黒猫少女

いっき

文字の大きさ
上 下
1 / 6

しおりを挟む
学校からの帰り道。
日が傾いて夕陽が射している。
放課後、国語教師に点数が伸び悩んでいることを相談しに行くと、僕に人生経験が足りないだの、本を読む量が足りないだの延々と説教を喰らった挙句、明日から毎日図書室で本を借りて読むことを義務付けられたのだ。
家への道を足早に帰る。
いつもの公園前、黒猫が一匹いた。
目を光らせてこちらを見ている。
僕はしゃがみ込み、『チッ、チッ、チッ』と舌うちをしてみた。
しかし、黒猫はそっぽを向き公園へ入って行く。
僕はなぜかその黒猫に興味を惹かれ、一緒に公園へ入って行った。

夕方の公園は、寂しい。
日中は子供達が登って賑やかなジャングルジムも大きな夕焼けの下でぽつんと小さく見えるし、シーソーの『ギー、ギー』って音が、誰もいない公園に響いている。
誰もいない…いや、違う。
ベンチで少女が本を読んでいる。
少女は真っ白な肌で、黒いワンピースとのコントラストが眩しい。
黒猫はその少女のもとへ行く。
少女は一旦本を読むのをやめ、黒猫を愛おしそうに撫でている。
ベンチの前でその光景を見ていると、少女は顔を上げた。
「何?」
ぼーっとしている僕を見て、少女は怪訝そうに言った。
「黒猫に、連れて来られて。」
僕は、そのままのことを言う。
「変な人。」
少女は笑った。
「いつも、ここで本を読んでいるの?」
「ええ。夕焼けの公園は、落ち着くの。」
「黒猫も一緒に?」
「この子、ハルっていうの。私が名前、つけてあげたんだ。この子もいるし、寂しくないよ。」
「そうなんだ…。」
ふと、僕も本を読むことを義務づけられていたことを思い出した。
「明日から、僕も一緒に読んでいい?」
「ええ、いいよ。」
少女は、大きな目を細長く横に伸ばして微笑んだ。
しおりを挟む

処理中です...