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暴走
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ホームルームを終えたマキはサラを通学バスの停留所へと見送った。
マジスクの通学バスは空を飛んで、各生徒を家の最寄りの停留所へ運ぶ。
マキのようなドラゴンの使い手はドラゴンライドで通学するし、家が近い生徒はホーキに跨り空を飛ぶ『ホーキング』で通う。だが、家の遠い生徒や低学年などホーキングの下手な生徒は通学バスを利用するのだ。
「すごいなぁ、マキちゃん。スミル先生もマキちゃんのドラゴンライド、すっごく褒めてたじゃん。それに比べて私は……。五年生になってもまだホーキングすらできないし……」
そう。サラの家は決して学校から遠くはないのだけれど……彼女は魔法の基本のホーキングすら満足にできない。だから、高学年になっても通学バスを利用しているのだ。
マキは涙目の彼女を見て、苦笑いした。
「これ! メゲない。さっきも言ったでしょうが。あんたは絶対、将来は素敵な魔法使いになれるって」
「だけど……」
元気になったかと思えばすぐにまた萎れるサラを見て、マキは溜息を吐いた。
「しゃあない。私が明日、基本のホーキングから教えたげる」
「本当!?」
サラの目は途端に輝いた。
「ええ、丁寧に教えたげるから。あんたはまずは、自分の家までは帰れるようになること」
「嬉しい! ありがとう!」
サラはまるで幼な子のように無邪気に喜んだ。
「だから、安心して。今日はゆっくりとお休み」
「わぁい! マキちゃん。本当に、ありがとう!」
「はい、はい、いいから。ほら、もう、バス来てるわ。乗り遅れるわよ」
「あ、本当だ。乗らなきゃ」
「ええ。じゃあね」
マキは鮮やかに赤い夕陽を背後ににっこりと美しい笑みを浮かべて手を振った。
サラはそんなマキを見て……思わず立ち止まった。
「あれ、サラ。あんた、早く行きなって」
「う……ううん。マキちゃん。明日、絶対にホーキング、教えてね」
「なぁに言ってんのよ。私が約束、破ると思う?」
「絶対に……絶対だよ」
「ええ、当たり前じゃない。それよか、あんた。本当に乗り遅れちゃうわよ」
「う……うん。じゃあ、また明日ね」
「ええ」
マキはサラに微笑み、彼女がバスに乗り込んだのを見届けて龍舎の方へ引き返した。
「変な奴……まぁ、いつものことだけどね」
マキは呟いてクスっと笑った。
彼女はまるで保護者のように、子供っぽいサラの面倒をいつも見てやっていたのだ。
バスの中ではそんなマキの後ろ姿をサラがじっと見ていた。
「何だろう……さっきの」
サラの胸では心臓が騒いでいた。
マキとの別れ際……背後に夕陽を受けた、儚げなほどに美しい彼女の顔を見た瞬間。サラは言い様のない胸騒ぎに襲われた。
何だか分からない。だけれど……自分はもう二度とマキには会えない。そんな気がしたのだ。
でも……
「大丈夫……よね。マキちゃん、約束を破ったこと、今まで一度もなかったし」
サラはまるで、自分を納得させるようにそう呟いたのだった。
*
「やれやれ。全く、手がかかる娘だこと」
龍舎に着いたマキは、まるで母親のような独り言を呟いた。
「ま、それが可愛くもあるんだけどね」
そう呟いてにっこりと笑い、いつも通り、シルバーの龍房の前へ行った。
マジスクでは、ドラゴンで通学する生徒には一人一房、龍房が割り当てられる。授業中はその龍房に自分のドラゴンを休ませるのだ。
「シルバー、お待たせ……」
龍房でシルバーに近付いたマキは、何処か違和感を覚えた。
目の光がいつもと違う……いつもはマキが近づくと優しく目を細めてくれたシルバーが、彼女に対して攻撃的な眼光を放っている気がしたのだ。
「何、シルバー。どうしたの?」
マキは不思議に思い声を掛けたが、シルバーに具合の悪そうなところも、特に変わったところも見当たらなかった。
「うーん、疲れてるのかな? 今日のドラゴンレースでは、本当に頑張ってくれたし。ほら、シルバー。帰ろ!」
マキはそれほど不審に思わずに、龍舎からシルバーを出して跨った。
「それっ、シルバー。走れ……わっ!」
マキは思わず、彼の首にしがみ付いた。
助走させようとしたシルバーがマキの言うことを聞かずに、突然に飛び上がったのだ。
「ちょっと、シルバー。どうしたの? 言うことを聞きなさい」
マキは慌てるも、彼は聞く耳を持たずに全力で空に向かって飛び立った。
(やっぱり、シルバー、変……。いつもと違う……)
突然に暴走を始めたシルバーに、マキの顔からはさぁっと血の気が引いていった。
「ちょっと、シルバー! 止まってよ。止まれぇっ!」
焦ったマキが叫ぶも、シルバーはその速度をみるみる上げて……崖へ向かって急降下した。
「キャァー!」
マキはシルバーにしがみ付くことしかできない。ドラゴンライダーとしてそれまで培ってきた騎龍技術、シルバーと築いてきた信頼関係……その時のシルバーに対しては、それらは悉く通用しなかった。
シルバーはさらにグルグルと旋回したり、反転したり、暴走を加速させた。
「くっ……」
マキは決してシルバーから自らの身を離さぬようにギュッと彼にしがみ付いた。
しかし、シルバーが再度、空へ向かって急上昇した瞬間……!
