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結奈&晴人編
◇
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リモコンに曲のコード番号を入力してテレビ画面に向ける。画面に曲目が表示されて……自らの歌の途中だった紅は、ほっとした表情を浮かべた。
「トリセツ歌えるくらいなら、全然、立ち直ってるじゃん。良かった……安心した」
カラオケでいつも通りの選曲をする自分に本気で安心してくれている様子の彼女に、結奈の顔も思わず綻んだ。
「そりゃあね。殴り込みに行かれたりしたら、私が困るもん」
そう言って、結奈は先刻のことを思い出して苦笑いした。
大輝にフラれたあの日のこと……彼のことがほぼほぼ吹っ切れた彼女はその日、紅にも全てを打ち明けた。すると、話し終えた途端に紅はガチギレして……
「斎藤の奴……私、一発、ぶん殴ってくる!」
なんて言って立ち上がるものだから、どうにか宥めて落ち着かせるのに苦労したのだ。
しかし、まだ自分のことを心配そうに見つめている彼女を見て。結奈の心はじんわりと温かくなった。
紅は昔からそうだった。自分のことを傷つける奴に本気で怒ってくれて、涙も流してくれて……可愛くクールだけれども、友達想いで優しい彼女のことが堪らなく好きなのだ。
「でも、本当に。結奈、めっちゃいい娘なのに。あいつ……斎藤、許せない!」
紅は目にじんわりと涙を浮かべながら、また沸々と怒りが湧いてきている様子で。結奈はそんな彼女に、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう、紅。私のために怒ってくれて。めっちゃ嬉しいんだけど……もう本当に吹っ切ったから。全然、心配しないで」
「でも、私……結奈には本当に幸せになって欲しいのに……」
その涙声は泣き声に変わって……目に溜まった涙を堪えきれなくなった紅は、手で顔を押さえて泣き始めた。
「ごめん、ごめん。心配かけて……私、もう本当に大丈夫だから」
結奈はそんな紅を抱きしめて、頭をよしよしと撫でる。
(これじゃあ、どっちが失恋したんだか分からないな……)
そんなことを考えて、クスッと笑った。
クラスではクールな美少女で通っている紅だけれど、親友のことになるとこんなに涙もろくて、泣き虫で。これも教室では決して見せない一面だ。
結奈にとって、そんな彼女は可愛くて仕方なくって。この顔は自分だけに見せて欲しい……そんなことを思ってしまったりもしているのだった。
漸く紅が落ち着いてきた頃、不意に結奈のスマホが鳴った。何気なく取り出して見た彼女は、ドキッとした。
「遠藤!」
スマホのトップに出たのは『遠藤 晴人』の名前。この三日間、何か送ろうとして……だけれども、送る勇気がなくて。密かに向こうからのメッセージを待っていたんだけれど、何のアクションもなくて。悶々としたもどかしさを感じていた、その相手だったのだ。
「遠藤?」
不思議そうに首を傾げる紅に、晴人とのことは話していなかったことを思い出して。結奈は思わず口を噤んだ。
しかし……
(何だろ……写真?)
LINEに送られた写真を見て、結奈は思わず声を上げた。
「えっ、すごい! 何、これ! 何、これ!? めっちゃ感激なんだけど!」
「えっ?」
事情が飲み込めていない紅に、思わずその写真を見せた。
「この本! 晴人の小説に私がイラストを描いたの。完成して……もう、感激!」
紅は暫く、訳が分からずに首を傾げていたけれど……やがて何かを察したように、「はは~ん」と不敵な笑みを浮かべた。
「そっか、あんた。それであの時、遠藤の連絡先を……」
「あっ……」
その言葉で結奈は我に返り……顔を火照らせて、みるみる赤くなった。そんな彼女に、紅はニッと白い歯を見せる。
「行ってやりなよ、早く。写真しか送ってこないけど、遠藤はあんたに来て欲しいってことなんじゃないの?」
「いや、これは……」
「まぁ勿論、事情は後で詳しく、聞かせてもらうけどね」
「うぅ~……」
彼女はどんどん小さくなって……その真っ赤な顔を見た紅は、にっこりと笑った。
「良かった……あんた。またいつものように、強がり言ってるのかなって思って心配だったけど。次の恋を見つけたってことなら、本当に安心した。案外、お似合いだと思うよ。あんた達」
「もぉ~……」
結奈は赤く膨れながら、LINE通話ボタンを押した。
「違うけど、そういうことにしとく!」
