紅~いつもの街灯の下で

いっき

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紅&克也編~1~

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(私……どうして、あんなに熱くなってしまったんだろう)
 ペットショップでハムスターの餌を交換しながら、紅は溜息を吐いた。
 普段の自分は、他人がどう言われようが特に何とも思わないはずだった。だけれど、その日……結奈が克也のことを悪く言って、そして続け様に、長谷も彼のことを『キモい』なんて言って。克也のことを何も知らないくせに、好き勝手に罵る言葉に、ついカァっと頭に血が上ってしまった。
 その後はクラスのみんなから囃し立てられるし、クスクス笑いなんかも聞こえてきたし……取り敢えず、全部、聞こえなかったことにして無視するしかなかった。
(私……あいつのことが気になってしまってる)
 そう。夜道で男達に絡まれているところを助けてもらってから。
 それ以来、紅は教室でも……話すことなんて全くないけれど、いつの間にか、気付けば克也のことを見てしまっていた。
(いやいや……そんなの、ウソよ。だってあいつ、全然、私のタイプじゃないもの)
 紅は首をブンブン横に振り、先程の考えを打ち消そうとした。

「ねぇ、紅……」
 突如、背後から掛けられた声に跳び上がった。
「か……克也。あんた……」
 振り向き様に目に入った彼は、やはり前髪が鬱陶しく伸び過ぎていて、ちっとも爽やかではなくて。紅は目を瞑り、またハァーと深く溜息を吐いた。
「少しはクラスに馴染む努力くらい、しなさいよ」
「えっ……?」
「あーもう。いいから。あんたは、この子らが餌食ってるとこでも見てなさい」
 紅は不機嫌にそう言って、頬を膨らませてプイとそっぽを向いた。



 克也はまた、紅のバイト終わりまで待っていて。二人は無言でペットショップを出た。
 紅はその日はいつになくムスっとしていて……克也は恐る恐る、声を掛けた。
「ねぇ、紅。何か、嫌なことでもあった?」
「はぁ?」
 紅は眉間に皺を寄せて克也を見た。
 こいつ……私にあんな恥ずかしい想いをさせておきながら、抜け抜けと! ……って言うか、今日ずっと教室にいたのなら一部始終を見聞きしてたはずなのに、どんだけ周りを見てないんだ。
 そう思ったけれど。
(こいつにもっと、周りを見ろって言う方が無理なのかな……)
 こいつは我が道を行く……のかどうかは分からないけれど、私以上に周りを見ていないような気がする。
 そんなことを考えながら紅は溜息混じりに改めて克也を見て……ふと、あることに気がついた。

「ねぇ、あんた。その眼鏡、取ってみて」
「えっ……」
「だから。眼鏡、取れって!」
「う……うん」
 イラつく紅に怯みながら、克也は黒縁のごっつい眼鏡を外した。
 紅はまじまじと彼を見つめる。
「それで、髪をかきあげてみて」
「髪?」
「いいから、早く!」
「うん」
 紅は片眉を下げ、克也を改めて見た。
 やっぱり、そうだ。こいつ……顔は悪くない。目が大きくって……まぁ、滅茶苦茶イケメンとまではいかないけれど。でも、髪をもっとすっきりとして、お洒落な眼鏡でもかけたら、かなり可愛い。そんな顔、してる。

「紅……?」
 少し頬を染めて不思議そうな顔をする克也に、紅はニッと笑いかけた。
「ねぇ、克也。あんた、明日……土曜日、空いてる?」
「えっ、明日?」
「そう。空いてるの? 空いてないの? どっち?」
 紅はまた、せっかちにイラつきながら尋ねた。

「ん……まぁ、空いてるには空いてるけど。塾の予習、復習もあるし、休みのうちに勉強、進めないと……」
「空いてるのね! じゃあ、午後。この街灯の下、待ち合わせで!」
「えっ……」
 克也は驚きのあまり、固まった。
「ちょっと、待って。待ち合わせって、紅もここに?」
「そう! 変身させたげる。あんたがクラスに馴染めるように」
「ええっ!?」
 あまりにも意外なことに克也は目を丸くして……だけれども紅は目を細めて、彼の肩をポンと叩いた。
「それじゃ、決まりね。二時にここで、遅刻しないように」
 気がついたらいつも別れる街灯の下にいて。紅は飄々と、手を振って自分の家へ向かった。
「変身? クラスに馴染めるように!?」
 克也には紅の言った、そんな言葉の意味も分からなかったけれど。それよりも何よりも、翌日、ここで紅と二人きりで待ち合わせる、ということに胸が高鳴って、心臓はバクバクと踊っていたのだった。
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