「キャアァァー!」
それは一瞬の出来事だった。
マキの体はシルバーからずり落ちて、崖の下へ真っ逆さまに……
『ダァァーン!』
彼女の体は崖の下の岩に激しく打ちつけられたのだ。
マキの感じた『落ちる感覚』は一瞬だった。しかし、その一瞬の間に彼女の中では、様々な記憶が走馬灯のように駆け巡った。
女手一つで育ててくれた優しいお母さん、小さい頃からずっと一緒だったドラゴンのシルバー。幼い頃からずっと、世界を飛び回るドラゴンライダーになってお母さんに育ててくれた恩を返すのが夢だった。
(なのに、どうして……)
クラスメイト達の自分を見る目……それは羨望というよりも嫉妬を孕んだ冷たいもので。
時折、「あいつなんていなくなればいいのに」と目で語ってくるかのようだった。
(そっか、私……知らない間に嫌われてたんだ。死んで……恨まれてても、無理ないんだ。だけど……)
だけれども、そんなクラスメイト達の中にも、ひたすらに無邪気に自分を慕ってくれるサラがいた。
マキの全身の感覚は無くなってゆき、意識がすうっと遠くへ吸い込まれる。
だけれども、遠くへと吸い込まれる意識は、微かにサラの優しい笑顔を映し出して。サラはその、温かく柔らかい手を自分に差し伸べる……。
マジスクの通学バスは空を飛んで、各生徒を家の最寄りの停留所へ運ぶ。
マキのようなドラゴンの使い手はドラゴンライドで通学するし、家が近い生徒はホーキに跨り空を飛ぶ『ホーキング』で通う。だが、家の遠い生徒や低学年などホーキングの下手な生徒は通学バスを利用するのだ。
「すごいなぁ、マキちゃん。スミル先生もマキちゃんのドラゴンライド、すっごく褒めてたじゃん。それに比べて私は……。五年生になってもまだホーキングすらできないし……」
そう。サラの家は決して学校から遠くはないのだけれど……彼女は魔法の基本のホーキングすら満足にできない。だから、高学年になっても通学バスを利用しているのだ。
マキは涙目の彼女を見て、苦笑いした。
「これ! メゲない。さっきも言ったでしょうが。あんたは絶対、将来は素敵な魔法使いになれるって」
「だけど……」
元気になったかと思えばすぐにまた萎れるサラを見て、マキは溜息を吐いた。
「しゃあない。私が明日、基本のホーキングから教えたげる」
「本当!?」
サラの目は途端に輝いた。
「ええ、丁寧に教えたげるから。あんたはまずは、自分の家までは帰れるようになること」
「嬉しい! ありがとう!」
サラはまるで幼な子のように無邪気に喜んだ。
「だから、安心して。今日はゆっくりとお休み」
「わぁい! マキちゃん。本当に、ありがとう!」
「はい、はい、いいから。ほら、もう、バス来てるわ。乗り遅れるわよ」
「あ、本当だ。乗らなきゃ」
「ええ。じゃあね」
マキは鮮やかに赤い夕陽を背後ににっこりと美しい笑みを浮かべて手を振った。
サラはそんなマキを見て……思わず立ち止まった。
「あれ、サラ。あんた、早く行きなって」
「う……ううん。マキちゃん。明日、絶対にホーキング、教えてね」
「なぁに言ってんのよ。私が約束、破ると思う?」
「絶対に……絶対だよ」
「ええ、当たり前じゃない。それよか、あんた。本当に乗り遅れちゃうわよ」
「う……うん。じゃあ、また明日ね」
「ええ」
マキはサラに微笑み、彼女がバスに乗り込んだのを見届けて龍舎の方へ引き返した。
「変な奴……まぁ、いつものことだけどね」
マキは呟いてクスっと笑った。
彼女はまるで保護者のように、子供っぽいサラの面倒をいつも見てやっていたのだ。
バスの中ではそんなマキの後ろ姿をサラがじっと見ていた。
「何だろう……さっきの」
サラの胸では心臓が騒いでいた。
