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マキとサラ
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山間を吹き抜ける風に乗って滑空する。頬で感じる空気はとても爽やかで心地良くて。サリーニャ渓谷は緑に満ち溢れていて。私は渓谷に息づく生命の息吹を全身で感じることができる。
だから、私はこの相方『シルバー』に乗って見るサリーニャ渓谷が、一番好きなんだ……。
ドラゴンレースの終着点にぶっちぎりの一位で到着して。クラスメイト達からの溢れんばかりの拍手を受けて、マキは我に返った。
今日はクラス対抗のドラゴンレース。
魔法学校・マジスクの三クラスから、それぞれドラゴンライドが特に上手い代表生徒がサリーニャ渓谷での滑空を競争したのだった。
「マキ、すごいなぁ。もう、プロ顔負けじゃん」
「まぁね」
「このレースは水晶玉で記録されてヤルク国王も見るって話だし。国王からお声がかかるんじゃねぇ?」
「国王、かぁ。私はそんなの、どうでもいいけどね」
マキのクラス、クルミ組のクラスメイトのトムの言葉にマキはクールに返した。
ドラゴンレース二着のクラスはまだまだ到着する気配がない。マキはその到着を待たずに自分の相方のシルバーを龍舎へ戻しに行った。
「はい。シルバー、お食べ」
マキが彼の大好物のレモンを与えると、シルバーは美味しそうに目を細めて食べた。
シルバーは銀色のウロコを持つ、美しいドラゴンだ。他のドラゴンは皆、緑色なので、シルバーはとても珍しい。
マキは、シルバーの全てを知り尽くしていた。彼の好物も、額を撫でたら気持ち良さげに喜ぶということも、火を非常に恐れるということも。
何故なら、彼女は生まれた時からシルバーと一緒に暮らしていて、楽しいことも苦しいことも、彼と共有してきたから。
「マキちゃぁーん!」
サラが何やら、大きな箱を担いでマキとシルバーのもとへ駆けて来た。
しかし……
「危ない!」
マキは咄嗟に動いてサラを支えた。
おっちょこちょいのサラは道端の石につまずいて転びそうになったのだ。
でも、マキが支えたおかげでサラは転ばずには済んだのだが、持っていた箱の中身は下にぶちまけて……沢山の黄色いレモンがバラバラと転がっていった。シルバーは突然の幸運に、嬉しそうにそのレモンを食べていた。
「あーあ、全くもう、何やってんのよ。本当に、ドジなんだから」
「へへっ、ごめーん」
マキはペロッと赤い舌を出すサラを呆れ顔で見つめた。
サラはマキと同じ、マジスクのクルミ組。だけれども、ドジでおっちょこちょいで、魔法の方もからっきしダメ。
マキはそんなサラを放っておけずにいつも世話を焼いている。サラはそんなマキを頼りっきりで。だけれども、マキは呆れつつも、自分を頼ってくるサラを愛しく思っている。そんな関係なのだ。
「マキちゃん。ドラゴンレース、ぶっちぎりの一位だったね。やっぱ、すごいなぁ」
「ふふ。それはこの相方……シルバーのおかげよ。こいつ、本当によくやる奴だから」
マキは微笑みながらシルバーの額を撫でた。サラはそんなマキとシルバーに目を細める。
「マキちゃんって、学校卒業したら、やっぱりプロのドラゴンライダーになるんだよね?」
サラが聞くと、マキはクスッと笑った。
「まぁ、プロ、とかいうことにこだわってはいないけれど……こいつ、シルバーに乗って、世界を飛び回りたいかな」
「世界を?」
「そう」
マキはにっこりと笑って頷いた。
「だってさ、シルバーに乗って眺めるここ、サリーニャ渓谷はとっても綺麗で心地良くて。だから、世界を飛び回っていれば、もっと綺麗な景色を見ることができる。もっと心地良い風を感じることができる。そんな気がするんだ」
