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結奈&晴人編
◇
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「よっしゃー!そうと決まれば、紙と鉛筆!」
結奈はやる気満々で腕をまくった。
「えっ、アナログで描くの?」
「そっ!デジタルでも描こうと思えば描けるけど、アナログの方が慣れてるし……っていうか、あんた、ペンタブとか持ってるの?」
デスクトップパソコンと本くらいしか見当たらないその部屋を、彼女は見渡した。
「いや、持ってない。使ったこともないし……」
「はぁ?それじゃあ最初から、アナログしか無理じゃん。あんた、ホント、何言ってんのよ!」
彼女はまたしても、お腹を抱えて笑い出した。
全く、この男は……ツッコミどころ満載すぎて笑いが絶えない。何となく、佐原も同じ臭いがするし……紅もこんなテンポがツボだったのだろうか。
兎にも角にも紙と鉛筆を誂えられ、結奈はイラストを描き始めた。晴人はパソコン画面に集中している風を装いながらも、幾度となくちらちらとこちらに目を遣り、気になっている様子だ。
(ふっふっふ、見て驚きなさい。これでも私、イラストコンテストで金賞をとったことがあるんだから)
そう……結奈の唯一、自慢できる特技。それこそ、漫画イラストを描くことだった。
始めたのは小学校低学年……彼女がまだ、内向的だった頃。家にこもって漫画を読むのが大好きだった彼女は、好きな少女漫画作家の絵を真似て、描くことを始めた。元々、彼女には絵心があったのか、直に自分でもうっとりするほどの漫画イラストを描けるようになって。中学の頃に出した、少女漫画雑誌社主催のイラストコンテストで金賞を取ったのだ。
(……って言っても、イラストなんて地味な趣味、今まで誰にも見せてなかったんだけどね)
そんなことを考えて、内心で苦笑いする。
中学生以降、急激にイメージを変えて、クラスの中で派手なグループに属するような彼女にとっては、漫画イラストなんてオタクな趣味、周囲に晒すことは憚られた。だから、金賞をとったことはもちろん、自分で描いたイラストもクラスの誰にも見せたことはなかったのだ。
「よし、完成!」
結奈はものの三十分でそのイラストを描いた。
「えっ……もう?」
晴人が驚きの目を見張ると、彼女はニッと目を細めた。
「ええ。色塗りはこれから……私ん家からカラーペンを持ってきてやるけどね」
結奈は晴人のその作品をサラッと流し読みしただけだったけれど……だがしかし、彼女の描いたそれはキャラの特徴をとてもよくつかんでいた。ヤンチャな女子高生と、物静かな秀才男子高生の青春恋愛ストーリー……公園のベンチに座る彼らを見ただけで、描かれるその楽しくってほろ苦い世界観が、ありありと見た者の心の中に迫ってくるようで。
これは是非、手に取って読んでみたい……表紙を見ただけで、誰もがそう感じる。色塗りも済んでいない段階だけれど、そのことを確信させるに充分な力を持つイラストだったのだ。
「どう……?」
結奈は不安げな顔を彼に向けた。自分のイラストには、ほぼ絶対的な自信を持っていた……のだけれど。こいつのイメージに合っているかどうか。それは、感想を聞くまでは分からなかったのだ。
すると……
「え……」
イラストを見つめる晴人の目から突然に大粒の涙が溢れ出して。まさかの反応に結奈は驚き慌てた。
「何、何?あんた、何をいきなし泣き出してんの?」
私、何か悪いことしただろうか?
こいつ……私とは違う世界に住んでるとは思ってたけど。急に泣き出すとか、本当に意味分かんない。
結奈は晴人の涙の意味が分からず、ひたすらにテンパった。
(ど……どうしたらいいのよう!?)