ぶっきら棒にそんなことを言う彼女は、通話の相手が出た途端に「あんた、タイミング悪すぎ!」なんてスマホに怒鳴り始めて。
そんな彼女を、紅はクスクスと笑いながら微笑ましく見ていたのだった。
「トリセツ歌えるくらいなら、全然、立ち直ってるじゃん。良かった……安心した」
カラオケでいつも通りの選曲をする自分に本気で安心してくれている様子の彼女に、結奈の顔も思わず綻んだ。
「そりゃあね。殴り込みに行かれたりしたら、私が困るもん」
そう言って、結奈は先刻のことを思い出して苦笑いした。
大輝にフラれたあの日のこと……彼のことがほぼほぼ吹っ切れた彼女はその日、紅にも全てを打ち明けた。すると、話し終えた途端に紅はガチギレして……
「斎藤の奴……私、一発、ぶん殴ってくる!」
なんて言って立ち上がるものだから、どうにか宥めて落ち着かせるのに苦労したのだ。
しかし、まだ自分のことを心配そうに見つめている彼女を見て。結奈の心はじんわりと温かくなった。
紅は昔からそうだった。自分のことを傷つける奴に本気で怒ってくれて、涙も流してくれて……可愛くクールだけれども、友達想いで優しい彼女のことが堪らなく好きなのだ。
「でも、本当に。結奈、めっちゃいい娘なのに。あいつ……斎藤、許せない!」
紅は目にじんわりと涙を浮かべながら、また沸々と怒りが湧いてきている様子で。結奈はそんな彼女に、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう、紅。私のために怒ってくれて。めっちゃ嬉しいんだけど……もう本当に吹っ切ったから。全然、心配しないで」
「でも、私……結奈には本当に幸せになって欲しいのに……」
その涙声は泣き声に変わって……目に溜まった涙を堪えきれなくなった紅は、手で顔を押さえて泣き始めた。
「ごめん、ごめん。心配かけて……私、もう本当に大丈夫だから」
結奈はそんな紅を抱きしめて、頭をよしよしと撫でる。
(これじゃあ、どっちが失恋したんだか分からないな……)
そんなことを考えて、クスッと笑った。
クラスではクールな美少女で通っている紅だけれど、親友のことになるとこんなに涙もろくて、泣き虫で。これも教室では決して見せない一面だ。
結奈にとって、そんな彼女は可愛くて仕方なくって。この顔は自分だけに見せて欲しい……そんなことを思ってしまったりもしているのだった。
漸く紅が落ち着いてきた頃、不意に結奈のスマホが鳴った。何気なく取り出して見た彼女は、ドキッとした。
「遠藤!」
スマホのトップに出たのは『遠藤 晴人』の名前。この三日間、何か送ろうとして……だけれども、送る勇気がなくて。密かに向こうからのメッセージを待っていたんだけれど、何のアクションもなくて。悶々としたもどかしさを感じていた、その相手だったのだ。
「遠藤?」
不思議そうに首を傾げる紅に、晴人とのことは話していなかったことを思い出して。結奈は思わず口を噤んだ。
しかし……
(何だろ……写真?)
LINEに送られた写真を見て、結奈は思わず声を上げた。
「えっ、すごい! 何、これ! 何、これ!? めっちゃ感激なんだけど!」
「えっ?」
事情が飲み込めていない紅に、思わずその写真を見せた。
「この本! 晴人の小説に私がイラストを描いたの。完成して……もう、感激!」
紅は暫く、訳が分からずに首を傾げていたけれど……やがて何かを察したように、「はは~ん」と不敵な笑みを浮かべた。
「そっか、あんた。それであの時、遠藤の連絡先を……」
「あっ……」
その言葉で結奈は我に返り……顔を火照らせて、みるみる赤くなった。そんな彼女に、紅はニッと白い歯を見せる。
「行ってやりなよ、早く。写真しか送ってこないけど、遠藤はあんたに来て欲しいってことなんじゃないの?」
「いや、これは……」
「まぁ勿論、事情は後で詳しく、聞かせてもらうけどね」
「うぅ~……」
彼女はどんどん小さくなって……その真っ赤な顔を見た紅は、にっこりと笑った。
「良かった……あんた。またいつものように、強がり言ってるのかなって思って心配だったけど。次の恋を見つけたってことなら、本当に安心した。案外、お似合いだと思うよ。あんた達」
「もぉ~……」
結奈は赤く膨れながら、LINE通話ボタンを押した。
「違うけど、そういうことにしとく!」
ぶっきら棒にそんなことを言う彼女は、通話の相手が出た途端に「あんた、タイミング悪すぎ!」なんてスマホに怒鳴り始めて。
そんな彼女を、紅はクスクスと笑いながら微笑ましく見ていたのだった。
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