そしてマキは「こいつにも、そんな景色を見せてやりたいしね」と言って、シルバーの額を撫でて微笑んだ。
サラはそんなマキを、憧れと羨望の眼差しで見つめた。
「いいなぁ、マキちゃんは。夢も才能もあって。私にはどちらもないからさ。ドラゴンに乗っても、すぐに落っこちちゃうし」
「でも、サラは持ってるじゃん。誰も持っていないもの」
マキは長い睫毛の目をふわりと細めてサラを優しく見た。
「誰も持っていないもの?」
「そう。素直で優しくて、純粋な心。今は魔法に発揮できてないけどさ……将来はきっと、ものすごく素敵な魔法使いになれると思うの」
マキがそう言うと、サラは涙目になった。
「ありがとう、マキちゃん。私みたいな落ちこぼれのこと、そういう風に言ってくれるの、マキちゃんだけだよ」
「これこれ、何を泣きそうになってるのよ。しょうがないわね」
マキはサラの頭をポンポンと叩いた。これが、いつものこの二人、お馴染みのやりとりだ。
将来は世界を股にかけるドラゴンライダーになるのが夢、成績優秀なマキと落ちこぼれ魔女のサラ。一見、正反対に見える二人は、幼い頃から唯一無二の親友だったのだ。
「そんなことよりさ、あんたもシルバーに上げなよ、レモン。シルバーは、私以外にはあんただけ、懐いてるんだから」
「うん」
マキが手渡すレモンをサラがそっとシルバーに与えると、彼は厳つい顔の目を細めた。
「ふふ。シルバー、可愛い!」
白い歯を見せて額を撫でるサラに、シルバーはさらに嬉しそうに目を細めた。
「あ、もうそろそろ、終業のホームルーム、始まっちゃう」
「そうだ、もう、こんな時間だ」
空に薄っすらと浮かび上がる夕陽に目を遣り、二人は慌ててクルミ組の教室へ向かった。
シルバーは龍舎で美味しそうにレモンを食べながら二人を見送っていた。
そんな龍舎のシルバーに、密かにある人影が近づいていたのを、その時の二人は知る由もなかった。
山間を吹き抜ける風に乗って滑空する。頬で感じる空気はとても爽やかで心地良くて。サリーニャ渓谷は緑に満ち溢れていて。私は渓谷に息づく生命の息吹を全身で感じることができる。
だから、私はこの相方『シルバー』に乗って見るサリーニャ渓谷が、一番好きなんだ……。
ドラゴンレースの終着点にぶっちぎりの一位で到着して。クラスメイト達からの溢れんばかりの拍手を受けて、マキは我に返った。
今日はクラス対抗のドラゴンレース。
魔法学校・マジスクの三クラスから、それぞれドラゴンライドが特に上手い代表生徒がサリーニャ渓谷での滑空を競争したのだった。
「マキ、すごいなぁ。もう、プロ顔負けじゃん」
「まぁね」
「このレースは水晶玉で記録されてヤルク国王も見るって話だし。国王からお声がかかるんじゃねぇ?」
「国王、かぁ。私はそんなの、どうでもいいけどね」
マキのクラス、クルミ組のクラスメイトのトムの言葉にマキはクールに返した。
ドラゴンレース二着のクラスはまだまだ到着する気配がない。マキはその到着を待たずに自分の相方のシルバーを龍舎へ戻しに行った。
「はい。シルバー、お食べ」
マキが彼の大好物のレモンを与えると、シルバーは美味しそうに目を細めて食べた。
シルバーは銀色のウロコを持つ、美しいドラゴンだ。他のドラゴンは皆、緑色なので、シルバーはとても珍しい。
マキは、シルバーの全てを知り尽くしていた。彼の好物も、額を撫でたら気持ち良さげに喜ぶということも、火を非常に恐れるということも。
何故なら、彼女は生まれた時からシルバーと一緒に暮らしていて、楽しいことも苦しいことも、彼と共有してきたから。
「マキちゃぁーん!」