訳が分からず、頭を抱えようとした時だった。晴人は彼女に、涙で濡れた微笑みを見せた。
「いや……嬉しくって。僕の小説がこんなに素敵なイラストになるって、嬉しすぎて……気付いたら、勝手に涙が出てた」
「えっ……」
結奈は目を丸くして彼を見た。その笑顔は濡れていたけれど、とても幸せそうで……キラキラと輝いて見えて。
彼女の胸はトクンと鳴って、体中に温かいものが染み渡っていくのを感じた。
「あんた、それ……もしかして、嬉し泣き?」
「うん」
素直にうなずく彼に、結奈は安心して……それと同時にプッと吹き出した。
「あはははは!何、それ……そこまで!?っていうか、私、嬉し泣きする奴なんて初めて見た!」
彼女は、真っ赤になってケラケラと笑い出した。
本当は、嬉しかった。晴人が自分の描いたイラストを見て、泣き出すほどに喜んでくれて。今まで誰にも見せていなかった自分のその才能に、これほどに感激してくれる人がいて。結奈の方こそ、涙が出そうなくらいに嬉しかった。
だけれど、そんな気持ち……恥ずかしすぎて、口に出すことなんて出来なかった。だから、彼女はその嬉しさも、照れも隠して。ただ、ひたすらに笑って誤魔化したのだった。
結奈のその笑いが落ち着いた時。晴人はおずおずと尋ねた。
「藤岡さん。あと四冊も、表紙イラスト、お願いしていい?」
「えっ、四冊?」
「うん。次のイベント……出品予定は、これも含めて五冊なんだ」
「ほぉー、いつまでに?」
すると、晴人は目を少し上に泳がせて計算した。
「印刷屋にデータ送ってから納品までに一週間は見た方がいいから……しあさってくらいまでかな」
「そっか、了解~。私も急がなきゃ、だね」
すっかりと気分が良くなった結奈は、笑顔でうなずいた。
「ただし……」
彼女は白い歯を見せながら、ピンと人差し指を立てる。
「私のイラストを見て、いちいち泣くなよ?何だか、こっちまで小っ恥ずかしくなっちゃうから」
「うーん……」
対する晴人の返事は、何だか煮えきらない。
「それは難しいかも……。僕も自分の作品に愛着があるし、こんなに素敵なイラストを描いてもらったら、泣かない自信ない……」
「何だ、そりゃ。じゃあ、描いてやらないわよ!」
結奈は腕を組んで、ニッと口角を上げる。
「え、それは嫌だ……今度は絶対に泣かないから。どうか、描いて下さい!」
「はぁ?あんた、まぁた敬語!もう、何なのよ。面白すぎる~!」
結奈は本気で慌てる彼を前に、またしてもお腹を抱えて大笑いした。
突然に泣かれてびっくりしたけれど……それは、自分の小説を愛するが故、作品がイラストという形になった感激の涙で。小説を書く奴って、こうなのかな……こいつも自分の作品をまるで我が子のように大切に思っていて、だからこそ、自らの感情に正直だ。
そして、彼のその作品を彼女自身の手で形にできることに、結奈はワクワクして。胸の中は温かい気持ちで満ち溢れていたのだった。
結奈はやる気満々で腕をまくった。
「えっ、アナログで描くの?」
「そっ!デジタルでも描こうと思えば描けるけど、アナログの方が慣れてるし……っていうか、あんた、ペンタブとか持ってるの?」
デスクトップパソコンと本くらいしか見当たらないその部屋を、彼女は見渡した。
「いや、持ってない。使ったこともないし……」
「はぁ?それじゃあ最初から、アナログしか無理じゃん。あんた、ホント、何言ってんのよ!」
彼女はまたしても、お腹を抱えて笑い出した。
全く、この男は……ツッコミどころ満載すぎて笑いが絶えない。何となく、佐原も同じ臭いがするし……紅もこんなテンポがツボだったのだろうか。
兎にも角にも紙と鉛筆を誂えられ、結奈はイラストを描き始めた。晴人はパソコン画面に集中している風を装いながらも、幾度となくちらちらとこちらに目を遣り、気になっている様子だ。
(ふっふっふ、見て驚きなさい。これでも私、イラストコンテストで金賞をとったことがあるんだから)
そう……結奈の唯一、自慢できる特技。それこそ、漫画イラストを描くことだった。
始めたのは小学校低学年……彼女がまだ、内向的だった頃。家にこもって漫画を読むのが大好きだった彼女は、好きな少女漫画作家の絵を真似て、描くことを始めた。元々、彼女には絵心があったのか、直に自分でもうっとりするほどの漫画イラストを描けるようになって。中学の頃に出した、少女漫画雑誌社主催のイラストコンテストで金賞を取ったのだ。
(……って言っても、イラストなんて地味な趣味、今まで誰にも見せてなかったんだけどね)
そんなことを考えて、内心で苦笑いする。
中学生以降、急激にイメージを変えて、クラスの中で派手なグループに属するような彼女にとっては、漫画イラストなんてオタクな趣味、周囲に晒すことは憚られた。だから、金賞をとったことはもちろん、自分で描いたイラストもクラスの誰にも見せたことはなかったのだ。
「よし、完成!」
結奈はものの三十分でそのイラストを描いた。
「えっ……もう?」
晴人が驚きの目を見張ると、彼女はニッと目を細めた。
「ええ。色塗りはこれから……私ん家からカラーペンを持ってきてやるけどね」
結奈は晴人のその作品をサラッと流し読みしただけだったけれど……だがしかし、彼女の描いたそれはキャラの特徴をとてもよくつかんでいた。ヤンチャな女子高生と、物静かな秀才男子高生の青春恋愛ストーリー……公園のベンチに座る彼らを見ただけで、描かれるその楽しくってほろ苦い世界観が、ありありと見た者の心の中に迫ってくるようで。
これは是非、手に取って読んでみたい……表紙を見ただけで、誰もがそう感じる。色塗りも済んでいない段階だけれど、そのことを確信させるに充分な力を持つイラストだったのだ。
「どう……?」
結奈は不安げな顔を彼に向けた。自分のイラストには、ほぼ絶対的な自信を持っていた……のだけれど。こいつのイメージに合っているかどうか。それは、感想を聞くまでは分からなかったのだ。
すると……
「え……」
イラストを見つめる晴人の目から突然に大粒の涙が溢れ出して。まさかの反応に結奈は驚き慌てた。
「何、何?あんた、何をいきなし泣き出してんの?」
私、何か悪いことしただろうか?
