紅~いつもの街灯の下で

いっき

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紅&克也編~1~

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「ねぇ、紅。あんた、昨日は本当にどうしてたの? いきなし、河田に楯突いてまであんなガリ勉を庇ったりなんかして」
 結奈から尋ねられて、大きな溜息が出そうになるのを我慢した。前日も合わせたら、これでもう、何度目だろう。紅が克也を庇ったことが、親友の結奈にも余程珍しく映ったらしい。
「だから、何度も言ってるじゃない。河田のあの馬鹿さ加減を見てイラっとしただけよ」
「でもだからって。何も、あんなガリ勉を庇うことないじゃない。うわ~、キモい、キモい。また勉強してる。休み時間なんだし、輪の中に入れって……私、マジ無理なんだけど、あぁいうの」
 結奈はそう言って、いかにも嫌そうに窓際の席の克也を見た。
 紅はそれには何の反応もせずに、無言でスマホをイジり出した。

(キモいって……あんた、あいつの何を知ってるのよ)
 そう、反発したかった。でも、そんなことを言ってしまうと妙な噂を立てられそうな気がして、紅は口を噤んだ。
(私も相当に意気地なしだなぁ)
 そんなことを思って、紅の口からは深い溜息が漏れた。

 紅は知っている。克也の見せる、ガリ勉でない……教室では決して見せない顔。
 あの日、すっかり暗くなった中で男達に絡まれていた自分を救ってくれた。掌にハムスターを乗せている時の優しい笑顔がとっても可愛かった。そして、いつも遠回りをして、自分をあの街灯の場所まで送ってくれる……そんな、優しいところとか、いいところ、いっぱいあるのに。
 それを、教室で見せている一面だけで『キモいガリ勉』って決め付けられているのが、何だか悔しかった。

「おい、またスマホ? いつも一体、何してるんだ?」
 長谷が声を掛けてきて、紅はさらにイラっとした。こいつは結奈の彼氏、斎藤の友達で、爽やかなルックスでラグビー部のエースということもあり、女子からの人気も高い。
 だけれども……以前、ふとした拍子に紅が屈んだ時に、胸元を追ったこいつの視線に気付いて。それ以来、生理的に受け付けず、意図的に避けていた。
 なのに、何かある度に、長谷は紅に話しかけてくるのだ。

「別に、何も」
 ぶっきら棒に呟いて、紅はスマホをいじり続けた。
 早く、向こう行け。
 態度でそう示したつもりだったけれど、長谷は紅の隣に来てスマホを覗き込んだ。
「ちょ……勝手に見ないでよ」
 紅は眉間に皺を寄せたけれど、長谷は怯む様子はなかった。
「いいじゃん。俺、紅ちゃんのこと、もっとよく知りたいんだって」
 うわっ、キモい。人を勝手にちゃん付けで呼ぶな。
 紅は明らかに嫌そうな顔をして結奈に助けを求める視線を送ったけれど、彼女は斎藤と楽しげに話していた。

「お似合いだと思うけどな、紅ちゃんと俺。ほら、斎藤と結奈ちゃんだって付き合ってるし」
「はぁ? やめてよ。あんただけはないって!」
 思わず口に出して言ってしまって……場の空気が凍りついて。紅は「しまった」と思った。
 河田や長谷を避けていたとは言え、一応、これまでは結奈のグループと当たり障りなくやっていた。だけれども……その日のそれで、恐らく、決定的に亀裂を生んでしまった。

 長谷を見ると、真っ赤な顔をしてワナワナと震えていた。
「じゃあ……何だよ。お前、もしかして、昨日庇ったガリ勉だったらいいってのか? あんなキモい奴」
 克也のことを『キモい』なんて罵る言葉にカチンときて……紅はまた、カッとなった。
「キモいって、何よ。あいつだって、カッコよくて、いい所あるんだから! 少なくとも、あんたなんかよりずっといいわよ」
 そこまで言い切ってしまって……はっと我に返った。
 クラス中のみんな、目を丸くしていて……当の克也も、驚いた表情でこちらを見ていた。
(やってしまった。私、つい……)
 紅はその場に居たたまれなくなって……顔もどんどん、カァっと熱くなって。教室のみんなが呆気にとられている中、無言で教室を出た。
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