紅~いつもの街灯の下で

いっき

文字の大きさ
26 / 57
結奈&晴人編

しおりを挟む
「めっちゃすごい!本当に、私の描いたイラストが表紙になってる!」

 あれからすぐに家に上がり込んできた結奈は、本を見てキラキラと目を輝かせてはしゃいだ。

「うん。こんなに素敵な表紙の本が作れたのなんて初めてで、僕もめっちゃ嬉しい!」

 晴人もそれを手に取ってにっこりと笑っていて……しかし、夜空に瞬く星のような輝きを放つ彼女の瞳を見た彼の胸の内では、ドクン、ドクンと心臓が踊っていた。

 目の前にいるのはいつも通りの結奈で、ほっとする気持ちもあった。でも、あの日のこと……自分が唇を重ねようとしてしまったあの日のことを彼女はどう思っているのだろう?

 気になって仕方がなかたけれど……口に出す勇気がない彼には、いつも通りに結奈と接するのが精一杯だった。


「それで、イベントはもう、来週だよね? それまでの準備は?」

「えっ、準備……また来てくれるの?」

 晴人は驚いたように目を丸くした。だって、三日前……あんなことをしてしまって、もう嫌われたんだと思っていた。

 しかし、そんな彼を見た結奈は頬を膨らませた。

「あー、何、その言い方? まさか、私が途中で投げ出すとでも思ってたの? もちろん、即売会まで付き合わせてもらうわよ」

 それは、あの日にあったことなんてまるで覚えていないような反応で……あれは、夢だったのだろうか。晴人はそんな気がしてしまうほどだった。

「即売会だし、広告とかも大事よね。ポスターのイラストとか、私、描いてあげる。それに、本もこのまま売るのもどうかと思うし、一つ一つラッピングした方がいいわよね」

 彼が指示する間もなく、結奈は一人で盛り上がっている。

 晴人は今まで幾度となくイベントに参加してはいたけれど、一人でそこまで凝ったことはなくて。来週のイベントは、自分の出品は今までになく手の込んだものになりそうだ……そう、思った。


「それで……」

 結奈は頬を染めて、ニッと目を細めた。

「この五作。一冊ずつ、私にもちょうだい」

「えっ?」

「だって、私の描いたイラストが表紙の本ができたって……めっちゃ、感激でさ。宝物にしたいんだ」

 晴人にとって、それは願ってもないことだった。寧ろ、自分の書いた小説が結奈の描いた魅力的なイラストに釣り合う内容かどうか、不安なくらいで……自分が頭を下げてでも、二人で作り上げたこの宝物を貰って欲しいくらいだったのだ。

「も……もちろん! ぜふぃ!」

 力みすぎて若干、声が裏返って顔がカァッと赤くなる。そんな彼を見て、結奈はケタケタと笑い出した。

「あはは! 何よ、ぜふぃって! やっぱりあんた、いつ会っても面白いわね!」

 そう言ってお腹を抱える彼女には、あの日のツラそうな泣き顔の面影はなくて……その眩しく輝く笑顔を見つめる晴人は、胸にじんわりと温かいものが染みこんでいくのを感じたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...