葉が口から勝手に出て……何だかおかしくなって、僕は思わず笑ってしまった。
だって、僕はみちるちゃんをタマムシみたいだって思ってて、でもみちるちゃんは僕のことをタマムシみたいだって思ってて。そんな僕たちって正反対のようにも見えるし、まるでそっくりさんのようにも見える。
だから、一緒にいてとても楽しいこともあるけれど、イライラさせられて泣かせてしまうこともある。
でも、だからこそ……二人の間に何が起こるか分からないからこそ、そんな僕たちの毎日はタマムシ色で。僕たちはお互いに、こんな毎日が続くことを願っているんだ。
「書いたわ、私の物語。家に帰ったら、読んでみて」
みちるちゃんは頬を桃色にしていた。
「わぁ、本当に? 楽しみ!」
僕はワクワクして……すぐにでも読みたい気分だった。
「私が書いたのは、タマムシの物語なんだ」
「えっ、そうなの?」
タマムシの物語って、どんなのを書いたんだろう?
僕はさらにワクワクした。
「それでね、私の物語を読み終わったら……高志くんも書いて、私に読ませて。高志くんの、タマムシ色の物語」
「タマムシ色の物語?」
みちるちゃんは、黒くて長い髪をかき分けてうなずいた。
「だって、高志くんの毎日はタマムシ色なんでしょ?」
「何それ。タマムシ色の毎日の物語って……」
彼女の言うことが面白くって、声を上げて笑った。するとみちるちゃんも白い歯を見せて笑って……。太陽の光がちょっとだけかげった校舎裏で僕たちは、まるでくすぐり合っているかのように笑いあったんだ。
家に帰った僕は、わくわくしながらみちるちゃんの書いた物語を読んだ。その題名は『タマムシとイモムシ』だった。
*
『タマムシとイモムシ』
桜のはっぱの上に、太陽の光をあびてにじ色にキラキラとかがやくタマムシがいました。そのタマムシはいつも、黄色くひらひらとおどるちょうちょと遊んだり、美しい小鳥のさえずりを聞いたりしていて、過ごす毎日もキラキラとかがやいていました。
同じ桜のちがうはっぱの上に、イモムシがいました。そのイモムシは、地味できたなくて、タマムシとは大ちがい。でも、物語を読むのがとっても好きなイモムシでした。
ある日、タマムシは桜のはっぱに物語を書きはじめました。なぜなら、タマムシの毎日はまるでタマムシの色のようにキラキラとして、どんな色になるのか分かりませんでした。だから、毎日おきたことを物語にしてのこしたいと思ったのでした。だけれど、タマムシははずかしがりやさんで、はっぱにお話を書いては、みんなから見えないところにかくしていました。
でも、みんなから見えないひっそりとしたところは、地味なイモムシのすみかでした。だから、イモムシはすぐにタマムシの物語を見つけてしまって……物語の大好きなイモムシは、お話を夢中で読んでしまいました。
その物語がおもしろくて、感動したイモムシはそのはっぱに、感想を書きました。
でも、どういうわけか、その日からタマムシは物語を書くのをやめてしまったのです。
どうしてだろう、あんなに面白かったのに。
イモムシはふしぎでたまりませんでした。だから、こんな地味な自分だけど……一回でいい。タマムシとお話をして、また物語が読みたい。そう思っていました。
イモムシはタマムシのことをずっと見ていました。タマムシはふしぎな虫でした。みどり色にかがやく日もあれば、こがね色にかがやく日もあって、赤くかがやく日もあれば、むらさきに見える日もありました。イモムシは、そんなタマムシから目がはなせなくなっていたのでした。
そんなある日のことでした。ふとしたことでタマムシがイモムシに話しかけてくれたのです。それは、イモムシにとっては夢のようなことでした。イモムシはうれしくて、まいあがって……だから、物語のことを話さずにいられませんでした。
「ねぇ、タマムシさん。タマムシさんって、物語を書いていたよね」
それは、全然悪い気持ちで言ったわけではありませんでした。なのに、タマムシはとつぜんにおこっているような……真っ赤な色になりました。
「どうして……勝手に読んだの?」
「えっ……」
「ぼくは勝手に読むやつ、きらい!」
タマムシはプンプンおこってしまいました。
イモムシはとても悲しくなりました。
どうしてタマムシはおこってしまったんだろう。分からない……だって、あんなに楽しい物語を書いて。私だったら、ぜったいにみんなに読んでもらいたいのに……。
次の日、イモムシはタマムシのことがこわくてたまりませんでした。タマムシを見るとにげようとしました。でも、タマムシに呼び止められて……イモムシはびくっとしました。
だけれども、タマムシはおこっていませんでした。タマムシははっぱをそっとイモムシにわたしました。
「あげるよ、この物語。それに……ぼく、イモムシさんの書いた物語も読んでみたい」
タマムシはなんと、書いた物語をイモムシにくれて……イモムシの書く物語を読みたいとまで言ってくれたのです。
イモムシは、ますますタマムシの気持ちが分からなくなりました。だって、おこっているようにも見えるし、よろこんでいるようにも見えるし……。でも、それと同時にイモムシはタマムシの言葉がすごくうれしくなりました。だから、今までどおりにキラキラとかがやくタマムシを見つめながら、イモムシは物語を書き始めました。
そんなイモムシの毎日も、いつの日か……毎日がどんな色になるか分からない、タマムシ色の毎日になっていました。そして、イモムシはこれからもずっと、そんな毎日が続いてほしいと願ったのでした。
*
「えっ、このタマムシって、まさか……」
みちるちゃんが書いたその物語。イモムシさんの心情……それはまるで、みちるちゃんの想いのようだった。
だって、イモムシは地味で、物語を読むのがとっても好きで、だから物語を勝手に読んで勝手に感想を書いて。それはみちるちゃん、そのものだから。
でも、だとすると……僕がみちるちゃんにとってはタマムシだってこと?
「とんでもない。みちるちゃんの方がタマムシなのに」
その言葉が口から勝手に出て……何だかおかしくなって、僕は思わず笑ってしまった。
だって、僕はみちるちゃんをタマムシみたいだって思ってて、でもみちるちゃんは僕のことをタマムシみたいだって思ってて。そんな僕たちって正反対のようにも見えるし、まるでそっくりさんのようにも見える。
だから、一緒にいてとても楽しいこともあるけれど、イライラさせられて泣かせてしまうこともある。
でも、だからこそ……二人の間に何が起こるか分からないからこそ、そんな僕たちの毎日はタマムシ色で。僕たちはお互いに、こんな毎日が続くことを願っているんだ。
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