こいつ……私とは違う世界に住んでるとは思ってたけど。急に泣き出すとか、本当に意味分かんない。
結奈は晴人の涙の意味が分からず、ひたすらにテンパった。
(ど……どうしたらいいのよう!?)
訳が分からず、頭を抱えようとした時だった。晴人は彼女に、涙で濡れた微笑みを見せた。
「いや……嬉しくって。僕の小説がこんなに素敵なイラストになるって、嬉しすぎて……気付いたら、勝手に涙が出てた」
「えっ……」
結奈は目を丸くして彼を見た。その笑顔は濡れていたけれど、とても幸せそうで……キラキラと輝いて見えて。
彼女の胸はトクンと鳴って、体中に温かいものが染み渡っていくのを感じた。
「あんた、それ……もしかして、嬉し泣き?」
「うん」
素直にうなずく彼に、結奈は安心して……それと同時にプッと吹き出した。
「あはははは!何、それ……そこまで!?っていうか、私、嬉し泣きする奴なんて初めて見た!」
彼女は、真っ赤になってケラケラと笑い出した。
本当は、嬉しかった。晴人が自分の描いたイラストを見て、泣き出すほどに喜んでくれて。今まで誰にも見せていなかった自分のその才能に、これほどに感激してくれる人がいて。結奈の方こそ、涙が出そうなくらいに嬉しかった。
だけれど、そんな気持ち……恥ずかしすぎて、口に出すことなんて出来なかった。だから、彼女はその嬉しさも、照れも隠して。ただ、ひたすらに笑って誤魔化したのだった。
結奈のその笑いが落ち着いた時。晴人はおずおずと尋ねた。
「藤岡さん。あと四冊も、表紙イラスト、お願いしていい?」
「えっ、四冊?」
「うん。次のイベント……出品予定は、これも含めて五冊なんだ」
「ほぉー、いつまでに?」
すると、晴人は目を少し上に泳がせて計算した。
「印刷屋にデータ送ってから納品までに一週間は見た方がいいから……しあさってくらいまでかな」
「そっか、了解~。私も急がなきゃ、だね」
すっかりと気分が良くなった結奈は、笑顔でうなずいた。
「ただし……」
彼女は白い歯を見せながら、ピンと人差し指を立てる。
「私のイラストを見て、いちいち泣くなよ?何だか、こっちまで小っ恥ずかしくなっちゃうから」
「うーん……」
対する晴人の返事は、何だか煮えきらない。
「それは難しいかも……。僕も自分の作品に愛着があるし、こんなに素敵なイラストを描いてもらったら、泣かない自信ない……」
「何だ、そりゃ。じゃあ、描いてやらないわよ!」
結奈は腕を組んで、ニッと口角を上げる。
「え、それは嫌だ……今度は絶対に泣かないから。どうか、描いて下さい!」
「はぁ?あんた、まぁた敬語!もう、何なのよ。面白すぎる~!」
結奈は本気で慌てる彼を前に、またしてもお腹を抱えて大笑いした。
突然に泣かれてびっくりしたけれど……それは、自分の小説を愛するが故、作品がイラストという形になった感激の涙で。小説を書く奴って、こうなのかな……こいつも自分の作品をまるで我が子のように大切に思っていて、だからこそ、自らの感情に正直だ。
そして、彼のその作品を彼女自身の手で形にできることに、結奈はワクワクして。胸の中は温かい気持ちで満ち溢れていたのだった。
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