ドラゴンライダーと禁忌の魔法

いっき

文字の大きさ
3 / 10

禁忌の魔法

しおりを挟む




翌日は、ドラゴンレースの晴天が嘘のようにどんよりと曇った日だった。

サラは前日から続く胸騒ぎを抑えながら、ずっとマキの席に目をやり、彼女が現れるのを今か今かと待ち続けていた。
しかし、始業の時間になっても彼女は現れず……代わりにその日の空のように顔を曇らせたスミル先生が教壇に立ち、深刻な面持ちで言葉を発した。

「マキさんが……亡くなりました」

その言葉がまるで波紋のようにその教室の中で騒つきを広げてゆき……だけれども、サラにはすぐにその言葉の意味を理解できなかった。

「昨日の学校からの帰り道、暴走したドラゴンから崖に転落したということです」

スミル先生は行き場のない悲しみを堪えて絞り出すように、小さな声で説明した。



「ウソよ……」

突然の悲報に騒つく教室で、サラは殊更に青ざめていた。

「マキちゃんが……あのマキちゃんが、シルバーから転落するだなんて」

だがしかし、スミル先生はギュッと眉を寄せた悲壮な面持ちで言葉を続けた。

「こんなにも悲しい出来事……私にも信じられません。マキさんのお葬式は今夜、マキさんの家で行われるということです」

教室の騒つきはおさまらない。
だけれども、サラの胸ではずっと同じ言葉が反芻していた。

(ウソよ、絶対に……。マキちゃんが死ぬ訳がない)

サラは胸の前でギュッと固く右手を握っていた。


マキの家で行われるというお葬式には、サラは出るつもりはなかった。
何故なら、マキは絶対に生きている……そう、信じていたから。

同級生だけれど、まるで姉のように慕っていたマキ。何でもできて、シルバーに乗ってのドラゴンライドは殊更に誰にも負けないくらいに速くて。サラもマキとシルバー……信頼し合ったそのコンビが大好きだった。だから、マキがシルバーに振り落とされるなんて、考えられない……頑なにそう考えていたのだ。


だから、その放課後。クラスメイト達は各々の移動手段を使ってマキの家へ向かう中、サラは途方に暮れたように宛ても定めずに歩いていた。
時々、心ないクラスメイト達の声が聞こえた。

「でもさぁ、マキって優秀だからっていつでもツンとすましてて、好かなかったのよね」

「まぁ、自分の能力を過信し過ぎて調子に乗ったから、ざまぁ、って感じよね……」

そんな言葉が耳に入った途端……サラは燃えたぎるような瞳でそちらを睨みつけた。

「あんたら、最っ低! マキちゃんはあんたらなんかとは違って、すっごく優しくて頭も良くて……絶対に死んだりなんかしないんだ! 私……あんたらを絶対に許さない!」

その憎悪に満ちた瞳からは殺意すらも感じられて、今にも掴みかかりそうな勢いで。いつもの落ちこぼれ魔女とは正反対ともいえるその激しさに怯んだクラスメイト達は、一目散にホーキにまたがり逃げ出した。

サラは彼女達を追おうとしたが……

「あ……私、ホーキングも出来ないんだ」

彼女は自分のあまりの未熟さに茫然と立ち尽くした。

「マキちゃん、お願い。戻って来てよぅ。私、一人じゃ何も出来ないんだよぅ……」

サラは手で顔を覆って、その場でずっと泣き続けたのだった。


サラの想いも虚しく、マキは戻って来ることはなかった。

登校する時にはいつも何処か、サラは期待していた。きっとあの日のように、マキは窓際の彼女の席に座って、にっこりと私に微笑みかけてくれる……。
しかし、実際にはマキのだった机の上にお花をいけた花瓶が置かれているだけで。彼女が来ることはなかったのだ。




「……ただいま」

今日もサラは塞いだ顔のまま、帰宅した。マキに会えなくなったあの日から、彼女の顔はずっと曇っているのだ。

「おかえり!」

そんなサラを、母親のリラは努めて明るく迎える。

「今日はサラの好きなクリームシチューよ」

「……食欲ない」

「いや、食欲なくても食べないと……。それとホラ。あんた宛に手紙、来てるよ」

サラは無言でリラから手紙を受け取って、自分の部屋に閉じこもった。
リラはそんな娘を見て、溜息を吐いた。

「全く……あんたの中では、マキちゃんが亡くなった日から時が止まってるんだね。せめてお葬式にでも行ってちゃんとお別れしてあげてたら、現実を受け入れられただろうに……天国のマキちゃんも、あんたがそんなんじゃあ可哀想だよ」

部屋に閉じこもったサラに聞こえるくらいの声で言ったけれど、部屋からは何の反応もなくて。リラはもう一度、大きな溜息を吐いて食卓の用意を始めたのだった。


「絶対にお別れなんかしない……しないんだもん」

サラは部屋のベッドに顔を押し付けた。
ギュッと瞑った瞼からは熱いものが滲み出して、ひたすらに布団を湿らせる。こうするのも、もう何度目になるだろう……涙はどれだけ流れ出ても渇れることはないんだという無駄な知識がサラの中で増えていた。



今日もひとしきりの涙を流して……サラは自分の右手が、一本の手紙を握り締めているのに気がついた。

「あれ? これ……」

思い出した。そういえば、自分宛てに手紙がきてたんだ。



気になったサラは勉強机の上にその手紙を開いた。そして……驚きのあまり、目を見開いた。

『Magic Which Turn Back Time
時間を巻き戻す魔法
』というタイトル……そしてその方法が、以下にツラツラと説明されていたのだ。



「嘘でしょ……これ、本物なの?」

サラは信じられなかった。
それもその筈。それは禁忌の魔法で、方法を公表することは魔法の国でも禁止されていた。
その最大の理由は、その魔法を実行した時の影響力。かつて、ある魔女がそれを実行したことで歴史が大幅に変わってしまった。

そして、それはその世界の中でも最も難しい魔法の一つで……どれほど手練れの魔女でも滅多に成功できない。さらに、失敗した際にはその反動で、術者に大きな災いが降りかかるものだと聞いていたのだ。


だけれども……

「この魔法を使ったら……マキちゃんにまた会えるかも知れない」

サラの胸には、そんな一筋の希望の光が射し込んだ。

自分が落ちこぼれ魔女だとか、始めようとしている魔法が最も難しい魔法の一つだとか、失敗したらとんでもない災いが降りかかるものだとか……そんなことは、最早、サラには考えられなかった。
兎に角、早く魔法を実行してマキを生き返らせたい。その一心だった。


だから、サラはリラが食卓を整えて待っているリビングのドアの前を抜き足で素通りして。その差出人不明の手紙を持って、もうすっかりと暗くなった外へ走ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...