マキとの別れ際……背後に夕陽を受けた、儚げなほどに美しい彼女の顔を見た瞬間。サラは言い様のない胸騒ぎに襲われた。
何だか分からない。だけれど……自分はもう二度とマキには会えない。そんな気がしたのだ。
でも……
「大丈夫……よね。マキちゃん、約束を破ったこと、今まで一度もなかったし」
サラはまるで、自分を納得させるようにそう呟いたのだった。
*
「やれやれ。全く、手がかかる娘だこと」
龍舎に着いたマキは、まるで母親のような独り言を呟いた。
「ま、それが可愛くもあるんだけどね」
そう呟いてにっこりと笑い、いつも通り、シルバーの龍房の前へ行った。
マジスクでは、ドラゴンで通学する生徒には一人一房、龍房が割り当てられる。授業中はその龍房に自分のドラゴンを休ませるのだ。
「シルバー、お待たせ……」
龍房でシルバーに近付いたマキは、何処か違和感を覚えた。
目の光がいつもと違う……いつもはマキが近づくと優しく目を細めてくれたシルバーが、彼女に対して攻撃的な眼光を放っている気がしたのだ。
「何、シルバー。どうしたの?」
マキは不思議に思い声を掛けたが、シルバーに具合の悪そうなところも、特に変わったところも見当たらなかった。
「うーん、疲れてるのかな? 今日のドラゴンレースでは、本当に頑張ってくれたし。ほら、シルバー。帰ろ!」
マキはそれほど不審に思わずに、龍舎からシルバーを出して跨った。
「それっ、シルバー。走れ……わっ!」
マキは思わず、彼の首にしがみ付いた。
助走させようとしたシルバーがマキの言うことを聞かずに、突然に飛び上がったのだ。
「ちょっと、シルバー。どうしたの? 言うことを聞きなさい」
マキは慌てるも、彼は聞く耳を持たずに全力で空に向かって飛び立った。
(やっぱり、シルバー、変……。いつもと違う……)
突然に暴走を始めたシルバーに、マキの顔からはさぁっと血の気が引いていった。
「ちょっと、シルバー! 止まってよ。止まれぇっ!」
焦ったマキが叫ぶも、シルバーはその速度をみるみる上げて……崖へ向かって急降下した。
「キャァー!」
マキはシルバーにしがみ付くことしかできない。ドラゴンライダーとしてそれまで培ってきた騎龍技術、シルバーと築いてきた信頼関係……その時のシルバーに対しては、それらは悉く通用しなかった。
シルバーはさらにグルグルと旋回したり、反転したり、暴走を加速させた。
「くっ……」
マキは決してシルバーから自らの身を離さぬようにギュッと彼にしがみ付いた。
しかし、シルバーが再度、空へ向かって急上昇した瞬間……!
「キャアァァー!」
それは一瞬の出来事だった。
マキの体はシルバーからずり落ちて、崖の下へ真っ逆さまに……
『ダァァーン!』
彼女の体は崖の下の岩に激しく打ちつけられたのだ。
マキの感じた『落ちる感覚』は一瞬だった。しかし、その一瞬の間に彼女の中では、様々な記憶が走馬灯のように駆け巡った。
女手一つで育ててくれた優しいお母さん、小さい頃からずっと一緒だったドラゴンのシルバー。幼い頃からずっと、世界を飛び回るドラゴンライダーになってお母さんに育ててくれた恩を返すのが夢だった。
(なのに、どうして……)
クラスメイト達の自分を見る目……それは羨望というよりも嫉妬を孕んだ冷たいもので。
時折、「あいつなんていなくなればいいのに」と目で語ってくるかのようだった。
(そっか、私……知らない間に嫌われてたんだ。死んで……恨まれてても、無理ないんだ。だけど……)
だけれども、そんなクラスメイト達の中にも、ひたすらに無邪気に自分を慕ってくれるサラがいた。
マキの全身の感覚は無くなってゆき、意識がすうっと遠くへ吸い込まれる。
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