サラが何やら、大きな箱を担いでマキとシルバーのもとへ駆けて来た。
しかし……
「危ない!」
マキは咄嗟に動いてサラを支えた。
おっちょこちょいのサラは道端の石につまずいて転びそうになったのだ。
でも、マキが支えたおかげでサラは転ばずには済んだのだが、持っていた箱の中身は下にぶちまけて……沢山の黄色いレモンがバラバラと転がっていった。シルバーは突然の幸運に、嬉しそうにそのレモンを食べていた。
「あーあ、全くもう、何やってんのよ。本当に、ドジなんだから」
「へへっ、ごめーん」
マキはペロッと赤い舌を出すサラを呆れ顔で見つめた。
サラはマキと同じ、マジスクのクルミ組。だけれども、ドジでおっちょこちょいで、魔法の方もからっきしダメ。
マキはそんなサラを放っておけずにいつも世話を焼いている。サラはそんなマキを頼りっきりで。だけれども、マキは呆れつつも、自分を頼ってくるサラを愛しく思っている。そんな関係なのだ。
「マキちゃん。ドラゴンレース、ぶっちぎりの一位だったね。やっぱ、すごいなぁ」
「ふふ。それはこの相方……シルバーのおかげよ。こいつ、本当によくやる奴だから」
マキは微笑みながらシルバーの額を撫でた。サラはそんなマキとシルバーに目を細める。
「マキちゃんって、学校卒業したら、やっぱりプロのドラゴンライダーになるんだよね?」
サラが聞くと、マキはクスッと笑った。
「まぁ、プロ、とかいうことにこだわってはいないけれど……こいつ、シルバーに乗って、世界を飛び回りたいかな」
「世界を?」
「そう」
マキはにっこりと笑って頷いた。
「だってさ、シルバーに乗って眺めるここ、サリーニャ渓谷はとっても綺麗で心地良くて。だから、世界を飛び回っていれば、もっと綺麗な景色を見ることができる。もっと心地良い風を感じることができる。そんな気がするんだ」
そしてマキは「こいつにも、そんな景色を見せてやりたいしね」と言って、シルバーの額を撫でて微笑んだ。
サラはそんなマキを、憧れと羨望の眼差しで見つめた。
「いいなぁ、マキちゃんは。夢も才能もあって。私にはどちらもないからさ。ドラゴンに乗っても、すぐに落っこちちゃうし」
「でも、サラは持ってるじゃん。誰も持っていないもの」
マキは長い睫毛の目をふわりと細めてサラを優しく見た。
「誰も持っていないもの?」
「そう。素直で優しくて、純粋な心。今は魔法に発揮できてないけどさ……将来はきっと、ものすごく素敵な魔法使いになれると思うの」
マキがそう言うと、サラは涙目になった。
「ありがとう、マキちゃん。私みたいな落ちこぼれのこと、そういう風に言ってくれるの、マキちゃんだけだよ」
「これこれ、何を泣きそうになってるのよ。しょうがないわね」
マキはサラの頭をポンポンと叩いた。これが、いつものこの二人、お馴染みのやりとりだ。
将来は世界を股にかけるドラゴンライダーになるのが夢、成績優秀なマキと落ちこぼれ魔女のサラ。一見、正反対に見える二人は、幼い頃から唯一無二の親友だったのだ。
「そんなことよりさ、あんたもシルバーに上げなよ、レモン。シルバーは、私以外にはあんただけ、懐いてるんだから」
「うん」
マキが手渡すレモンをサラがそっとシルバーに与えると、彼は厳つい顔の目を細めた。
「ふふ。シルバー、可愛い!」
白い歯を見せて額を撫でるサラに、シルバーはさらに嬉しそうに目を細めた。
「あ、もうそろそろ、終業のホームルーム、始まっちゃう」
「そうだ、もう、こんな時間だ」
空に薄っすらと浮かび上がる夕陽に目を遣り、二人は慌ててクルミ組の教室へ向かった。
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